column
香港・タイ経由でネパールへ
自慢することではないけれど、どちらかといえば楽天的なほうだ。
身に起きるたいていの困難は「ま、いっか」で受け流してしまうし、おいしいものを食べ、ぐっすり眠ればほぼリセットできる。そんなおめでたい私がいまだに「これでよかったのか」と答えが出ないこと、それはネパール入りをするまでの旅程だ。羽田を出て、香港で乗り換え、さらにタイで1泊してやっとネパールに到着する、そんなまどろっこしいトランジットだらけの道のりを、今回あえて選んでしまったのだ。

最初の経由地は香港
最初からそうしようと思っていたわけではなく、ほんの出来心、と言わせてほしい。マイルを使った特典航空券を予約しようとしたとき、最初にどの便を選ぶかによって、その先の行程が大きく変わることに、ふと気がついてしまったのだ。
1回乗り換え、2回乗り換え、さらに待ち時間の長さも含めて、可能性は多種多様。それでも通常の一人旅なら、間違いなく最短最速を選んでいる。それが次男の初海外ということで妙な気合いが入り、「せっかくなら、あちこち見られたほうが楽しいだろう」と、わざわざ高いサーチャージを払うことになる1泊かつ2回トランジットのルートを選択してしまったのだ。結果、次男は緊張感高まる入国審査を何度もくぐりぬけることになり、ネパールに着くまでにだいぶ疲弊してしまった。
……と、さっきからつい、語尾に「しまった」ばかり選んでしまう。やっぱりちょっと後悔しているからだと思う。

ネパール着陸前の光景。飛行機からの景色は「ネパールの国内線で、雲のなかにヒマラヤが見えたときがいちばんすごかった」と次男
ゲート前の呼び出し
思えば羽田空港での最初の搭乗前から、困難の予兆ははじまっていた。
保安検査通過後にわざわざアナウンスで搭乗ゲートに呼び出されて「ネパールの入国ビザは持っていますか?」と質問されたのだ。「いえ、向こうで取れると聞いたので……」そうおずおず答えると、3名の職員さんたちが電話やらパソコンやらで猛烈に調べはじめ、「オンビザ(現地発行するビザ)が可能な国ですね、念のために到着地までのチケットを発券します」と、香港からバンコク、バンコクからカトマンズまでのチケットもまとめて紙で手渡された。
そのときはきょとんとして受け取っただけだったが、この紙チケットがなかったらその先でどうなっていたか。とくに香港では、羽田と同様に搭乗ゲートの前に呼ばれ、「ネパールではどこに泊まるのか」「宿泊予約書を見せて」と若い女性職員に真顔で詰め寄られ、ネパール在住の知人に予約をしてもらっていた私は困惑。その様子を見ていた次男は、恐怖で完全に青ざめていた。


どうにか到着したタイ・バンコクの夜。ここのご飯がめちゃくちゃおいしかったのが救いだった。Tシャツの「There is no alternative(選択の余地なし)」の言葉が皮肉に思える……
片親+子の渡航に求められる書類
あとで調べてわかったことだが、親子連れ、とくに片親と子だけの海外旅行は、麻薬の運び屋から子どもの誘拐まで、さまざまな理由で警戒されるという。国によっては翻訳した戸籍謄本や、同行しない親の渡航同意書が求められる場合もあるようだ。全然知らなかった。無知とはいかに無謀で恐ろしいことか。
もちろん、駆け抜けるような時間のなかでは、各国のおいしいものを食べたり、お国柄の違いを肌で感じることができたりと、楽しいこと良いこと得難い経験もたくさんあった。けれどやっぱり、海外渡航は桃鉄ワールドじゃない。次はもうちょっと、慎重にルートを選ぶことにしよう。


玉木美企子(たまきみきこ)
東京生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て2015年、家族4人で長野県に拠点を移し、フリーランスに。食・農・暮らしを主なテーマに編集・ライターとして活動しながら、日本国内のほかヨーロッパ、アジア、中米などを旅している。2026年新春に自身初となるエッセイ/俳句集『蝸牛の虫干し』を刊行予定。
HP:tobira-sha.com
IG:@mikiko0705