column

2020.11.27

#01 遊びの可能性が広がる! 車中泊のキホン編
by 千代田高史(Moonlightgear)

感染対策が生活様式のひとつとなった今、「車中泊」という旅のスタイルがいっそう注目を集めている。経済的かつ効率的な旅ができる、対人接触が最小限で感染リスクも減らすことができる、などその魅力は語りどころ満載。そんな車中泊を知って、正しく楽しもう! というのがこの連載コラム「教えて車中泊」である。

筆者は、1年を通して山のアクティビティを楽しみながら、最近車中泊にハマっているというライター・編集者の黒澤祐美。さまざまな分野の車中泊の先輩たちに話を聞き、ときには実践してみる。第1弾は、東京・岩本町にあるウルトラライト系アウトドアショップ『MoonlightGear』の運営や、イギリスの山岳レースブランド『OMM』のディストリビューションなどを手がける千代田高史さんが登場。仕事でもプライベートでも、ソロでもファミリーでも全国各地をクルマで寝泊まりしている千代田さんに、車中泊のキホンを聞いてみた。

» 教えて車中泊
Summary of this article

・移動時間を分割すると、遊びの可能性が広がる
・これだけあればOK! 車中泊のマストアイテム
・車中泊との相性がいいウルトラライトギア
・不便なことを克服していく楽しさ
・車中泊に最適な気温? 景観が良いところは車中泊に不向き?
・決まったルールはないからこそ、思いやりをもって静かに楽しむ

Profile of characters

千代田高史さん:写真左
学生時代に山道をマウンテンバイクで駆け抜ける里山トレイルライドにどハマりし、山へ通い詰めるようになる。山での活動のなかで、軽さを追求したウルトラライトギアの面白さに目覚め、アメリカから直輸入したギアなどを販売する『moonlight gear』を2010年に設立。ショップの運営とともに、イギリスの山岳レースブランド『OMM』のディストリビューションなども手がけている。愛車は2006年式 LAND ROVER ディスカバリー3。

黒澤祐美(筆者):写真右
登山、キャンプ、トレラン、スノーボードと気付けば1年を通して山で過ごしている、フリーのライター・編集。2019年の夏に軽自動車から三菱の『アウトランダー』に乗り換え、車中泊ブームが再熱。ソロはもちろん、5歳の娘と2人でクルマに寝泊まりすることも多い。


今回登場いただいたのは、株式会社NOMADICS代表の千代田高史さん。アウトドアショップ経営という仕事柄、全国各地のイベント会場を車で転々としているほか、5歳と1歳の愛娘たちを連れて家族4人で車中泊旅をすることも多いという車中泊のエキスパートだ。「バンライフに憧れるけどノウハウがない」「どんなギアを揃えればいいのかわからない」という車中泊ビギナーのギモンをぶつけてみた。

移動時間を分割すると、遊びの可能性が広がる

黒澤:移動の自由が制限されている今ですけど、車中泊はこのウィズコロナ時代にすごくマッチしているんじゃないかと最近強く感じているんです。自宅から目的地に到着するまでの間の人との接触が避けられて、そのうえ遠くまで足を運べる。

千代田:まさにその通りで、テント泊よりもハードルの低い車中泊は、遊びの可能性を広げてくれてるんじゃないかと僕も思ってます。

黒澤:実は昨年、今まで乗っていた軽自動車から三菱のアウトランダーに乗り換えて、個人的にも車中泊ブームが再熱しているタイミングなんです。後部座席がフルフラットになるって最高だなって。ただ今まではあまり情報を集めずに、なんとなく「寝ること」しかしてこなかったので、今日は車中泊経験値が豊富な千代さんに、あらためて車中泊のキホンを教えてもらいたいと思った次第です。千代さんの普段の活動を見ていると、どこへ行くにも移動はもっぱらクルマですよね?

千代田:仕事で各地のイベント会場に行くのも、プライベートで山へ行くのも、家族と旅をするのも、全部車ですね。

黒澤:ただキャンプ場や山では、基本テント泊ですよね。しかもソロタープに寝袋のみというハードスタイルのイメージが強い(笑)。そんなアウトドア経験が豊富でどこにでも寝れてしまうような千代さんが、あえて車中泊を選択する時ってどんな時ですか?

千代田:冬は外気を遮断できて、夏は虫が避けられる。そのうえプライベート空間を確保できるなんて、車中泊はいわばラグジュアリーなホテルに泊まる感覚(笑)。とはいえ車中泊自体を目的とすることはあまりなくて、あくまで遠距離移動中の休憩所としてクルマを利用することの方が多いですね。たとえば東京から八甲田(青森県)に行くとなった場合、一気に行こうとすると8時間近くはかかるわけですよ。それはあまりに大変だから、夕方、風呂に入って寝るだけの状態で家を出発して、那須高原あたりまで進んで車中泊をする。そうすれば、翌日は半分の時間で青森まで行けるから気持ちにも余裕が出るんです。

黒澤:その移動小分けテクは私も使います。次の日朝から思いっきり山で遊びたいけど、当日移動するのは疲れるし、渋滞にはまりたくない。だから前日のうちに近場まで行って車中泊しよう、みたいな。

千代田:そうそう。移動時間を分割できるところが、車中泊最大のメリットかなと。

これだけあればOK! マストなアイテム

黒澤:ただ先日、車中泊で失敗したことがあって。夜はクルマがほとんどいない場所だったので車内で無防備に大の字になって寝ていたら、翌朝ぎっちりクルマが停まっていて、誰かに寝姿を見られたかも! っていう恥ずかしい思いをしたんです。そのときにシェードは必要だったな…と思ったんですが、車中泊で“最低限これだけは用意しておいたほうがいいもの”ってありますか?

千代田:たしかにシェードはあったほうが便利。目隠しという意味もあるけど、多少は断熱効果もあるから、寒い時期にシェードがあるとないとでは体感温度も変わってくるので。ただ必ずしも純正である必要はなくて、100円ショップのサンシェードに吸盤をつけてDIYしてもいいし、タイベック生地で自作してもいいと思います。

黒澤:夏に窓を開けて寝るとしたら、蚊帳も必要ですか?

千代田:標高の高いところは虫が少ないのでマストというわけではないけど、サーフトリップなど標高の低くて海の近い場所で寝泊まりすることが多い人はあったほうがいいと思います。クルマ全体にかかる蚊帳と、蚊取り線香があればいいんじゃないかな。

黒澤:クルマ全体にかかるものがあるんですね! それはストレスなく眠れそう。あとは寝具ですよね。

千代田:後部座席がフルフラットになるクルマでも多少の凹凸はあるので、そこをカバーするにはマットが必要。その上に寝袋、という基本のスタイルですね。極論をいえば、寝具はホームセンターなどで買える折り畳みのマットと、布団セットでもいいわけです。でも実際はほかの荷物もあるし、詰めるスペースも限られている。それを考慮すると、コンパクトに収納できるアウトドア用のマットと寝袋という選択に自然となりますね。

車中泊との相性がいいウルトラライトギア

千代田:“眠ること“だけにフォーカスすれば、最低限のスペースと寝具さえ用意すれば誰でも車中泊はできるんですよ。でも車中泊の楽しみは寝ることじゃなくて、そのスペースの中で料理をすることだと僕は思っていて。その土地土地のおいしいものを食べ歩く旅ももちろんいいけど、朝も昼も夜も外食ばかりだと胃が疲れてくるんですよね。

黒澤:それはわかります。旅が長くなればなるほど、シンプルなものを欲してきますよね。

千代田:ご飯だけは自分で炊いて、あとは道の駅で買った農産物をその場で調理して食べる。それって最高の贅沢じゃないですか。

黒澤:ということは、車中泊の時はキッチン道具一式を車に積んでるってことですよね? 実はこの間キャンプ用品を積んだまま車中泊をしたら、寝るスペースがあまりに狭くてよく眠れなかったんですよ。

千代田僕は仕事柄UL(ウルトラライト)ギアというジャンルの道具が多いので、調理器具も軽くて、収納に優れているものがほとんど。だからあまり場所をとらないんです。こうやって飯盒の中にコップ2つを入れたり、大きな鍋の中に違うサイズのクッカーをスタッキングしたり。このキッチン道具一式は、車中泊だけでなくキャンプの時も常に車に入れてあるけど、邪魔だと感じたことはないですね。道具選びに迷ったら、スタッキングのしやすさで考えてみるのもいいかもしれない。

不便なことを克服していく楽しさ

黒澤:山の上のバーナーご飯もそうですけど、限られた道具と環境のなかで作って食べたものって記憶に残りますよね。

千代田:すごくわかる。以前北海道の稚内でクルマ旅しているときに台風が来ちゃって、道の駅で1日停滞したことがあって。その日は道の駅内にある温泉に行くか、直売所に行くか、クルマで喋るかしかやることがなかったんだけど、そのときの車中泊が今までで一番楽しかったんですよ。1〜2時間かけて帆立の砂をとったり、じっくり浸水させてお米を炊いたり、地味な作業を狭い中でやってただけなんだけど。不便なことを克服していく楽しさってあると思うなあ。

黒澤:その稚内トリップは移動時間の分割として車中泊を利用するというよりも、車中泊を含めた旅そのものが目的ですよね。千代さんはクルマ旅をしようと思ったときに、どうやって場所を選びますか?

車中泊に最適な気温? 景観が良いところは車中泊に不向き?

千代田:目的はそのときどきで変わるけど、「気候」は場所を選ぶ時の基準のひとつかもしれない。

黒澤:季節に応じた過ごしやすい場所、ってことですか?

千代田:そう。そもそも車中泊に最適なのは、最低気温が5度から最高気温が25度ぐらいの極端に寒くも暑くもない時期。気温が低い時は洋服を着込んだり、寝袋を冬用にすれば乗り切れるけど、暑さだけはどうにもならない。だから夏は標高の高いところを選ぶことが多いです。たとえば那須高原や谷川岳の近くは標高が1,000m以上あって、標高が0の場所と比べると気温は6度近く違うんですよ。夏のクルマ旅で北海道を選んだのは、そんな理由もあります。

黒澤:なるほど。今まで行ってみたい場所への気持ちが先行して、気温はあまり考えていなかったな。

千代田:あとは、海外のバンライフに憧れて景色で場所を決めようとすると、意外と失敗しがち。日本で景観がいいところは観光目的の人も多く集まるから、実は車中泊向きではないんですよ。

黒澤:人の話し声もそうですけど、“音”って場合によってはストレスになりますもんね。エンジンをつけっぱなしのクルマは迷惑に感じちゃいます……。

決まったルールはないからこそ、思いやりをもって静かに楽しむ

千代田:車中泊に決められたルールはないけど、最低限のマナーは必要ですよね。煌々と明かりを灯したり、ひと晩エンジンをつけっぱなしにしたりといった、周りに迷惑がかかる行為はやめるべき。

黒澤:自宅と同じ環境に近づけようとするのは、ナンセンスだと。

千代田:やっぱり、外気温に適応するウェアや寝具を選んで、真っ暗な中で虫の声を聞く。そんなふうに、アウトドアの一環として車中泊を楽しむのが理想だと思います。

次回は、車中泊グッズと防災グッズの親和性についてお話しします。

Photo by Hao Moda Text by Yumi Kurosawa Edit by Anna Hisatsune