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2022.01.28 [PROMOTION]

#05 都心から片道1時間半。日常の延長にあるバス釣りドライブ
by 望月 唯

#go fishing」は、釣りと乗り物というふたつのレンズを通してゲストの人物像を写し出していく連載。

「自分の時間は自分で作り出さないと生まれない」そう力強く語る望月唯さんは、東京を代表するスタイリストのひとり。多忙な生活の中で「どのように移動して、どんな風に釣りを楽しんでいるのか? 」。今回は合間を縫って房総半島の中央部にやってきた望月さんに同行し、彼のフィッシングスタイルをのぞかせてもらった。

どんな風に釣りして移動してる? | 連載「#go fishing」 記事一覧

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千葉県の房総半島と言えば変化に富んだ海岸地帯。房総での釣りなら、まずは魚種も多くスポットも数多ある海釣りが思い浮かぶだろう。沖に繰り出す釣り船での大物釣りはもちろん、陸っぱりからでも釣果が望めるので、堤防にはいつも釣り糸を垂らしている人の姿がある。そのため週末ともなれば首都圏からサンデーアングラーが集うが、その中には海に行かずに山間めがけてクルマを走らせる人も少なくない。

半島の中央部には県下最大のダムである亀山湖があり、その周りにはいくつもの人造湖、野池が点在。多くがブラックバスの生息地となっていて、あたりは関東有数のバス釣りのメッカとして知られている。長きに渡り最前線に立ち続けているスタイリストの望月唯さんも、房総の湖に足繁く通うバスアングラーのひとり。幼少期から親しんでいた渓流釣りの延長でルアーでのトラウトフィッシングに親しんでいたものの、3年前からはバス釣りに開眼。今や時間を作ってはもっぱら千葉に通う日々だという。

走る仕事部屋であり、趣味部屋でもあるデリカと共に

湖の駐車場に、オリーブグリーンのクルマが停まった。エアロボンネットを装着し、インチアップした足元にはオフロードタイヤ。デリカから降りてきた望月さんの装いは、レザーの短靴にブラックのデニム、タートルネックのセーター、サングラス。その出で立ちは、都内で仕事をする時と何も変わらない。

殆どの場合、望月さんが釣りをしにやってくるのは仕事終わりや仕事の前の時間。東京都内で仕事をするそのまんまの格好でやって来て、靴を長靴に履き替え、釣り用のジャケットを羽織ってパッと竿を出すのだという。

デリカ D:5は、活動の振り幅が大きい望月さんのライフスタイルを、影で支える新しい相棒。ふたりの娘さんと奥さまの意見を踏まえつつ、趣味や仕事での利便性を考えた最大公約数をとったような1台で、これなら良いと思えるルックスにカスタムして2021年の秋から乗っているのだという。

「以前はジャガーのオープントップのXKRとか都会っぽいクルマに乗ったりしていたのですが、アウトドアに遊びに行くようになって以来、ずっと四駆ばかり。過去4台はJEEPを乗り継いできましたが、4ドアでも室内空間はそんなに大きくなかったこともあって、デリカに落ち着きました。昔は国産のワンボックスカーなんて絶対に嫌だって偏見を持っていましたが、これなら良いかなと。結局は子どもたちに合わせていくしかなかったんです」



スタイリストという職業柄、洋服を運べる大きな荷室は絶対条件。望月さん史上もっとも広い屋内スペースを誇るデリカは、コーディネートを車内で組むことができたり、モデルのフィッティングルームとしても使えるので、何かと重宝しているという。

車内の天井にあるロッドホルダーは、洋服をハンギングするパイプラックの役割も果たす。時には服でいっぱいになる車内だが、今日のように釣りに出かける日には、状況に合わせて選べるようにとタックルが何セットも積まれることになる。

「家族も乗せられるし、荷物も積めるし、アウトドアにもぴったりだし、いろんな使い方ができるので国産ミニバンは良いですね。それに、今はパソコンとインターフェースとマイクなんかを入れて、クルマを自前の音楽スタジオとして使えないかなとも考えています。というのも最近、昔の仲間を集めて本格的にバンド活動を始めたんです。すでに曲はいくつもできているので、録音して音楽配信サービスにアップしようと本気で考えているんですよ(笑)」

住んでいる都内の自宅では音も反響し、近所迷惑にもなるということで思いついたのが、この作戦。クルマの中では嫌な音が響かないので、誰もいない駐車場で演奏して録音しちゃおうということらしい。クルマを移動手段としてだけでなく、動く仕事部屋・趣味部屋としてフル活用する姿勢に頭がさがる。

湖でハマったバスフィッシングの沼

クルマを自分なりに有効活用している望月さんだから、時間を無駄なく使うことにも貪欲。捻出した時間は自分や家族、もしくはクリエイティブのために注がれる。と言っても、最近はもっぱらバス釣りの優先順位が高いそうだが……。

「バス釣りは湖に通って日々観察することが必須だと思い、昨年秋は1ヶ月間同じダム湖に毎日釣りしにきてました。都内で仕事をしてから、その足で午後4時から6時ぐらいの夕マズメを狙いに。湖畔のボート屋が5時に閉店するので大抵の人はそのタイミングで帰っちゃうんですが、魚たちは頭がいいから、それからフィーディングといって食べ物を探し始めるんですよね。そして、真っ暗になる手前の時間がフィーバータイム。この湖は数センチの小魚がいっぱいいてバスはそれを捕食しているので、マズメにスモラバ(注1)なんかを投げているとよく釣れるんですよ」
(注1)スモラバ:バス釣りには欠かせないルアーで、スモールラバージグの略。

この事実に気がつくまでには時間を要したそうだが、これも毎日通ったからこそ導き出せた答え。語っている望月さんの顔は誇らしげだ。

取材したのは、晴天が続いて湖の水位が下がっていた12月中旬。「いつも釣っているポイント」の湖底も歩いていける状態になっていて、普通であればボートでしかアクセスできない向こう岸も、陸っぱりから狙えるようになっていた。奥へと追いやられた冬の湖は静かで、ルアーが着水する音と野鳥の囀りだけが聞こえるのみ。釣り人ひとり、黙々と竿を振るには心地よい環境が整っていた。

「上手な人やプロと素人の差っていうのは、どれだけ場所に通ったか。腕前の差もありますが、バスにおいてはリサーチによる情報量の差がものを言うんだと思います。バスプロでさえ大会前から会場の湖で練習をしたり魚探を使ってポイントを探しているもの。素人がぽっと行っただけでは釣れないものなんですよね」

今でこそ釣果があるようになったものの、最初の1匹目を釣り上げるまでに半年ほどの時間を要したという望月さん。その結果、月4~5回程ではバス釣りは上達しないと思い、さらに頻繁に通うようになったのだという。


「バスがちゃんと釣れるようになったのはこの1年くらいかなぁ。3、4ヶ月前に毎日来るようにした時に一気にわかってきた感じがします。逆にいうと、ここまでしないと釣れないものなんだというのもわかってきました」

静岡県富士宮の山あいの場所で生まれ育った望月さん。家のテラスから釣り糸を垂らせばハヤやヤマメが釣れるくらい川が身近にある場所に住んでいたそうで、「魚がそこにいれば釣れるもの」という感覚で生きてきたが、バス釣りではその常識が通じず悔しかったという。

「経験則からいうと渓流魚はもっと簡単。居ついている場所が想像しやすいので、初めて行った川でもいい所にルアーを通せば釣れてくれます。もちろん渓流をやる人も魚がスレていると言いますが、そのスレ具合はブラックバスに比べたら大したことはないのかもしれません。バス釣りの人口って結構多いので、魚の警戒心が強くてはなからルアーを見切って流す感じがします」

釣れなかった日々のフラストレーションが逆にモチベーションとなり、いつの間にかバス釣りの魅力に引き込まれていった望月さん。その1匹目を釣り上げるまでの間は特に、本を読んだりYouTubeで動画を見たり、研究にも余念がなかったという。

同じ湖で釣りを楽しんでいる中でも、大型のルアーしか投げない大物狙いのアングラーもいれば、望月さんのように軽いワームや小型のルアーを使うフィネス愛好家(注2)もいる。どの釣りにも言えることだが、釣り人それぞれに自分の信じるものがあり、経験を元に導き出したメソッドを持っているから面白い。
(注2)フィネス:スピニングタックルで軽めのルアーやワームを使って行う釣りのスタイル。フィネスフィッシングの呼称。

「スタイリストの性かもしれませんが、僕ってリサーチが好きなんでしょうね。天気に気温、水温という自然環境、それに自分が選択する道具。いろんなものを試して比較検証して、その結果としてよかったら釣れてくれる。自分の予想通りに釣れた時は本当に快感です。いろんなところから服を借りてきて、スタイリングが良い仕上がりになった時のような。パズルのピースがうまくハマったような。そんな感動に近いものをバス釣りで感じることができます」

都市生活者ならではの? 特殊なバスとの付き合い方

東京都内で日常を過ごす人にとって、釣りはそんなに毎日のように行けるものではない。しかし望月さんにとってバス釣りは、日常の延長として行ける気軽な楽しみとしてある。本人にとっては、子どもの頃に何気なくやっていた近所での釣りが、今の生活ではバス釣りに変わっただけぐらいの感覚なのかもしれない。

いつもの湖までは片道1時間半程。決して近くはないが、本人に言わせればその移動時間は苦にはならず、むしろ、物事を考える有意義な時間なのだそう。「服をわかった上で、自身の解釈をどう入れるか。求められている、もしくは発信したいイメージはどんなものか」その回答を求める上で、自分の声に耳を傾ける時間は大切。そのためにはいくら時間があっても足りるものでもないのだろう。

「歩いているといいアイディアが思いつくので前はよく歩いていたのですが、今はそれがバス釣りに置き換わっている感じです。釣りという目的があるから必然的に移動の時間も生まれますし、竿を振っている時も含めて、仕事のやり方とか、スタイリングの事とかをぼーっと考える時間が確保できます。家族に不満を言われないようにうまく時間をやりくりしつつ、バス釣りができる房総エリアはありがたい存在です」

釣りに行けば少なくとも6時間は自分ひとりの時間が確保できる。図らずもハマってしまったバス釣りは、望月さんにとって仕事に打ち込む良い口実になり、そして良い趣味となっているのだ。

Instagram:@go_fishing_jp

望月 唯
1969年生まれ。静岡県富士宮市出身。1994年にスタイリストとして独立後、FIGARO、流行通信、Men’non-no、SMART などの、雑誌をメインに、 SMAP、松雪泰子、小泉今日 子、サザンオールスターズなどのアーティストを担当。2000年以降は〈RICO〉のデザイナーに就任、自身のブランド〈HOWL〉を立ち上げるなど、ファッションデザイナー・ディレクターとしても活躍の場を広げる。現在もスタイリストとして才覚を発揮する傍ら、WEBマガジン〈HEADS TOKYO〉の主催として発信も行なっている。

photo by Masayuki Nakaya text by Junpei Suzuki produce by Yuki Hiiro supported by #go_fishing