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#02 家も野菜もエネルギーも自給する、習作の場
2022.11.24 [PROMOTION]

#02 家も野菜もエネルギーも自給する、習作の場
by 神向寺信二 (一級建築士)

TOP画:4年がかりで完成したという神向寺さんの実験的なオフグリッドハウス。

「より遠くまで、より快適に、より安全に」を掲げるグランドツーリング思想で、移住や2拠点といった、新しいライフスタイルをサポートするSUBARU。『SUBARU里山スタジオ』を構える房総半島・鴨川の山間のコミュニティには、ユニークな価値観をもつ移住者や2拠点生活者が集まっている。Vol.1のヘイミッシュ・マーフィーさん(〈Uzumé〉オーナー)に続いて、オフグリッドのタイニーハウスをセルフビルドした建築士の神向寺信二さんのケースを紹介しよう。

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きびきびとした走りと4WDらしい安定感を兼ね備え、急な山道あり、狭い農道ありという鴨川のロケーションにぴったりなレヴォーグ。東京・木更津間の高速道路では「アイサイト」を活用して、1時間半の移動のストレスを低減。

棚田オーナー制度をきっかけに、2拠点生活をスタート

「SUBARU レヴォーグ」に乗って東京湾アクアラインを経て、房総半島へ。目的地は鴨川の山間にある田園地帯だ。背後を嶺岡山地と清澄山に守られた一角に、神向寺信二さんのオフグリッドハウスがある。東京・千駄ヶ谷に自らの建築設計事務所を構える神向寺さんが鴨川に出合ったのは、鴨川市が実施している棚田オーナー制度がきっかけだった。1区画の棚田を借り受けたオーナーが、地元農家の指導のもとに田植えや草刈り、収穫、脱穀などの農作業に参加するというもの。農家の高齢化が進み、一時期、棚田の荒廃が進んでいた鴨川だが、この制度をきっかけに都市と農村の交流が生まれ、耕作放棄地が減少するなど、田んぼを中心としたコミュニティづくりの成功例として知られている。


オーナー制度を展開する大山千枚田の棚田の風景。

「仕事のベースは東京にありますが、田舎で過ごす拠点をずっと探していました。棚田オーナー制度は景観保護運動の一環として行われているもので、農作業をして収穫した米をもらえるというので飛びつきましたが、棚田のある田園風景が素晴らしかった。棚田オーナーになってわかったのですが、田んぼの風景って一年を通して劇的に変化するんです。その美しさに惚れ込んですぐに300坪の土地を購入。2012年からセルフビルドでオフグリッドハウスを作りはじめました。以来、東京と鴨川の2拠点生活を続けています」


必要にして最低限の機能や居住性を詰め込んだ平家。屋根にはソーラーパネルが。

40年の建築キャリアで初めてのセルフビルド

建築士として仕事で扱ってきたのは、集合住宅や病院、福祉施設など大型の施設ばかり。それがなぜ、木造の小屋をセルフビルドしようと思ったのか。

「職業柄、一度くらいは自分の暮らす家を自分の力で作ってみたいという思いがありました。自らの手を動かして小屋を一軒建ててみて、学びは多かったのです。というのも、自分で建てると部材ごとの大きさや柔らかさの違いを、身体で覚えることができるから。部材の強度がわからなければ、構造に必要な太さとデザインのぎりぎりを追求できない。一昔前の大工の世界には棟梁がいましたが、彼らはそういう技術に長けていたんですね。実際に小屋を建ててみて、棟梁の経験や技術の必要性を痛感しました」


土壁が目にも心地いい室内。暖は薪ストーブで、照明はランタンで。

そういって案内してくれたのは、周囲を田んぼに囲まれた、簡素な木造の平屋だ。家の前には小さな畑と果樹園、屋根にはソーラーパネル、入り口にはアウトドアキッチンが設けられている。一間のなかに居間兼ダイニング兼エントランスと、一段上がって寝るためのスペースが効率よく詰め込まれている。内装は、ベニヤの上に竹下地を組み、その上を土壁に仕上げている。


テラスに設けられたアウトドアキッチンは、昔ながらの竈炊きで。

「東日本大震災以来、エネルギーの自給の実験をしてみたいと思っていたので、上水以外はオフグリッド。小型冷蔵庫とPCの電気は太陽光パネルとポータブル電源でまかなっています。水は上水が来ているのでそれを利用し、トイレはウッドチップを使ったコンポストトイレ。主な熱源は『田舎のシステムキッチン』といわれる窯と薪ストーブです。温水は太陽熱温水器を導入しているのですが、これが実に快適。水圧を生かす原理はわかっているけれど、それでも初めて温水が出た時は感動しました」


温水シャワーのための太陽熱温水器。

不便を楽しむ鴨川ライフ

冬は予想以上に寒いし、風の通り道として設けた小さな窓は、思った以上に抜けなかった。「反省点ばかり」という神向寺さんだけれど、必要最低限を十分に補うミニマルな家は機能美にあふれ、その佇まいはなんとも清々しい。東京と鴨川を行き来しながら4年を費やしたプロジェクトは、神向寺さん自身にも大きなマインドセットをもたらした。現代の社会には、個人の住宅=既製品の買い物という通念が刷り込まれてしまっているが、「オフグリッドハウスを建てて、住宅は買うものではなく建てるものなんだって、あらためて実感することができた」と振り返る。

「多くの人が既製品の住宅を“買う”という選択をしていますが、本来の住宅って、それぞれの家族構成やライフスタイルに合わせて“建てる”ものだった。そこには個人の価値観が貫かれていたはずです」


竹下地の上に塗り重ねた土壁。

こうした経験を鴨川に還元しようと、神向寺さんはいま、鴨川で新しい木造建築を手がけている。オーナーと一緒に竹をカットし、土壁の材料を作り……自分たちの手を動かして家を作ろうというものだ。

「自分の衣食住の全てが他人任せって、やっぱりなんだか居心地が悪い。失敗と成功を積み重ねながら、生活のなかで、自力でまかなえる範囲を少しずつ広げていけたら楽しいなって思っています」


庭で育てているホップ。

週に3日ほど滞在する鴨川では、仕事をすることもあるが畑仕事や趣味となったパンを焼いて過ごしている。
「家づくりも農業の真似事もパン焼きも、うまくいったりいかなかったり。里山暮らしは試行錯誤の積み重ねが楽しいんですよ」


荷室が大きく、長距離を運転しても疲れにくく、同乗する家族も快適。そんな、2拠点生活に必要な要素を詰め込んだレヴォーグ。

神向寺信二 (じんこうじしんじ)
1952年東京生まれ。1980年に建築士としてのキャリアをスタート、教育施設や福祉施設、集合住宅など大規模な施設の設計に携わってきた。鴨川に木造の平屋をセルフビルドしたことをきっかけに、伝統構法や木造建築の魅力を再認識。2019年に立ち上げた個人事務所〈神向寺設計〉では、持続可能性というキーワードで建築を捉え直し、温熱環境に優れた住宅の建築・改修に携わる。

Photo by Midori Yamashita Text by Ryoko Kuraishi