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#03 里山の農的コミュニティづくり
2022.12.06 [PROMOTION]

#03 里山の農的コミュニティづくり
by 井上隆太郎(〈苗目〉代表)

TOP画:SUBARU「LEGACY OUTBACK」で〈苗目〉のシェアファームへ。
subaru.jp/legacy/outback


都市を離れた地方や郊外で、多彩なライフスタイルや働き方が生まれているコロナ禍の現在。SUBARUは「より遠くまで、より快適に、より安全に」というグランドツーリング思想を掲げ、新しい生き方をサポートしている。房総半島・鴨川の山間に集まる移住者や2拠点生活者を紹介するシリーズ第3弾は、“いま最もクール”と噂のファーム、〈苗目〉を営む井上隆太郎さんのケーススタディ。

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今年の春にスタートした〈苗目〉のシェアファームでは無農薬・無化学肥料、F1種禁止というユニークなルールが。利用者が来られない日は井上さんたちスタッフで管理している。

鴨川の山間、嶺岡山系に囲まれた自然豊かな一角。〈苗目〉を営む井上隆太郎さんは、完全自然農法で野菜やハーブ、エディブルフラワーを栽培する気鋭のファーマーだ。鴨川の山間、大山千枚田周辺にある休耕田を復活させ、固定種や在来種から日本のマーケットでは流通していない海外のマイナーな作物までを育てている。扱うのは野菜やハーブだけではない。養蜂もやるし、池も用水路も自分で掘る。里山から間伐材を切り出すし、家も自分で建てた。野生の花を摘んでは自家製シロップを仕込み、レストランのシェフたちも利用するシェアファームでは、農業ビギナーの利用者たちをびしびし指導している。


鴨川生活8年目の井上さん。家族と暮らす自宅もセルフビルドで作っている。

装花から、より根源的なものづくりへ

井上さんのキャリアのスタートは、大手園芸ショップの仕入れ担当。全国の生産者を周って生産、仕入れ、販売までのいろはを身につけた。独立後は花屋や植物とインテリアのショップなどの経営を経て、自家用車だった古いアメ車を改造したフラワーカーを利用してウィンドウディスプレイやイベントでの活けこみなどを行った。そうしたセンスがファッションやインテリア業界で注目され、装花に木工の要素も取り入れた大掛かりな空間ディスプレイなどで活躍。

そうした仕事に疑問を感じるようになったのは、ディスプレイに使われた植物たちが、イベント後は無惨にも廃棄されてしまっていたから。植物を使って空間を作るより、もっと根源的ものに関わってみたいと、ハーブとエディブルフラワーの畑を鴨川に構えた。


シェアファームの裏手にある棚田には水道が来ていなかったので、自分たちで溜池を作り水路を整備した。嶺岡山系の湧水と天水をここに溜め、古代米を栽培する水田に流している。


なるべく環境に負荷をかけないよう、農薬も化学肥料も使わない。だから栽培するのはこの土地の風土にあった作物だけ。「放っておいても自然に育つ、そういうのがいいんです」。

「昔ながらの料理の世界では、料理の風味や食感を良くするために、野菜の花の部分を間引いて捨てることが多いんです。花が咲くと固くなる、エグミが出る。例えばカラシナ、コリアンダー、ニンジン。花は『渋い』とか『エグミがある』って捨てられてしまう。そうではなくて、その個性をうまく生かした使い方をしてほしいと思う。エディブルフラワーもそう。ただの『食べられる飾り』じゃない、ちゃんと香りも味もあるんです」

ただ“食べられる”ではなく、“食べておいしい”。そういう提案を続けていけば料理家たちの意識も変わるはず。井上さんは声をあげる作り手なのである。


水はけ改善のためにシェアファームに暗渠を掘って隣の湿地に流している。湿地には水のある環境を好むマコモタケやクランベリーを植えている。

里山の景観を取り戻す

当初は東京と鴨川を行き来していたが、翌年には完全に拠点を移し、今年で鴨川ライフも8年目を迎える。2014年に始めた200坪の畑は、いまや10,000坪を超える規模になった。当初はハーブやエディブルフラワーの生産のみだったが、現在は休耕地を畑として蘇らせて耕作放棄地を減らし、本来の里山の景観を取り戻そうという環境デザインにも力を注いでいる。今年の春からはシェアファームの運営を新たにスタート。『無農薬・無化学肥料、F1品種は禁止』というルールを掲げたシェアファームを利用するのは、『いちばんヒップ』といわれるレストランのシェフたちだ。“栽培の技術だけでなく、環境デザインや循環の仕組みをシェアしていける場所にしていきたい”と、作付け計画から種まき、育苗、畑のデザインに至るまで利用者の相談にのりながら、よりよい農園づくりを目指して運営を行なっている。


セルフビルドの堆肥舎。堆肥舎の屋根で天水を集めタンクに溜めており、農業用水として利用している。

植物を“飾る”から“育てる”へ、そして里山の景観や循環の仕組みを“作る”へ。東京よりも少しだけ根源的な暮らしを志して始めた鴨川での日常は、未来の農業や食のこと、持続する環境についてのさまざま視点やアイデアをもたらしてくれた。〈苗目〉の進化とともに、井上さんが紡ごうとする物語も壮大になっていく。

「シェアファームの敷地内には、自分たちで切り出した間伐材を使ってセルフビルドした堆肥舎を建てました。この堆肥舎では傷んでしまった作物やシェフたちが持ち込んだ野菜クズ、草刈りした草などを堆肥化し、畑で利用していきます。さらにこのエリアでは鶏を飼育して、鶏糞を堆肥に利用していく予定です。循環のシステムを目の当たりにすることで、利用者に健全な農業や未来の食、環境や循環の仕組みに興味を持ってもらえればと思います」


間もなくオープン予定のグローサリーでは、地域で自然栽培を行う農家や米農家、養鶏家の食材、食品を扱う。

農と食を中心に、人々が集まるコミュニティを

シェアファームで井上さんが思い描くのは、農業が中心にあるコミュニティをつくること。東京から農作業に来る人と地元の人が垣根なく集い、農と食を体験し、さまざまなアイデアが行き交って地域が自然と活性化する、そんな『道の駅』のような役割を担うコミュニティファームづくりを行っていきたいとか。

「シェアファームの敷地には、無農薬、有機栽培で育てられた地域の農産物を扱うグローサリーが間もなくオープンする予定です。グローサリーの横にはキッチンや加工場、パスタの製麺所やクラフトビールのブリュワリーも作り、地域の農家や作り手たちの6次産業化の拠点となります。畑づくりや環境づくりだけでなく、勉強会やワークショップ、ファームステイなど、楽しみながら学べる場を提供し、子どもたちには自然や動物と触れ合える機会を作っていきます」


グローサリーではオリジナルのエディブルフラワーやハーブティーなども扱う。

どこまでが作物でどこからが雑草なのか判然としない、まるで野原のようなおおらかなファーム。遠方から料理家やバーテンダー、さまざまなクリエイターが足繁く通うコミュニティファームは、房総半島でいちばんクールな遊び場なのかもしれない。


自然のフィールドにおけるSUBARU車のポテンシャルを体感できるのが、鴨川市にある「SUBARU里山スタジオ」。「LEGACY OUTBACK」にポップアップテントを積んで、アウトドア志向のライフスタイルを提案する。

井上隆太郎 (いのうえりゅうたろう)
1976年東京生まれ。園芸の専門学校を卒業後、仕入れ担当として大手園芸店に就職。独立後は駅構内のマイクロフラワーショップ、北欧インテリアと植物の店、バー、古着と花のコンプレックスショップなど、植物を絡めたユニークな店舗を手がける。2014年に鴨川でハーブとエディブルフラワーの栽培をスタート。鴨川の里山保全を担うべく、2018年農業法人〈苗目〉を設立。現在は栽培、採集、シェアファームの3本を柱としたビジネスを行っている。〈For Good〉で実施したコミュニティファーム設立のためのクラウドファンディングは、見事、目標金額を達成した。

Photo by Midori Yamashita Text by Ryoko Kuraishi