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セカンドライフとクルマ #01 旅するクルマ屋はいかにして生まれたのか
2023.11.08

セカンドライフとクルマ #01 旅するクルマ屋はいかにして生まれたのか
by NORTH TRUNK

これからの時代のクルマとの付き合いかたとは? 自分らしい向き合い方って? noruでおなじみのクリエイターに、クルマにまつわるユニークな小商いを推薦いただき、そのビジョンを追いかける新連載がスタート。第1弾は、ボンゴバンを中心とする商用バンをアウトドア仕様にカスタムして販売する、宮崎県の〈NORTH TRUNK〉!

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中古車に手を加え、自分らしくアップデートする――。いまのカスタマイズカルチャーの最前線にいるのは、バンライフやアウトドアユースを意識したカスタムカーたち。イラストレーターのオカタオカさんが教えてくれたのは、ボンゴバンを中心とした中古車をいい感じにカスタムしている宮崎県宮崎市の〈NORTH TRUNK〉だ。コンセプトは“旅とコーヒーといいクルマ”、点検の待ち時間には、店主が旅先で見つけた、とっておきのコーヒーを振る舞ってくれるとか。そう聞くだけで、店主のライフスタイルや嗜好がまざまざと浮かんでくるような。

「コロナ禍前のことですが、ボルボの240を探していたときに宮崎の古本屋さんで〈NORTH TRUNK〉のショップカードを手に取ったことがきっかけでした。ショップカードに描かれていたのが、まさに240だったんです」とオカさん。

HPを見てみると、ベージュの全塗装が施されていたり、キャリアにゴツいタイヤを履かせていたり、当時、出始めていた個性的なスタイルのクルマが揃っていた。

「東京では珍しくないかもしれませんが、地方でこういうラインナップは珍しいな、と。そうしたら、ショップのロゴを知り合いがデザインしていることまで判明。不思議な縁を感じました」

その後、2020年の〈ash Design&Craft Fair〉(鹿児島県内で開催されているデザイン&クラフトマーケット)でクルマの展示を手掛けることになり、オカさんと〈NORTH TRUNK〉でコラボして展示を行った。以来、〈NORTH TRUNK〉のステッカーをオカさんが手掛けるなど、交流が続いているそうだ。

オカさんが考える〈NORTH TRUNK〉のおもしろさは、手がけるクルマの魅力に加えて、店主の佐々木亨さんとその家族が醸す“旅”感だ。全国津々浦々へ納車の旅に出かけることで養われてきた独自の世界観ともいえるだろう。一つの場所に縛られない自由さと、その自由さをのびのびと楽しんでいる佐々木さんたちの生き方が、買い手にもまざまざと伝わってくる。

「ボンゴバンのカスタムにも、佐々木さんのリアルな経験から導き出されたディテールやスタイルが生きている。だから買い手も、買った後のクルマとの付き合い方を想像しやすい。〈NORTH TRUNK〉のクルマは、旅に出るきっかけを与えてくれるんだと思います」

サーフィンざんまいの毎日を共にしたボンゴバン

それでは〈NORTH TRUNK〉の店主、佐々木亨さんにボンゴバンとの出合いを振り返ってもらおう。

「僕は北海道出身なのですが、10代のときにサーフィンにハマり、良い波を求めて宮崎の大学に進学しました。大学に入り、海に行くのに足が必要だというので先輩から譲ってもらったのが、ワーゲンバスのように前列3人・後列3人の6人乗りにカスタムされたボンゴバン。当時、サーフスポットの近くに住んでいたのですが、日の出とともに波に乗りたかったから、スポット近くにバンを停めて車中泊する生活を送っていたんです。手頃なサイズなのに車中泊してもストレスがないし、6人乗りでサーフボードやサーフトリップに必要な道具も積み込める。重宝しましたね。台風のうねりが入ってきた!となったら、何本もの板を積み込んで日向市や日南市へ、あるいは鹿児島県までクルマを走らせて。朝昼夕と海に入りたい僕にとって、ボンゴバンは欠かせない相棒でした」

北海道で暮らしていた頃はバイクにハマり、バイク整備士の専門学校に通っていたそうで、当時、自分好みのスタイルのバイクを造り上げることに熱中していた。大学卒業後はスバルに入社。10年間、新車の営業マンとして勤務する。

「スバルでの仕事は楽しかったのですが、平日にしか休みが取れなかったので子どもが小学生に上がるタイミングで独立を考えました。ちょうど、妻が古道具と雑貨の店を始めたタイミングだったので、自分も中古車販売業者として独立し、妻の店に合流することにしました。2014年のことです」

バイクのSCLAMBLERスタイルを、クルマに落とし込んでみたら

独立当初はたくさんの中古車を買い付けてそのまま販売していたが、それではどうにもおもしろみがない。そんなとき、佐々木さんの前に懐かしのボンゴバンが現れる。

「店で扱う古道具や雑貨の運搬用にバンが欲しいなと思い始めたタイミングで、近隣の農家さんの納屋で、引退したボロボロのボンゴバンを見つけたんです。学生時代の数々の楽しい思い出と、サーフボードやたくさんの荷物が乗ることを思いだしまし、『これからの自分の相棒になるのはこのクルマだ』と、運命的なものを感じちゃったんです。オーナーに何度も掛け合い、ようやく譲り受けられました。以来、家族も荷物もまるごと運んでくれる、頼もしいパートナーとして活躍しています」

このバンを家族のためにカスタムしたのが、現在の商いの原点だ。10年前は誰も見向きしなかったボンゴを、妻や娘も気に入ってくれるスタイルにアップデートしようと手を加えたのだ。ベースとなったのが、バイクの専門学校時代に夢中になった“SCLAMBLER”スタイル。SCRAMBLERとはレトロ感のある二輪車スタイルのことだが、そのオールドスクールな二輪車のエッセンスをクルマに落とし込んだものだ。

ボディカラーを好みの色に塗り替え、ルーフキャリーを載せ、テレーンタイヤを履かせたそれは、アウトドアユースのタフネスさと街になじむスタイリッシュさを併せ持っていた。そんなビジュアルのバンはどこにもなかったから、佐々木家のボンゴバンはとにかく目立った。雑貨の買い付けに出かけるたび、見知らぬ人に声をかけられるほど。

「それで、店で扱う中古車にも同様のカスタムを施して販売してみることにしたのです。そうしたらものすごい反響がありました。誰もこのようなカスタムをやっていなかったことに加え、車中泊やバンライフのスタイルを打ち出したことで多くの層に刺さったようです」

コロナ禍をきっかけにアウトドアで遊ぶ人が増えたこともあり、アウトドアのエッセンスを加えたスタイルはまだまだ続きそうだ。現在は大手メーカーもカスタマイズに乗り出しているほど。

「バンって実はものすごく使い勝手のいいクルマなんですよ。荷物はたくさん詰めるし、家族と車中泊をしてもストレスを感じづらい造りだし、フォルムが機能的で扱いやすい。とりわけ、旧型のボンゴは角ばったデザインも優れており、個人的な思い入れを差し引いてもカスタムのベースにしやすい車両です。ただ、家族と普段使いするにはビジュアルや乗り心地がイマイチという課題がありました。カスタムすることでその課題を克服し、幅広い方に乗っていただける仕様になっていると思います」

オリジナルパーツを搭載して、唯一無二のスタイルに

現在、佐々木さんが直面する問題は、状態のいいボンゴバンが少なくなっていること。発売から年数が経っていることもあり、ベース車両を見つけづらい状況が続いている。

「今後は比較的手に入りやすい4代目のモデルを採用することが多くなりそうですが、丸みを帯びたこのモデルをどうスタイリッシュに見せるか。大きめのタイヤを履かせたり、フォグランプをつけたり、オリジナルパーツを作ったり、試行錯誤しています」

こうした試行錯誤のなかで生まれたのが、〈NORTH TRUNK〉オリジナルパーツだ。近年は、「ash Design & Craft Fair」に出展する作家や作り手たちとタッグを組み、レザーハンドルや車中泊用のカーテン、カーテン留めといったオリジナルパーツを製作、唯一無二のカスタムカーを手がけている。また、住宅や店舗のデザイン、家具製作などを行う鹿児島の〈DWELL〉とは、彼らが提唱する、住まいと暮らしの新たな取り組み「GOOD-TIME PLACE」でコラボレーション。あらたな世界観を提唱した。

「〈DWELL〉が提案する『GOOD-TIME PLACE』とは、キッチン&ダイニングスペースと雨をしのげる屋根を擁し、土足であがれる土間のような空間のこと。そこに車中泊できるクルマを加えることで、自宅とは違う、離れの機能を持たせることができます。僕たちはつい、外遊びを中心にクルマを捉えてしまいますが、外ではなくあえて家の敷地内にクルマを置いて遊び場とする発想が新鮮でした。このように作家やクリエイターのみなさんとコラボすることで、クルマの世界が大きく広がったと感じています」

「今後は、〈NORTH TRUNK〉らしいSCLAMBLERスタイルを、さまざまな車種に落とし込んでみたい」という佐々木さん。たとえば、バンユーザーのセカンドカーとして、VWルポやMINIといったコンパクトな輸入車をSCLAMBLERスタイルに仕上げた“SCLAMBLERセカンド”を提案している。コンパクトな輸入車は、フォグランプやルーフキャリア、部分的な塗装だけで大きくイメージチェンジできるから、カスタムビギナーにもおすすめだ。ルーフテントをつけ、車中泊を楽しめる仕様にもカスタム可能という。

また、バン購入後のコンテンツを充実させたいと思っていたこともあり、既知のアウトドアショップと手を組んで、カスタムバンで出かけるサーフスポットや釣り場など、遊び方の提案も幅広く行っていく予定だ。

一生ものの付き合いを、カスタムカーで提案する

カスタムカーのおもしろさは?と尋ねたら、「ゴールがないところ」と佐々木さん。時間とともに変化するライフスタイルや家族構成に合わせ、愛車に少しずつ手を加えていく。その変化のプロセスを含めたカーライフを楽しめるのが、カスタムカーの醍醐味なのだ。

「中古車に手を加え、少しずつ自分好みに育てる。そのクルマで食べ、寝、各地を旅する。そんなクルマには並々ならない愛着が湧くはずです。だから、10年・10万kmというタイミングではなく、少しでも長い期間を乗り続けたくなる。カスタムカーを通じて、クルマとの一生ものの付き合い方をお届けしていきたい」

見知らぬ土地をクルマで旅し、新しい発見をする。家族とともにクルマで出かけ、最高の思い出を作る…クルマというプロダクトがもたらす世界がより豊かに、さらに鮮やかなものになる。そんな体験を多くの人と共有することを願っている。

NORTH TRUNK
「旅とコーヒーといいクルマ」をテーマにしたユーズドカーショップ。2014年創業以来、中古車の販売、点検・メンテナンス、コーヒー豆の販売、古道具・雑貨の販売を続けている。

営業時間:9:00-18:00
定休日:日曜日
TEL:0985-77-1137
携帯電話:090-8397-8221
E-MAIL:info@north-trunk.com
HP:north-trunk.com
IG:@northtrunk


オカタオカ
1986年宮崎生まれ。桑沢デザイン研究所卒業。クルマと犬を愛するイラストレーター。雑誌や書籍、アパレル、広告などのイラストレーションを手がけるほか、国内外での個展開催などその活動は多岐にわたる。なお、カークラフトブランド『HIGHWAY』を「Judd.」代表の清水隆司氏と手がける。
IG:@okataoka

photo by hiroki isohata / text by ryoko kuraishi / edit by ryo muramatsu