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2026.02.16NEW

移動が育む暮らし 長野県・御代田編 |#02 移動とパーマカルチャーをデザインする by宇南山加子

新カテゴリLOCAL(実装後にリンク貼る)では、ローカルな土地の魅力を「移動」という視点から掘り起こしていく。最初の舞台は、近年移住者が増えている長野県・御代田町。新幹線や在来線、高速道路を使えば首都圏へのアクセスも良く、二拠点で生きる住民も少なくない。この地で暮らす人々の「移動時間」が、どのように日々の実践や思想を育てているのか。

#02に登場するのは、パーマカルチャーとの出会いを機に浅間山麓の歴史ある集落「普賢山落」に移り住み、循環型の暮らしとギャラリー運営に取り組むデザイナー・宇南山加子さん。彼女にとっての移動時間は、仕事と生活、テクノロジーと自然のあいだをつなぎ直し、自分の内側と対話するための“濃密な実験場”になっている。

「移動が育む暮らし 長野県・御代田編」記事一覧


浅間サンラインで見つけた「海さえあきらめれば理想の土地」

生まれ育った東京下町でデザイン会社を興し、日本と世界を行き来する多忙な暮らしを送っていた宇南山加子さんは、ある時パーマカルチャーと出会い、衝撃を受けた。やがて子育てが一段落すると、循環型の暮らしを自ら実践すべく、パートナーでありプロダクトデザイナーの松岡智之さんと新たな住処を探しはじめた。移住先には5つの条件があった。東京から近く、川と海があって、森に囲まれていて、海抜1,000m前後に位置すること。釣りが大好きな宇南山さんたちにとって川や海へのアクセスは必須で、森が最も美しいと感じられる標高に住居を構えたい。静岡県や山梨県をはじめとして、さまざまな場所を見て回ったけれど、理想的な土地には巡り会えなかった。そんな時、仕事で軽井沢から白馬まで移動することになり、抜群の眺望で知られる浅間サンラインをドライブした。軽井沢を抜けて御代田町に入ると、この上ない心地よさを感じた宇南山さんはピンときた。調べてみると「海さえあきらめれば、理想的な土地」であることが分かり、移住することにした。長野県が日本海に面し、北陸や新潟、佐渡らが近くなることも土地を購入する決め手となったという。

彼らが移り住むことを決めたのは、偶然にも、御代田町の中で最も芸術色の濃い「普賢山落」という場所だった。今から60年ほど前、東京で活躍していたクリエーターたちが塩野というエリアにあった普賢寺の寺領地を借り上げ、「きちんと地に足を付けてクリエイティビティを高めたい」という思いを胸に誕生した別荘村だ。現在はその2世、3世に当たる人々が静かに暮らしているという。不動産会社の紹介で普賢山落を訪れた宇南山さんたちは、そうした歴史を知らず、緑深い集落の居心地のよさと、素朴ながらも素敵な家々が集まる雰囲気が気に入り、自分たちも家を立て、芸術的なコミュニティの一員となった。


自宅の隣に建てたギャラリー「SAMNICON(サムニコン)」

森のギャラリーと循環する暮らし。新しい自然との共存を探して

コロナ禍で家づくりに没頭した宇南山さんは、静かな森の中にカラマツの外壁が印象的な家を完成させ、そこで自身のブランド〈SyuRo〉の日用品や松岡さんのデザインする家具を中心に、インテリア全般を提案する〈SAMNICON〉というギャラリーを開くかたわら、念願だった循環型の営みに取り組みはじめた。


お風呂でつかった水が浄化槽で分解され、庭の小川から敷地内にあるため池に流れる。

宇南山さんはパーマカルチャーについて、次のように考えている。

「普賢山落を築いた先人たちには、当時の高度経済成長に対する危機感があったと聞いています。私自身は危機というよりは、より豊かな暮らしを求めて、都会が近く、自然の豊かな場所を求めて移り住みました。20年、30年先を考えた時に、水や土のある暮らしがあったほうが、子どもの将来の選択肢にもなるでしょうし」

循環型の暮らしを突き詰めていくと、縄文的な暮らしとかヒッピー的な生き方に行き着きやすい。しかし宇南山さんたちは、「もっと違うアプローチがあるんじゃないか?」と、トライアンドエラーを繰り返している。文明と決別することもなく、都会の優れた部分を肯定して、最新のテクノロジーも含めながら、「新しい自然との共存」という生き方を模索しているところだ。


自宅の屋根には太陽光パネルを設置。日中に使う分を上回る発電ができるため、余った分は売電し、実質電気代0円に

移動は“凝縮された時間”。ゾーンに入るための唯一の手段

宇南山さんにとって御代田での日常は、徒歩かクルマによる移動がほとんど。野生の山菜やハーブを探しながら近所を歩く一方で、VOLVOの名車『240 Classic 92年式』を所有し、ドライブをこよなく愛している。日本海まで出かけて海釣りに興じたり、仕事のタスクが積み重なると、ハンドルを握って「頭の整理」という名の現実逃避をしたり。鉄道を利用するのは、主に仕事で東京や地方に赴くときだという。

日々の生活の中で時間に追われてバタバタすると、本当にやりたいこと、やらなければいけないことを考える時間が失われてしまう。デザインのこと、会社経営のこと、自分の将来のこと、息子のこと、田んぼや畑のこと、社会情勢のこと。特にクルマで移動する時には、自分の内面と向き合うことが多くなる。移動する手段に合わせてYouTubeやaudible、Podcastなどを利用すれば、新たな知識をインプットすることも可能だ。彼女は移動という行為を「時間的、物理的、また量子力学的にも最も効率よく物事が進められる、唯一の手段」と捉えている。

「移動すると、距離と時間が同時に変化しますよね。その間で起きることは、私の場合、“物事の進み具合が普段とは明らかに違う”という現象です。移動中は集中力が高まるという人は結構いると思います。日常生活と同じはずなのに、何かが違う。例えば家での3時間よりも、新幹線での1時間のほうが仕事量がはるかに多かったり、クルマに乗ると頭の中がクリアになって、考えごとがまとまったり。ある種の“ゾーン”に入り込みやすいんだと思います」

学生時代にデザインを考えるとき、わざわざ山手線に乗って一周しながらアイディアを練っていたという宇南山さん。彼女は昔も今も変わらず、限りある人生を有効に使うべく、「凝縮された時間」を過ごしながら、どこかへと向かっている。

時間割のグラフ

#03宇南山加子

age50

出身地

東京都

現所在地

長野県北佐久郡御代田町

職業/肩書き

デザイナー / クリエイティブディレクター / SyuRo代表 / SAMNICON

SNS/HP

IG:@masukounayama

現在乗っているクルマ

VOLVO 240 1994年式

日々の移動手段を教えてください

クルマ、バイク、徒歩、新幹線、電車

移動時間に何をしていますか?

山菜つみ、瞑想、睡眠、読書、YouTube、audible、学習、音楽鑑賞、デザイン案出し、Newspicksなど

移動時間にどんなことを考えますか?

ありとあらゆることを考えます。アイデアを練ることが一番多いですが、自分の内面に向き合うことも多いです。他には、会社のこと、将来のこと、息子のこと、自己啓発など。

移動する時間は自分にとってどんな時間ですか?

本来の自分に向き合うための大切な時間。仕事が集中できるので、効率的に。あとは移動手段によってはストレス解消など。

あなたにとって移動とは

時間的、物理的、量子力学的にも効率よく事が進められる唯一の時間。移動しながら、勉強できたりなど、ながらができる時間となるので、人生の時間として有効的で、とても大切な時間。

Photo by Keita Noguchi / Text by Numa / Edit by Naonori Kato / Produce by Ryo Muramatsu