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2026.03.04NEW

移動が育む暮らし 長野県・御代田編 | #04 世界一小さなテレビ局のハンドルから by 石川伸一

新カテゴリLOCALでは、ローカルな土地の魅力を「移動」という視点から掘り起こしていく。最初の舞台は、近年移住者が増えている長野県・御代田町。新幹線や在来線、高速道路を使えば首都圏へのアクセスも良く、二拠点で生きる住民も少なくない。この地で暮らす人々の「移動時間」が、どのように日々の実践や思想を育てているのか。

しなの鉄道・御代田駅の改札を抜けると、切符売り場の隣に突然あらわれる小さなテレビ局。御代田町全域にケーブルを張り巡らせ、40年にわたって町を記録し続けてきた自主放送局『西軽井沢ケーブルテレビ』だ。

#04に登場するのは、カメラを担ぎ、軽トラックと愛用のBMWを走らせながら、町の朝焼けから学校行事、道路や風景の変化までを追いかけてきたのが制作責任者の石川伸一さん。彼にとっての移動は、ただの取材の足ではなく、育ててくれた町への恩返しとして"御代田の時間”を記録し続けるための、終わりなき旅のルートそのものだ。

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駅ナカの「世界一小さなテレビ局」が生まれるまで

しなの鉄道の御代田駅は一見すると一般的な駅だが、構内にテレビ局がある。御代田町で起こることを取材撮影し、町中に届ける自主放送局『西軽井沢ケーブルテレビ』だ。改札を抜けると、切符の自動販売機の横に大きなモニターが置かれ、その奥がスタジオになっている。撮影や放送に使う機械が所狭しと並び、壁を埋めるほどの量のビデオテープが保存されている。駅に…!? その異色な景色に圧倒されるが、どこか懐かしさが漂っている。あ、知ってる、この感じ。西軽井沢ケーブルテレビは、北海道出身で、3歳から御代田町に暮らす石川伸一さんが40年前に開局した。

「子どもの頃からガキ大将。ケンカで負けることは嫌いだったね。親から勉強しろって言われたことは一度もない。定期テストなんてできるわけがない。堂々のビリだよ。でもね、何でもやってみればできるという自信があった」

石川さんの興味は、教科書に載っていないこと、誰も知らないことにあった。ありとあらゆることを不思議に思うその強い好奇心をもって、25歳のとき御代田町を離れ、海の向こうへ渡る。行き先はフランス。日本は先進国だという教育を受けて育ったが、留学先でわかったのは日本の遅れだった。フランスでは国境に沿って国の情報が流れるケーブルが張りめぐらされていること、そのケーブルを使って一般の人でも簡単にテレビに出られることを知った。

「当時長野県では、東京で流れたドラマだとかが届くのが1週間後くらいだったかな。ニュースはその日だけど。1週間遅れっていうのはおかしいじゃないかつって。全然違うぞと。それでケーブルテレビを始めちゃった。テレビ局つくるぞって言ったら、みんな逃げちゃったけどね」

帰国後、NTTと中部電力と契約を結び、電柱を借りた。そして御代田町全域にケーブルを張った。町の全世帯で見られる自主放送の始まりだった。

軽トラとオープンカーで走る、毎日17区分の御代田ドキュメンタリー

それから40年間毎日欠かさず、御代田町の全17の区を撮り続けている。

「毎日が未来だからね。今日っていう日のスタートを、誰もが起きる前に見たい。日の出からずっと撮っている。それから、1時間くらいかかるけど、町を全部ぐるっと1周してね。今日はどこがどうなってるとかって、全部映像で記録する」

町中を回ったあとは、その日特別に行われている行事などの撮影へ向かう。御代田町の行事カレンダーや学校、保育園、幼稚園から届く予定表をもとに、もうひとりのスタッフの小泉さんと手分けをして、北へ南へ、カメラを持って走り回る。移動することで、御代田の今が立ち上がる。

石川さんの相棒はマツダの軽トラック。何でも乗せてどこへでも入っていけそうなタフな佇まいをしている。一方、プライベートで乗っているのは、年季の入ったバターイエローのBMWのオープンカー。雨が降ったら乗らない、荷物が多かったら乗らない、ときっぱり言う石川さん。対照的な2台で、愛する御代田町を走っている。

石川さんはテレビ局の仕事をしながら、PTA会長や協定会長なども務めてきた。責任を持って町と関わり続ける姿勢が窺える。なぜ御代田町に根差した仕事や活動をするのか。モチベーションは何なのか。

「この町はわたしを育てたんだよ。物覚えついてから。だって、学校に行って友だちに名字があることを知ったんだよ。何も知らない少年だった。だから、儲け度外視で、みんなのためにテレビ局をやっている。記録係に徹したわけだ。生きとし生けるものすべての。血がつながってなくたって、全部の過程を撮る。昆虫や植物も。木が切られた、整地された、も」

御代田への愛が動力だ。この「町を記録し続ける力」は、大手飲料メーカーや大手通信事業の取締役会長の目に留まり、評価されたのだそう。

町を愛する記録係が見てきた、道と風景の40年

西軽井沢ケーブルテレビが開局してからできた道はいくつもある。駅からすぐそばの「かりん通り」や「浅間サンライン」の愛称で呼ばれる浅間山麓広域農道。御代田町を横断する浅間山麓広域農道は、ドライバーや地元住民に知られた道だったが、今では多くの人に使われている。

「ああいう抜け道をね、ナビに乗せてはいけない。メイン道路だけにしておいてよ。我々の道だったんだから。風景もどんどん変わった。御代田駅前は寂れたし、まず寂れていることを知っている人がいない。町木に指定された木を持ってきて、ど真ん中に置いたから、駅前のイベントができなくなっちゃった。前は踊りもできたし、商店街のイベントもできたのに、それが全部中止」

駅前にある大きなイチイの木も、町を活性化させるために植えられたはずだが、40年間、町を映し続けた石川さんにとっては納得しきれない部分がある。

“ここが世界一小さなテレビ局”を掲げて、今日も石川さんはクルマに乗り、町をめぐる。そのハンドルの先には、この瞬間の御代田町が広がっている。そして向けたカメラの先には、移ろいゆく町の真の姿が映っている。日々の移動は単なる行動ではなく、町の変化を目撃し、過去と未来をつなぐ今を映すための連続した営みだ。御代田の変化とともに、石川さんの移動は止まらない。

時間割のグラフ

#04石川伸一

age

出身地

北海道

現所在地

長野県北佐久郡御代田町

職業/肩書き

西軽井沢ケーブルテレビ 代表取締役

現在乗っているクルマ

BMWクラシック オープンカー / MAZDA 軽トラック

日々の移動手段を教えてください

軽トラとオープンカー

移動時間に何をしていますか?

町の観察

移動時間にどんなことを考えますか?

今日の放送のこと

移動する時間は自分にとってどんな時間ですか?

記録するものを見つける時間

あなたにとって移動とは

町への恩返し

Photo by Keita Noguchi Text & Edit by Naonori Kato Produce by Ryo Muramatsu