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2026.02.16NEW

移動が育む暮らし 長野県・御代田編 | #01 移動もエネルギーも、自然と人の力が第一にあるべき by 磯野謙

新カテゴリLOCAL(実装後にリンク貼る)では、ローカルな土地の魅力を「移動」という視点から掘り起こしていく。最初の舞台は、近年移住者が増えている長野県・御代田町。新幹線や在来線、高速道路を使えば首都圏へのアクセスも良く、二拠点で生きる住民も少なくない。この地で暮らす人々の「移動時間」が、どのように日々の実践や思想を育てているのか。

#01に登場するのは、ここ浅間山の麓で再生可能エネルギーの可能性を探る〈自然電力株式会社〉代表の磯野謙さんだ。自然とテクノロジー、ローカルとグローバル。相反する世界を軽やかに横断しながら、磯村さんは「自立」という言葉の本質を生きている。

「移動が育む暮らし 長野県・御代田編」記事一覧



愛車はセダンタイプの電気自動車であるTESLA モデル3

森の中に暮らし、エネルギーを考える

石油や天然ガスといった化石エネルギーではなく、太陽光、風力、小水力など、自然界に常に存在する、再生可能なエネルギーによって発電事業を行う〈自然電力株式会社〉。代表取締役を務める磯野謙さんは、浅間山の南麓に位置する長野県の御代田町の森に居を構えている。針葉樹に覆われ、かつては別荘が点在していた小さな集落にある家を訪れると外国製の電気自動車が駐車してあった。最先端のテクノロジーと広大な自然がアンバランスなコントラストを醸し出していた。

「僕は“なるべく自動車に乗りたくない”タイプの人間なんです(笑)。自分にとってエネルギーとは、“自然と人の力が第一にあるべき”と思っていて。徒歩や自転車でいろいろな場所にアクセスできる、そんな場所が大好きですし」
 
磯野さんにとっては「30分以内の、もしくは20㎞圏内の移動手段」という位置づけにあるのが、クルマという存在だ。平日の朝、子どもたちを学校に送っていくことがルーティンのひとつ。ふたりの小学生を乗せた車中で磯野さんは、「昨日はどんなことをしたの?」「何か新しい発見はあった?」と会話する。まだ見ぬ世界を旅する高揚感と同じように、目の前で起きる日々の小さな変化を心に刻む。それが彼の子育てのテーマでもあり、自らの人生訓でもあるからだ。

御代田町で生活している時の磯村さんにとっての「移動」とは、新幹線に乗車して東京と行き来すること。車内ではメールの返信など、事務的に作業に集中することが多いという。東京にある自然電力のオフィスにいるときは、そこに飛行機という乗り物が加わる。スマートフォンのアプリでCO2排出量を調べ、可能な限り環境への負荷が少ない移動手段を選択することを心がけるそうだ。つい先日、香川県に向かった磯野さんは鉄道を利用した。飛行機のほうが圧倒的に早いかと思いきや、実はトータルで15分ほどしか変わらないことを見越してのチョイスだ。

大自然にインスピレーションを求めている

自然電力はここ数年、事業を海外に拡大している。特にアメリカ合衆国に行く機会が多い。磯村さんは現地のクライアントたちから大きな刺激を受けた。

「例えばアメリカのビジネスパートナーたちは、自然に囲まれた場所で生活することを好む傾向が強いです。都市を離れ、郊外に森を所有して生活の拠点にしていたり、海のそばでのんびり暮らしたり。利便性を最優先して都市に家を持ち、工場やオフィスに勤めるよりも、大自然にインスピレーションを求め、ビジネスを進める上での大局観を養うんです。僕は積極的に自然を心から楽しめる人を積極的に採用しますし、野沢温泉、葉山、霧島(鹿児島県)といった土地で田舎暮らしを選択する社員が少なくない。会社としての自由なカルチャーが、世界の市場で支配的な影響力を持つ巨大企業のスタンスとフィットしているんですよ。彼らはパートナーを選ぶ際に、企業としての機能だけでなく、そこで働く人々のライフスタイルや価値観を見る。だって、僕が都心のタワーマンションに住んで再生可能エネルギーについて語っても、何の説得力もないじゃないですか(笑)」

エネルギー企業と聞くと、地域に電力やガスを供給する会社をイメージしがちだ。自然電力も国内のいくつかの市町村と協働して再生可能エネルギーを供給してきた。一方で近年、世界をリードするテクノロジー企業とパートナーシップを結び、彼らが日本国内での活動に伴う電力供給に取り組んでいる背景には、AIや半導体など最先端技術の急速な広がりがある。彼らが目指すのは、“デジタルインフラのためのエネルギー会社”。スマートフォンの世界的な普及により、電力と資源の消費が加速度的に増加している昨今。テクノロジーを活用するということは、地球のリソースを大量に消費することを意味する。いま世界では「今後人類がAIを利用するためのエネルギーを、どのように確保するのか?」という難題に直面している。同時に、単に資源を確保すればいいというわけでなく、地域に対してどのような貢献をするのかを明らかにしなければならない。そもそもGAFAと呼ばれるような巨大IT企業は、一社のみで何基もの原子力発電所を必要とする規模のエネルギーを必要としている。


建設中の「森の家」に隣接する敷地内には、趣味のマウンテンバイクのコースともなる山道も。

ローカルサプライチェーンという自立のカタチ

自然電力がパートナーシップを結ぶ市町村のひとつに、長野県の小布施町がある。地域の自立を大切にして、エネルギーの自給にも取り組む先進的な町だ。磯野さんは小布施町と関わる中で、まちづくりを主導した前町長と老舗和菓子店の小布施堂の代表、ふたりの市村氏に大きな影響を受けた。

「“住民一人ひとりの生き方の集合体が町としての文化になる。だからこそ何となく生きるより、何かにこだわって生きるべきだ”と。僕はといえば“依存しすぎない社会”にこだわりたかった。再生可能エネルギーをつくり出す仕事をしているのも、それが理由。“自らの足で立つ”ための手段ですから」

磯野さんの案内で、建設の進む「森の家」を見せてもらった。森の風景と見事に調和するログハウスは、周辺の木々を伐採してつくられた。木材を自給すれば、自ずと工事費は低く抑えられる。仮に外部から資材を供給していれば、昨今の建設資材費の高騰の影響をもろに受けたはずだ。磯村さんは森の家をつくる過程で、ひとつの確信を得た。世界がゴタゴタしていつ何が起きても不思議ではない状況下では、ある程度のものを自分たちの手で賄える生活を築く必要がある。グローバルサプライチェーンへの依存から抜け出して、ローカルサプライチェーンを構築する。電力を自給する設備を整え、自らつくり出したエネルギーで暮らしを成り立たせ、そしてクルマを走らせる。それが「自立」ということなのだ、と。

時間割のグラフ

#01磯野 謙

age43

出身地

東京都

現所在地

長野県 北佐久郡御代田町

職業/肩書き

自然電力株式会社 代表取締役

SNS/HP

HP:shizenenergy.net

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主に新幹線、電車、飛行機。町内はなど子どもたちの送迎や最寄駅までの移動はクルマ。

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移動時間にどんなことを考えますか?

移動時間は、仕事に集中する時間

移動する時間は自分にとってどんな時間ですか?

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Photo by Keita Noguchi / Text by Numa / Edit by Naonori Kato / Produce by Ryo Muramatsu