001 life

“旅する家”という名のクルマで、アウトドアをもっと自由に!

武村信宏(CLAMP)

2020年、アウトドア好きにとって注目のフィールドが長野県の南信に広がる伊那谷である。南北を天竜川に貫かれ東西を南アルプスと中央アルプスに囲まれた広大な盆地は、里山にあり、渓流あり、トレイルにキャンプ場と外遊びには事欠かない。東西に10km、南北50kmに渡って広がるフィールドの多様性をアピールすべく、アウトドアタウンのハブとして再編集されているのが伊那市周辺だ。このエリアを代表するアウトドアマン、自転車&アウトドアショップ『CLAMP』店長の武村信宏さんがナビゲートする伊那谷トリップへ!

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アウトドアマン注目の、伊那谷って?

長野県といえば一大アウトドアエリア。山岳フィールドとして名を馳せる長野県で近年、最注目されているのが伊那谷と木曽谷を擁する南信州である。アウトドア一大観光地である松本や白馬を擁する北信に比べると地に足のついた雰囲気も好ましく、最近では移住やデュアルライフといった、新しい生活スタイルを志す人にも支持されているエリアだ。その南信・伊那谷を代表するアウトドアの達人が、伊那市の自転車&アウトドアショップ『CLAMP』店長の武村信宏さん。グリーンシーズンはマウンテンバイク(MTB)やトレイルランニングでトレイルを疾走し、雪が降れば近場の土手で雪板を、新雪があればバックカントリースキーへと、季節を問わず戸外を駆け回っている。そんな武村さんのアウトドアライフをご紹介しよう。

「よく『スポーツでストレス解消』なんて言いますが、僕はフィールドに出られないとイライラが募るタイプ。だから遊び場が近い伊那谷は自分にフィットしているんです。朝イチで山に出かけひと遊びしてもオープンに間に合うよう、戻ってこられますから」

岡山出身の武村さん、もともとのベースはバックカントリースキーのガイドだという。大阪の自転車店勤務を経てアウトドアガイドに転身、紆余曲折を経て伊那に移り住んだのが9年前のこと。“夏のバックカントリー”ことMTBのトレイルライドにどっぷりハマりつつ『CLAMP』をスタート、現在に至る。

軽キャンパーで行く、バイクパッキング旅

バイクにバックカントリースキー、テンカラ、トレラン。無類のアウトドア好きである武村さんの遊び道具に、最近加わったのがこの軽キャンパー。軽バンや軽トラックをベースにした、いわゆる軽キャンパーは、コンパクトで機動力もあり運転もしやすいということで人気を集めているカテゴリーだ。とはいえ、“手軽”、“コンパクト”だけを追求するのはあまりにも夢がない。というわけで、軽キャンパーを昇華してキャンピングカーならではの非日常感をも融合させてしまったのがこちら。その名も『トラベルハウス』という。古材を貼り合わせた車内は、まるで山小屋のような風合いに仕上げてある。

「アウトドアの道具を乗せてフィールドに出かけるのが主目的なので、軽量で小回りが効くことは必須条件。中はワンルームで、昼間はテーブルと椅子をセットしてダイニングに、夜はテーブルを片付けて寝室に。2段ベッドになるので2人で寝ても十分な広さを確保できます。オートキャンプではなくアウトドアアクティビティを主役にした旅を楽しむための道具なので、遊びのツールと自分がすっぽり収まるこのサイズがむしろ快適」

今回は武村さんの『トラベルハウス』を使ったトレイル・ライドに同行させてもらった。まず、クルマに載せたのはメインの遊び道具であるMTB。『CLAMP』の塗装部門がカスタムペイントした、サーリーの「ローサイド」だ。日本が世界に誇るガレージメーカー、パーゴワークスの名作焚き火台、『ニンジャ ファイアスタンド』と、お気に入りのコーヒーセット、クッカー一式も忘れずに携行する。豆は『CLAMP』オリジナルブレンドで、食事は近隣の創作ビストロ『FLATT.』と共同開発している「真空ごはん」の試作品。今日のメニューは鶏手羽元のコンフィと野菜のリゾットである。行き先によってはさらにテンカラやトレランシューズも加えるとか。もはやアウトドアの王者の風格!

トレイルで考える、里山の未来

目指す里山エリアに到着すると『トラベルハウス』からMTBを取り出し、武村さんのお気に入りのトレイルへ向かう。なんでも、武村さん自身が山主に掛け合って許可をもらい、仲間とともに整備のサポートも行なっているフィールドなのだとか。

「アウトドアで遊ばせてもらっている以上、里山の維持・管理は自分たちで行わなくてはという責任を感じています。自然環境を守り、地域社会に貢献し、僕たちが末長く遊ぶためでもある」
アウトドアの遊びは自由である。だが、自由には常に責任が伴う。自分の技量負うべきリスクはもちろん、自然環境や地域社会への配慮。そうしたものに常に気を配らなくてはいけないことを、武村さんをはじめアウトドア好きはみな痛感している。

これまでは店で希望者を募り、『整備ライド』という名目で山に入って手入れを行なっていたが、エリアが広がるにつれそれだけでは立ち行かなくなった。里山の整備を継続的に行うため地元民が立ち上げた任意団体『フォレストトレイルス』に参加するほか、昨年はこうした整備費用をまかなうために『CMM(CLAMP Mountain Marathon)』というイベントをスタートさせている。

「これは『OMM』トリビュートのアウトドアイベントで、収益をトレイル整備に当てています。自分たちの手で遊び場を作り、山を手入れするという仕組みをたくさんの人に広めていきたいと思っています」

実は、武村さんがそうしたアクションを起こすきっかけとなったのが、今日走ったこのトレイルだ。もともとここは荒廃した登山道だった。いいトレイルなのに誰も使わないのはもったいない。そこで地区の住民に自転車で走る許可をもらい、草を刈って倒木を片付け、店の顧客や地元住民をMTBで案内するようになった。これが、地元にMTBというアクティビティを認知してもらう入り口になったという。

そんなエピソードに耳を傾けつつバイクで走った後は、お待ちかね、焚き火を囲んでの野外ランチだ。ランチの合間のトピックは、自転車のこと、旅のこと、最近のアウトドア事情、そして伊那谷の遊び方のこと……話題は尽きない。

『トラベルハウス』、気になる使い勝手はいかに

さて、肝心の『トラベルハウス』の使い勝手も聞かなくては。
「ダイハツの軽トラ(『ハイゼットトラックジャンボ』)にアルミ素材のハウスを載せただけのシンプルな造り。ベースのクルマがダメになってもハコだけを載せ替えることができるから、いわゆるキャンピングカーに比べて気持ちとしても金銭的にも気楽です。これには設置していないですが、オプションでソーラーパネルもつけられるとか。とすれば、非常時には簡易住宅としても活躍しそう。もはや別宅ですよね(笑)」

このご時世、アメリカンスタイルの大型キャンピングカーはもはや過去のものなのかもしれない。道具も遊びも、自らのライフスタイルと身の丈にあったものをチョイスする時代である。背伸びせず、肩肘張らず、快適かつスマートにアウトドアのフィールドを堪能できるよう、必要なものだけをぎゅっと収めた『トラベルハウス』は、武村さんのいまのライフスタイルにぴったりフィットする。現在はこの『トラベルハウス』に乗って長野周辺のイベントに顔を出し、軽キャンパーの魅力を広めるとともに、これに乗って新しい旅のスタイルを模索しようという仲間を募っているところだ。

今後はバイクパッキングだけでなく釣りやスキー、トレランを目的とした、“アウトドア×旅”の新しいスタイルを模索したい、と武村さん。伊那谷の山道を駆ける『トラベルハウス』には、アウトドアマンの夢が詰まっているのである。

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※この撮影は2019年10月に実施され、一部加筆修正した記事になります。なお、5月11日現在、全国の緊急事態宣言を受けまして、長野県では「外出自粛の要請」、「県域をまたいだ移動自粛の要請」を中心とした措置を実施しています。まん延を食い止めるため、該当期間中は、読者の皆様のご協力をよろしくお願い申し上げます。

事態が収束し、自由に移動できるようになったときには、旅先の候補として「伊那谷」を検討いただければ、編集部としては何よりです。

武村信宏
岡山県出身。ダイバーを目指して進学した大阪のスポーツ専門学校でスキーに出会い、 アウトドア・ガイドの道へ。スキー、カヤックのなどガイドをしながら全国を転々とした後、2011年長野県伊那市に、『CLAMP』をオープン。“自転車屋らしくない自転車屋”をコンセプトに、ニッチなアウトドアギアやアパレルを揃える審美眼で広く支持されている。個人的にはスキー、バイクのほかテンカラ、トレランにも熱心に取り組んでおり、伊那谷をアウトドアアクティビティの聖地として広めるべく、多方面で活躍中。
@clamp_take
CLAMP HP

Photo by 55inc Text by Ryoko Kuraishi