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2022.04.13

#03 クリエイターと職人が手がけるカークラフト
by HIGHWAY(オカタオカ×清水隆司〈Judd.〉)

アートやクリエイティビティが社会にもたらす恩恵のひとつは、日常を捉え直すハッとした視点を僕らに与えてくれることだ。移動の未来を想像するとき、この時代を生きるクリエイターの作品や創作活動を紐解くことで、見えてくる何かがあるはずだ。

地元の鹿児島県で、デザイン会社代表を務める「Judd.」の清水隆司さん。そして、宮崎県で生まれ、鹿児島で育ったイラストレーターのオカタオカさん。ともに南九州出身で、大のクルマ好きという共通点を持つふたりが立ち上げたのが、カーアクセサリーブランド〈HIGHWAY〉。

旧車を愛する自分たちが使いたいと思える商品を生み出すふたりのコラボレーションのきっかけから、クリエイターと職人が共同制作して生まれるカークラフトのこと、これからの展望について聞いてみた。

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地方発のフリーペーパー『Judd.』の誕生と、岡本仁さんの『みんなの鹿児島案内』

――〈HIGHWAY〉は、鹿児島発というのも魅力のひとつですが、そもそもおふたりとも地方に拠点を持つようになったのかいつからですか?

清水:僕が鹿児島に戻ったのは28歳で、その時には結婚をして長女も生まれていて、仕事にもある程度の自信がついていた。それで衝動的に戻った感じでした。鹿児島にも仕事がバンバンあると思ってたんですけど、全然なくて(笑)。それで時間もあったので、ドライブして温泉に行き、魚釣りをして、若い頃にはわからなかった鹿児島の楽しさを感じ始めたんですよね。そういった県外の友達にも伝えたいことを自分の中にストックして、2009年にフリーペーパー『Judd.』の第1号を出しました。

――記憶を辿ると『Judd.』はローカルフリーペーパーの先駆けでしたよね。「地方発の面白い本がある」って都内でも話題にする人はいました。現在はランドスケーププロダクツで、元relaxの名物編集長である岡本仁さんもそのひとりだった。

清水:嬉しいことに『Judd.』をきっかけに、岡本さんの『ぼくの鹿児島案内』から『みんなの鹿児島案内』までつながったという流れはありますね。

『ぼくの鹿児島案内』『続・ぼくの鹿児島案内』の著者・編者である岡本仁が、シリーズ第3弾として発刊したユニークなガイドブック。デザインをJudd.が担当した。

オカ:僕は2009年に上京して、2017年くらいから東京と、実家のある南九州の2拠点を始めました。岡本さんの書籍『鹿児島案内』シリーズに載っているお店を、これでもかっていうくらい楽しみましたね。実家が宮崎と鹿児島の県境の町なので、生活圏はほとんど宮崎なんです。なのでそれまで鹿児島市のことはあまり知らなかった。あの書籍は鹿児島の切り取られ方が新鮮で、初めてみる感覚に近いなと思ったのを覚えています。

――おふたりの関係の始まりは?

清水:オカくんには鹿児島市環境課と「#クールチョイス鹿児島2019」という環境問題のメディアを作る際に、初めてお仕事をお願いしました。それまでもオカくんのイラストは知っていたんですけど、そのタイミングで鹿児島出身だと知って、それなら是非ということで。

オカ:確か、清水さんからインスタのDMで「鹿児島出身ですか?」って届いて。それからやり取りが始まりましたよね。

どうしてイケてるカー用品がないのか。
日本の平均は、キムタクのドリームキャッチャー。

――“Driving With Craft”をテーマにカー用品を再解釈する〈HIGHWAY〉を始めた経緯は?

オカ:僕は、もともとクルマ好きなんですけど、東京にいると電車でどこにも行けるし、クルマの必要性をあまり感じていなかったんです。でも、コロナ禍になってから犬を迎えることになって、クルマが生活に入ってきた。でもその時に、大手のカー用品店に行ってみたんですけど、全然ほしいものがない(笑)。考えてみたら、父親やおじの影響でクルマは昔から好きでしたけど、“側”ばかり気にしてたんですよね。

〈HIGHWAY〉のカークラフトの第1弾“WOODEN AIR FRESHENER (Amulet) 。このエアフレッシュナーは、天然素材を使用しており、木彫はTaku Akihiro(Akihiro Wood Works)、紐の染色は奄美大島の金井工芸、レザーパーツはRHYTHMOSが製作。現在は、予約販売商品。

オカ:大人になって、カーアクセサリーに目が向き、実際に探してみたら、そういう状況にぶち当たったんです。最初はひとりでクルマ用のステッカーを作っていましたが、清水さんに「一緒にステッカーを作りませんか」と誘ったら、「せっかくならいろいろ作りましょう」と言ってくれて。鹿児島には作家もたくさんいるし、彼らにお願いして、アパレルやプロダクトも作ってみようと盛り上がって〈HIGHWAY〉が生まれた感じですね。

清水:僕は今、44歳なんですけど、この世代にとってカーアクセサリーって、キムタクが流行らせたドリームキャッチャーをつけてればどうにかなるって感じだったんですよ(笑)。高速のサービスエリアに停まっているクルマを見ても、友達になれそうな人があまりいないというか。メーカーもそういう人たちめがけてカー用品を作っているという現実がある。かたや地方のタクシーに乗ると、運転手さんが自分で作った一輪挿しを飾っているのを見て、かわいいと思うわけです。そうした自分のクルマに置きたいものを〈HIGHWAY〉では作れたらいいなと思っています。

“Driving With Craft”をテーマに大量生産が当たり前のカー用品を再解釈し、木工/陶芸/染色などのアプローチで“カークラフト”を制作〈HIGHWAY〉。それらを通して、より豊かでサステナブルなカーライフを提案する。

オカ:鹿児島はかなり灰が降るので、灰の道=HIGHWAYと名付けました。昨年末にローンチさせた、「灰車」という桜島の灰を釉薬に使ったアイテムも、鹿児島の郷土玩具“鯛車”のもじり。おそらく、桜島とか灰とかピンとこない方も多いと思うんですけど、かわいければ買ってもらえると思うので、そうしたアイテムを通じて鹿児島を広めていけたらいいですね。

〈BEAMS JAPAN〉と鹿児島県特産品協会が連携した「YOKAYOKA KAGOSHIMA −ビームス ジャパンが見た鹿児島−」にて販売された「灰車」。本体部分を〈ONE KILN〉が桜島の灰を釉薬(陶磁器の表面に付着したガラス層)に焼き上げ、薩摩藩主島津家家紋を模した銘菓・伊集院饅頭のような木製の車輪は〈小石製作所〉が手がけた限定作品。

BEAMS JAPANと始めたモノ作り
職人とカークラフト

清水:「灰車」は、鹿児島県が〈BEAMS JAPAN〉と始めたモノ作りの一環です。カークラフトの第1弾としてリリースした「WOODEN AIR FRESHENER」も、鹿児島県にて、親子3人で手作りの木工作品を手掛ける『Akihiro Wood Works』の秋廣琢くんにお願いしたんですけど、作家たちも毎日クルマに乗っていて、実際に使ってみていろいろ改良してくれているので、デザインは基本的にお任せですね。

――そもそも、おふたりはどんなクルマが好きなんですか?

清水:ちょうど昨日、オカくんとBMWのちょっとぼてっとしたクルマについて話をしたところでした。

オカ:あれはカッコよかったですね。僕は欧州車、ハッチバックなどのコンパクトカーとかが好きです。

清水:僕も古いクルマが好きですね。電気自動車にも興味があるんですけど、新しく1台を作ることで地球がどれだけカロリーを使わなければいけないのか考えたら、すでにあるクルマを乗ればいいのかもしれない、と。

オカ:僕も環境問題に関心はありつつ、古いクルマ好きということで、なかなかバランスが取りにくいですけど。

――南九州のクラフトフェア「ash Design & Craft Fair」には、〈HIGHWAY〉名義で参加したんですよね。

オカ:スバルの軽トラにプロダクトをのせて、南九州の各地を巡って移動販売しました。

清水:そのクルマは、宮崎在住の後藤修さんというグラフィックデザイナーが始めた「ピクニートカープロジェクト」という、まだお店を構えるのは難しい人にキッチンカーを貸し出すことで、宮崎で夢を形にする手助けをするプロジェクトで作られたんです。そうした成り立ちもいいですよね。
 


 

――最後に、今後について聞かせてください。

オカ:経年変化を楽しめるドリンクホルダーとか、自分が好きな古いクルマにも置きたくなるプロダクトを増やしていきたいですね。

清水〈HIGHWAY〉名義でWebメディアも立ち上げて、鹿児島に住んでいる人のお気に入りのドライブコースを紹介する方向にも広げられたらと思っています。

〈HIGHWAY〉のカークラフトの第2弾「CAR FLOWER VASE」。現在は、予約販売中で4月中〜2022年5月中旬発送予定。

オカ:鹿児島は、魚釣りして、ポイントの近くの道の駅で野菜をディグして、温泉に寄って帰るのが、週末の遊びなんですよ。だから、クルマには釣り道具と温泉セットが積まれているんです。釣る魚や行く温泉によってルートも変わるし、人によってお気に入りがあるはず。

清水:周りには面白いクルマに乗っている人も多くて、クルマと釣りの話になったら朝まで続く土地柄なんです(笑)。

清水隆司
1977年、鹿児島県鹿児島市生まれ。鹿児島のデザインオフィス〈Judd.〉代表。鹿児島のフリーペーパー『Judd.』や季刊誌『しょうぶ』、『みんなの鹿児島案内』(岡本仁/グッドネイバーズ・カレッジ)などの刊行物のほか、焼酎ラベルのデザインなどを手掛ける。
HP:https://www.judd.jp
Instagram:@judd_design

オカタオカ
宮崎と鹿児島の県境で育つ。桑沢デザイン研究所卒業。雑誌や書籍、アパレル、広告などにイラストレーションを提供する傍ら精力的に個展を開催。犬とクルマが好き。
Instagram:@okataoka

photo by Hiroki Isohata text by Sakiko Koizumi Interview by Ryo Muramatsu