column

2022.07.06

#04 クルマが直面する時代背景をうたう詩と、世界にひとつだけの似車絵
by ウチダ ゴウ/ナカムラルイ

TOP画左:ナカムラさん/右:ウチダさん

詩の活動を核に、コピーライティングや広告デザインも手掛けるウチダゴウさん。2018年には、長野県安曇野市に自宅兼アトリエにギャラリーも併設しキュレーターとしての顔も持つように。ナカムラルイさんは、7年のサラリーマン時代を経て、2020年からイラストレーターの活動をスタートさせる。その頃、たまたま足を運んだウチダさんのギャラリーで、ふたりは出会った。

そして、始めたのがその名も『くるまさいこう』というイベント。「くるまがほしい/くるまにのりたい」という、クルマ愛に溢れた一行から始まるウチダさんの詩が印刷されたカードに、ナカムラさんが訪れた人の愛車をイラストで描くもの。しかも、オンライン参加も可!

好評を博したこのイベントが、今年も行われると聞きつけ、話を伺った。

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旧車も電気自動車も、クルマ好きすべてを肯定する詩からはじまった

――’21年に行われた1回目の『くるまさいこう』が立ち上がるまでの流れは?

ナカムラ:僕がイラストを始めたばかりの時期に、ゴウさんのギャラリーに行ったのが出会いでした。たまたま空いている時間で、結構話せたんです。

ウチダ:第一印象のルイくんは、一見怖そうだったけど(笑)、気づいたら1時間以上話してたよね。その時はまだ、ルイくんのイラストを見てなかったんだけど、理屈抜きで何かしようという想いが溢れてて。かかってくる感じっていうのかな。見切り発車的な人が僕は大好きなんで、機会があったら何か一緒にやりたいなと思ったんです。

ナカムラ:それが2020年8月。その年の11月に僕が松本の雑貨屋でやった個展にゴウさんが来てくれたんですよ。それから数か月、全然連絡を取ってなかったのに、急に「いい詩ができました。何か一緒にやりましょう」って、詩がメールで送られてきて

2020年、コロナ禍で生まれた詩『くるまさいこう』
 

ウチダ:それが『くるまさいこう』。僕の世代は、高校生くらいから環境問題を意識しはじめてクルマに乗らなくなる人と大好きな人が分かれた世代で、僕は、クルマが好きだから、その気持ちだけで詩を書いてメールマガジンに載せたら好評だったんです。もっと多くの人にこの詩に触れてもらえる機会を作ろうと思って、そのための入り口として、自分の愛車を似顔絵のように描いてもらったら嬉しいだろうなと思ったんですよね。それも、精巧なタイプのイラストではなく、ふわっとしたタッチがいい。「誰にお願いしようかな…、ルイくんがいるじゃん!」って感じで相談したんです(笑)。

ナカムラ:ゴウさんと何かできたら幸せだなってずっと思ってたから、メールが届いてめちゃくちゃあがったんですよ。「キターッ!やります、やります」みたいな(笑)。僕は、詩の読み進め方はあまりわからないけど、『くるまさいこう』にかんしては、素直に入ってきたんですよね。もう、ただただよかったです。

ウチダ: 『くるまさいこう』としか言ってないからね(笑)。実は、いちど「エンジン音がいい、電気自動車は嫌だ」みたいなことを書いたんだけど、今、必要なのは、旧車もこれからのクルマもすべてを否定しない詩なんじゃないかって思い直したんです。普段は旧車が好きで乗ってるけど、新車にはBluetoothがあっていいなとか、あるじゃないですか。旧車も新車も、実際にハンドル握って走らせてみると、意外といいじゃんっていう感覚や感情に蓋をしたままだと前に進めないと思って、クルマの良し悪しではなく、クルマを好く人の気持ちをすべて肯定する詩にしました。

 

――ナカムラさんは、イベントで“似顔絵”ならぬ“似車絵”を描いたわけですが、いかがでしたか?

ナカムラ

事前に写真を送ってもらい描いて送るオンラインの方法もあったんですけど、実際にギャラリーに来たクルマを描く場合は、その場で僕が写真を撮ってイラストにしていったんです。そうすると「ここのディテールが面白いですね」とか、クルマの持ち主といろいろ話すんですよ。似顔絵では「あなたの鼻はこうですね」とは絶対に言わないけど、クルマだとああだこうだいろいろ話すんで、いろんな気づきがありました。

ウチダ:家族に不評ですぐに乗り換えたんだけど、お父さんはすごく気に入ってたクルマなので、感謝の気持ちと一緒にお父さんに、そのクルマが描かれたカードをプレゼントしたいという人もいたよね。

ナカムラ:「貼ってるステッカーが気に入ってるから描いてください」とか、それぞれの思い入れが知れましたね。イラストは、すべて1発で描いているんですけど、目の前で世界で1枚だけの絵が出来上がっていくエンタメ性みたいなものも、面白がってもらえたように感じました。

クルマという共通言語で交流できるイベントが生まれた

――イベントの雰囲気はどうでしたか?

ウチダ:乗っているクルマが違うとライフスタイルも違うじゃないですか。いろんなライフスタイルの人がたまたま会場に居合わせて、交流するという、まさに思い描いていた光景でした。

ナカムラ日常で使っている軽自動車で来た人もいたし、スポーツカーの人もいて。乗っているクルマは違うのに、クルマという共通言語でお客さん同士が話してて、すごくいい光景だなって僕も思いました。

ウチダ:ルイくんのイラストをお客さん同士が見せ合うほのぼのした空気のところに、気合が入った旧車がきて「お~~~‼」って歓声があがったりして、楽しかった。詩人やイラストレーターと、同じ話題で盛り上がる日がくるとは思ってもいなかったお客さんもいただろうし。詩人やイラストレーターって、違う世界の人って思われがちだけど、イベントに来て、直接話して、詩が印刷されたカードにゆるいイラストを描いてもうという体験が揃ったことで、「人との間にボーダーはないんだ」って、思いがけず体感できたイベントになったんじゃないかな。

ナカムラ:敷居は高くないイベントだけど、活版印刷で詩をプリントするとか、インスタの告知も朗読にするとか、ゴウさんのこだわりやセンスがあるから、安っぽい企画にならず、ひとりひとりに伝わったんだと思います。

ウチダただ詩が書ける、イラストが描けるというだけでは、人の気持ちは動かせないと思っていて。どういうふうに実現するかビジョンがあって、さらにオリジナリティやクリエイティビティが必要になってくるじゃないかな。

コロナが始まって3年目 動き出す時がきている

――ウチダさんは、今年のイベントに向けて、新たな詩を書いたんですよね。

ウチダ:『くるまさいこう』というイベントのシンボルになる詩はもうあるので、今年は、普段僕が書いている詩に寄せたものにしました。2020年からコロナ禍が始まりましたけど、今は当時と比べれば、だいぶ移動しやすくなってきたじゃないですか。厳しい言い方かもしれないけど、コロナを言い訳にしてやらなかったこと、挑まなかったことを、そろそろやるべき時期が来たんじゃないかと。それをそのまま言っちゃうとツラいし、啓発本になってしまうので、詩というちょっとセンチメンタルな文学として伝えることで、何かしらのアクションを起こそうとしている人の背中を押せるような詩になったらいいですね。

2022年に書き上げた『くるまさいこう ろーどとりっぷ編』
 

ナカムラ:今年の詩は情景がすごく浮かびました。去年の詩とのギャップがよかったです。

ウチダ:詩を自己表現だと思っている人がすごく多くて、もちろんそういう詩もあるんだけど、本来的にはもっと普遍性があるのが詩。僕にとっての詩は、僕と社会、僕と時代とのコミュニケーションなんだよね。コロナという時代に、留まったまま動けなくなって人たちが、動き始めるきっかけになるような詩を書きたいと思った。

――世の中も動き始めつつある今、おふたりはこれからどう動こうと考えていますか?

ナカムラ:僕は、長野県上田市から長野市に引っ越して、『POOL SIDE』という小さいお店を作りました。週末だけなんですけど、そこでいろんな人に会っていきたいですね。やっぱり、インスタで「こんな仕事やりました」っていうだけだと、限界を感じるんです。実際に、僕の手垢がついたイラストを見てほしくて、8月にゴウさんのギャラリーで個展を開きます。イラストって、デザインに近いところがあって、何かを伝えるツールとして描かれることが多いんですけど、今年は描きたいモノを描いて発表するということをやっていきたいです。

ウチダ:「『くるまさいこう』の期間中に飾っていいですか?」って聞かれたんだけど、これだけ気概を持って絵を描こうというのに、それじゃあもったいないと思って、ルイくんに個展を提案したんです。僕は、最近、朗読に力を入れていて、まずは200~300人くらいのキャパに広げたいですね。ゆくゆくはアリーナツアーに出て、最終的にはドーム。さすがに僕ひとりでは難しいので、いろんな人に協力を仰いでいるところです。こういうことって決まってから話すものですけど、僕はすぐ言っちゃうんで、来月聞かれたら、全然違うことを言ってるかもしれないけど(笑)。

 

—–告知—–
くるまさいこう / 2022 ろーどとりっぷ編
会場開催:2022年7月9日(土)・10日(日)10:00〜18:00
会場:SHITEKI NA SHIGOTO Gallery 長野県安曇野市穂高有明2186-96

URL:shitekinashigoto.com/gallery

オンラインオーダー受付期間:2022年7月1日(金)〜31日(日)
shitekinashigoto.stores.jp

ウチダ ゴウ (詩人・グラフィックデザイナー)
1983年生まれ。立教大学法学部卒。詩とデザインのアトリエ〈してきなしごと〉代表。詩人としての活動は、執筆・出版だけでなく、商品コンセプトや企業理念の詩執筆、店舗ディスプレイとしての詩のハンドライティングなど多岐に渡る。グラフィックデザイナーとして、ブランディングを兼ね備えたディレクション・グラフィックデザインを手がける。全国各地で個展・朗読会を開催、出演。近年は英国・スコットランドを度々訪ね、現地での執筆・朗読・個展活動を行っている。またギャラリーを運営し、さまざまなアーティストや作家の作品紹介にも力を入れている。詩集に『空き地の勝手』『原野の返事』(してきなしごと)、『鬼は逃げる』(三輪舎)などがある。雑誌『nice things.』にて連載中。
HP:shitekinashigoto.com
Instagram:@shitekinashigoto

ナカムラルイ (イラストレーター)
1995年長野県生まれ。7年のサラリーマン期を経て、2020年から長野県を中心にイラストレーターとして活動。2021年10月より友人とイラストをプリントした服と、雑貨を取り扱うネットショップ『POOLSIDE』を始動。2022年6月、長野市に『POOLSIDE』の実店舗をオープン。クライアントワークをはじめ、2022年からは絵の展示も行う (2022年3月末に合同展示、8月にしてきなしごとで展示)。イラストを基点とし、パッケージや挿絵、グッズ、ロゴなどを手がけている。
Instagram:@ruinakamura_1995