column

2023.04.07

#01 「クラブ員で営む」ローカルのスキー場
by 藤田一茂

パンデミックを経て、僕らのトラベローグ(旅行談)は饒舌になるのではないかー なぜなら旅することがより特別なものになったからだ。そう思った時、「最近の旅について自由に書いてほしい」と何人かにメッセージを送ってみた。返答がきたひとりが、プロスノーボーダーにしてフォトグラファー、映像作家、ライターでもある藤田一茂。長野県の白馬に暮らし、スノーとサーフをシーズンや天候によって行き来する人だ。

2022年夏、数年ぶりに訪れたニュージーランドの旅を綴る。

藤田一茂が綴るニュージーランド旅行記 | 「DISTANT NEIGHBORHOOD」記事一覧

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アフターコロナ。国境が開いた

「この夏は絶対にニュージーランドへ行くぞ」そう誓ったのは2022年春の出来事。パンデミック前までの3年間、欠かさず通っていたニュージーランドへの思い入れはとても高く、日本にはない手付かずの自然や文化は僕の絶好のリフレッシュタイム。「(2022年の)6月にはNZの国境が開くぞ」とニュージーランドの友達からのメッセージ、「日本はいつ開くんだよ」そんな世界の違和感を感じられるのもこの時代ならではなのかも知れない。

お盆真っ只中の高速道路を掻き分け、右手にはスノーボードとスケートボード、左手にはコロナ渦で夢中になり初めて作ったオーダーシェイプのサーフボード。大きなバックを抱えて空港に乗り込むと「二刀流ですか?」と空港のお兄さんも嬉しい反応をくれた。そう、南半球のニュージーランドは8月、真冬の季節。僕にとってはパラダイスだ。旅の目的はインプット。いつもはゲストを連れたスノーボードツアーや映像などの作品づくりをしているが、今回はこれといった仕事をしに行く訳ではなかった。たぶん、このnoru journalの機会がなければあまり語る事もしなかっただろう。綺麗な景色を見たい。スノーボードをしたい。異文化に触れたい。サーフィンをしたい。旅に出たい理由はいくらでもある。

泊まる場所は最初の1週間だけ決めて、あとは天気に身を委ねて動くプラン。「自然のリズムに乗る」なんてテーマを掲げている僕の旅はいつも、お天道様に委ねられている。約5週間のレンタカー生活は長い直線の道路と真っ白な山、いつもの見慣れた景色が迎えてくれた。

クラブ員の職能が運営にいかされる

僕がこの地を好きになったのはクラブフィールドというスキー場の存在が大きい。ニュージーランドにはリゾートとクラブという異なった2つのスキー場の形態があり、前者は日本にもよくある営利目的のスキー場、後者はクラブ員の会費やボランティアで運営されている。日本でもNPOが運営するスキー場や市町村で運営されるスキー場、非営利の団体が運営する場所やコミュニティと考えるとイメージがしやすいかも知れない。

ファーマーや大工、弁護士や会社の経営者、様々な職種の人が集まるクラブでは、それぞれの得意を出し合い、そのフィールドへ貢献する。あるオーストラリア人はムール貝の養殖場を経営していて「このロープトゥのロープは養殖で使っているロープを寄付したんだ」と話してくれた。だからといってそれを多くの人が知っている訳でなく、お金や道具を提供しても権限を持つわけではないようだ。人々の持つ所属意識、このフィールドを守りたい、良くしたいという愛によって守られるフィールド。2017年にこの場所に取材で訪れた僕はすぐさまその虜になった。

凍った湖でのアイススケートがはじまり

クラブフィールドの元々の生い立ちはコミュニケーションを取るということに由来する。土地に対して人口が少ないニュージーランドでは酪農や農業が盛んで、特に農村部では家と家の距離も遠く冬の間の繋がりが希薄になっていたようだ。その中で交流を求め、凍った湖でアイススケートを始めたことがこのクラブの一つの始まり。それが徐々にスキーを通じてコミュニティが大きくなり、雪山に山小屋を建てたり、ロープトゥをかけたり、より充実したものになってきた。

遠い国の住民からの“おかえり”

山の中腹にある山小屋には泊まる場所やバーもあり、時には外でカーリングを楽しんだり、とても自由。滑るというのが目的でもあるが、雪が降れば滑り、雪がなくても山に来て会話を楽しむ。僕の友人は本当に誰にでも「Hey whats up buddy?」と声をかけ「Do you wanna beer?」とビールを出すが、そうなったのはここに来てからだという。先輩たちからその精神を学んだらしいが、この場所を求めて来る人々はみんな同じ気持ちを持つ同士、ここでの繋がりを大切にすることが彼の生活になっているようだ。このようなクラブが数多く点在するニュージーランド。古き良きものでもあり、何より雪山の魅力の本質を突いた場所のように思える。

そんな彼らは僕にもみんな声をかけてくれる。「Welcome back Shige!」なんだか涙が出そうだ。「俺たちも日本に行きたいよ!」そうゆう彼らは既にエアチケットを予約しているらしい。「どこに行くの?」と聞くと、「Tohoku」と返事。なんだか僕より詳しそうだ。そりゃ、この自然で遊んでいたら、鋭い嗅覚を持っているのも間違いないよね。

藤田一茂 (ふじた かずしげ)
日本三景・天橋立で有名な京都県宮津市で生まれ、日本海と山に挟まれた小さな町で育った藤田一茂は、15歳でスノーボードと出会い、20歳からプロスノーボーダーのキャリアを開始。ビッグエアーなどのコンテストでの活躍を経て、現在ではバックカントリーでの撮影を中心にスノーボードの魅力を創造する活動を行っている。自らも撮影や映像制作、プロデュースを手掛け、国内外問わず旅へ出ては、スノーボードの魅力を発信している。また、雪のない時期は映像制作やクリエイティブなワークの傍、自宅の畑での家庭菜園やスケートボード、波乗り、四季を通して自然のリズムを追いかけた生活を送っている。

HP:forestlog.net
Instagram:@forestlogd

Photo&Textby Kazushige Fujita / Profile Photo by Eriko Nemoto Edit by Ryo Muramatsu