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#03 ニュージーランドにおける「アウトドア」
2023.04.27

#03 ニュージーランドにおける「アウトドア」
by 藤田一茂

パンデミックを経て、僕らのトラベローグ(旅行談)は饒舌になるのではないかー 旅することがより特別なものになったからだ。そう思った時、「最近の旅について自由に書いてほしい」と何名かにメッセージを送ってみた。返答がきたひとりが、プロスノーボーダーにしてフォトグラファー、映像作家、ライターでもある藤田一茂。長野県の白馬に暮らし、スノーとサーフをシーズンや気候によって行き来する人だ。

2022年夏、数年ぶりに訪れたニュージーランドの旅を綴る。

藤田一茂が綴るニュージーランド旅行記 | 「DISTANT NEIGHBORHOOD」記事一覧

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身体を動かすスポーツがアウトドアを牽引している国

アウトドアと観光。僕にとってニュージーランドの売りは、この2つだ。機内誌には「南島最大の街クライストチャーチは、家を出て40分で全てのアウトドアができる」と書かれていることもそれを象徴している。確かに、街から15分で海があり、岩場やマウンテンバイクのトレイルはそこら中にある。街中には大きなスケートパークや公園が多数あって、クルマで40分走ればスキー場もある。日本でアウトドアというと、洒落たオートキャンプ場が想像されそうだけど、そういった文化はむしろこの国ではあまり見ない。アウトドアという言葉が連想させるのは、アクションスポーツを筆頭に、身体を動かすスポーツ=アウトドア。そんな印象があるのだ。

ニュージーランドのおすすめの旅の仕方は間違いなくキャンピングカーでのロードトリップだ。運転しているとレンタカー会社のロゴを載せたキャンピングカーをとてもよく目にするし、旅の検索にはキャンピングカーのススメがよく引っかかる。クルマの中にギアを詰め込んだアウトドアドーリーム号でフィールドの側で寝泊まりし、宿から一歩外へ出れば遊びのフィールド。これはさぞかし楽しいものだろう。とはいえ、実は僕はそれをしたことがない。それを出来ない理由はただ一つ。キャンピングカーだと僕の好きなスキー場への険しい道を通れないからだ。

スノーボードさえなければ出来るのになぁ~なんていつも思うけれど、それは叶わない願いでもある。
 

目白押しなアクティビティたち

ニュージーランドの南島で栄えている街には必ずそれぞれの代表的なアクティビティが備わっている。ある場所ではダークスカイプロジェクトと称した満開の星空。あるところではホエールウォッチング、あるとことではリバージェットボード、バンジージャンプやジップライン、氷河ツアー。もちろんスキーやスノーボードもその一つで、それぞれの街が一押しのアウトドアアクティビティを持って観光タウンを運営している。それを求めて人々が集まる姿はとても印象的だ。

このようなモデルは少なからず日本にも増えてきているように思う。またニュージーランドではそういった街にはタウンセンターを囲む形で次々と新しい住宅街が登場していて、備え付けの広い公園にはスケートパークやマウンテンバイクのコースを筆頭に、日本の公園パッケージとは一線を画すデザインで作られている。日本でも地方へ移住する人も増えているが、この国のスケールと自由さで遊べる街を日本の地方都市で探すのはなかなか難しい。

満天の星空は本当に手が届きそうなくらいに3Dで、天の川の奥深さをはじめ、宇宙を感じられる贅沢な時間は、この旅でも忘れらない20分間の出来事。もともとこの場所は星空が有名だったが、この10年で大きなビジターセンターができて、博物館や星空ツアーがパッケージング化され、それに伴い、街が大きくなって、周りには数え切れないほどの別荘が立ち並ぶようになった。星空と綺麗な湖、近くのスキー場や氷河、大きな施設といえば温水プールくらいで、これ以上何かが増えるとも思えない。それが良いところなのだろう。

スキー場では雪の遊び、街では街の遊び、しっかりと切り分けられた案内も素晴らしいと素直に思う。モノや体験にありふれている現代。もしかしたら、少し足りないくらいがちょうど良いのかも知れない。限られた時間の中で体験できることは限られているし、事やモノに制約があるから集中できて、だからこそ見えることもある。

色々と考えていると、やっぱり次こそキャンピングカーで旅がしたくなってきた。

藤田一茂 (ふじた かずしげ)
日本三景・天橋立で有名な京都県宮津市で生まれ、日本海と山に挟まれた小さな町で育った藤田一茂は、15歳でスノーボードと出会い、20歳からプロスノーボーダーのキャリアを開始。ビッグエアーなどのコンテストでの活躍を経て、現在ではバックカントリーでの撮影を中心にスノーボードの魅力を創造する活動を行っている。自らも撮影や映像制作、プロデュースを手掛け、国内外問わず旅へ出ては、スノーボードの魅力を発信している。また、雪のない時期は映像制作やクリエイティブなワークの傍、自宅の畑での家庭菜園やスケートボード、波乗り、四季を通して自然のリズムを追いかけた生活を送っている。

HP:forestlog.net
Instagram:@forestlogd

Photo&Textby Kazushige Fujita / Profile Photo by Eriko Nemoto Edit by Ryo Muramatsu