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#01 ロードトリップでヨセミテ再び
2024.04.26

#01 ロードトリップでヨセミテ再び
by 井 卓

国内外の国立公園巡りをライフワークにするライター、櫻井 卓が、約3年振り8度目となるヨセミテ国立公園までのロードトリップを綴った「Re:visit YOSEMITE」。過去に何度も通った道を辿ることで、記憶を掘り起こす旅でもあったという。馴染みの店はいくつか潰れてしまっていたものの、壮大な自然の前では、パンデミックの影響は跡形もなかった。

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Los Angeles〜Fresno

旅欲はもうはち切れる寸前まで行っていた。コロナの馬鹿タレが落ち着いたと思ったら、今度は戦争の影響で原油価格が爆上がり。エアー代なんて一時は目が飛び出るほどの値段になっていた。格安サイトと睨めっこする日々が続き、ついに来たのだ。LA往復9万円台。

目的地は8度目となるヨセミテ国立公園。あえて、以前よく通った道をなぞってみた。

LAX国際空港に下り立ち、劇的にオペレーションが悪いイミグレーションを抜け、いつもの喫煙場所へと向かう。タバコの臭いに混ざって、ちょっと違う臭いがするのはマリファナか。
もはや日常の一部となっているのだろう。2020年1月、パンデミック直前に雑誌の取材でLAとラスベガスを訪れたのも、マリファナの今を知るというテーマだった。マリファナ合法化(医療だけでなく娯楽も)により、ディスペンサリー(大麻取り扱い店)もいたるところにできていたし、なかにはまるでアップルストアのように洗練されたところもあった。

コロナ禍ではどうなっていたか? なんと、マリファナ取扱店は州政府によってエッセンシャルビジネスに指定され、ロックダウンの際にも営業していたという。ようは「生活必需品」として州政府が認定したということ。べつに僕自身はマリファナ推進派でもなんでもない。むしろ街中で平気で酔い潰れてしまう日本人の気質には合わないと思っている。ただ、変化にたいして柔軟に対応しつづけるアメリカという国の底力を感じるエピソードではある。

まあ、それはさておき、久しぶりのアメリカロードトリップだ。

ニコチンをたっぷり摂取した後は、行きつけのダラーレンタカーへと向かう。ちょうど昼食時ということもあって、長蛇の列に対して店員さんはわずか3人。その中のひとりのおっちゃんは、パソコン操作がおぼつかないらしく実質2人体制。しかも「なんで?」ってくらいに1人をさばくのに時間がかかる。いきなりのアメリカの洗礼だ。

「無駄話ばっかしてないでちゃきちゃきやってくれよ」と、思わず口に出してしまう。まあ、アメリカはなにをするにも日本に比べると時間がかかる。でもそういうダメなところをツッコミながら笑い飛ばすのが、アメリカ旅に必要なスキルだったりもする。

アル・パチーノ似のコワモテおじさんの窓口で、ようやくレンタカーの手続きが終了。ここまでなんと約2時間。日本のレンタカーと大きく違うのは、ランク分けされて停めてあるクルマを勝手に選んで乗っていくところ。今回選んだのはフォードのコンパクトSUV。実はアメリカ、特に都市部では日本や韓国メーカーのクルマが人気で、レンタカー屋での日本車率も高い。でもせっかくだからと、いつもアメ車を選んでいる。

駐車場の出口にゲートがあって、そこで書類を見せたら、いよいよロードトリップが始まる。久しぶりのアメリカでの運転。最初こそ「右車線、右車線」とか唱えていたものの、自分でも驚くくらいすぐ慣れた。
夕方になると世界でも屈指の渋滞が始まってしまう。そうなる前にI-5(州間高速道路)に乗り入れ、可及的速やかにLAを抜け出すことにする。

とにかくスケール感が違う。なんと片側5車線だ。それでも少し渋滞している。アメリカがいかにクルマ社会かわかる。一番左のレーンは2人以上乗っているクルマしか走れないルール。ご近所同士で乗り合いして、クルマを減らすという試みだ。

全長なんと22mという大型トレーラーもよく見かける。これがアメリカの運送の約7割を担っている。道路という血管をトレーラーが動き続けることで、アメリカという巨大な獣を動かしているのだ。途中で購入したまっずいミントで眠気をさましながら、ひたすら北上し、フレズノという街を目指す。

フレズノはヨセミテ国立公園の入り口に位置するハブシティ。もっともヨセミテ国立公園まではここからさらに100km近く離れている。サンフランシスコやLAからヨセミテを目指すほとんどの人が通過する街でもあり、多くの旅人が行き交うということもあるのか、街には活気が溢れていて、パンデミックの影響はほとんど感じない。ヨセミテに入る前にここに立ち寄って、日本から持ち込めないガス缶や食糧を〈REI〉という大手アウトドアチェーンで買い出しするのが恒例になっている。〈REI〉は現在日本での展開がないため、オリジナルアイテムはアウトドア好きの人には嬉しいお土産になったりもする。

その足で、〈Whole Foods Market〉に立ち寄って、今日の晩ご飯の調達。基本的に貧乏旅なので、バンバン外食する余裕はない。よく利用するのが、〈Whole Foods Market〉などのオーガニック・スーパーのデリ・コーナー。1ポンド詰め放題で12ドルとかなので、かなりお得でヘルシー。味だって下手なレストランに引けを取らない。

この日の宿は安モーテルだ。モーテルというと映画などで、よく殺人がおこなわれる場所、というイメージがあるかもしれないけれど、アメリカのクルマ文化を強く反映している場所でもある。アメリカ発祥の、自動車旅をする人のためのホテルで、部屋のすぐ外にクルマをベタ付けできるのが特徴。宿泊料金も安めに設定されている。インターネットで予約もできるし、フリーの朝食が付いているところも多いから、ロードトリップの時に泊まるのは基本的にモーテル。何度も利用しているけど、これまで危ない目にあったことはない。ボイラー故障からくる、水シャワーの洗礼は何度も受けたけれど。

 

櫻井卓 (さくらいたかし)
ライター。「TRANSIT」「Coyote」などの旅雑誌を中心に執筆。国内外の国立公園巡りをライフワークとし、これまで訪れた海外の国立公園はヨセミテ、レッドウッド(カリフォルニア)、デナリ(アラスカ)、アーチーズ(ユタ)、グランドキャニオン(アリゾナ)、ビッグベンド(テキサス)、サガルマータ(ネパール)、エイベルタズマン(ニュージーランド)など。GOLDWIN×環境省が日本の国立公園の魅力を伝えるWEB「National Parks of Japan」の文章も担当している。
IG: @sxuxb.sakurai

Photo by Hinano Kimoto,Text by / Takashi Sakurai