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#02 世界で1番好きな場所。
2024.05.07

#02 世界で1番好きな場所。
by 井 卓

国内外の国立公園巡りをライフワークにするライター、櫻井 卓が、約3年振り8度目となるヨセミテ国立公園までのロードトリップを綴った「Re:visit YOSEMITE」。過去に何度も通った道を辿ることで、記憶を掘り起こす旅でもあったという。馴染みの店はいくつか潰れてしまっていたものの、壮大な自然の前では、パンデミックの影響は跡形もなかった。

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Fresno〜Yosemite National Park

実はヨセミテ入りギリギリまで心配だったことがある。ガバメントシャットダウンだ。いわゆる政府閉鎖という状況。僕がアメリカを訪れた2023年の9月下旬は、次年度の予算案が通らず、まさにガバメントシャットダウン寸前だったのだ。もしそうなると、政府職員の給与が支払われなくなるため、国立公園が事実上閉鎖になる。以前テキサスのビッグベンド国立公園を訪れた時がまさにガバメントシャットダウン中だった。

ゲートなども無人だし、公園内の機能のほとんどがストップしていた。ただそんな中でも、きっと有志なのだろう。レンジャーが観光客にアドバイスを与えている姿に感動したものだ。ヨセミテ入りの前日にギリギリで予算案が通り、ほっと胸をなで下ろした。

ヨセミテは燃えるのがすっかりデフォルトになってしまったようだ。

このあたりは頻繁に森林火災が起きるエリアで、2022年には緊急事態宣言が発動されたこともある。主な原因は落雷や、極度な乾燥状態からくる自然発火と言われている。昔より頻発しているということは、温暖化の影響があるのはほぼ間違いないだろう。訪れるたびにだんだんと煤けた木々が増えていくのが切ない。道路脇で煙が上がっている。計画的に燃やさざるを得ないのだ。

アメリカの国立公園はハイキングも最高だけれど、ドライブスポットとしても超一流だ。それは成り立ちにも由来する。信仰や生活に密接に結びついている日本の国立公園と違って、アメリカの国立公園はいわば道路計画ありきなのだ。
荒野にあらたに道路を作り、自然を利用できるような導線を整備する。もちろん、環境面などにもしっかり配慮している。広大なアメリカならではの手法とも言える。

だからハーフドームが見下ろせるグレイシャーポイントや、クライマー憧れの1000m超えの1枚岩、エル・キャピタン。アメリカ最大の落差739mを誇るヨセミテフォールズなど、ヨセミテ国立公園の見どころも基本的にクルマで巡ることができる。だから訪れる人も千差万別で、世界中のいろんな場所から自然好きが集まってくる。このごった煮感もヨセミテが好きな理由のひとつだ。

広大なヨセミテ国立公園の中でも、ヨセミテビレッジという場所にはビジターセンターをはじめ、スーパー、アウトドアショップ、ピザスタンドやデリなど滞在中に必要な施設が揃っている。いわばヨセミテの繁華街だ。宿泊施設もキャンプグラウンド、コテージ、さらにはスティーブ・ジョブズが結婚パーティをしたアワニーホテルという三つ星ホテルもある。

僕にとっては、いままでいろいろ遊ばせてもらった思い出深い場所だ。

日帰りハイキング。憧れのCAMP4でのテント生活。わざわざパックラフト(空気膨張式のボート)を持ち込んで、マーセド川を下ったこともある。そしてもちろんパーミット(許可証)を取ってのオーバーナイトハイキング。
ここ、ヨセミテにはすでに8回目の訪問なんだけれど、本当に飽きない。許されるなら、ここで暮らしてみたい。いつか叶えたい夢のひとつだ。

ヨセミテでの宿泊場所はバックパッカーキャンプグラウンドだ。事前に許可を取ってオーバーナイトハイキングをする僕らのような人間か、徒歩や自転車でヨセミテ国立公園を訪れた人だけが泊まれる場所。値段も1泊1人8ドルで、ヨセミテ国立公園にもっとも安く泊まる方法のひとつだ。さて、明日からは手つかずの自然の中へと入って行く。生活用具一式を担いだ4泊5日のバックパッキングだ。

櫻井卓 (さくらいたかし)
ライター。「TRANSIT」「Coyote」などの旅雑誌を中心に執筆。国内外の国立公園巡りをライフワークとし、これまで訪れた海外の国立公園はヨセミテ、レッドウッド(カリフォルニア)、デナリ(アラスカ)、アーチーズ(ユタ)、グランドキャニオン(アリゾナ)、ビッグベンド(テキサス)、サガルマータ(ネパール)、エイベルタズマン(ニュージーランド)など。GOLDWIN×環境省が日本の国立公園の魅力を伝えるWEB「National Parks of Japan」の文章も担当している。
IG: @sxuxb.sakurai

Photo by Hinano Kimoto,Text by / Takashi Sakurai