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2024.05.20

#04 ロードトリップをすればリアルなアメリカが見えてくる
by 井 卓

国内外の国立公園巡りをライフワークにするライター、櫻井 卓が、約3年振り8度目となるヨセミテ国立公園までのロードトリップを綴った「Re:visit YOSEMITE」。過去に何度も通った道を辿ることで、記憶を掘り起こす旅でもあったという。馴染みの店はいくつか潰れてしまっていたものの、壮大な自然の前では、パンデミックの影響は跡形もなかった。

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Bishop〜Los Angeles

翌朝、ビショップのジャーキー専門店へと立ち寄る。

アメリカといえば、ジャーキー。なんでもベトナム戦争の時に野戦食として採用したことから、アメリカ全土で人気になったらしい。今回の旅でも道路脇に「HAND MADE BEEF JERKY!」みたいな、いかにもハンドメイドなボロ看板を掲げている風景にもよく出会った。ビーフだけでなく、チキン、ターキー、バッファロー、エルク(トナカイ)など様々種類がある。噛み応えがあり、眠気覚ましにちょうど良いので、ロードトリップには欠かせない食べ物だったりもする。

バッファロージャーキーを2袋と、ついでに美味そうなサンドイッチも購入。ロードトリップでは、昼食を車内で摂ることも多いから、いかに美味いテイクアウトを手に入れるかも重要なのだ。

ここからLAまでは、まだ5時間ある。寄り道しながらのんびりと戻っていく。

途中で世界最高齢の樹を見るために、ホワイトマウンテンという場所に立ち寄る。『Bristlecone Pine』という松の一種で、その樹齢はなんと約5000年。屋久島の縄文杉が約2200年ということを考えても気の遠くなるような年月を生きていることになる。ただし、見た目はぜんぜん巨大じゃない。成長にあまりエネルギーを消費しないのが長寿の秘訣。成長ばかりを目指して、いろんなものを破壊してきた人類も少しは見習うべきなのかもしれない。

そこから先はひたすらにまっすぐな道を突き進む。右手にはずっとハイシエラの山々が見えている。いくつかのスモールタウンを通り過ぎ、じょじょに荒野感がなくなっていく。大型ショッピングモールが見えはじめたら、そろそろLAだ。荒野に慣れた目にはギラギラと輝くビル群はなにやら凶暴な武器のように見える。

飲み物を買うためにLA郊外のスーパーに足を踏み入れると、簡易ゲートのようなものがあって、警備員がセイハローでIDチェック。こんなの以前は見たことがなかった。実はカリフォルニア州で950ドル以下の窃盗が軽犯罪に分類されたことが原因だ。

2014年に住民投票によって可決されたプロポジション47、通称プロップ47は、窃盗だけでなく、小切手や紙幣の偽造、違法薬物の所持、使用も950ドル以下であれば軽犯罪になる。日本人からみたらとんでもない法律だ。警察関連予算削減や刑務所収容率の問題解決のためだというが、これにより万引きなどの軽犯罪が急増し、都市部から人や企業が流出しているという。まあ、アメリカらしいというかなんというか。

久しぶりに訪れて、アメリカは改めてロードトリップの国だと思った。鉄道やグレイハウンドという長距離バスもあることはあるけど、行ける範囲はごくごく限られてしまう。日本とは違い、文字通り無料のフリーウェイを駆使して、気の向くままにクルマを走らせるのが最高に気持ちが良い。

そして、小さな田舎町ほど、いわゆるアメリカっぽさが残されている。幹線道路から外れた場所であることが多いから、ロードトリップでもしないかぎり辿り着けない。
アメリカを旅するときはクルマで荒野を駆け抜け、聞いたこともないようなスモールタウンに立ち寄ってみてほしい。

「この街しか知らない」と寂しそうに言った若いウエイトレス。

「死ぬまでに全部回るのはきっと無理だろうね」と笑った、キャンピングカーで国中を旅しているという老夫婦。

スモールタウンには、まるで映画のワンシーンのような出会いが待っている。

どうやら次の大統領選ではトランプが優勢のようだ。

個人的には彼はだいぶ嫌いなタイプの人種だと認識しているんだけど、旅人にとっては悪いことだけでもない。今後、トランプのせい(おかげ?)でダイナミックな変化が訪れそうなアメリカのど真ん中、通称ラスト・ベルトを訪れてみるのも良さそうだ。

櫻井卓 (さくらいたかし)
ライター。「TRANSIT」「Coyote」などの旅雑誌を中心に執筆。国内外の国立公園巡りをライフワークとし、これまで訪れた海外の国立公園はヨセミテ、レッドウッド(カリフォルニア)、デナリ(アラスカ)、アーチーズ(ユタ)、グランドキャニオン(アリゾナ)、ビッグベンド(テキサス)、サガルマータ(ネパール)、エイベルタズマン(ニュージーランド)など。GOLDWIN×環境省が日本の国立公園の魅力を伝えるWEB「National Parks of Japan」の文章も担当している。
IG: @sxuxb.sakurai

Photo by Hinano Kimoto,Text by / Takashi Sakurai