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Endless water #01 外から内へ。窮屈と自由の旅がはじまる
2023.09.28

Endless water #01 外から内へ。窮屈と自由の旅がはじまる
by Nachos

ボードとカメラを片手に世界を旅するフォトグラファーNachosが、プロロングボーダーの田岡ナツミと旅した北海道のロードトリップを振り返るフォトコラム『Endless water』。

パンデミックの渦中、これまで目を向けてこなかった国内の魅力を再発見したNachosと田岡ナツミは、北海道を舞台にしたサーフドキュメンタリーの制作を決意する。この連載は、2023年の冬に行われた撮影のためのロードトリップの一片を、記録したものである。


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内側に目を向ける期間を通り過ぎて

パンデミック前までは外の世界ばかり見ていた。でも、突如見えない壁が出来てその視界は塞がれた。

最初は戸惑い、「あの場所に行こうとしていたのに、あれもしたかったのに…」と少し焦ったりもしたけれど、数ヶ月すると「あぁ、今は少し内側を見る時間なんだ」と納得できるようになっていた。なぜならば「じゃあ、この生まれ育った日本を旅に出てみようじゃないか」と中古のバンを買い、自作で内装を作り、日本の海沿いをロードトリップすると今まで知らなかった日本の良いところを少しづつ発見できるようになっていたから。

「日本って良いところだな」と思っていたパンデミック渦中、突然アメリカからメールが届き、撮影オファーをもらい、人生初めての北海道へ行くことになった。人生何があるかわからない。初めて降り立った北の大地で、まんまと私は広大な自然の美しさと厳しさに心を奪われてしまった。

冬の北海道を巡るロードトリップ

広い大地に魅了された私は時が経つにつれてあの広く壮大な、時には厳格な北海道の海沿いをロードトリップしてみたいという気持ちが芽生えた。その気持ちはどんどん大きくなっていく。

なんとなく北の大地への憧れを口に出していくうちに私の言葉に耳を傾けてくれる人が出てきて、頭の中で描いている旅が現実味を帯びてきた。

旅の相棒は世界への挑戦を続けているプロロングボーダーの田岡ナツミ。アジアのロングボードチャンピオンである彼女は、多忙なスケジュールの中、チャンスがあれば北海道に行ってみたいと密かに考えていたらしくお互いの気持ちがマッチしたのだ。

よし。次はクルマだ! そんな時、北海道・十勝をベースにしている〈moving inn〉の世界観に目が止まった。そこには普通のキャンピングカーではなくオリジナルのハイエースキャンピングカーが北海道を駆け抜ける光景が。わざわざ過酷な環境を選ぶ私たちをきっと他の人から見たら?が浮かぶだろう。でもイージーじゃない方が私たちは燃えるのだ。

もうこの頃にはパンデミックの影響も少しずつ緩くなり、2人とも海外の遠征や撮影がまた再開し始めていたのでお互いが日本にいる期間をすり合わせ、スケジュールがちょうど合う2023年の春先に旅の日程が決定した。

飛行機に乗り帯広へ。

4月中旬となればもう本州では桜が散り新緑が美しい季節。しかし、この北国では雪解けが残りまだ暖かい日差しを待ち、海水は雪解け水が流れ込み1番冷たい時期。私たちは厳しい冬を越した美しい海と大自然を見たいとサーフボード、ウエットスーツ・寝袋と少しのキャンプ道具だけを積み旅に出た。

帯広空港に降り立ち、今回の相棒と初対面した時は胸が高鳴った。

日の出。旅のはじまり

今回の私たちの計画に、サーフボードとカメラと同じように無くてはならないものがある。それはクルマ。この大きな相棒とともに泊まるところも決めずに気圧配置図と地図を頼りにこの広い大地を、波を、求め駆け回る予定。そして自分たちだけの秘密のマップを作る。

こうして動く家を手に入れた私たちの旅がはじまった。クルマに乗り込み、まずは〈moving inn〉のクリエイティブディレクターのKCさんに教えてもらった道の駅に寄り、お目当ての百合の根シュークリームや手作りパンを旅のおやつに買って海を目指す。

”北?南?” 海沿いの道までたどり着いた私たちはどっちを選んで進もうが不正解はない。
私たちが行きたい場所に行けばいい。そう自由なんだ。

強風で少し荒れ模様の海沿いを南に降りてみるもピンとくる波に出会えない私たちはやっぱり北に進路を変えてなんとか入れそうなポイントを見つけ初サーフィンにありついた。

初日から南へ北へ行ったり来たりした後は温泉に入り、今夜の寝床を見つけた。

初めての朝はシンと冷え込む日だった。窓の外を見ると周りがキラキラ輝いてる。

「なんだろ?」

クルマから降りて辺りを見渡すと一面に霜が降り、登ってきた太陽の光に照らされキラキラした空間が広がっていた。

”何これ、きれい…”
振り向くとクルマから眠たそうな顔をしたナツミが外を見ている。
”良い旅になりそうだね。” と私たちは顔を見合わせた。

「よし、行こうか。」

クルマのエンジンをかけ今日も波探しの1日が始まる。

「ここの道を進んだら海まで辿り着けそう?いける?いけない?どっちだろ?」
「進んでみよう」

航空写真の地図を見てサーフィンできそうな場所を探し確認していく作業。波チェックをしながら海沿いを移動し、全体的に今日は波のうねりが弱いので潮の動く時間まで海の見える丘にクルマを置いて朝ごはんを作ることにした。

優しい太陽の光と海から微かに聞こえる波の音、そしてコーヒーの良い香りがフワッと漂ってくる。

「波ないねぇ。どうしよっか」

序盤から自然のリズムの難しさを痛感した私たち。でも実はこんなのまだまだ序の口でこの先も自然の脅威に振り回されることになるということを自分たちに教えてあげたい。

ロードトリップって言葉を聞くとなんだかワクワクするけど実際はまぁまぁ過酷なことも多い。広大な土地では尚更。だって旅の時間のほとんどをクルマのなかで過ごすことになるんだから。このロードトリップの醍醐味のひとつでもある窮屈と自由のコントラストを楽しんで行こうじゃないか。

しかし、大自然の中で作って食べる料理はなんでこんなに美味しいのだろう? さあ、旅がはじまる。

Nachos
“Beautiful Adventure”を自らのテーマに掲げ、ボードとカメラを片手に世界を旅するフォトグラファー。海、旅、女性にフォーカスした、ストーリーのある写真を撮る。また、動画撮影・編集、アートディレクション、執筆までマルチに活動している。
IG:@nachos.san

photo&text: Nachos cooperation: Moving Inn