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#01 クルマは僕らのライフワーク
2023.10.30

#01 クルマは僕らのライフワーク
by CCG

“クルマに乗る”にはどんな条件が必要だろうか。環境にも大きく左右されるクルマ選びは人との出会いにも関係がありそうだ。
近年都市部では、経済的要因もありクルマ離れが加速している。しかし、その中でもなおクルマ好きな若者やかつての若者は存在し、時代を逆行するようにオールドタイマーやヤングタイマーと呼ばれるクルマを手にしている人たちもいる。クルマがステイタスという時代ではないであろう現代において、彼らはどうして古いクルマを駆るのか?『Ridin' in my car』は、そのカルチャーに迫る連載。現代の旧車乗りの姿を追い、その実像をとらえる。

第1回目は、街に住む人へクルマのある暮らしを提案するカーメディア〈CCG〉の3人に話を伺い、それぞれのクルマとの付き合い方に迫ると同時に、彼らが感じている、若者とクルマの関係性を尋ねた。

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20代のリアルなクルマとの付き合い方

煌びやかな高級車が行き交う、夜の旧山手通り。最近は排気音のない電気自動車も珍しくないが、代官山蔦屋脇の駐車枠めがけてやってきたのは、トットットットッと確かな内燃機関の仕事を感じさせる初代ゴルフ。80年代に作られたカブリオは、東京の夏の夜を流すのには最高だろう。

このクルマの持ち主は中村真さん。同乗してきた友人の中川拓海さんと佐々木穂高さんも同じく20代半ばで、オールドタイマーやヤングタイマーと呼ばれるふるいクルマに乗っている。3人はほとんど週1回のペースで集まっているそうで、どこかへクルマで行っては、彼らが運営する〈Car City Guide(以下CCG)〉というWebメディアの制作に励んでいるという。

CCGは2020年にクルマ好きの3人が集まってはじめた、Instagramを中心に情報発信しているインディペンデントなメディア。都市生活者にクルマと過ごす時間の楽しさを提案し、クルマを手に入れるキッカケになるようなコンテンツを制作し、“現代の若者”のリアルなクルマとの付き合い方を紹介している。


一般的なカーメディアはクルマに焦点を当てているものだが、彼らが探求しているのはクルマを取り巻く日常生活そのもの。リアルなアプローチへの共感が、Instagramのフォロワー数として示されているのだろう。

「〈CCG〉は僕たち3人ではじめたんですが、そのきっかけは、今あるクルマ関係のメディアにちょっとした違和感を感じた事です。もちろんクルマ好きの僕たちはそういうのも嫌いではなかったんですが、ベースが専門的で、クルマについてばかり語られているのが気になっていたんですよね。

僕らが活動スタートしたのは2020年の秋ごろで、ちょうどコロナ禍で自由な時間もあったタイミング。僕たち3人は美大出身で見せ方を工夫できる自信もありましたし、既存のメディアと違う見せ方でクルマのある生活を紹介できたら楽しそうだなと思って気軽にはじめたんです。Instagramはタダで使えるし、みんなの目に入りやすいプラットフォームですし、とりあえずアカウントを作ってみて。その時はメディアという意識はなくて遊びの延長だったんですけどね」

そう語る中村さんは、大学卒業後はプロダクトデザインの道に進み、ゴルフ2を購入して現在のライフスタイルに。現在はゴルフ1に乗り換えているが、“都会でもクルマを持つのは全然アリ”という実体験を踏まえてメッセージを発信しているという。

「クルマが好き」ではなく、「クルマも好き」なライフスタイルの提案

都会では電車があれば移動には困らないし、クルマが必要であればその都度レンタカーやシェアカーが使える。世代的にも、クルマがないとモテないという価値観もだいぶ薄いだろう。そんな中で、都内で暮らす若者がわざわざクルマを持つというのは、正直いってマイノリティ側。しかし〈CCG〉では、彼らの視点からクルマを楽しむ姿を発信することで、“都内でのクルマ不要論”という一般的な見方に対して異なる視点を提供し、考えるきっかけを与えている。


「〈CCG=Car City Guide〉はその名の通りクルマで行ける3人のオススメの場所を紹介する所から始まったのですが、売りたい人と買いたい人を繋ぐマッチング企画や、クルマ購入のお金や維持費について紹介したり、カーオーナーのリアリティを追求しているんです。感情論的じゃないクルマの良さや、メリットを〈CCG〉を通して感じてもらえればと思っています」と佐々木さん。

彼は自他ともに認める昔ながらのクルマ好きで、愛車は60年代の「MGB GT」。父親の影響で子どものころからクルマが好きで、美大ではカーデザインを学んだ筋金入りだが、モノとしてのクルマの魅力だけでなく、クルマを通じて世界が広がる事にも惹かれているという。

「〈CCG〉は“街の中でクルマをどう普段使いするか”みたいなのがテーマというか。特別なモノではなくデイリーな存在としてのクルマの良さを伝えたいと思っているんです。ただ、あくまで選択肢としてのクルマというか。“クルマが好き”ではなく“クルマも好き”という人たちに向けて発信しています」

マインドにあるのは市場価値とはちがう価値基準

東京都内では15分300円などのコインパーキングを目にする事もあり、公共交通機関を利用する人からすれば、都内をクルマで移動するなんて馬鹿げていると思われるかもしれない。しかし、〈CCG〉の3人にいわせれば、クルマも使いよう。例えば都内各所の道路沿いには1時間300円のパーキングメーターが設けられていて、時間的制約を楽しみながら食事や買い物を楽しんで、また別の場所へと移動するというのも、彼らにとっての処世術。

それに、彼らが所有するものや〈CCG〉で取り上げるクルマの多くは何百万円する高級車ではなく、むしろ若者でも他の生活を犠牲にせずに所有できるクルマ。ちょっと古くて、それでいて足グルマとして壊れにくいヤングタイマーが中心。そんな点からも本人たちのリアルな目線がみえてくる。

中川さんの現在の愛車は「HONDA シティ」。シビックに次ぐ80年代のホンダの名コンパクトカーだが、エンスージアスト※に人気の希少価値のあるヴィンテージカーというわけではない。

「もちろん僕たちもヴィンテージカーに惹かれますし、逆に新しいクルマは嫌いじゃないんですよね。僕も学生時代は新しめのモノに乗ってましたし、むしろ全然好き。佐々木は新車が出るたびにディーラーに試乗しに行くほどです。それでもぼくたちが新車に乗っていないのは、結局今の自分たちにまだしっくりこないというか、現実的に僕たち世代が他の生活をなげうってまで、高いクルマを持ちたいというマインドではないという事があると思いますしね」

※エンスージアスト:熱心に楽しむこと、熱心に興味をもつこと、積極的な肯定

「そんな事もあり、〈CCG〉のスナップで取り上げたり、カーマッチングで掲載しているモノは、ちょっと古くて、かつ人気車じゃない場合が多いですね。メディアとしても同じ世代に向けて高価なクルマを持とうって言うのは無理があると思ってますし、それに、僕たちは自分たちで斜に構えてるなと自覚していて、既存の価値観に縛られたくないっていうのがベースにあるのかもしれません。僕が乗ってるシティも人気者の丸目じゃなくて、不人気の角目。そのセレクトが僕っぽいかなって思います」

新しいモノが作られない前提の中古車市場では、普通は需要のあるクルマが高価格で流通する。その一方で不人気車は市場価値があまり上がらない。〈CCG〉の3人を含む若い世代の旧車好きは、時に市場の逆張りをしながら、自分が手の届く範囲内で価値を見出していくことも楽しんでいるようだ。

クルマは自己表現の一部であり、それが自分になっていく

今回は平日夜の集まりに同行させてもらっての取材。パーキングメーターの白枠から白枠までホッピングする間に話を聞いたが、中村さんが愛車を好きな理由としてジウジアーロがデザインしたとか、前が丸目で後が角目とか、いわゆるクルマオタクのようなポイントを挙げなかったに新鮮さを感じた。もちろんそれは彼が気に入っているいくつかのポイントなのだろうが、それが愛車を選んだ決定的な理由ではないのだろう。

ナイトクルージングの最後に“自身にとってのクルマとは?”とインタビューお決まりの質問を尋ねたところ、3人からは“クルマは自己表現の一部”という答えが返ってきた。しかし、それぞれにその捉え方が違っていたことが興味深く、このことからも若者が抱いている言いかえがたいクルマの魅力を感じられた。

「結果的に自己表現になっているんですが、僕はあんまり主張が激しいタイプでもないし、クルマになにか語らせようとは思ってないんです。言葉にするなら、自分らしくいられる場所ってところですかね。電車では少なからず外圧があるというか、ある程度ちゃんとしてなきゃいけないじゃないですか。でもクルマならより自然体でいられるんです。自分のムードに合ったクルマを乗っていることもあって、クルマがあることで、役に入らなくていいんだなって感じます」(中村さん)

「クルマってオーナーの趣味趣向を分かりやすく形にしていると感じますし、その用途とかもそうなんですが、まあどうしたって好きな方向性とかって出てきますよね。僕はそこであんまり背伸びをしようとも思わないので、僕にとってクルマって自分を映したモノなんじゃないかと思います。そこにある程度自分がなりたい姿とかはあるっちゃあるんですけどね」(佐々木さん)

「持ち主がどんな人間なのかを暗に語っている側面もありますが、僕の場合はクルマが憧れの姿って感じではないですね。多分僕たち世代でヤングタイマーを選ぶ人たちって、クルマを選んだ結果自分のモノ選びの感覚が出ているだけで、こういう自分になりたいっていう想いで買ってないんじゃないでしょうか。自分がそういう自分だって事に後から気付いて、それが自分になっているぐらいの感じなってちょっと思います」(中川さん)

〈CCG〉のInstagramで行われたアンケートによると、フォロワーのクルマ所有率は約4割。つまり、約6割の人はクルマを所有していないものの、潜在的にクルマのある生活に魅力を感じている、または彼らが取り上げるクルマに興味を持っている読者がいるという事になる。だとすれば、クルマを持っていない=クルマに興味がないとは一概には言えないだろう。彼らが古いクルマを選ぶ理由は、それぞれが等身大でいられるため。そして、自分たちに正直で無理のない楽しいカーライフを紹介している事が〈CCG〉が共感を呼ぶ理由なのかもしれない。

〈CCG〉はInstagramを中心としながら、最近はYouTubeやPodcastなど様々なメディアに乗せて、都市生活者目線のクルマ情報を発信中。今日もパーキングメーターをハシゴしながら、その企画を練っている。

CCG (Car City Gide)
街に住む人へクルマがある暮らしを提案する『クルマの普段使いガイド』として美大生出身のデザイナー3人が立ち上げたカーメディア。既存のカーメディアにはない、クルマのマッチングサービスやカスタマイズ相談、グッズ販売、イベントなどを行っている。とにかくクルマ好きが集まり、企画や制作など20代ならではな視点で暮らしの提案をしている。

IG:@car_city_gide

photo by Misaki tsuge / text by junpei suzuki