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#05 東京都下。ありのままのユース•カーカルチャー
2024.06.25

#05 東京都下。ありのままのユース•カーカルチャー
by freeliberalist

若者のクルマ離れが言われて久しい今、なぜ若者たちが旧車のハンドルを握るのか。その実態に迫る連載『Ridin' in my car』の第5弾。本企画では東京都心部を活動拠点とする若手カークラブを取り上げてきたが、今回は東京の郊外、町田を拠点に持つ〈freeliberalist〉をフィーチャー。

20代半ばの彼らは、なぜ仲間とともにクルマを楽しんでいるのか。そして特定の車種や年代、スタイルに囚われないカークラブであるにも関わらず、メンバーの多くが旧車に惹かれるのは偶然なのか必然なのか? 一人一人の愛車を拝見しながら、その真意を探った。

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学生時代から続く、クルマ好きの集まり

若い時にクルマを手にしていたら。自分の周りにクルマの楽しさを共有できる仲間がいたら、自分の人生の歯車は大きく変わっていただろう。そう思う大人たちも少なくないのではないだろうか?

今回取材した〈freeliberalist〉は、10代後半からバイク、クルマに魅了され、我が道を邁進してる“カークラブ”。2019年ごろに結成され、現在は全員で20名ほど。20代前半から半ばの仲間たちがクルマを中心に親密な関係を築いている。

「僕たちの集まりを便宜的にいうならカークラブですけど、実際はただの友達。みんなクルマにただならぬ興味があるだけなんですよ」

そう話すのは、〈freeliberalist〉の発起人である吉田祐輝(ヨシダユウキ)さん。仕事は某輸入車ディーラーの営業を担当しているというが、彼の愛車は他社の旧車。年に何台も乗り換えながら、カーライフを謳歌しているという。

メンバーが経営する板金塗装の工場兼・同カークラブの溜まり場に、この日集まったメンバーは総勢13人。空いてるスペースに駐車できうる数のクルマがとまると彼らの好みの一端が垣間見えたと同時に、彼らの多様さも理解することができた。

彼らが集まるときの拠点は町田で、周辺の横浜、相模原界隈だけでなく、湘南や都内、中には千葉在住のメンバーもいる。東京都下、幹線道路がクロスするこのエリア独特のカーカルチャーは確かにあるようで、これまで本連載で取り上げてきた他の東京のカークラブとはまた異なる、少しトッポい雰囲気がクルマからも感じられる。

「カークラブって一定の趣味や車種が同じ人で集まってることが多いかもしれませんが、〈freeliberalist〉はまったく縛りなし。むしろ、そういうのを嫌ってるくらいで。国産車も外国車も、古いクルマも新しいクルマも関係なく、自分の好きなクルマに乗ればいいって考えです。ちょっと見た目がイカついヤツもいますけど、みんな好きなクルマに乗るためにちゃんと仕事してるんですよ。メンバーの中にはクルマ関係の専門学校で出会った奴らもいて、クルマ関係の仕事についてる人も少なくないし、公務員をやってるやつもいますね」

今でこそ職業もクルマも違う面々となっているが、カークラブを名乗りはじめた頃は祐輝さんを含めた5、6人の学生の集まり。それから互いに気の合う知人を誘って遊んでいるうちに、現在の形になっていったそうだ。

「はじめは自分たちでもカークラブできるんじゃね? っていう軽いノリでした。同世代はクルマ離れしてるし、なんか上の世代でも自分たちがかっこいいと思えるような、クルマ好きでバランスがいい人って少ないような気がして。だからカークラブを名乗ってSNSとかで発信しようと思ったんです。」

祐輝さんを中心に形作られた〈freeliberalist〉ではあるが、誰もが主体的になって動くのが常らしく、遊びの計画もグッズ作りも誰かが言い出したら、一致団結。これまでにエアーフレッシュナーやライター、Tシャツやスウェット、ステッカーなども作ってきた。


クロスの中心に書かれた『フリーリベラリスト』というこの名前は、フリマで見つけたネックレスプレートに刻まれていたロゴを祐輝さんが採用した。アメリカかどこかのカークラブだったようだが、詳細は不明。クルマの好みもバラバラ、自由度の高さが自分達らしく、〈freeliberalist〉がマッチした。

「割となにに対してもこだわるヤツが多くて、グッズを作るのにもみんなが前のめりですね。背中にロゴ刺繍をしたジャケットに関しては、それぞれ私服で使えるよう自分の好きなボディに刺繍をしています。みんな全員が同じモノを着ていたらそれこそ旧来のカークラブっぽくて気持ち悪いし、クルマと同じように服装もみんな違っててあたり前だと思うんですよね」

カークラブのテイをしたファミリー

〈freeliberalist〉の外界との接点はInstagramのみで、それは主に祐輝さんの担当。ごくたまに行われるカーミーティングの告知以外は、コメント少なに日常の写真を気ままに載せているだけのため、その実態はあまり知られていない。しかし蓋を開けてみれば、彼らは純粋にクルマに情熱を捧げる青年たち。ただクルマで集まって遊ぶというのが主な活動内容なのだという。

「僕たちの活動は基本的には遊ぶこと。大体月1、2回グループラインで声をかけて、その時暇しているやつ同士でドライブしにいったり、仕事帰りにメシに行ったり、誰かの家に集まってゲームしたり、クルマに乗りあって旅行に行ったり。クルマを置いて飲みに行ったりもするし、普通に友達とやるようなことをやってるだけですね」



Ridin’ in my car #2』で登場した〈Carservice〉は彼らの兄貴分であるそうだが、撮影用車両のレンタルの仕事やブランドのクリエイティブの案件などを紹介してもらったりしている。雑談を交えてそんな話もこの場で繰りひろげられる。

「みんな遊びに行くときは彼女や奥さんも連れてきますし、こんだけ人数がいるのに誰とでも仲がいいっていう不思議な集まり。めでたい事にはみんなでお祝いするし、逆に悪いことが起こったらみんなで説教するし、友達っていうより、もはやファミリーって感じかもしれません」

クルマの愛し方は十人十色

『都内に若者世代のカークラブは数あれど、僕たちほどクルマに対する熱量が高い奴らもそう多くないのでは?』とメンバーが口々に語る理由は、実際クルマに関わる仕事をしている人も少なくなく、技術的な面でも自分たちでクルマに手を入れられるからだろう。今回はせっかくこれだけのメンバーが集まったので、それぞれの愛車を見せていただいた。


左:栗田優(クリタユウ)さん (Volkswagen ジェッタ)/右:鈴木健太郎(スズキケンタロウ)さん (Chevrolet パークウッドワゴン 61年式)

優さんの愛車であるフォルクスワーゲンジェッタは、自身より少し年上の91年式。自身にとっては3台目の愛車だという。

「若い人たちの中でゴルフⅡも人気なんですけど、個人的にはそこと被りたくなくてジェッタが欲しかったんです。ハッチバックボディのゴルフにトランクルームを追加した、ノッチバックスタイルの4ドアセダンっていうのが個人的にツボで。マニュアルのものをフリマアプリで見つけて購入しました(優さん)」

61年式のChevrolet パークウッドワゴンを駆るのは健太郎さん。クラブの発起人である祐輝さんの大学時代からの友人で、初期からのメンバーの1人だ。

「古いバイクに乗っているうちにクルマも欲しくなって。最初はボルボの240ワゴンが気になったんですけど、僕は湘南が地元で先輩とかカッコいいアメ車に乗ってるのにも憧れてたんですよね。それでアメ車のデカいワゴンを探して、たどり着いたのがこいつ。おそらく日本に10台いるか否かってレベルのクルマですが、手入れしながらデイリーユースしています(健太郎さん)」


左:関澤陸人(セキザワリクト)さん/右:吉田祐輝さん (Mercedes-Benz 560SEC)

ベンツが描かれた小粋なニットを着ているのは陸人さん。

「愛車を手放して今はクルマは持ってない状態。メンバーたちのクルマに乗せてもらって、次の1台はどんなのにしようかなと日々考えてるところです。新しかろうが、古かろうが、クルマを持っていなかろうが、居心地よく付き合えるっていうのもこのクラブのよいところです(陸人さん)」

チームのリーダー役である祐輝さんは、取材時時点では4台所有。この日は1990年式のMercedes-Benz 560SEC。

「とにかくいろんなクルマに乗ってみたくて、半年所有するのが珍しいってくらい頻繁にクルマを買い替えてます。歴代乗ってきたクルマに共通するのは、とにかく麗にカスタムして乗ることで、一貫して街でも田舎でも溶け込めるクルマを意識してますね。あと大切なのはクルマだけじゃなく、人からかっこいいっていうこと。クルマも服みたいに付き合える方がいいんだと思ってます。古いクルマは今のモノにないデザインや操作性、音、匂いがあって、“自分のクルマって思える要素が強い”のが魅力だと思うんですが、正直新しいのも嫌いじゃありません。古ければいいとか、速ければいいとか、そういうんじゃなく、とにかく自分の乗りたいクルマに乗ることを大切にしたいですね」


左:大貫元(オオヌキゲン)さん (Chevrolet インパラ 61年式)/右:西條誠(サイジョウマコト)さん (Mercedes-Benz 380SLC 81年式)

23歳にしてすでに7台乗り換えているという元さんの現在の愛車は、61年式Chevrolet インパラ。カーコーティングを生業としているだけあって、よく手入れが行き届いている。

「18歳の頃からみんなと仲良くしていて、安いクルマを買っては乗り換えてきましたけど、2年ほど前からインパラに乗ってます。ヒップホップカルチャーが好きで、昔から一番乗りたかったクルマですし、これからもメンテを続けて一生乗る気で付き合っています(元さん)」

元さんと同じくクルマ業界で働いているという誠さんは、81年式Mercedes-Benz 380SLCが愛車。

「仲間や先輩が古いクルマに乗っていたせいもあって、現実的に俺らにも乗れるんじゃないかなってこっちの世界に(笑)。SLが王道ですが、ロングホイールベースでピラーウィンドになっているのがSLCです。少し車高を落として、ホイールをメッキにして、海沿いを走ってようが、街中を走ってようが溶け込めるように仕上げました(誠さん)」


左:伊川慧(イカワケイ)さん (Chevrolet タホ 95年式)/右:鈴木隼綺(スズキハヤキ)さん (MITSUBISHI 初代デボネア 73年式)

メンバーの溜まり場ともなっているガレージの所有者で、塗装業を営んでいる慧さんが乗ってきたのは95年式のChevrolet タホ。

「これは自分のじゃなくて、妻に誕生日プレゼントしてあげたクルマです。僕も妻もクルマの専門学校で、学生時代から安いのを弄ってきたんですが、やっぱり90年代くらいまでのモノは構造が単純で扱いやすい。自分でできる人にとっては、メンテナンス性の高さも古いクルマの魅力なんだと思いますね(慧さん)」

祐輝さんのバイク仲間で、友達付き合いの中でクルマの魅力に引き込まれて行ったという、隼綺さん。一見アメ車のように見えるその愛車はMITSUBISHIの初代デボネア。1973年式のもので、日本に現存して走っている個体は数十台程度だろうとのこと。

「デボネアの存在を知って購入を検討しはじめたのが19歳ぐらいだったんですけど、球数が極端に少なくて。その後デボネアマニアで5台所有していた666モータースのオーナーと知り合い、3年ほど仲良くさせていただいているうちに1台売っていただけることになって、今こうして乗れてます。実走行1万キロちょっとという信じられないほどのグッドコンディションの個体でしたし、これは僕が免許を返納する時まで乗り続けるつもりです(隼さん)」


左:嶋崎優介(シマザキユウスケ)さん (TOYOTA スプリンタートレノ)/右:加藤滉大(カトウコウタ)さん (NISSAN スカイライン 75年式)

TOYOTA スプリンタートレノ、いわゆるハチロクが大好きな優介さんにとって、これは2台目のハチロク。

「1台目は、4年半ほど前に状態の良いワンオーナー車を150万円という破格値で買ったんですが、事故をしてしまってボディが再起不能に。それで2台目としてボディだけのモノを買ってきて、エンジンをはじめ、あらゆるパーツを移植して今の愛車が出来上がりました。見た目はオリジナルの雰囲気を残しつつ、車高を少し下げたりして、カッコよく見えるようにカスタムしています(優介さん)」

75年式のNISSAN スカイライン、通称ケンメリのオーナーの大さんは、普段はバスの整備士。それだけにクルマの整備もお手のもので、エンジンルーム内の移設、足回りのカスタムもすべて自分だけで行ったという。

「最初は85年式の7代目クラウンに乗って、その後もクラウンを乗り継いだんですけど、旧車を知るうちに日産のL型エンジンの造形美、サウンド、匂いにやられて、それでハコスカに乗り換えました。2ドアではなく4ドアで太いタイヤを履くっていうのが自分のこだわりです。(大さん)」


左:深澤寛徳(フカサワヒロノリ)さん (SAAB 900 93年式)/右:大野光太郎(オオノコウタロウ)さん (Mercedes-Benz AMG E43 2017年式)

93年式のSAAB 900から降りてきた寛徳さんは、祐輝さんの中学時代からの友人。クルマに疎かったものの、一緒に過ごしているうちに、自分でもスタイルのあるクルマに乗りたくなったという。

「実はこのサーブは僕のじゃなくて、友達から借りてきたやつなんですよ。僕のクルマは5ドアのHONDA ワンダーシビック。今はミッションに載せ替えてもらっている最中でして、代車の軽で来るのもあれかなと思って(笑)。ちなみに僕のシビックは〈CarService〉のトキオさんがハチロクに乗り換えるタイミングで売りに出していたもので、僕が一目惚れして買ったんです(寛徳さん)」

2017年式のMercedes-Benz AMG E43に乗っているのは、ベンツのディーラーでメカニックをしている光太郎さん。

「自動車専門学校の仲間が先に仲間に入っていて、僕はそこから誘ってもらってみんなと仲良くなりました。今は千葉に住んでるんですけど、月に2、3回はこっちの方まで遊びに来てます。個人的にはちょっと古いクルマの方が好きで、前は94年式のEクラスワゴンに乗ってたんですが、今は子どももいるので安全安心に目的地につけるクルマにしようと、新しいのに乗ってます(光太郎さん)」

ライフステージの変化や気分によって乗り換えていくフレキシブル派がいる一方で、愛する1台を乗り続けたい硬派なタイプが一定数存在しているというのが、話を聞いている中でわかってきた。しかし一途なタイプの面々もやっぱり他のクルマへの興味は尽きず、セカンドカーを検討していたり、メンバーのクルマを借りてドライブをすることもよく行ってるという。

「ちょっと前まではクルマを買うときに仲間を誘って見に行くことも多かったんですけど、みんなセカンドカーとか買い出すようになってからは、誰にも言わずクルマを買って、集まる時にしれっと乗ってくるってのが恒例に。みんなを驚かせるのはワクワクするし、驚かされる側もテンションが上がるんですよね」

20人ほどのメンバーがいるだけに、数ヶ月に一回は誰かしらが新しいクルマで登場。常に刺激があることも、好奇心が尽きない理由なのかもしれない。。

発信したいのはクルマの乗り方

〈freeliberalist〉の対外的な発信は限定的ながら、彼らが育むカーカルチャーに注目しているコアなファンは少なくない。現に不定期で開催されるカーミーティングは毎回満員御礼。前回行ったコーヒーミーティングでは300台ほどが集まる事態になり、ミーティング場所の駐車場が溢れる事態に。首都圏のみならず、関西や遠くは福岡からの参加者もいたとのエピソードを聞くと、いかに全国的にも稀有なカークラブなのかよくわかる。


日が沈みゆくなか光を求めてたどり着いた大黒埠頭。クルマ好きが集まる大定番スポットのひとつ。普段あまり寄りつかないようにしてるそうだが、都内まで走りに行くというので休憩がてら夜の撮影を少し。バラエティに富んだ一団がズラリと停まると、程なくギャラリーも集まってきた。大黒といえばフラッシーなスポーツカーや族車が人気かと思えば、ヤングタイマー好きも多いようだ。

かくしてカークラブとしても注目度が増している〈freeliberalist〉だが、この先はどのような未来を描いているのだろうか? インタビューの最後に祐輝さんにその疑問を投げかけた。

「他の若い世代のカークラブみたいに、クルマの売買やメディア、アパレルの展開をやっていこうっていう意識はあんまりなくて。僕たちはみんなで楽しくやっていればいいかって感じなんです。だけどクルマに対するこだわりとか、クルマ自体のクオリティっていうのは個々にかなり高い。だから、こういうクルマの乗りかたってカッコいいでしょ? っていう発信は続けていきたいです。」

外にひろく開くのではなく、クラブ内で親密にクルマを介した絆を育む。クルマに情熱を捧げる仲間同士が影響し合い、自分のスタイルを磨き上げてくというのが今の彼らだが、5年後、10年後、彼らはどのようなコミュニティになっているのだろうか。育まれたその先の活躍が辿れる日をまた、心待ちにしたい。

freeliberalist
東京・町田を拠点に持つカークラブ。2019年、吉田祐輝さんを中心とした、クルマ好きの学生により発足。基本的には友達の延長にあるクローズドなコミュニティだが、Instagramで日常の姿を発信し、不定期で開催されるカーミーテティングで、クルマ好きとの交流も行っている。
IG:@freeliberalist

photo by Misaki Tsuge / text by Junpei Suzuki / edit by Mariko Ono