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カルチャーオタクがはじめた、クルマとファッションのレーベル
若い世代によるカークラブでありブランド。アパレルやカー用品もプロデュースしているかと思えば、Instagramではひたすらクルマのあるストリートの風景を切り取る。〈CarService〉とは、本人たちに言わせれば、クルマとそれを取り巻くカルチャーとのタッチポイントを作るレーベル。……ということらしいが、その本人たち以外は実態を正しく認識できている人が少ないかもしれない。
「〈CarService(カーサービス/略称:カーサビ)〉の始まりは僕が学生だった2014年。最初は生活していて見かけたかっこいいクルマを写真に撮って投稿するただのInstagramアカウントでした。例えば〈Shibuya Meltdown〉って、街で泥酔している人の写真を投稿しているSNSアカウントがあるじゃないですか。ノリとしてはあんな感じで、街中に停まっているかっこいいクルマを、ナンバープレートも隠さずに投稿しちゃう。それがリアルで面白いんじゃないかなと思って、結果10年近く続けています」
そう語るのは、カーサビをはじめた張本人である橋本奎さん。愛車である98年式の「NISSANグロリアバン」には、〈Billet Specialties〉のステアリングや、ホイールメーカー〈IMLA〉とのコラボで鍛造オリジナルホイールでアレンジされ、国産車とは思えない雰囲気。揃いのスタジャンと相まってアメリカンカルチャーを鍾愛してやまない感じが伝わってくる。
「僕がクルマや音楽、ファッションに興味を持ったのも親父の影響が大きくて。子どもの頃、父はよくロサンゼルスへ出張に行っていて、僕へのお土産として毎回ホットウィールを買ってきてくれたんですよね。クルマ好きの親父を見てきたからか、ホットウィールを集めていたからか、とっぽいカスタムカーの感じが好きになって。それで、カーサビのロゴマークもホットウィールのロゴからサンプリングしたものになってます」
クルマの写真が並ぶInstagramアカウントとして始まった〈CarServis〉が、ファッションと融合しはじめたのも、橋本さんが文化服装学院でデザインを学んでいた頃。インクジェットやシルクスクリーンを使う授業で、クルマをネタにしたグラフィックを作り、その延長で自分用にカーサビTシャツを作りはじめたそうだ。そして卒業後は販売員として働くかたわら、趣味でプリントTを作ったり、ワークウェアをリメイクして、カーサービスのロゴを付けてブランド化。知人のショップなどでPOPUPを展開したことでカーサビがSNSの枠を出て、リアルの世界と繋がり出した。
そんなカーサビが生まれてからもうすぐ10年。最初は橋本さんひとりだったプロジェクトに仲間が加わり、カーミーティングも開催するまでに。そして現在はアパレルのみならず、シャンプーやエアフレッシュナーなどのカーグッズ、2022年には、レーシングカーのディレクションに携わるなんて企画も。モノとコトの両面から活動の幅が広がることで、カーサビとしての認知度も拡大している。
「2020年から数シーズン、カーサビとして改めてオリジナルアパレルの展開をして、結構メディアで紹介していただいたり、POPUPもさせていただいたんですが、その影響でカーサビ=アパレルブランドって捉える人が増えたように感じます。表現が難しいのですが、カーサビが目指しているのはブランドではなくてレーベル。それ自体が目立つのではなく、カーサビという媒体(仲立ちするもの)を介してクルマとカルチャーを繋げて盛り上げる存在になれるよう、最近は意識しています。
それに、周りに本気で洋服を作っている人たちがいるので、その手前、僕らがファッションブランドを気取ることに少し烏滸がましさも感じてきて。だから、モノを出すときはコラボレーションが基本となるようにして、ミックスドメディア的な立ち回りができればと思っています」
それぞれの旧車の楽しみかた
現在カーサビに関わっている仲間は5人。共通点はクルマ好きということだけでなく、ファッションやカルチャーに興味を持っていること。それぞれに己が信じるクルマ美学を持ちながらも、クルマはすべてのライフスタイルに繋がるハブとして付き合っているように見えた。メンバーのうち4人が集まったこの日も、クルマ談義よりも、最近ハマってることや手に入れた服の話に花が咲く。そんないつもの集まりに混じらせてもらったついでに、ここでは少し、各々の愛車を見せていただいた。
まずは、橋本さんが立ち上げたカーサービスの良き理解者であり、初期からのメンバーでもある谷中誠さんが乗るのはTOYOTAのセラ。
「僕は奎の中学時代からの友達で、互いにヴァンズを履いてたのがキッカケで話すようになって、当時から一緒にオートサロンにいったり、ゲーセンで湾岸ミッドナイトで遊んだりしてました。僕も東京出身ですが18歳になったら免許を持って、すぐに格安のNISSANセフィーロに乗りました。すぐに事故って廃車にしましたけど(笑)」
2桁ナンバーの車両を維持して乗り続けるために本日は仮ナンバーを借りて参加した谷中さん。リアハッチから、こだわりの装飾品であるノスタルジックな毛ばたきを取り出して微笑む。
「個人的には80年代から90年代にかけて作られたバブリーな時代の日本車が好きで、今乗っているセラなんかはまさに日本人が夢見た近未来のクルマ。バタフライウィングやハッチもですが、後部座席にある『ファンキーモード』って名付けられた流線系の純正オーディオやマットやレースカバーの、近未来な世界観に漂うレトロなところもお気に入り。なんというか、機能というより雰囲気や勢いで作られた時代のクルマって感じが堪りません」
そんな谷中さんと橋本さんが20代半ばに共同で購入して、しばらく2人のシェアカーとして使われていたのが、現在橋本さんが乗っているグロリアのステーションワゴンタイプ。
「これは98年式ですが、7代目グロリアの基本設計は昭和のままで、昔のクルマらしい硬質な雰囲気。ロングセラーの日本車をあえてローライダー風に車高を落として乗って、なんちゃってアメ車にしてるのがポイントです。5年ほど前にオークションで15万円で買ったんですが、いまだにちゃんと走ってくれます」
アタッシェドプレスの会社に勤めながら、セレクトショップのクリエイティブディレクターも務め、さらにはスタイリストとしても動いている橋本さんにとって、グロリアは用の美。自らのスタイルが反映されている。
真っ赤な「TOYOTA スプリンタートレノ GTV」に乗っているのは、前出の2人と同い年の伊藤トキオさん。通称ハチロクはイニシャルDでもお馴染みだが、彼も例に漏れずイニDファンだという。
「以前は真っ赤なシビックに乗っていたのですが、2年前に長年探し続けたハチロクに乗り換えました。他のメンバーに比べてちょっと走り屋っぽさがあるんですが、レカロのバケットシートに4点式のベルトも装備。ハチロクでサーキットをドリフトするという、子どもの頃からの夢を実現した愛車ですね。エンジンもオーバーホールして丁寧にレストアしてもらったので、大切に乗り潰そうと思ってます」
そして、スポーティな「Porsche 964」に乗るのは、グラフィックデザイナーであり、カーサビのデザイン担当である笹目千晶さん。メンバーの中で唯一の既婚者で子どもが一人、後ろにはチャイルドシートと空冷エンジンを積んでいる。
「東京に出てくる前からクルマいじりは好きで、昔は地元で結構うるさいカスタムしたクルマに乗ってました。だけど歳をとって価値観も変わったし、都市部の生活に合わせるという意味でもちょうど良かったので、今は昔から欲しかった964に落ちついてます。ポルシェは眺めてもいいし、乗っていて楽しい。東京でクルマに乗るっていうと実用面で語られることも多いですが、僕を含め、みんな趣味グルマだから、わざわざ苦労しながらも乗ってるんでしょうね」
時代の曲がり角で、なにをどう楽しむか
時間的にも金額的にも、多くのコストをかけてまで都市部で旧車に乗る。〈CarService〉のメンバーたちはその行為を続けているが、趣味だから成せる技だと笹目さんは自評する。
「長くカスタムカーに乗ってると、クルマ趣味を続けるっていうのはある意味難しいと感じることがあります。気分的な波は絶対あるし、僕の周りでも飽きて手放してる人も結構見てきました。その点、僕たちは他の趣味とバランスが取れてたりするから、好きで居続けられるんだと思います」
好きな音楽や映画から影響を受けて洋服・クルマに熱中することになった……。カーサビはそんな男たちが集うカーレーベルだからこそ、発信するのはクルマだけでなく、カルチャーも含めたもの。それがサスティナブルなクルマ愛を育んでいるのかも知れない。またインディペンデントな活動であり続けられるのは、それぞれが別に本業を持っているということも大きいだろう。
「僕らもこれで積極的に利益を作っていこうとは考えてなくて、結局、若い子や洋服が好きな人にクルマに興味を持ってもらったり、おしゃれをするモチベーションを上げるための接点が作れればいいかなと思います。所有はしないけどクルマ好きって人は結構いますし。反骨精神じゃないですけど、とにかく僕は好きなモノを認めて欲しいって想いでやってます。好きなモノに対して、素直になっていいんじゃない? って若い人たちに伝えたいんですよ。見たり聞いたり調べたり、いろんなモノを吸収して自分に厚みが出てくると、さらに楽しい世界が待ってるはず」と、橋本さんも語る。
途中からはインタビューというよりも、座談会の様相を呈した今回の取材。その最後に、カーサービスの活動で今後どんなことをやっていきたいのか、各々に語っていただいた。
「クルマ好きには自分たちよりもずっとこだわり持ってやってる人いっぱいいるんで、そんな人たちと僕たちみたいなのが絡んでいければ面白いと思って。それが前にやったレーシングカーのディレクションだったり、カーアクセサリー作りだったり(笹目)」
「今ってガソリン車で遊べる最後の世代だし、そういう意味でも今遊ばなきゃ損。『いいクルマに乗って女の子と遊びに行くのがカッコいい』っていう昔ながらのノリもいいと思うんですよね(谷中)」
「ある特定の嗜好を持ったクルマの集まりじゃなくてノンジャンルのカーミーティング。それにファッションや音楽といった要素を盛り込んで、興味がない人が来ても楽しめる。いつかはそんな場を設けたい(伊藤)」
「なによりまずは、クルマというモノに固執せず、ミックスドメディア的に活動していくこと。僕らが好きなモノをいろんな人に伝えられるのって幸せなことだし、CarServisの活動は長く続けていきたいですね(橋本)」
クルマの写真が日々無言でアップされているInstagram。クローズドで開かれるノンジャンルのカーミーティング。仲間たちと作り上げるプロダクト。〈CarServis〉は雄弁に物語らないタイプだが、こうして話を聞いてみるとその行動に腹落ちする。
関わり方によってさまざまな表情があるクルマというモノを、どんなアプローチから楽しむのか? その問いに対して、彼らはこれからもその背中で語っていくのだろう。
CAR SERVICE
20,30代のクルマ好きのメンバー5人からなる、カーカルチャーとファッションを融合したレーベル。Instagramではメンバーが気になったクルマのスナップを投稿。イベントの開催。アパレルやジュエリー、カーアクセサリー、パーツなどをプロデュースして販売を通じて、クルマに興味を持つきっかけを提供している。
IG:@_carservice
photo by Misaki Tsuge / text by Junpei Suzuki / edit by Mariko Ono