富士山麓の森に遊び、生きる力を育む
04 life

富士山麓の森に遊び、生きる力を育む

佐藤厚明(ネイチャーガイド/〈ジュカの森〉アクティビティ責任者)

〈富士スバルランド〉の一角に、〈ジュカの森〉という、子どもたちのための学びの森がある。森の中に秘密の基地を作ったり、小さな洞窟を探検したり、動物の足跡を追いかけてみたり、みんなで火おこしを体験したり、「学び」の内容はさまざまだ。子どもたちは五感をフルに働かせ、都会では味わえないウィルダネスを味わう。そんな〈ジュカの森〉の発足に携わったのが、富士山麓でネイチャーガイドを務める佐藤厚明さんだ。

なお、今回の取材は富士山麓に拠点を構える〈アミューズ〉がプロデュース・運営するレーベル、〈Under the Tree Club〉の協力のもとに実施された。〈Under the Tree Club〉では、さまざまなカルチャーを媒介に、都市と自然をシームレスにつなぐコンテンツを制作している。

» Fuji Hokuroku , Yamanashilife

原点は、幼少期の里山遊び

富士吉田市出身の佐藤さんは、子どものころから野山遊びが大好きだった。アウトドアマンだった父に連れられ、週末はキャンプへ、海へ。余暇のほとんどを屋外で過ごした。高校卒業後、整備士になったが、大好きな自然に関わる仕事を諦められず、富士山の登山ガイドをしていた友人のつてを頼ってネイチャーガイドに転身した。

「当初はキャンプ場のスタッフとして働きながら、先輩ガイドについてガイド業見習いをしていました。キャンプ場では設備メンテナンスを主に担当していましたが、来場者の飯ごう炊さんの手伝いをすることもありました。その時にびっくりしたのが、都会の子どもたちは自然のことを全く知らないということ。マッチをすることはおろか、炎さえ見たことがないという子がほとんどでした」

聞けば、都会の公園では「危ないから」という理由で遊具が撤去され、ボール遊びも禁止されているという。自身の子ども時代はといえば、山の中や収穫後の田んぼの中に、藁や木の枝で基地を作ったり、サワガニを捕まえたり、意味もなく山に穴を掘ったり……。幼少期を振り返ってみて、そうした数々の野山遊びの経験が現在に生かされていると感じた。現代の子どもたちにも自然の営みを知ってほしい、そうした体験の場を提供したいと、“学びの森”の整備を始める。

「実は、富士宮市でそうした場所を作っていたのですが、〈FUJI GATEWAY〉のアクティビティプログラムに携わった縁をきっかけに、富士スバルランドにある森を託してもらえることになったんです」

佐藤さんが整備した〈ジュカの森〉では、子どもたちの屋外での遊びや作業に応じて、『リーフ』という地域通貨が支払われる仕組みだ。これは施設内で利用できる通貨で、たとえば穴掘りの対価にリーフをもらい、それでマシュマロを購入して焚き火で炙って食べる、なんて使い方ができる。最近ではリピーターも増え、袋いっぱいの『リーフ』を持って戻ってくる子どもも少なくない。

「倒木を薪に加工して火を起こしたり、棒をもって思いっきり走り回ったり、夜に森の中を散策したり、〈ジュカの森〉ではいつもより少しだけ危ないことに挑戦できます。五感を駆使した体験を通じて、樹木や野生動物の知識、サバイバル技術などを身につける。こうした原体験は、子どもたちの生きる力を育むはずです」

ニュージーランドの森でサバイバル

一方、プライベートでも山歩きや釣り、キャンプを好み、オフのほとんどをアウトドアのフィールドで過ごしている。コロナ禍には、ニュージーランドの森でウォールデンに倣うかのような“森の生活”を経験した。

「ガイド業に必要な英語のスキルアップを兼ねてニュージーランドに渡り、向こうで働いてお金を貯め、念願のロードトリップに出かけました。ところがタイミング悪く、旅を始めて1週間ほどでコロナ禍に突入してしまい、ロックダウンに……。ロックダウン中は指定されたホテルかキャンプ地に滞在しなくてはいけなかったのですが、ホテルはもちろん、キャンプ場もびっくりするほど利用料が高いんです。それで、友人と森の中に逃げ込んで自給自足生活を送ることにしました。朝起きて、魚を釣り、薪を集め、キノコや食用の草を探す毎日。サバイバル技術が向上しましたね。趣味で木のスプーンを作っているんですが、このときはひたすら木を集めて削っていました。時間だけは無限にあったから。野生のウサギが走り回っていたのでワナを仕掛けて、そろそろ獲物を回収しにいこうかというタイミングで、僕たちが騎馬警官に捕まってしまった(笑)」

森を追い出された後は、ガソリンスタンドで声をかけてくれた親切なニュージーランド人の家の居候になったというから、人の縁にも恵まれているようだ。

「彼の家に1ヶ月ほど滞在して帰国しました。結局、念願だったロングトレイルも歩けていないし、ロードトリップも道半ば。ニュージーランドでやり残したことはたくさんあるので、タイミングが合えば旅の続きに取り組みたいと思っています」

愛車のボンゴバンで、いつかは北海道一周

そんな佐藤さんの愛車が、98年式ボンゴバン。ナンバープレートの分類番号(運輸支局の地名の横の数字)がなんと、2桁!

「隣人の倉庫に長く眠っていたクルマです。熊本の震災時、キャンプ場にあった余剰テントを被災地に届けようと思って、荷室の大きなこのクルマを借りました。山梨・熊本間の長距離ドライブでこのクルマにすっかり惚れ込んでしまい、ご近所さんにお願いして譲っていただいたんです。荷物も人もたくさん運べるし、フルフラットになるので車中泊にも最適。走行性能も申し分なく、山や悪路で底力を発揮します。山を登る時に車中で前泊したり、妻とロードトリップに出かけたり、仕事に、遊びに、大活躍してくれています」

ボンゴバンで実現したいこととしてあげてくれたのが、北海道一周旅。

「フェリーに乗って北海道へ渡り、道内を周ったら、復路は陸路で。途中、東北に立ち寄り、車中泊しながら青森や秋田で山歩きも楽しむ。そういう旅が気楽でいいですね」

クルマ旅にハイクの要素を取り入れることで、移動のプロセスも旅先でのアクティビティも充実する。佐藤さんらしい要素を詰め込んだハイブリッドな旅が、北海道や東北の知られざる魅力をもたらしてくれそうだ。

佐藤厚明 (さとう・こうめい)
山梨県富士吉田市出身。アウトドア好きの父の影響で、幼い頃から野山を駆けめぐって育つ。25歳のとき、キャンプ場スタッフとして働きながらネイチャーガイドに転職。2019年、英語のスキルアップのためニュージーランドへ。専門は子ども向けの自然教育や自然体験で、帰国後は〈ジュカの森〉を中心に活動中。そのほか、夏の富士山登山や富士山麓のガイドを務める。鉄砲の免許をもつ猟師の顔ももつ。
IG:@comee2236
https://jukanomori.com

Photo by Kenichi Muramatsu / Text by Ryoko Kuraishi / Edit by Mariko Ono