column
深く地域に根ざすことでしか見えない景色と
外からの視点も持つことのバランス
村松:さて、本日のゲストは引き続きプロデューサーの渡邊桂志さんにお越しいただいております。 前編では、少し前に開催した「NEST CARAVAN 2025」のコンテンツについて振り返りながら、今の時代における移動とは?みたいな話をしました。後編では“移動した先に、その地域に根ざすこと”について掘り下げます。僕も桂志さんも東京ではないところに拠点があり、日常的にすごく移動していますので、地域に根を張る、根ざす、ということやその先の話もできたらなと思います。 では、ではよろしくお願いします。
渡邊:お願いしまーす。
村松:桂志さんは、今は東京に自宅がありながら、山梨にも拠点を持っていますが、山梨に拠点を持ち始める直前に、僕の長野の自宅に遊びに来てくれましたね。あれは、お家を探してた時期でしたっけ?
渡邊:探してもいた。うん。探してた時だね。
村松:桂志さんのことは、すごい前から知ってはいながらも、距離が近づくひとつのきっかけでもあったような気はしました。突然泊まりに来るという。
渡邊:うん。しかもほぼ元旦から。家族のいる人んちに押しかけるという(笑)。しかも犬と娘を連れて。
村松:(笑)。当時、我が家は長野県の駒ヶ根にあって、今の東信エリアの御代田町に引っ越す前でしたね。その後、桂志さんも山中湖に拠点を持って、今は行き来しているんですよね?
渡邊:そう。気持ち的には半々。東京と山中湖、あと北海道にも事業拠点があるから、その3つを行ったり来たりしている感じ。
村松:これまでこの番組でも、二拠点、多拠点を行き来している人たちには数々ゲストに出ていただいて、複数の拠点を移動しながら暮らす魅力は話してきました。かつては僕も東京と長野で二拠点で行き来してましたけど、どちらかというと今は御代田町に、根を下ろしつつ、出稼ぎに東京に来ているっていう形で。桂志さんも日々行き来はしていると思いますが、結構山梨に根ざしつつあると思うんで。移動していたフェーズから、根ざすフェーズになって何が変わったか、みたいなことを話していきたらなと思います。僕も話したことない話ですけど。
このテーマで、桂志さんが話しようよって言ってくれた理由はどの辺にありますか?
渡邊:前編でもちょっと触れたんですけど、移動っていうと、「立ち止まった所で深く根ざす」というよりは、「いろんな所を立ち寄りながら移動していく」みたいなニュアンスがある。だけど、自分自身はただただいろんな所に「行きたい」っていうより、いろんな場所で何かを発見したり、いろんな人に会ったり、何かを知りたいっていう気持ちが強い。そうすると、興味を持った場所で、自分ごととして何かを根ざしていかないと、やっぱりいい出会いとかいい知識とか、いいものには出会えないなっていうのは経験上なんとなく思ってきた。なので、まあなんか紙一重だなと思う。
移動を繰り返すと、いろんな所に行けるけど、そこをただ通過してしまうことにもなりかねない。でもじゃあなんで移動するのか。それぞれに移動の目的ってあるわけで、自分にとってはそれが“創造的野性”っていう、自然とか森とか山とかに触れることで芽生える感性。そういったものを持っている人たちに出会って、自分もそういうものを養っていきたいっていうのがあるかな。

でもやっぱり、ただ半日その場所にいただけでは、上っ面なものでしか見えないし、地元の人と深く関わり合って知り合えることもなかなか難しいなっていうのもあって。だから、そういう意味ではある程度深く、もう少しちゃんと根ざしていくっていうことを、今のフェーズとしては目指したいなと思ってる。まずは、自分のもう一つの拠点である山梨・富士北麓のエリアで、自分が何ができるかみたいなことを、今はいろいろチャレンジしてるというフェーズですかね。
村松:今いくつか話が出ていましたけど、一つトピックにあった、「訪れた地域でより深くその地域を知れる、持ち帰る」みたいなことに対して話すと。例えば、自治体が作る観光名所を巡る旅行ももちろんいいんですけど、どちらかというとその地域に暮らす人たちの日常に入っていくというか、その人たちが見たり聞いたり食べたりしているものを同じ目線で味わう、そういうところに、どこか新しい場所に訪れることのモチベーションはありますよね。日本に訪れている観光客の一部でも、そういう体験をしたいっていう人たちは増えてはきていますね。だから、かつての旅行プログラムにはなかったような、今までの来訪者があまり入り込まなかったレイヤーなところに、何か地域の体験とかコンテンツを用意することが増えてきましたね。
渡邊:うん。 絶対そうだし、東京にいてもすごくローカルなお店に普通に海外の旅行の方たちが結構いたりとかして。なんでこのお店を知っているんだろう? と思って聞いてみると、「口コミで」とか、「メジャーじゃなくて、なるべくローカルのお店に行きたくて調べて来たんだよ」みたいなことをよく聞くし。そういえば自分も海外に行った時に、有名なところばかりじゃなくて、どちらかというと行った先における郊外のなんかいいところ、みたいな場所を探して行くなと思ったり。でも日本って結局あんまりそういう部分にまだ気づいてない。地方の人が自分たちのエリアの魅力になかなか気づけてないってよく言うけど、それと一緒で、そういった部分にまだまだ可能性を秘めているなと思う。
村松:そうですね。僕も東京に結構長い期間住んで暮らしていましたけど、2016年ぐらいから拠点そのものを長野に移して、住民票を移してからは10年近いのか。
ある地域に根ざすとか留まって、その地域のローカルの歴史とか物語に数多く触れていくと、その地域に対する解像度が上がっていく。そうすると、他の地域を訪れた時にも、ちょっと新しい見方というか、共通の切り口で見ることもできるし、今までかけてこなかった新しい眼鏡をいくつか持って地域を見れる。またちょっと入り込み方とか、踏み込み方が変わるなっていう風には思っています。東京にいても別にそのメガネは持てた気もするんですけど、そうではなかったっていうのは結構個人的には感じたりしていますね。選んでいるようで選ばされてたっていうことなのかもしれないし。
渡邊:そうだね。やっぱ与えられた情報と、自分が取りに行く情報、そこの差が決定的に違うかなと思う。
村松:うん。まあ、根ざすと根ざすで、見えてくるものも人との関わりも違うし、ちょっと話は逸れるけど、僕で言うとやっぱり根ざしたからこそ米作りまでできたり。そこはちょっとまた違うフェーズにいった気はしますね。
渡邊:そうね。俺も山梨にいて、村松も長野にいて、東京から来たみたいなニュアンスだと、やっぱりなんかはじめはよそ者じゃん。それが旅行者だと「旅行者」で終わるんだけど、そこに拠点を持ってきた人って、「よそ者」になるじゃん。旅行者じゃなくて(笑)。
村松:そうですね(笑)。
渡邊:よそ者ってなんかちょっとどっちつかずなネガティブなニュアンスというか。地元にも属してない、でも旅行ですぐ帰るわけでもない。なんか東京からやってきて、あそこにずっといるけど、あの人何? みたいな。
でも、そういう人もその土地とかエリアとか、そこに根付く役に立つ何かものを持っていたりする。いわゆる黒澤監督の映画とかにあるような、流れ者の侍たちが村に来てはじめはよそ者で扱われてるけど、最終的には村を救う。みたいな、その移り変わり、よそ者がそのコミュニティに完全に入っていく過程と、入ってからその人たちの持つ何かがその地域のために役立つ存在に変わっていくみたいなものは面白い。

村松:今は結構よそ者感はないんですか? とはいえ、でも行き来していて……。
渡邊:行き来しているから、相変わらず俺はハーフ山中湖村民だし、住民票は東京なのだけど。でもやっぱりそれでも自分が今までやってきたことが、この人こんなことができる、できそうな人なんだなっていうのに繋がって、ちょっとずつ山梨のエリアの人たちにわかってきてもらえている。「こういうことで困っているんだけど、なんか形にしてもらえたりできないの?」とか、そういう相談をいただけることがちょこちょこ増えてきた。それが結果的に、自分にとっては仕事になるので、その場所でちゃんとお金を得ることができるっていうところで、そこにいる理由になるじゃん。仕事があるからこそ、そこに居れるっていうのもあるし。で、その仕事とか活動を通して、またいろんな人たちと出会ったり、知ってもらえる。さらにまたそれが違うものに繋がっていく、みたいな。どこかで殻というか、ハードルみたいなものを越えると、そこからは結構早いんだけど。

旅行者からよそ者になって、よそ者から地元の人みたいになって、それから地元のためになる人みたいになって……。という、そのフェーズの移り変わりみたいなものが面白いし、結局よそ者である以上、周りからあんまり近づいてきてもらえなかったりもするから、情報もそうだし、人間関係とかもそうだし、自分からどんどん近づいていって、自分を知ってもらう。そうすることで、コミュニケーションできるようになると、意外とそこからはいろいろ進むのが早くなるみたいな。
村松:じゃあ今は、地域のために自分の職能やネットワークを生かして、いくつかプロジェクトを始めたり、始めようとしているんですか?
渡邊:そうですね。元々山が好きで、山登り、山歩きが好きで、山梨に拠点を持ったっていうのがあるから、そういうものを生かしてイベントをやったり。
今は色んなネットワークを生かして、地域の施設とか物件の再生プロジェクトだったり、ローカルプロモーションだったり、そういったお話をちょこちょこいただけるようになってきて。特に、自分が住んでるのは富士北麓で富士山という資源があるので、そのエリアで何かをやりたいっていう風に思っている外の人たちと、地元を繋ぐような役割もできるようになっているし、いろいろ可能性はすごく広がっているなと感じています。
村松:半々ぐらいですか?
渡邊:うん。もう気持ち的には完全に山梨県民の気持ちなんですが、住民票も移せていないのでそこまでは言えないけど……。気持ちはかなり偏っています。
村松:移住しない理由はあるんですか?
渡邊:やっぱり、家族。子どもの学校の問題というか。上の子はもうすぐ成人だし。子どもたちが2人とも成人したら山梨に完全移住したいなと思っているけど。
村松:富士吉田、あそこは山中湖村?
渡邊:山中湖村。
村松:村か。そんなに自治体同士で壁がある感じではないですか?
渡邊:いや、そこはちょっとこういうものを通して言うのはなかなか難しいんだけど、やっぱある(笑)。
村松:(笑)。意外にあるんですね。そっか。なんか富士山もあって、富士五湖もあってって意味ではなんか外から見ると一つの地域として、認識しますけどね。
渡邊:やっぱり山梨の中でも、甲府側と富士山側とでもやっぱりいろいろなものがあるっていうし、富士山の麓のエリアでも、やっぱりそれぞれはなんとなくあるような気はするけど。だからあえて自分は山中湖村ですとか、どこどこですっていうよりは、富士北麓に半分住んでて、そこでいろんなことをやっていますっていう言い方をあえてしてる。
そういういろんなものを取っ払って考えられるのも、外から来てフラットな視点を持ててる立場だからこそだなとは思う。し、基本的に俺は街とか文化とか産業とか、そういうものが好きで今の場所にいるというよりは、山、湖、川、森という自然資源が好きでいるから。そういったものに対してのネガティブな感じっていうのは……、山梨に拠点ができて6年だけど、そんなにないかな。そのメリハリがつくれているっていうのが、そうならない理由なんだと思うけど。
村松:僕結構最近地域のこと、1、2年前とは違うフェーズに来ている気がします。御代田待ちのことを色々やりたいっていうのはもちろんありますけど。色々巡って最後この土地で歳くって死んでいくし、地域のみんなと一緒に年老いていくのは楽しそうだなぐらいな感じがありますけどね。
渡邊:そう。そこの根ざして、根ざしすぎるとまた人間関係とか、人が集まって関係性が深くなってくると必ず出てくる色んなしがらみみたいなものも結局感じてきちゃうから。そこがなんか難しいなとは確かに思う。俺はどっちかって言ったら今住んでいるのは山の中の別荘地帯の中の一つの家に住んでるから、普通に自分が暮らしていく中での人間関係とか、そういったことはあんまなくて。
そういう部分でのエリアとの付き合い方ができてるっていうのはそれはそれですごくラッキーだなというか。元々それは自分が望んでたからそうしたんだけど。あえて街には住まずに、山の方に住む。だからそういう不便さはもちろん全然あるんだけど。
村松:そうですね〜。そう言った意味では御代田は移住者が多いから東京とか海外で行き来している人もいるし。そういう意味でのドローカルのある種の根強いコミュニティ感みたいなのはないのは楽は楽ですね。もちろん入ってる区次第で、もちろん御代田にもしがらみはあるんでしょうけど。
今御代田町に住んで5,6年ちょっとですけど、町民のみんなと比べると、根ざしてるわりに外にもめちゃくちゃ出てる気がするんですよ。いい意味で、東京にも適度に来ているし、駒ヶ根の家も残していて、ガスが溜まりづらい状態になってるというか。当然、根ざしているがゆえのコミュニケーションとか地域との関わり方っていうのがあるんで、難しい話だけど。
渡邊:根ざしきっちゃいけないんだよね、やっぱね。
村松:どうなんでしょうね。そこを100%否定するつもりはないんですけど、少なくとも今の僕は根ざしきらないような絶妙な位置でいるのは間違いないですね。
渡邊:いや、そうそう。それは絶対大事で。だから俺も東京も北海道も行ってるし、他のいろんなエリアにも未だになるべく行くようにしてる。移動して立ち寄った場所で、何か拠点を据えて根ざしていくことは必要なんだけど、ローカルとの付き合い方、コミュニティとの付き合い方みたいなものをちゃんと自分で学ぶことも必要。でもそこに根ざしきるよりは、そうしながらも我々は移動という概念を忘れずに、常に新しい付き合い方を模索しながら、やっていくことがすごく大事なんだろうなとは思う。
村松:うん。そうですね。多分その根ざしている人たちが受け継がないとなくなってしまうものが、特にここ10年、20年、多分各地域にめちゃくちゃ埋もれていて、そういうものをないがしろにしたいとは思ってないので。ただ、そういうものも含めてどうしていくんだろうって意味では少し外も覗きながら、根ざしている地域の様子も見ながら、どういう方法があるんだろうっていうのは模索したいなと思いますよね。
渡邊:うんうん。
村松:みたいな。結果、何の取り留めもない形で今、後編を終えようとしていますけども。
渡邊:(笑)。でもなんか、何かが動くとやっぱエネルギーが生まれるじゃん。動かないでエネルギーって生まれないんで。根ざしきるっていうのは、やっぱエネルギーが出なくなるというか。だからフィジカルに動くことだったり、デジタルに動かすこと、発信することだったりとか、それはどっちにしても必ずそこにはエネルギーが伴うので。自分たちが動いたり、発信することによって起こるエネルギーを、いろんなところの為にどう良くしていくかを考えられるのって、やっぱ我々がやるべき、やるべきって言ったらちょっと大げさだけど、すごく大事なことなんだなと思うから、動き続けないといけない。いろんなエネルギーをいろんな場所に運ぶっていうのが移動人の使命だと思う。
村松:おっ、まとめました(笑)。素晴らしい。さて、ということで、そろそろお時間なので今週はここまでです。隔週にわたってお届けしましたけども、改めまして桂志さんありがとうございます。
渡邊:ありがとうございました。
渡邊桂志 (わたなべ けいし)
1995年立教大学卒業後、株式会社伊勢丹に入社。2003年〈トランジットジェネラルオフィス〉に参画し、ケータリング事業を立ち上げ、2008年には同社にてイベントやクリエイティブの企画を行うトランジットクルーを設立し、代表取締役に。2020年、〈株式会社ongo〉を設立。 現在は、ランドクルーザーハイエースのトップディーラーである〈FLEX〉の新規事業である、〈Moving Inn〉のプロデューサーを務めるほか、都市と自然をつなぐさまざまなプロジェクトの開発を行っている
IG:@kcwtnb
photo by Eriko Nemoto