column
山と海、静と動を行き来する
土地柄で変わるマインド、それぞれの良さ
村松:さて、本日のゲストは引き続き、ジョン君こと『ist(イスト)』事業責任者である興梠泰明 (こうろき やすあき)さんにお越しいただいてます。
興梠:よろしくお願いします。
村松:よろしくお願いします。 前編は『Hut(ハット)』のデッキで収録したのですが、後編は中に入って、リビングで収録していきます。もしかしたら、ロフトにいる子どもたちの声が途中で入ったりすることもあるかもしれません。 前編では、istを通して、実現したいことをHutと呼ばれる小屋づくりと紐付けながら、お話しいただきました。後編では、自然の中での体験をどう日常に持ち帰るのか、そもそも都市と自然を行き来することの魅力って、何だっけ? みたいなことを掘り下げていけたらと思います。
前編で少し話してましたけど、今の住まいは葉山ですか?

興梠:そうです。葉山に引っ越しました。今年の1月、2月ぐらいか。
村松:そうすると、自宅の葉山と職場があるこのist、つまり、長野と神奈川県の葉山を行き来している感じですか?
興梠:そうですね。だいたい、1ヶ月の半分半分ぐらいの比重で行き来しています。
村松:会社は東京?
興梠:本社はそうです。僕がやっている『ist』っていう事業は、この長野と佐渡島にあるので、僕自身は葉山に住みながら、長野に行ったり、佐渡に行ったりと、転々としています。
村松:葉山から東京に出勤するのはあまりないんですか?
興梠:あまりないですね。とはいえ、対面でミーティングしたいことがあれば、東京に出ることはあります。葉山にいても1人でリモートしているだけなので、誰かと会って刺激を受けたりとか、情報をインプットしに東京に行くことはあります。
村松:葉山は、もともと住みたかった場所なんですか?
興梠:興味はありました。ずっとアンテナを張っていた場所です。この長野のistを立ち上げる前は、東京に住んでいたんですけど、立ち上げに向けてこっちに引っ越してきて、3年ぐらいはこのキャンプ場がある長野県の野辺山に暮らしていました。ある程度、事業として走れるようになってきて僕自身がずっといなくてもいいかなって。それから、ist自体もキャンプ場に限らず、違う事業形態として展開していきたいっていうことをずっと考えていたので、その一歩を踏み出すためにも、自分自身、違うところに拠点をもって、そっちで仕事ができる環境を整えようっていうのもありました。そこでずっと気になっていた葉山に引っ越ししたという背景です。
村松:趣味がサーフィンということで、海のそばに住みたかったんですか?
興梠:そうですね。海の近くに住みたいなぁっていうのがずっとあって。でも、やっぱり長野に住んでいる期間も長かったので、森を感じられる場所にも身を置きたいなというのもあリましたね。それを考えると葉山って、どっちもあるんですよね。里山のような小高い丘が点在しているんですけど、いろんな家が建っているそんな里山に家を借りて住んでいるんです。波があれば海に行けるし、波がなければ家から徒歩5分、10分ぐらいでトレイルにも入れるので山を走ることもできますし、歩くことができます。
村松:じゃあ、住まいは山側なんですね。
興梠:そうですね、山側にいます。
村松:海と山を半々で行き来していると思うんですけど、どんな暮らしですか?
興梠:どんな暮らし……。葉山にいる時は、海が近いので、常に波の情報と風の情報はチェックして、仕事前に海に入れそうだったら朝4時に起きて、5時から2時間サクッと海に入ってから仕事する。そんなルーティンが結構多くて。一方で、長野の方は基本的には住んでる場所としては、青木の平の場内の中にある社宅、ペンションと呼ばれる場所があって、そこにスタッフたちと一緒に住んでいるんですけど、こっちに来ると朝7時半、8時ぐらいから、夕方の17、18時ぐらいまでずっと仕事しているような感じです。休みがあれば、近くの川に行ってフライフィッシングやったり、ちょっと低い山に行って走ったりするような生活を送ってます。
村松:自身の位置づけとしては、葉山はご自宅で、長野は出稼ぎに来るみたいな感じ?
興梠:うーん、出稼ぎ……(笑)。いやぁ、違うかもしれない。今は、この『Hut -glow-』が完成したので、長野の比重はそこまで重くはないんですけど、glowができるまでは、こっちに来ないと大工さんたちとのコミュニケーションも取れないし、建物の進捗具合もわからない、やっぱりzoomでは伝えきれないコミュニケーションの質量がある。となったときにやっぱり長野の比重は重くなる。自分がいないとできないことがあると、こっちに来るっていう感じですかね。なので、こっちでも仕事をするし、葉山でもリモートで全然仕事ができるので、自分の中でバランスを作りながら行き来しています。
村松:へ〜。僕も自宅が長野で会社は東京で、基本的には通ってはいるけれど向こうに滞在することも数日あって。やっぱり都市と山っていうと、結構コントラストもあって、それぞれの位置づけも少し違う……。
興梠:そうですよね。
村松:うん、東京は出稼ぎに出ているような感覚で、戻ってくると、ホームっていうか。でも、その海と山だと、都市と自然ともまた違うから、ジョンくんの中でそれぞれどういう位置づけで、その土地の風土が生活にどう機能しているのかなっていうか。そこが気になるところかな。

興梠:なるほど、なるほど。確かにそうですね。海と山でもコントラストは同じ自然でも違うなって思いますし、“静”と“動”で言うと、やっぱり山側は僕にとっては“静”なんですよね。で、海側は“動”なんですよ。なんかそれって、そこに住んでいる人々のキャラでもあるなと思うんです。地形にも関するかもしれないですけど。青木の平がある場所って、谷間に位置しているので、常に何かしらに囲われているから、少し内省的になるというか。よし、やるぞ、集中するぞ! みたいなモードに入りやすいと思っていて。
村松:こもる感じね。
興梠:そうです、そうですね。一方で海ってやっぱり開けているじゃないですか。海にいる人たちって、だいたい明るい人が多い(笑)。ういっす、イェーイ! みたいな人たちが多いなと思っていて(笑)。向こうにいると、僕自身も開放的になれるというか、すごい動的だし、自分自身のキャラクターも明るくなるなと思っていて。この二拠点の生活をして感じるところですね。
村松:良さそうだね、そのコントラスト。
興梠:ですね。
村松:確かに、僕も長野を拠点にしてから長いから、取材とかで海の町とかに訪れるとよく感じることだけど、夕日がきれいだとみんなビーチ行くじゃん。で、浜辺で誰かと会うわけ。海の町での人との出会い方、町民とのすれ違い方はそういうことが起こる。けど、山は夕日が綺麗でも、山ではそんな風に人とは会わないのよ。
興梠:確かに。そうですね。
村松:スーパーぐらいでしか会わない(笑)。で、今日の浅間山は綺麗だねってなるけど。 でも、夕日が綺麗で、ビーチに行って、そこで出会うっていう一連のコミュニケーションはなかなか山じゃ起きない。なんかあれは、海の街の唯一無二なんだろうなってよく思う。
興梠:確かにそうですね。生活スタイルが海側にいる人たちはみんな似ている気がして。朝早く起きて海沿いを歩いているか、散歩してるか。で、夕方のサンセットのタイミングになると、みんな海に出てくるんですよね。なんかこの習慣すごく素敵だなと思って。
村松:なんかいいよね。
興梠:うん。みんな日常の美しい瞬間瞬間をちゃんと見たいっていう行動がしっかり現れているで、それは確かに海側の特徴的だなって改めて思いましたね。
村松:コントラストの話だけどさ、逆にそれぞれの土地で影響し合ったり、シンクロしたりすることってあるの?
興梠:影響しあったり、シンクロしあったり……。例えばどういうことですか?
村松:いや、分かんない、聞いてみました(笑)。海と山の暮らしをしたことないから(笑)。

興梠:あ〜。
村松:コントラストを楽しむってことだけなのか、案外こことここ繋がっているんだなって思うことがあるのか。そういう海と山を行き来するってある種の憧れではあるけどね。
興梠:そうですね。僕自身、まだ半年しかその生活を送ってないから、そこに対しての解像度がまだ高くないんですけど。こと葉山でいうと、海にいる人なんだけど、山側にいるような人たちの空気感だったり、なんか人の匂いというか、感じ?がちょっとするなって思っていて。一方で、茅ヶ崎とか、それこそ、江の島がある鵠沼とか、あの辺に行くと、本当にもう“ザ・海の人たち”っていう人がすごい多いなと思います。
やっぱ葉山って文化的なものなのか、それとも、地形的に山が多いからか、分からないですけど、海の人たちなんだけど、ちょっと山側を感じるような内省的な人というか、若干、内にこもるような落ち着きのあるような人たちが多いなっていうイメージはあります、今暮らしていて葉山で会う人とかは。そういう“気”を感じるなぁっていうのは、なんとなくありますね。
村松:葉山とか大磯の方とかもそうだけど、海もあるし、トレイルもある。ジョン君が葉山と長野で行っているコントラストが日常の中でできるっていうのもひとつあるんだろうね。
興梠:そうですね。
村松:内にこもりたい時は、山に入るし、もうちょっと開放的になりたい時は、海に行ったりっていうふうに、自然と向き合いながら、自分でバランス取っている人っていうのは少なからずいるよね。海と山の違い、面白いね。
興梠:いや、面白いなってすごく思います最近。
都市と自然の行き来によって生まれる“風通しのよさ”
村松:前編にもあったように、istの事業自体が日常の延長の中で自然を感じてもらう、何かしら日常に持ち帰ってもらうことを目指していると思うんだけど。ここ何年かさ、自然と街を行き来するとかさ、山と都市を行き来することを軸に置いているアウトドアブランドとかもあるし、そういうサービスってすごい増えていると思う。そこで改めて、都市と自然を行き来することの魅力を言語化していけたらと思います。
ちなみに、istを作り始めた頃は、拠点は東京?
興梠:そうです。それまでは東京に2年ぐらい住んでいましたね。
村松:実際、どうですか? 都市と自然を行き来することで、どんな魅力があると思いますか?
興梠:お〜、深いテーマですね。長野で事業をやっているんですけど、だからといって都会が嫌いなわけでもないし、都会はむしろ好きです。便利な街の方が暮らしやすいし、暮らしそのものがもしかして豊かになるのかな、とか思うこともあります。ですけれど、やっぱり都市にないものがここにはあるなって、行き来して思いますし、こっちで事業をして感じることはすごくありますね。でも、確実にここにないものは街にある。
僕が都市を行き来するひとつの目的としては、istっていう事業をここから数年、数十年続けていく中で、徐々に進化させていかないといけない、発展させていかないといけないんです。つまり、今あるもので満足していたら、おそらく数年後にはお客さんに飽きられる可能性があるなと思うんです。となると、新しいエッセンスを取り入れていかないといけない。そうなった時に、僕自身がここにずっとこもっていちゃ話にならないなと思っていて。

興梠:もちろん、自然から受けるインプットもたくさんあると思うんですけど、それだけじゃ、自分たちが表現したり、体現したいものづくり、空間づくり、それをサービスに落とし込むっていうのに限度があるなと思っているんです。やっぱり東京だったり、街に自分たちから出向いて、いろんな人と会って、そこで刺激を受けたものを持ち帰って、それをどう反映していくかっていうものが大事だよなって。そう思い始めた時期があって、そこから意図して東京だったり、いろんな土地に訪れる機会をあえて増やしましたね。
村松:都市生活を見たり、体験することで気づきはあった?
興梠:そうですね。 改めて、istって素晴らしい環境なんだなっていう再認識する機会でもあるし、こういうサービスって求められているんだなっていうのを改めて感じる部分でもあるんで。じゃあ、どうしたらこのサービスを、ist自体を広げていけるか、それを考えるきっかけにもなるなと思っていて。
村松:確かにそうかもね。そうやって都市でアンテナを張ることで、足すこと、省けることとか、決断できることが増えていくような気もするしね。
興梠:そうですね。だから、東京にはそれこそ僕自身は刺激を求めに行っていました。どうしても山の中にずっといると、ずっと一定というか、リズムはあるけれど刺激のリズムは特にないので。じゃあ、どこでインプットするかって、やっぱインターネットしかないんですよね。でも、そこでインプットできる量だったり、受ける刺激って質量としては少ないんです。やっぱり、実際に自分たちの足で出向いて、対面でいろんなコミュニケーションを交わさないと得れないものがあると思うんで。それを求めに東京に行くっていうのはひとつでしたね。
村松:今もそうですか?
興梠:今もそうですね。葉山に暮らしていても、自分の中でその刺激は欲しいなって部分もあるんで、東京に行ったり、気になっているホテルに行ったり、そこから得たものを何かに反映して、みたいなことは多いです。
村松:僕も長野長いと言いつつ、ずっと東京と行き来し続けているから、それこそ多分ね、何年いても地元の人には「昨日、移住してきたでしょ?」って言われる感じがあるね(笑)。
興梠:はいはいはい(笑)。
村松:僕自身、行き来はきっとやめないだろうなと思うけど、必ずしも都市と自然じゃなくても、違う土地の行き来でもいいのかなとは、ちょっとこのテーマをここ数日考えている中で思ったかな。そもそも自分の体がある地域とかコミュニティから違う土地に行くとさ、テンションとかムードが変わるじゃん。

興梠:変わりますね。
村松:そう空気が変わる。 どちらかというとそれが大事というか、常々、よくスタッフにも言っているけど、体が究極の乗り物だから、この乗り物でどっか違う都市に行った時にムードが変わること、その先にいろんな気づきとか、思い直すとか、新たに学ぼうとか、新しい人と出会うとかっていうことがある。だから何も都市と自然じゃなくても、場所が変わればいいんじゃないかなって。で、その先に移動することで得られる様々な魅力というか、事がある気がしている。もちろん、コントラストがあればあるほどさ、テンションとかムードはより変わるから、自然と都市っていうのもあるんだろうけど、今日のistの話で言うと、非日常であり過ぎると、もしかしたら日常に持ち帰れるものが少ないのかも、みたいな。 いや、これは一概に言えないよ? 一概には言えないけど、かもしれないって思うと、面白いなって。 全然、何の答えもない話なんだけどさ(笑)。
興梠:そうですよね。わかります(笑)。
村松:面白いなとは思う。どっちなんだろうなっていうか。
興梠:ほんと、なんかね、やりすぎて非日常的な空間を作りすぎても、僕たちがやりたい思想とはかけ離れるなと思っています。やっぱり根本にあるのは、日常の延長線上にある自然そのものを感じてもらいたいということ。それを感じてもらうためには、どういう設えが一番いいのか、どういう窓の切り方がいいのか、みたいなところを考えているんです。ラグジュアリーにしようと思ったら、全然できる。でも、僕たちがやりたい宿泊施設、空間作りはそういうことではないですし、この外の景色が一番、僕はラグジュアリーだと思っているんですよね。唯一無二の景色だと思うんで。訪れたゲストには、そこを感じてもらいたい。中の設えとかはやりすぎずに、かつ、いい空間として仕上げられるように作っていきます。
村松:istの事業自体で、日常の延長線上で自然を感じてもらって、その後どうしてもらいたいっていうのはあるんですか?
興梠:これが正解っていうわけじゃないんですけど、ここで自然の良さを感じてもらって、自分たちの暮らしに戻ってきた時に、「じゃあ、お花飾ってみようかな」みたいな行動変化が生まれると、それはistとして、すごく嬉しい出来事、ストーリーだなって思います。これまで自然に興味なかったけど、ここの滞在を通して、ちょっと興味持って、じゃあ次山の中行ってみようかな、歩いてみようかな、ちょっと海に行ってみようかな、みたいな。次のアクションに移るといいなって思っています。その人の暮らしや、ライフスタイルが少しでも豊かになるようなきっかけとして、istが役に立てるなら、本当僕らとしては嬉しいです。
なんかistを通して、環境問題に何かアクションを起こしたいっていうわけじゃない。それは壮大すぎるし、この事業規模じゃ全然だなって思っているんで。自然環境とかいう前に、まずは自然を好きにならないといけないなって。恋人だったり、家族って好きだから大切にできると思うので、それを自然に置き変えられたら、おのずと多分、環境問題のことも考えると思うし、目の前に広がる自然が今、現状としてどう置かれているのか、みたいなところを考えるきっかけにもなるのかなと思っています。そこのベースに絶対的にあるのは、自然が好きっていうところ。それをこの空間を通して伝えられるといいな。

村松:istとしては、今このAokinodairaと、佐渡にフランチャイズっていう形でsadoがありますけど。sadoみたいに、自分たちが運営に一部関わりながらもフランチャイズ化を増やしていくのか、またはそうではないのか。この先は何か考えてますか?
興梠:そうですね、考えています。istは今、「キャンプ場」という形態でサービス運営しているんですけど、istって、キャンプ場をやりたくて始めた事業ではないんです。自分の中ではそれはずっとあって。元々は「人と自然」だったり、「暮らしと自然」をシームレスにつなげる事業として、始めたものなんですよね。それを体現する方法として1発目がキャンプ場だった。という背景です。
じゃあ、次はどうしていくかと考えた時に、地方都市といってもかなり地方の方で、5室から10室ぐらいのスモールホテルをやりたいなと考えています。九州の福岡、佐賀、宮崎の三拠点でエリアを絞っていま物件を探しています。次はホテルっていう形態で、自然との繋がりが生まれるような宿泊体験だったり、時間を提供していきたいなと思って、動いていますね。
村松:Hutでやっていることが、1つの原型になってそうですね。ちょっと応用編というかね。


興梠:はい。2パターンのやり方を考えていて、ビルをホテルとしてリノベーションするのか、広い土地にこのHutを5棟ぐらい点在させて面として、スモールホテルとして見せるか。そういう形で、その土地土地の風土を感じられるような、ちゃんとしたかっこいい宿を作りたいなと思って計画しています。
村松:前編でも話した建築家の中村好文さんの言葉をちょっとお借りしますが、仮に、このHutが“人の営みや暮らしを最小の単位で形にするという小屋”だとするならば、それを土地土地でやるのか、またはそれをもう少し膨らませる感じ?。
興梠:どっちのパターンもあると思います。その土地次第だし、物件次第かなと思っていて。でも、そこで暮らしを営むっていうベースは変わらないかなと思っています。僕も仕事柄、次の事業展開を考える上で、いろんな地方を訪れているんですよね。旅先で思うのが、観光っていう漢字って “光を観る”って書きますけど、その“光“って観光スポットだけのことじゃないよなって。僕はサーフィンしたり、山に入ったりすることが多いので、そういうアクティビティをその土地土地でやることによって、その土地の自然の美しさを、より直接的に体験できると思う。そこに土地の魅力や良さが隠れているなって。かつ、その土地のものをいただく、風土を感じられるような宿に泊まる。そうすることによって、その土地を好きになることが僕は多いと感じたんです。ただ観光地に行くだけじゃなくて、その土地に合わせた遊び方、過ごし方を提供できるような宿があれば、その土地を好きになるし、その土地の自然を好きになるんじゃないかなと思っています。
そういう宿って地方に少ないなって、今、僕は思っているんですよね。淡路島とか瀬戸内海には結構、増えているんですけど、九州まで行くとあんまりない。でも、九州って山も海も川も食もすべてある。こんなに資源が豊富で、かつ人も素晴らしい。じゃあ、ここでやれないかなっていうので、今、九州のエリアで探してます。
村松:どうしてもなんか均一化していっちゃうもんね。大きい都市のホテルとなると、その土地のローカリズムを多少取り入れているとはいえ、ある程度そうできちゃうもんね。その土地で暮らす人たちの日常の暮らしの中にこそ、贅沢がある的な考え方だよね、どちらかというと。
興梠:うん。
村松:楽しみですね。

興梠:ね。やりたいんですよね。だから、ここのHutができたんで、もう僕の気持ちはそっちに今、全シフトして、土地探しだったり企画書を改めて作ったり。それを葉山でやっていたりします。
村松:増えてはいくんだろうね。そういう観光体験みたいな。
興梠:だと思います。
村松:国内の観光客っていうよりは、むしろ海外の人たちがそこに対しての感度とか高くてさ、いわゆる自治体が作ったガイドブックに載ってないところにどうやって行けるんだとか、そういう意識になって。一部の層なのかもしれないけど、増えてはいきそうだよね。
興梠:そうですね。そう思います。
村松:実際、友達を自分の長野のエリアに招くにしても、喜ばれるのはそういう場所だもんね。
興梠:自分自身が泊まりたい宿って、そういう場所なんですよね。結構それをベースにいつも考えていますね。自分だったらどういう宿に泊まりたいか、この土地に訪れた時にビジネスホテルじゃなくて、こういうホテルがあったらよりいいのにな、って思う時が本当に多くて。それをひとつ形にできるといいなぁと思っています。
村松:ご飯とかどうするの? 宿飯って難しくないですか?
興梠:難しいです。でもそこもチャレンジしようかなと思っていて。
村松:提供するっていう意味でチャレンジ?
興梠:そうです。オーベルジュ的な感じでやりたくて。宿泊者全員じゃなくて、希望者のみ。例えば、10室、計20人の人が泊まれるとしたら、10名限定でオーベルジュとしてホテルの1階であったり、そういう空間に集まってご飯を提供しますよっていうことをやりたいなと思っています。宿泊者全員に絞っちゃうと人によっては、いや、夜は自分たちで好きなお店、気になってるお店行きたいしっていう人もいると思うので。あんまりそういう制約にとらわれずに自由な、自分たちの選択肢を持てるような形でやりたいなと。
夜にオーベルジュをやりたいっていうのも、その土地のものをそこでいただくっていうことは、もちろんなんですけど、夕飯をスタートするタイミングは、その宿泊者全員同じタイミングで、かつ同じカウンターでごはんを提供したいなと思っています。っていうのも、ホテルって基本、“個の時間”が多いじゃないですか。それぞれ個室だし。だから、横の繋がりって基本生まれないんです。でも、そういう時間を意図的に設けることによって、どこかで自然と横との繋がりが生まれるなと思っていて。旅とか旅行って、それがひとつ思い出になるじゃないですか。そこの記憶って、結構濃く脳裏に刻まれるし、そこのご縁が次に繋がったりすると思うし。なんならご飯ってみんなと食べた方が美味しいよね、みたいなのもある。なので、食をひとつきっかけとして、そういう時間、場所を提供できないかなって、今、まだ構想段階ですけど考えています。
村松:へ〜、そういうスタイルのレストランも増えてますよね。
興梠:そうですね、多いと思います、今はね。
村松:実際、こうやって2つの土地を行き来する前と後で、自分の暮らしとか生活では何が変わった?
興梠:お〜。何が変わったか……。
村松:先に答えようか。数年前から、本格的に長野に土地を持ったのが2013年で、家族が完全に移住したのが16年とか17年あたり。そこから住民票も長野になって、東京と長野を頻繁に行き来してた時代もあれば、今は割と東京は出稼ぎに行く場所で、むしろ長野県内に一応2つの拠点があって、御代田と駒ヶ根を行き来しているんですど、結果、何が起こったのかというと、すごく風通しが良くなった。その暮らしの中で。

村松:どうしても1か所だと淀んじゃう。 それはその地域のこともそうだし、自分自身もそう、もしかしたら、家族との関係性もそうだけど。さっきも話したように、土地が変わると、テンションとかムードが変わるから。気配がね。そこでさ、なんか風が抜けるような気がしてて。もっと細かいことを挙げたらね、いろんな土地で暮らしたりすることのメリットってたくさんあると思うし、物理的に得ているメリットは全然違うことかもしれないけど。
興梠:確かに、風通しの良さありますね。風通しの良さと通づるかもしれないですけど、常にフレッシュな気持ちで、目で、土地土地を見れるのはありますね。やっぱり移動が多ければ多いほど、同じ場所にずっといるっていうことが、ほぼほぼないので。やっぱりそれこそね、さっきおっしゃったように、その場所にずっといると、ちょっとこう淀んじゃうというか、そういう瞬間は絶対生まれるだろうなと思うんですけど。それが生まれそうになった時に次の拠点に行ったり。今回、お盆期間でもあったんで、2週間ぐらいずっとこっちにいたんですよね。で、今日、この収録が終わって、夕方ぐらいには葉山に戻るんですけど、やっぱり2週間ずっとここにこもっていると少し開放的になりたいな、とか、やっぱ海に入ってリフレッシュしたいなっていうのがある。本当に身体的に求めているのが、もう感覚でわかるんですよね。

興梠:そういうのが、いろんな場所を行き来することによって、ちゃんと自分の中でリセットされて、次のスイッチが入ってまたリセットされて、次のスイッチが入って。みたいなことの繰り返しが常に行われるのはあります。だからこそ、多分どこかで得たものをここで取り入れられるし、ここで感じたものを次のところで取り入れたりとか。何かそういうことも影響しているのかなって。まだ移住して、半年とかで全然浅いんですけど感じますね。
村松:ジョンくんの話を聞いていて思ったのは、自分が今話している風通しの良さが旅でも得られるのかって仮定すると、もちろん得られるんだけど、多分二拠点とか他拠点の良さって、その行く先にもちょっと日常がある、日常が地続きで、その日常の中で風通しが変わるから、いいのかなって。
興梠:はい、確かに。
村松:旅先のアクティビティとしての風通しの良さは、多分、日常に戻ってきた時に、また元に戻るんだと思う。もちろん、これは分からないけどね。そう仮定すると、やっぱり今、istがやろうとしている非日常の中でも日常の延長線上のように体験してもらって持ち帰ってもらうっていうのは、僕らが二拠点で得ている風通しの良さみたいなもののことに近いのかも、と思ったり。ちょっとまとめに入ったりしてね(笑)。
興梠:(笑)。
村松:でも、そうなのかもなと思った。言語化するっていうのは大事なことですね。
興梠:そうですね。いや、本当に。このサービスをやっている以上、自然の良さを言語化しないといけないっていう苦しさはありつつ。とはいえ、自然を言語化するって、めっちゃ難しい話じゃないですか? 結構、感覚的なところの要素が多いし、それを言葉にすると抽象度が膨らむんですよね。だから、istとして箱があるっていうのは、強みだなと思っていて。僕たちが多くを語らずとも、すべてを言語化しなくても、ここの場所を通して、istが伝えたいことってこういうことだよな。みたいなものを伝えられているのかなと思って。実際に自然って体験して、目で見て、触れないと良さが分かんないじゃないですか。そこに最大の価値があると思うので。それを宿泊棟やラウンジを通して、少しでも感じ取ってもらえたら最高ですね。
村松:言語化することも大事だし、あえてしないことも大事だし、ってところですね。
興梠:はい。
村松:さて、そろそろお時間なので、今週はここまで。2週にわたって、ジョン君こと興梠泰明さんにお越しいただきました。
興梠:ありがとうございました。
村松:ありがとうございました。是非、聞いていただいた方はistを検索していただいたり、関連記事でも見ていただいて、気になった方は足を運んでいただけたらと思います。 ということで、だいぶ後編も長くなってしまいましたけど。
興梠:楽しかったです。
村松:はい、ありがとうございます!

興梠泰明 (こうろき やすあき)
滋賀県出身。幼少期から自然に囲まれて育ち、学生時代はアジアを中心に国内外を旅する。2017年、株式会社Backpackers’ Japan入社。カンボジアでのホテル立ち上げを経験したのち、2021年より長野県川上村の旧青木の平キャンプ場の運営代行を開始、2022年9月に〈ist〉の事業責任者として〈ist - Aokinodaira Field〉を開始。2024年、新潟県の佐渡島で〈ist - Sado〉をオープン。istでは“自然とともにある”を理念に、暮らしと自然がシームレスにつながる場所を目指している。ご自身の趣味はサーフィンと渓流釣り、トレイルランニング。
IG:@ysakjohn
photo by Moe Kurita