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NEW NORMALのバンライフ #01 働く、暮らす、遊ぶをシームレスにつなげてみたら
2020.09.23

NEW NORMALのバンライフ #01 働く、暮らす、遊ぶをシームレスにつなげてみたら
by 山口陽平(TRAIL HEADS. CEO)

ポストコロナ社会における移動とは。移動を伴うライフスタイルはこれからの社会でどう変化していくのか。コロナ禍以前からモバイルオフィスの運営やキャンプ場でのワーケーションを実施しながら、理想の働き方・働く場を模索する「TRAIL HEADS」代表の山口陽平さんが考える、これからの働き方とワークライフバランスのこと。

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僕たちTRAIL HEADSはオフィス空間のデザインと、「働く」を軸にした周辺のものごとの企画などを行っています。クライアントは都内のスタートアップ企業が中心で、創業以来400近い事例を手掛けてきました。十数年前からこの業界で仕事をしていますが、従来のオフィス空間って日本全国どこに行っても同じような規格、しつらい、造りであることが多かったんですね。僕たちの思いは、「オフィスだから」という従来型の制約や既成概念から「働く場」を自由にし、そこにデザイン性やクリエイティビティを加え、その企業やそこで働く人たちの個性が表現されている空間を作りあげること。今までにない「働く場」を作っていきたいという思いを胸に、さまざまな空間を作ってきました。

今までにない「働く場」を作りたい

一方、自分たちが理想とする「働く場」作りを具現化するため、自社プロジェクトを立ち上げて新しいチャレンジを行っています。例えば、「OFFICE CARAVAN」。僕はアウトドアが大好きなので時間の許す限り自然のフィールドで過ごしているのですが、自分の好きな場所で、好きな景色を楽しみながら自由に働くために、可動式のオフィスを設計しました。その名の通り、「OFFICE CARAVAN」はキャンピングトレーラーにオフィス機能を搭載した、クリエイティブなモバイルオフィスです。

「OFFICE CARAVAN」を実際に運営してみると、都心でこれを動かしたり駐車したりするのはそこそこ大変だということが判明して、今度は「OFFICE CARAVAN」をチェックインするためのベースを構えようと考えました。それが自社プロジェクト第二弾の「HINOKO」です。「HINOKO」はキャンプ場だった空き地を整備した会員制キャンピングフィールドで、檜原村の自然の中で遊ぶことと働くことをシームレスにつなげる場として機能しています。いま注目のワーケーションの奔りと言えるかもしれません。このようにTRAIL HEADSでは「働く+暮らす+遊ぶ」を融合したライフスタイルを模索しています。

世界が一斉にテレワーク!「働く場」史上、いちばんの変化だった

この春、世界中でロックダウンが起こり、強制的にテレワークがスタートしました。今まで分断されていた働く場と暮らす場が強制的につながって、多くの人が職住一致を経験しました。これは「働く場」の歴史を振り返ってもかつてないできごとであり、働き方も大きな変化を迎えていると言えるでしょう。この経験を踏まえた社会がどちらを向くようになるか、それはまだ分かりませんが一つ確かなことは、今後は場所にとらわれない、自由な働き方を選ぶ人が増えるということです。それは自宅でのリモートワークかもしれないし、避暑地などで行う、休暇を交えたワーケーションかもしれない。郊外でのコワーキングスペースを活用した働き方もあるでしょう。ソロワークに徹したことで改めてコラボワークの重要性に気づき、やっぱり都心のオフィスで仕事をしたいという人もいるかもしれない。いずれにしろ、より働きやすく、かつ自分らしくいられる場を志向することになるはずです。それぞれが志向する新しい働き方に、企業はどう応えていくのか。その姿勢が今後の企業のブランディングや雇用を左右するようになるのかもしれません。

ビジネスのルールやマナーが変わったことで働き方が変化しつつある中、当然、「働く場」のあるべき姿も変わっていかざるを得ません。まずは安全面を考慮したレイアウトや物理的な対策、運用ルールが必要です。ということは、これからのオフィスは新しい役割を求められるようになるかもしれない。オフィス空間の縮小や移転、複数拠点を1拠点に集約するといったケースも増えていますが、オフィス空間を手がける僕たちとしては、社員から「オフィスに行きたい、オフィスで働きたい」、そう切望されるほど魅力的な空間を作らなくてはいけません。それはそれでやりがいを感じることではあるんですが(笑)、より本質的な力を問われることになりそうです。

さらに、今後考えられる大きな変化は、目的や用途に応じて街全体が「働く場」になりうる、ということです。カフェや乗り物の中は当たり前として、公園、駐車場、パブリックスペース、自然の中など、あらゆる場所がワークプレイスとなり、そのなかで自分らしい働き方を模索するようになる。これまで自営業やフリーランスを除いて選択肢のなかった働き方が見直され、自分たちの価値観によって取捨選択でき、そしてそうした働き方がより広い層に受け入れられていく。それはすばらしいことだと感じています。実際、「これまではあまりピンとこなかった」とおっしゃる堅めの職種の方たちが、僕たちのやっていることに共感を示してくれるようになりましたから。

TRAIL HEADS流の遊び方、働き方

それじゃあコロナを経験した僕たちTRAIL HEADSはどう変わったかというと、実はあまり変化はありません。リモートワークもワーケーションも以前から取り組んできたことで、例えばTRAIL HEADSではスタッフみんなでスケジュール調整をして外遊びをしようという「フィールドデー」を平日に設けています。仕事と遊びをシームレスにつなげるライフスタイルの実践例で、「HINOKO」オープン前にはフィールドデーを利用して社員みんなでフィールド整備に出かけたりしていました。このように、現在も粛々と自分たちの理想の働き方を追求しています。

理想の働き方を考えるにあたり、僕が影響を受けたものにパタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナードが著した『社員をサーフィンにいかせよう』があります。これを読んだ当時の僕の働き方といえばイヴォンさんが提唱するスタイルとまさに真逆をいっていて、「そうか、世の中にはこういう働き方があるんだ」と、大きな気づきをもらったものです。「働くと遊ぶを融合する」というと誤解する人も多いのですが、遊ぶには大きな責任が伴います。もし就業前にサーフィンに行きたかったら、周りに迷惑をかけないように、仕事の進捗やスケジュールの調整をきちんと行わなくてはいけません。働くこと、遊ぶこと、それにまつわる自由と責任。TRAIL HEADSの根幹となるものを教えてくれた、いわば働き方のバイブルなんですね。

街のあらゆる場所がワークプレイスになったなら

先ほど、「街のあらゆる場所がワークプレイスになる」と言いましたが、現在はそのケーススタディとして「HINOKO」にオフィス機能を持ち込んでワーケーションを実践中です。働く場が自由になった時、自然の中にはどの程度、ワークプレイスとしてのポテンシャルがあるのか。そんなことを自分たちで実践しながら面白い働き方を発信していきたい。いろいろな視点で「働く」を捉え直し、新しい時代に即した働き方を提案できたらと考えています。

山口陽平
TRAIL HEADS代表取締役。大手不動産会社を経てオフィスデザインや店舗デザインに取り組み、2014年TRAIL HEADSを創業。クリエイティブなオフィス空間や店舗をプロデュースする傍ら、自社プロジェクトとしてコワーキングスペース「MAKITAKI」、会員制キャンプ場「HINOKO」、モバイルオフィス「OFFICE CARAVAN」の運営に携わる。https://trailheads.jp

Text by Ryoko Kuraishi