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手に入れた時は別にクルマだったらなんでも良かったという感じでした。乗っていくうちに愛着は湧いてきたんですが、特に娘が気に入ってました。習い事の送り迎えなどにも使っていたんですが、娘は「フィットちゃんが乗せてってくれる」みたいなことをよく言っていて、いやいや乗せてったのは僕だぞと(笑)。そういう感じで、まるで家族の一員のようにフィットのことをよく話してましたね。
もともとボロボロの状態のものを知人から譲ってもらったので、長く乗る気はぜんぜんなかったんです。最初の車検が切れたら乗り換えるかな、ぐらいの感覚で。でも、娘が手放すのを嫌がったんで、1回車検通しちゃいました(笑)。
フィットと娘で印象的な出来事があって。数年前の大雨で多摩川が氾濫した時に、うちは避難エリアに含まれていたんですよ。だから高台に避難しなきゃってことになって。そういう場合、クルマだと渋滞に巻き込まれて身動きが取れなくなりそうだったので、徒歩で行こうとしてたら、娘が「フィットちゃんも一緒に連れて行く!」って。ああ、娘にとっては、コイツは家族の一員なんだなあって。しょうがないから頑張ってフィットちゃんも避難場所まで連れて行きましたよ(笑)。
だから新しいクルマを買うことになって、サヨナラする時もすごく嫌がって「もう1回フィットちゃんにして」って言われて。いまの新車だとこんな感じだよって見せると、顔が違うって。実際にサヨナラするときも一緒に乗っていったんですが、その後もしばらくフィットのことを喋ってましたね。新しいクルマに乗り換えたあとも、匂いが違うってよく言ってました。フィットは、大人からすると車内がけっこう独特の匂いだったんですよ。石油くさいというか。でも娘的にはその匂いが好きだったみたいで。
そんなに好きなら、サヨナラする前にちゃんとした写真を撮ってもらいたいなと思って、このサヨナラマイカー企画に応募したんです。娘が大人になった時にみたら懐かしがるでしょうしね。同じクルマを持ち続けるっていうのはなかなか難しいですが、こういう風にプロに撮ってもらって綺麗な写真に残しておくと、それ自体も思い出になります。シロウトには絶対撮れない写真ですから、ありがたい企画だと思います。
娘も、いまはまた新しいクルマでいろんな場所に行って、楽しい経験をできてるので、気に入ってますけどね。でも、いまのクルマとサヨナラするってなったら、またイヤだって言うんでしょうねえ……。
photo by Kenichi Muramatsu text by Takashi Sakurai