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2023.11.10

noru booksが始動! 証言集『僕らの時代の Wayfinding』発売。どうして今、リソグラフなのか

編集部が記事の裏側や制作意図をレポートするエディターズノート。今回は、発売したばかりの証言集『僕らの時代のWayfinding』のメイキングレポートします。リソグラフの印刷にはじまり、丁合、製本、断裁など一冊として完成させるまでの作業をすべて編集部員の手でおこなった制作の裏側と、そこに至った経緯も綴りました。

また、この発売を機に、noru booksという新しいプロジェクトを始動。そしてオンラインストアもオープンしました。証言集をまとめたZINEだけでなく、リソグラフで印刷されたnoru journalのヴィジュアルメディアシートやステッカーなども販売を開始しました。

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» Editor's Note

移動できない状況下で生まれた証言集

noru journalがスタートしてから約3年、移動とライフスタイルをテーマに取材を重ね、人々のかけがえのない人生の一端に触れ合ってきました。

立ち上げは2020年の春。先の見えない霧の中にいるような状況下で、日々飛び込んでくる信じ難いニュースやコロナ禍をさまよい続ける世の中において、編集部として伝えたいこと残したいことを、ゆっくりと解像度を上げながら歩んできたように思います。そんな移動が制限された数ヶ月間で制作した連載『僕らの時代のWayfinding』は、移動することが暮らしの一部になっている7名に対して、移動できなくなったことと、どう向き合っているのかをオンラインでインタビューしまとめたものです。

あの時に綴ったことは、わずかでも誰かの道標になることができたのでしょうか。


証言集|僕らの時代のWayfinding:購入する


ヴィジュアルメディアシート:購入する


sticker pack:購入する

リソグラフにみる身体性

2022年の冬からnoru journal編集部は、NEUTRAL COLORS、通称{NC}という印刷製本所に通い始めました。雑誌、絵本、ドキュメンタリー、小説、写真集を出版する小さな出版である{NC}代表の加藤直徳さんに相談し、リレーションがスタート。目的はリソグラフにはじめ、本制作のノウハウを学ぶためでした。

「リソグラフに惹かれた理由のひとつは、アナログ性です。デジタルコピー機でありながら、デジタルとは対極にあるような不確かで、不均一な要素を持っている部分が面白いところです。僕らが育った時代を振り返ると、制作物における大前提の価値とは、均一だとか、正確性でした。一方で、リソで印刷していると、1枚ずつインクの濃さが違うだとか、インクが擦れるズレるだとか、本来であれば不良とされる表現をはらんでいるんです。ときにエラーによってデザインのインスピレーションが生まれるようなこともあって、そういうところに魅力があるのだと思います (村松亮)」

また{NC}には、リソグラフの印刷だけでなく、本が1冊できるまでの行程すべてを完結できる設備が整っています。丁合、断裁、製本までの作業も自分たちの手で行いました。

「デザイン構成から面付け、慣れるまで大変さはありました。そして印刷から製本までの工程では、機械の使い方からミリ単位での調整など細かい部分でのトライアンドエラーが多かったです。(石川)」

今回はWEBの記事であるwayfindingを流用した書籍化ということで、構成はあくまでのWEB記事に特化した作りとなっていますが、デジタルでは伝えきれない企画の温度感が最大限に伝えられるよう、デザイン、制作をしました。

リソグラフの特性

そもそもリソグラフってなに? と思うかたが大半のはずです。

リソグラフは80年代に日本で生まれたデジタル印刷機で、昭和から平成にかけて、学校やオフィスにあった事務用のシルクスクリーン印刷機のことです。

基本的な制作フローは、始めに製版を行い、印刷の元となる版(マスター)をつくります。このマスターを印刷ドラムに巻き付けてプリントするので、一度の製版で大量の枚数を印刷できるのが特徴です。見た目はよくある印刷機ですが、スタートボタンを押すのに一呼吸おいてしまう緊張感が漂います。(なんといっても紙の送り出しが早い)送り出されるプリント紙を前に版ずれやインクのかすれなど、気になり出したら止まりませんが、それもリソグラフならではな表現の一部です。

「今までデータでつくっていたものが実物になる感じというか…そういう瞬間が好きなのですが、リソグラフは出てきた時のインクの出方に味わいがあり、面白かったです。蛍光色を使えるところも特徴なので、色の組み合わせを色々試せるのも楽しいです。ミスプリントが思いもよらずカッコよかったり、発見がたくさんあります。(石川)」

「特に印象的に思ったのはカラーの重なりで表現がとにかく面白くなること。濃淡やかすれ、の加工ひとつとっても振り幅が豊富です。重なり合うインクが深みのある色合いになっていて感動がありました。(小野)」


ヴィジュアルメディアシート

プリントが無事に終わり、インクが乾いたあとは、ブルブル振動マシーン(パイルジョガー)で紙を揃え、断裁機へ。これにも緊張が走りました。一度に数百枚の断裁をするので失敗はできません。そんな編集部の不安とは裏腹に{NC}スタッフで、僕らの先生でもあるデザイナーの山城さんは大丈夫ですよと動じず、いつも優しい笑顔。印刷所ではこういった工程が、おそらく凄まじい速さで行われているのかと思うと、職人業のかっこよさしか見当たりませんね。

今回リソグラフを体験して、利便性の対極にあるアナログ的なこだわりに、どれだけの時間をかけて表現ができるのか、これも一つの価値なのかなと感じました。AI、EVの発達が続く中で、同時進行的に守っていくべきものがあることにも改めて想いが馳せました。

編集部リソグラフを学ぶー。
はまだまだスタートライン!


今後はwebでストックしていったコンテンツたちを再編集してパッケージし直したり、人気の連載を書籍化したりなどを計画しています。Wayfindingの続編も、お楽しみに。

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