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2025.01.06

年末年始こそ、本を読もう。選書企画 #移動時間で読み切れる本 【完読時間:3時間以上 編】

迎春。ゆっくりしたり、どこかへ行ったり、誰かと会ったり、思い思いに新しい年のスタートを切っていくお正月。帰省や旅行で長い移動のある方は、1冊の本と向き合ってみるのもいいかもしれません。移動時間で読み切れる(であろう)本を編集部で選書する企画。最終回となる第3弾は、3時間以上の長時間移動編。旅の効用や人類のナビゲーション史を考察する研究エッセイや映画化もされたベストセラー小説など長旅のお供になり得る6冊。

#移動時間で読み切れる本|記事一覧



マツタケ――不確定な時代を生きる術/(著:アナ・チン),(訳:赤嶺淳) [完読時間 約10時間]

マツタケというフィルターで世界を捉え直すと・・・

「この本では、マツタケが“不確定な現代社会を生きるための一つの指針になる”というメッセージが、日本、中国、東南アジアなどのフィールド調査と民族研究の成果報告とともに伝えられています。そもそもマツタケとは、人間が撹乱した森林に発生するキノコで、アカマツなどのホストツリーとの共生関係によって生存します。つまり、人間がその発生を管理したり、操作することができない、人工栽培ができないキノコなのだそうです。ここでの撹乱とは大かがりな伐採などを指すため、本書のあとがきの表現を一部借りるならば、資本主義の犠牲になった土地や環境で生きようとするとき、マツタケの生態系や存在のあり様が人びとの拠りどころとなるというわけです。周縁資本主義、潜在的コモンズなどさまざまなキーワードがマツタケに関わる事象によって紐解かれ、一見すると学術的な一冊ですが、マツタケは日本人に馴染みのある食材ですし、どうも身近な物語として捉えることができるのもこの本のユニークなところかもしれません(村松亮)」

発売:2019年9月17日
出版社:みすず書房
価格:4,500円 (税込)
ページ数:488P

WAYFINDING 道を見つける力: 人類はナビゲーションで進化した/M・R・オコナー (訳:梅田智世) [完読時間 約8時間]

移動の歴史は、人類史そのもの。“道を見つける力”を失ってしまう前に

「ある年齢に達している人であれば、“GPSによって人類はなにを失うか”という問いかけに対しておおよそ同じような答えをおぼろげながら持つはずです。スマホが普及しGPSによって街を歩いたり、運転することはごく当たり前の行為になりました。助手席で地図が読める女性は一目を置かれ、地図が読めない男性はモテなかった時代は一昔前のこと。本書では、こうしたGPSの進化はもちろんのこと、人類の移動史を辿りながら、いかに人類にとってナビゲーションが進化の過程や文明の繁栄に影響を及ぼしてしてきたのかを研究エッセイのようなスタイルで分かりやすく伝えていきます。僕らは今どこにいて、どこに向かうのか。自分がいる居場所を認知し、目的地を探索する能力とは、どれほど尊い能力だったのか。そしてその能力を僕らはこのまま放棄してしまって良いのだろうか。脳科学、人類学、言語学、AIなど、さまざまな角度から揺さぶられます(村松亮)」

発売:2019年9月17日
出版社:インターシフト
価格:2,700円 (税込)
ページ数:416P

旅の効用:人はなぜ移動するのか/ペールアンデション (訳:畔上司) [完読時間 約7時間]

旅行中にこそ読みたい、旅によって僕らに何が起こっているのか。旅の処方箋のようなエッセイ

「旅すること、移動することについて、スウェーデンのジャーナリストが、最新の研究論文やルポルタージュなどを織り交ぜながら綴った自伝的なエッセイです。なぜ人は旅に出るのか。そんな根源的な人間の欲求を考察していくのですが、一つ一つが短い章でいて、紀行文+旅論というような構成の中で繰り広げられています。移動中や旅の道中、どこの章をパッと読んでも、なぜ今自分は旅をしているのか。その旅によってどんな状況にあるのか、そうした旅の処方箋を読み進めているような一冊です(村松亮)」

発売:2020年1月24日
出版社:草思社
価格:2,200円 (税込)
ページ数:351P

 

Recommender:noru journal 編集長:村松亮

東京-伊那谷-御代田の3拠点ライフを実践中。会社・編集部は東京なので、週2~3回は出稼ぎに。2022年より、家族と米作りを始めました。
IG:@ryomuramatsu

 

取り戻す旅/藤本智士 [完読時間 約5時間]

取り戻したい余白とは何か

「編集者である藤本智士さんの2泊3日の東北、主に青森での旅の記録。藤本さんの原点とも言える雑誌『Re:S』の取材はとにかく自由で、無計画な旅だった。だからこそ、“余白”があって、いろんなものとの出会いにも、余地みたいなものがあったという。そんな余白のある旅を取り戻すための記録としてまとめられた一冊です。ちょうど昨年、個人的に青森に行き、その旅行が楽しすぎたこともあって、出てくる土地や旅の内容が目に浮かび一緒に旅してるような気持ちになれました。旅することの楽しさや面白さ、醍醐味みたいなものを感じることができると思います。(石川美帆)」

発売:2024年5月19日
発行:有限会社りす
価格:1,650円 (税込)
ページ数:235P

 

Recommender:noru journal編集:石川美帆

都内在住、1995年生まれ。前職はグラフィックデザイナー。その後SHIKAKU incに所属しnoru journalの編集部員となる。休日は月に数回友達と目的のないドライブを楽しんでいる。趣味は温泉、お絵描き、美術館巡り。
IG:@ishi_mih0

帰れない山/(著:パオロ・コニェッティ),(訳:関口 英子) [完読時間 約5時間]

北イタリア、モンテ・ローザ山麓を訪れたくなる、心が鳴るような文句なしの名作

「昔から、人が救われる物語が好きで、この『帰れない山』もそういったお話です。作者の実体験をもとに創作されたそうなんですが、少年時代に過ごしたイタリア・アルプスを舞台に、それぞれ傷をおった2人の青年が、山や自然の助けを借りながら再生していく。再生の象徴として、2人で山の中に小屋を建てるというものがあるんですが、その情景描写がとても素敵で、舞台となったイタリアのモンテローザ山麓を訪れてみたくなりました。読後にキューッと心が鳴るような、そんな本ですね。映画化もされていて、そちらもカンヌを受賞している文句なしの名作かつ、山々の美しさも見事に切り取っている作品です。(井卓)」

発売:2018年10月31日
出版社:新潮社
価格:2,475円 (税込)
ページ数:272P

 

Recommender:ライター 櫻井卓

1977年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスのライターに。
30過ぎてから旅にハマり、最近はアメリカを中心に海外の国立公園をハイキングするのが趣味。好きなジャンルは、旅、登山、アウトドア、歴史、自然、野生動物、インタビュー。
IG:@sxuxb.sakurai

四月になれば彼女は/川村元気 [完読時間 約4時間]

昨年映画化のベストセラー恋愛小説。時間があるときにゆっくりと、恋や愛に向き合える1冊

「高校生の時に表紙が好きで買った本です。当時は途中で読むのをやめてしまいました。映画が公開される(2024年3月)ということもあり、読み切りました。私に恋愛経験があまりないからか、登場人物のことを全然理解できません。でも、本はそれでいいはず。愛をもとに色々なことに気づかされます。そして、きれいです。愛についても孤独についても、そして幸せについても考えは人それぞれあると思いますが年末年始の時間がある時にゆっくり読んでゆっくり考えてほしい作品です。ところで、色々分かったとしても恋愛とか人間関係ってうまくいくんですかね? 私は分かった気になっただけな気がしますね!(柘植美咲)」

発売:2016年11月4日
出版社:文藝春秋
価格:1,540円 (税込)
ページ数:‎269P

 

Recommender:フォトグラファー:柘植美咲

写真家。2000年、三重県生まれ。2016年の高校1年生の時から写真を撮り始める。2018年、ポカリスエットの広告を撮影。2020年2月、IMA nextの「LOVE」をテーマにした回でグランプリを受賞。
IG:@misaki_tsuge