旅とヒトとローカルをつなぐ、その次の一歩

「NEST CARAVAN」とは、自分たちの“ネスト”であるクルマに乗って全国を巡り、ローカルの人々と出会い、その土地の物語に耳を傾けてみようというプロジェクトです。ウェブという液晶の向こう側だけでは届けきれない体温や空気感を読者に届けるには……。そんな思いから1泊2日の旅を伴うイベントの形にしました。
初回は2023年、富士山麓のキャンプ施設〈FUJI GATEWAY〉でテストイベント的に実施。生活に旅を持ち込み、バンライフを実践しているVANCAMP JAPANの6組を迎え、アウトドアアクティビティを通して心を通わせる“キャラバン”のかたちを模索しました。

noru journal主催の読者参加イベント「NEST CARAVAN」開催!
第2回となる「NEST CARAVAN 2025」では、より多くの参加者と、自然豊かなフィールドで旅とローカルが交わる場を作るべく、規模を広げて開催。noru journalとしては初の読者参加型イベントとして、全国から約30名の方にご参加いただきました。
会場は、日本一標高の高い村として知られる長野県・川上村。森深い高原のキャンプ場には、家族連れもカップルもおひとりさまも、それぞれのスタイルで集結。各地から片道何時間もかけて、旅を楽しみながら、八ヶ岳を望むこの風光明媚な大地へ足を運んでくださいました。


今回選んだ舞台は〈ist-Aokinodaira〉。2022年にオープンした隠れ家的スポットで、「普段の暮らしを自然の中で」をコンセプトに、暮らしと自然をつなぐ場を提供しています。
メイン会場は、千曲川の源流が脇を流れる草原サイト「Sky」。テーブルとステージをしつらえ、参加者の皆さんは各々の場所にテントを張ったり車中泊をしたり、森に点在するHutに宿泊しながら、思い思いのスタイルでプログラムにご参加いただきました。


「いただきます」その一歩手前に立ち戻る昼下がり

イベントの最初のコンテンツは、八ヶ岳の南麓、山梨県北杜市を中心に活動する〈四季とジビエ 山祇〉によるランチ&自然と食のトークショーでした。
その土地の物語に耳を傾けるという「NEST CARAVAN」の趣旨にも通じると考え、彼らが自ら捕獲・解体・調理したジビエのランチプレートを、参加者の皆さんに味わっていただきました。


メニューは、シカ肉のサラダとサンドイッチ、イノシシのリブ、実山椒のクリームチーズ、キノコのピクルス、マコモダケのスープが彩りを添えます。初対面の参加者同士も顔を見合わせて「これがシカ肉? ぜんぜん臭みもなくて美味しい」と、嬉しそうに話されていたのも印象的でした。
「季節ごとの木の実や花、草木。湧水。山の恵みの中で生きている野生の動物。そんな自然の循環、山の食材を一皿の上で出会わせたい」
そう語ってくれたのは、代表の田邉真也さん。


「増え続けるシカやイノシシの被害を食い止めるための捕獲は必要ですが、食肉にならず廃棄されてしまう命も少なくありません。いただくからにはきちんと美味しく届けたい。野生の命を狩るために自分の命を使う。ただ奪うのではなく、奪った命をしっかり使い切ることを大事にしたいんです」
多くの場合、わなにかかった個体はその場で絶命させるのが一般的だそうですが、山祇ではよりよい状態で活かすため、可能な限り生体のまま自社の解体施設へ運び、最良のコンディションで処理します。山を下りるあいだ、縛った四肢を担ぎながら伝わってくる獣の息づかい、鼓動、におい、温かさ……。それらを全身で受け止める時間も、命をいただく者の責務だと田邉さんは話してくれました。
静寂に包まれた森のテーブルで、ジビエコースを囲む


当日のディナーも〈四季とジビエ 山祇〉によるジビエのミニコース。メニューは、鹿のコンソメ、ピンチョス、ブルスケッタ、パテドカンパーニュ、猪の赤ワイン煮、湧水鱒のエスカベッシュ、キノコのスープ、鹿肉の薪火焼きご飯。
提供される器や盛りつけによって、アウトドアイベントらしからぬ、華やかな宴に。ジビエについての物語を聞いたあとでいただく山の幸は格別で、ワイン、樹木から抽出したアロマウォーターをたしなみながら、和やかに夜が更けていきました。
製本ワークショップで、noru編集部の苦労を皆さんにもお裾分け?

イベントの空き時間に楽しんでいただける、スモールコンテンツを。そんな想いで用意していた、noru books 製本ワークショップ。2025年春に発売した新作ZINE『PEOPLE 30人のヒトとクルマ』の制作にあたって、編集部内で暗黒時代と揶揄されたあの製本作業を、実際に体験していただく企画です。
リソグラフ印刷機でA3用紙に両面印刷し、その印刷された2枚のA3用紙を折って、切って、差し込んで製本。ホチキスもテープも接着剤も使わない、超アナログな手法で綴じていきます。

編集部では「もう二度とやりたくない」と敬遠される作業なのですが、ふたを開けてみれば予想以上の盛況。「自分で本を作るなんてはじめて」「この変わった作り方、面白い!」といった声があがり、嬉しい誤算でカッターやカッティングマット、定規が不足する事態になってしまいました。
リソグラフ特有の版ズレ、手作業ゆえのいびつな開き、折るたびに指につくインク……。そんな手間のかかる本作りを一緒に共有できたことは、編集部にとっても貴重で嬉しい体験になりました。
クルマ旅を語り合う宵の口

北海道・十勝を拠点にプレミアムな旅体験を提案する『Moving Inn』。その協力のもと、noru journalではバンライフの魅力を伝える連載コンテンツを制作してきました。夜のプログラムでは、同連載に登場した旅人たちと『Moving Inn』プロデューサー・渡邉桂志さんを迎え、クロストークを実施。
「自然や冒険に触れて気づくだけで終わらず、その先に新しい何かを生み出していく。キャンピングカーでの旅は、アーティストやクリエイターにどのように映り、どうアウトプットしてくれるのかに強い関心があったんです」と、渡邉さん。
第一幕:海と向き合うサーフトリップと、山で研がれる視点

夕食前の第一幕では、写真家・映像作家の Nachosさんが、2023年に3度の遠征で挑んだサーフポイントの開拓を、写真家・根本絵梨子さんが今年7月に実行した山旅を紹介。いずれも北海道を舞台にしたロードトリップの記憶を、それぞれの視点から語ってくれました。

※アジアのロングボードチャンピオンである田岡さんとともに、函館、利尻島、道東と、3度にわたって24日間行った旅の記録は、noru journalで連載したフォトコラム『Endless water』にも詳しく掲載しています。
「日本の自然に目を向けたとき、海外に向けてもこの素晴らしさを発信したいと思って撮影をはじめました。想像以上に美しい映像として収めることができた一方で、よそ者は勝手にサーフィンしてはならないといった、厳しいローカルルールにも直面して。結果的に、そのリアルも含めたドキュメンタリーになっていきました。それが図らずも世界の映画祭でも日本のカルチャーを知る手がかりとして評価してもらえたのですが……」とNachosさん。トークショーの後には彼女とプロロングボーダー・田岡なつみが手がけたドキュメンタリー『MAHOROBA』の上映も行いました。

北海道の海沿いを巡った Nachos さんとは対照的に、写真家・根本絵梨子さんはニュージーランド人の映像作家・エリナ・オズボーンとともに、北海道の山を軸にロードトリップを実行(旅の模様は、後日 noru journal 上で掲載予定)。トークでは現地で撮影した写真を投影しながら、自然に身を置くことが「写真家としての自信」につながっていった過程を語ってくれました。
今はアウトドアでの撮影が多いという根本さんですが、かつては都内のファッション撮影が中心。その頃に出会ったのが登山でした。
「今では、自然の中に行くこと自体が日常になっていて、そのときが一番自分らしい状態だと感じます。山でも川でも海でも、自然の中にいると素の自分でいられるし、写真や仕事にも自然と自分らしさがにじむ。前は少し迷いもあったけれど、いまは自信をもってそう言えるようになりました」

今回の旅は、まだ雪渓が残る7月の北海道。3週間という長そうで短い旅のなかで「少しでも長く歩きたい」という思いから、大雪山系を5日かけて縦走したそうです。
第二幕:双子で過ごす北海道。それぞれの自然との向き合い方

トークセッションの後半は、アウトドアを愛する双子の兄弟がゲストに登場。日本文様や家紋など和の様式を取り入れたロゴ、ヴィジュアルデザインや写真撮影を日本各地で手がける船山 改(あらた)さんと、浅間山を中心にガイドツアー〈Gen〉を主宰し、アルパインクライマーとしても活動する船山 潔(いさぎ)さんです。
「双子って、趣味やライフスタイル、アイデンティティまで同じだと思われがちですけど、本当は違う。双子にとってはあるあるなんですけど、同一視されるのがすごく嫌だった時期もありました」と語るのは弟の潔さん。

※彼らの旅の模様は、連載「NEW OUTDOOR JOURNEY」で公開中。二人が分かち合った喜びと奮闘が記録されています。
それに応えるように、兄の改さんはこう振り返ります。「自然や山は共通の原点だけれど、同じ風景を前にして潔は何を考えるのか、自分はどう捉えるのか? 一緒に旅をすれば、その違いが見えてくると思ったんです」
改さんは写真を撮りながらプロジェクトを成功させる視点で、潔さんは山のプロとして安全に楽しむ視点で。プロフェッショナルとしての立場の違いが、ときに摩擦を生み、ときに互いを補い合う関係に。旅の終盤には口もきかないほどすれ違った瞬間もあったそうですが、当日のトークは終始和やか。仕事観や自然への向き合い方を認め合い、互いの存在を尊敬していることが伝わってきました。
インターネットを介さない、noruのプロジェクト
読者のみなさんとこうして旅をともにするのは、noruにとってはじめての試み。一般的なキャンプイベントよりも人と人のコミュニケーションを重視するコンセプトゆえ不安もありましたが、参加者のみなさんは開会のあいさつ前から「どこから来たんですか?」と気さくに声を掛け合い、場はすぐに和やかなムードに。夜は焚き火を囲み、それぞれの暮らしや楽しみについて語らっている姿も見受けられました。
ロングテーブルを囲めばそこに会話が広がり、気づけば主催側も参加者と同じ輪の中に溶け込んでいました。そして、2日間の締めくくりには、noru journalの人気連載「PEOPLE ヒトとクルマ」の取材と撮影も実施。ご協力いただいた方それぞれの移動のスタイルや、クルマとの思い出を深く伺うことも叶いました。記事は後日掲載予定ですので、どうぞお楽しみに。

今回の規模感だから得られたであろう居心地のよさと、より多くの皆さまとつながりたいという願い。その両方を胸に、次回の「NEST CARAVAN」をどんな形式にするか、これから検討していきます。
また、読者のみなさまと交流できる場でお会いしましょう。
photo by Teppei Hagiwara / text by Junpei Suzuki