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写真家が移動できなくなったとき #02
2020.05.28

写真家が移動できなくなったとき #02
by 柏田テツヲ

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の蔓延を防ぐための自粛要請によって、あらゆる職種の人々と同じく、写真家の暮らしも大きく変わっている。旅を生活の基盤においていた「旅する写真家」は、今、自宅でどんなことを考えているのか。アメリカを旅した際に撮影した写真集2冊を発表すると同時に、さまざまな雑誌、コマーシャルから依頼を受けて仕事をしている若手写真家、柏田テツヲさんに、暮らしにどんな変化があるのか聞いた。

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アメリカを旅しながら撮影しつづけ、人々とその情景で構成される写真集『STRANGER』(Wyoming, USA)

——撮影の仕事ができない、現在の状況をどう考えていますか?

仕事という意味では、かなり厳しいと思います。これから少しずつ撮影が再開されたとしても、ある程度キャリアがあって実績がないと回ってこないんじゃないかなと僕は思っています。みんなスケジュールが空いているわけですから、一人目として声がかからないと、二番手まで回ってこない。特にスタジオから独立したての若手は、すごくかわいそうな状況ですよね。なので、仕事はかなり減ると思っていますし、フォトグラファーも本当にたくさんいるので、、、ただ、僕自身は元々コマーシャルの仕事を抑えようと思っていたタイミングなんですね、今年から。だからこの状況にもうろたえていないというか。


写真集『STRANGER』(South Dakota, USA)

——どうして、コマーシャルの仕事を抑えようと思っていたんですか?

独立してからのこの5年間で、いろいろな仕事をさせていただいたと思っているんです。好きな仕事もたくさんあったけど、中には自分には向いていないと感じる仕事もいっぱいあったなと思います。なんて言うか、広く浅かったなと思うんですよね。これからは、もっと深い仕事を、深い関係を築きながら仕事していきたいんです。人間関係も同じです。最後は人と人との仕事なので。

言い方が難しいですが、あの仕事をやりたい!って、仕事を目指すんじゃなくて、自分自身がきちんとした意味を持って写真を発表した上で、その仕事に呼んでもらえるようになりたいんです。仕事をもらうために競争力を磨くよりも、「自分が何をすべきなのか」「何を撮るべきなのか」っていうことをきちんと考えたいなと思っているんです。

——自分の中での過渡期に、新型コロナウィル感染症の現在の状況が偶然重なったと。

そうですね。それから僕は2年に一回、2ヶ月程いっぺんに休んで作品撮りを続けているので、今年もともと休むつもりだったんです。そうしたらコロナも重なって撮りに行けなくなりましたが、、、(苦笑)

もしも仕事が減ったとしても、僕は写真だけでご飯を食べていこうとも思ってなくて、それよりももっと自分の好きな写真、自分の意義を感じる作品を発表していきたい、自分は写真で何が出来るのか、自分の写真を突き詰めていきたいなと思っているんです。その発信を喜んでくれる人と一緒に仕事がしたいなと思うようになってきたんです。

写真集『STRANGER』(Texas,USA)

写真集『STRANGER』(Wyoming, USA)

社会的風景を捉えたい
これから「写真」ができること

——では柏田さんは、自分の作品として、どんな対象を撮影していきたいと考えていますか? 

もっと報道としても意味のあるものを考えています。最初に出した写真集『MOTEL』は、エグルストンや(スティーブン・)ショアなんかの、僕が好きだった写真家から受けた影響が強く出ているし、ビジュアル作品になってしまっていると思うんです。自分としてはオリジナリティもそんなにない。でも、あれを撮ったことによって、今度はそこに住んでいる人たちはどんな生活をしているんだろう、なんでこういう状況になっているんだろうって、ビジュアルから、より中に入っていきたいって思うようになったんです。

そうやって旅をしながら知ろうとしたけれど、でも分からなかった、という作品が2冊目の『STRANGER』っていう作品なんです。東海岸、西海岸の大都市でだけではないアメリカの少し闇のような部分を掘っていきました。

この2冊を踏まえて、僕は、そこに内面的なものが映るような、なぜそうなっているのか? っていう、社会的風景をひとつの軸として作品づくりをしていきたいと思ったんです。元々僕は、旅をしながら写真を撮り始めたので、旅をしながら知っていった社会的風景を発表していきたい。でもそれは自己満足に陥らないように、何かこう、みんなに知ってもらうことでプラスにつながるようにしていきたいんですね。それが僕にとって、写真にできることかなと思ったんです。

アメリカのロードサイドを撮影した自身初の写真集『MOTEL』(Arizona,USA)

——すでに撮り溜めているテーマもあるんですか?

とても大きな“ジャンル”ですが、社会的風景の一つに環境問題があります。僕はオーストラリアに住んでいたこともあるので、ずっと作品にまとめたいなと漠然と思っていて、定期的に通っていたんです。きれいな海を守るためにできることはなんだろうと思っていたら、昨年の過去最大の森林火災があったんです。真っ黒に焼けた跡って、すごくきれいなんですよ。灰が流れ込んで川が真っ黒になったり、焼け落ちた木が光に照らされて黒い鱗のように見えたり。実際、とても大きな環境問題なんですけど、そこには神々しい美しさがあって、そのギャップに魅せられてしまった。僕が提示していきたいのは、こういうことなんじゃないかなと思ったんです。

例えば東京で経済活動のために排出している二酸化炭素が、オーストラリアで自然と共に暮らしている人たちの森が燃えてしまったのに少なからず関係している。そういうことに、きれいだなって写真を見た人たちが意識するようなきっかけになるというか。それまでも毎年のように森林火災はあったけれども、昨年の火災は街まで押し寄せて亡くなった方もいらっしゃいます。それに建物は壊れてなくなるけれども、自然は再生していく。そこに生と死とか、人と自然との関わり方を考えさせられるものがあるんじゃないかなと。

ようやく自分が一生掲げられるテーマみたいなものに、出会えたんじゃないかと思ってますね。自分はこういうことがしたかったんだって、自分を知ることができた。

環境問題をテーマに撮りためている作品の一部を掲載(New South Wales and Victoria, AUS)

旅先でも、半径100mの世界でも、変わらないものを求めて

——旅をできない今、その作品をまとめる時間ができたと。

そうですね。まさに何もない時間に、ずっと向き合ってます。それから、次に何を撮ろうか、リサーチする時間にあててます。不安もあるけれど、あんまりネガティブなことは考えずに。

——やっぱり背景をきちんと捉えて、写真を撮りたいっていう思いがあるんですね。

ある程度きちんと調べて、それから旅に出たいんです。リサーチした段階で頭に浮かんだものを紙に書き出していく。こういうものは絶対キーワードとして撮りたいなって思っても、実際に行くと見つからなかったりするんです。そうしたらまた違う何かを発見する。そうやってどんどん進んでいく感じですかね。

ある程度準備をしても、その想定を裏切られるから面白い。Aさんにアポイントを取って会いに行ったけど、Aさんが紹介してくれたBさんの方が面白い、みたいなことは往々にしてあって、それが醍醐味ですよね。でも、リサーチして想定していなかったら、Bさんにも絶対に出会えないわけですから。

僕は、結構考えてから撮るタイプだと思うんです。自分がフィットするものをしっかりと考えてから動くんで。今回の新型コロナ感染症の状況も、社会的風景の一つだと思うんです。今はまだ見つかっていないけれど、自分なりの視点を見つけられたら撮りたいなと思って、じっくり考えてますね。

——今後、気軽に旅に行けるかどうかわからない状況でも、社会的風景を撮る、という意思が何よりも重要ということですね。

もちろん旅をしていたいです。僕は高校も野球部で地方に留学してたり、大学生になってからもバックパッカーで旅ばかりしていて、本当に転々と暮らしてきたんですね。海外で写真を勉強したいとオーストラリアに行って帰ってきて東京にいるんですけど、東京にそんなに長くいるつもりもなかったんです。本当は、来年にはアメリカに移りたいと思っていたんです。それもどうなるかわからないですけどね。あんまり拠点に縛られたくないんですよ。ずっとグルグルしながら、自分が撮っていきたいと思うもの、一生かけて魂込められるような対象を見つけたいなと思ってるんです。もちろん日本でも、少しずつ進めているプロジェクトもあります。

売れる、売れないじゃなくて、自分が納得できるものを、どれだけやれるかだと思ってるんです。今までのように移動できるかはわからないですけど、「芯」を持って写真に向き合ってさえいれば、旅先でも、半径100mの世界でも、変わらないんじゃないかなとも思うんです。

少し前から考えていた、そういう自分の作品への決意みたいなものに、図らずも向き合う時間になってますね。

柏田テツヲ
写真家。1988年、大阪府生まれ。2017年にはアメリカのモーテルと周辺の人々を撮影した個展「MOTEL」を開催、同名の作品集を刊行。2019年に刊行した作品「STRANGER」では写真新世紀 佳作 サンドラ・フィリップス選を受賞。現在は今年の秋に発表しようと思っている新しい作品の準備を進めている。

https://www.tetsuokashiwada.net
https://www.instagram.com/tetsuokashiwada

Photo by Tetsuo Kashiwada Text by Toshiya Muraoka