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When the city flourish 個が街になる。福生から伝える文化の始まりと、その続き
2024.05.02

When the city flourish 個が街になる。福生から伝える文化の始まりと、その続き
by 佐藤竜馬

横田基地があることで知られる福生市は、1950年前半に建てられた米軍ハウスが点在する街。戦後の最盛期には全国各地にそれぞれ200〜300棟建てられたといわれ、近代的なアメリカンカルチャーとともに日本人を魅きつけた。まもなくして民間へ解放され、米軍ハウスとしての役目を終えた70年代ごろからは、著名なミュージシャンや俳優が棲み始めたことで人気を博し、アメリカを擬似体験する若者が街に増えていった。

» 佐藤竜馬

今回の取材意図は、メディアカラーである「旅」や「移動」という性質のカウンターにあたるもの、と私たちは心得ている。

もし旅や移動が、通り過ぎるだけのものではなく居を定める目的のひとつとするならば、人や街への関わりかたにはいくつもの形がみえてくる。人は街になにを求め、どんな風景に満たされていくのだろうか――。

あらゆる意味でカウンターカルチャーをリードしてきた福生を例に、まちづくりのこと、そしてその現在地を知る佐藤竜馬(さとう りゅうま)さんに話を伺った。

福生の素地、横田基地

福生を南北に走る国道16号線の西側に、ベッドルームとバスルームのみの宿泊施設〈THE TINY INN〉が2020年に誕生した。1日1組限定で、ゆっくりと福生をまちごと楽しんでもらうことをコンセプトとしている。これはアメリカの大量生産・消費社会のムーブメントの中で生まれた、移動可能な車輪付きのタイニーハウス(最小宿泊施設)。そしてその目前には建設資材置き場だった場所に5台のフードトラックを連ねたフードトラックプレイス〈DELTA EAST〉が広がる。以前は夜になると街灯もわずかなひと気のない通りだったが、ドライブがてら立ち寄り、食を通して人々が行き交う場として蘇らせた。

これらを手掛けプロデュースするNPO法人〈FLAG〉で副理事長を務める、生まれも育ちも福生の佐藤竜馬さん。自身もこの施設内のキーテナントでNEW YORK STYLEのピザを提供する〈DOSUKOI PIZZA(ドスコイ・ピザ)〉を構えている。

「福生は横田基地をベースに、アメリカンカルチャーと小さなBARやライブハウス、飲食など第三次産業が盛んな街です。よく知られているのは、70,80年代頃の米軍ハウスに若者が棲みつくムーブメントが起こりヒッピーカルチャーにある音楽、生活、食などのアメリカンカルチャーが席巻していたこと。僕の父親もその友人も、米軍ハウスに住んでいたり、例に漏れずジョン・レノンのように髪を長くしていました。その世代感覚でいうと僕たちの時代はコーヒーでいうならばセカンドウェーブを経てサードウェーブに変化する時。これまでの文脈を尊重しながら今の時代の解釈で独自のカルチャーを育てているような段階です。ただ、メインストリームに抗うカウンターの心は奥底で持ち続けているんです。それをうまくハイブリッドにイノベーションを起こしていきたい。」

福生の文脈を体感しながら育ってきた佐藤さんがNPO法人〈FLAG〉を立ち上げたのはサラリーマン時代。長年、広告制作やブランディングなどクリエイティブを生業としてきたが、広告だけで収入を得ることへの疑問を感じると同時に、街の価値を高める活動に引き寄せられるようになっていった。それは自身のバックグランドが原点にあったという。

いくつもの顔が、街をつくる

福生のまちづくりのベースにあるのは、環境先進都市で知られるオレゴン州のポートランド。かつては誰も気にも留めなかった古い小さな田舎町が、豊かな自然を守りながら多様な個性やクリエイターたちで醸成した都市に、佐藤さんは共感を覚えた。

「仕事で何度か行っていたポートランドは、どこか自分の街と似ていると感じました。自分の好きなことで生計を成り立たせるスモールビジネスが多種多様に存在する。農業をしているヒッピーな父親、その食材を使ってレストランを運営する息子、家に資金がなく自宅を改装して庭で小さなレストランを始める人など、その文脈を受け継いだサードウェーブなヒッピーが多くいたんです。そんなイズムを内在しながら、普段はバンドで音楽をしていたり、コーヒーショップでバリスタをしながら農業もやって、カメラマンとして活動していたりといくつもの顔を持ちながら複数の仕事をしている。さらに、かつて街の命運を分けたであろう都市開発という選択をしなかったこと、オールドタウンを活かしスモールビジネスをそれぞれに持ちながら暮らしている古き良きアメリカに気づきをもらいました。」

佐藤さん自身、いくつもの顔をもつ街のキーマンである。小さなムーブメントを起こしていくには行政や子育て世代への課題もあるというが、都内より比較的賃料が安く都心部まで1時間圏内な上に、独自のカルチャーもある。そんな地域資源を活かすには、まずはファーストサンプルとして自分たちがカルチャーや新潮流を起こしていくというが、地域の経済圏を見出すことに近いと語る。

“現代の百姓“という考え方

クリエイティブやデザインの力で課題を解決してきた佐藤さんの学びと実践は10年かけて開花された。しかし、ホテル経営やピザ屋のドメインを持つことはある意味ゴールではない。

「以前、大先輩でもある大好きなIDEE創設者の黒崎さんを取材させていただく機会があり、黒崎さんがよく“百姓的な働き方をしよう”とおっしゃってました。よく言われる“百姓百の仕事“とは、100の仕事を表すことばですが、働き方を例に少し遡ると、江戸時代のころの仕事は現代よりすごく細分化されていて、1本のキセルを作って売るまでに様々な人の手を介していたといいます。分業された時代で収入を得るには1つの仕事だけではなく、持つスキルを跨ぎ稼ぎをつくる。現代のセカンドビジネスの領域で柔軟にいくつもの顔を持つことは、個や街のアップデートにも繋がり、これからの時代を生きるのにすごく強いと思っています。」

旧来からの働き方、そしてポートランドにみた街の風景は、佐藤さんに大きな影響を与えている。街を育てていく文脈において、“現代の百姓”という考え方は人と街がうまく関われる手段なのかもしれない。

言語化する、街カルチャーの編集者

会社を立ち上げたばかりのNPO法人〈FLAG〉は、何をやっている会社ですか?と聞れても言語化できずにいた。マクロ的なクリエイティブの表現にどこか違和感を抱いていたが、〈THE TINY INN〉や〈DELTA EAST〉などの活動は、ミクロな視点を広げていった。

〈FLAG〉が考えているのは、地域資源を活かしてビジネスとカルチャーを再編集しプロデュースしていくこと。これまでクライアントワークで他社のお店や事業を作ってきたけれど、リスクをとって自分たちのお店や事業をやったことで解像度が抜群にあがりました。最適な投資費用、KPIの設定、現場の細かな運営のノウハウを得られたことはこれから地域でなにか事業をしたい人、地域経済開発や公用地の利活用をしたい行政の方にとっても有益な企画と課題解決のアイデアを提供できるように違えなくなります。それぞれの自治体での人材不足、地域産業支援、ブランディングにおける地域課題に対してはもちろんですが、小商いをしたい事業主や若い人たちが低投資で開業できるという点においてはフードトラックはメリットも多い。現在企画している『開業ノウハウが学べるフードトラックスクール』も定期的開催予定で、スクールの募集も行っています。

〈DELTA EAST〉は定期借地で3年ごとに入れ替わり、フードトラックスクールで学んだ後に実店舗を開業するなども可能。事業を生み出すというハードルを下げるだけでなく開業し、続けるというモチベーションにも期待できるかもしれない。ビジネスとしての地域課題を解決するのが、佐藤さんやNPO法人〈FLAG〉の考えるフードトラックスクールの試みだ。

さらにスモールビジネスを育成させていくのには、若い世代の沸々とはみだした感覚や個性を引き上げることが、まちづくりのアップデートに必要なことだと佐藤さんは捉える。表層的な美しさだけではなく、解釈や視点や深さも人それぞれ違うことを理解したえうえでどうやって魅力的な街にしていくのか。街カルチャーの編集者でいるには、“これまでの理解や学びをし続けること、そして既成概念を越境していくこと“と佐藤さんは言う。

まちづくりと都市開発は投資規模もまったく違うけれど、根の部分は同じだと思っています。要は人の個性を活かし、地域の価値を高め続けるということ。古屋を改装してカフェにしたりパン屋にしたり、小さなインフラで街を耕すことは時間も労力もかかりますが、まちづくりの土壌をつくるためには必要なアクションです。ポートランドのまちづくりも60年以上かかっていますが、課題も地域資源も異なる上で、それぞれに順応できるように力をつけていきたい。生きている間に達成できるかわからないけれど、そんなアイデンティティや誇りが人や街をアップデートする機会になれればいいなと思っています。

10年前、バンドを組むように始まったNPO法人〈FLAG〉。会話の中で、“やりたいことがあっても言語化できない、でもそんなやついっぱいいると思うんです”という言葉に印象を受けた。生まれ育った場所で、自分が住みたい暮らしを表現し続けていくということ。そんな街に必要なのは通りすぎる人にとっても立ちどまる人にとっても、どこかに居場所を自分の視点で見つけていくことなのかもしれない。

佐藤竜馬 (さとうりゅうま)

福生市在住。広告代理店、クリエイティブエージェンシーを経てNPO法人〈FLAG〉を設立。副代表理事を務める。まちづくりにおいての地域活性化や都市開発事業などを手掛けるながら、地元福生にてフードトラックで提供するのNEW YORK STYLE のピザ屋〈DOSUKOI PIZZA〉を主宰。

IG:@dosukoipizza

photo by Kazuho Hirano / text by Mariko Ono