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NEW NORMALのバンライフ #02 しがらみから自由になる、タイニーハウスという暮らし方
2020.10.05

NEW NORMALのバンライフ #02
しがらみから自由になる、タイニーハウスという暮らし方
by 竹内友一(タイニーハウスビルダー、TREE HEADS & Co.代表)

アメリカで生まれたタイニーハウス思想を日本に持ち込み、日本の文化に寄り添ったスタイルを提案する竹内友一さん。いくつかのプロジェクトが頓挫したことで自分に向き合う時間が持てたというステイホーム期間中、コーポラティブ型ヴィレッジ構想と高齢者のためのタイニーハウスに思いを馳せたという。これからの時代のバンライフを模索する連載第二弾は、ポストコロナ社会をしなやかに、軽やかに生き抜く、タイニーハウスを軸としたシェアリングコミュニティを考える。

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35年ローン、それ以外の選択肢を持てる時代へ

必要最低限の持ち物と、それが収まるコンパクトな家。そんな小さな暮らしやその住まいかたをタイニーハウスと言います。これは「小さな家でミニマルに暮らそう」という観念的なことだけではなくて、住まいを小さくし持ち物を少なくすることで支出を減らし、多様な働き方や生き方を考えてみようというもので、最近は現実的な暮らしの選択肢の一つと捉えています。

いまの20代〜30代前半の世代にとって、35年のローンを組んで家を買うという選択肢は果たして現実的なのか。500万円程度でも建てられるタイニーハウスに暮らし、家族の形に合わせてフレキシブルに住まいを変えていく方がよりリアルじゃないだろうか。リアリスティックにコスト面を突き詰めてタイニーハウスを社会実装するべく、さまざまな仕掛けを考えているところです。

コーポラティブ型タイニーハウスヴィレッジを作る

コロナ禍を受けていくつかのプロジェクトが中断したおかげで、久しぶりに立ち止まって考える時間を持つことができました。ここ数年、アメリカ発のタイニーハウス・ムーブメントを中心に発信を行ってきましたが、現在はタイニーハウスをもっと身近なところから考え直したいと、これまでとは異なるアプローチを探っているところです。いま企画しているのは、タイニーハウス本来の姿に立ち返るべくセルフビルドをテーマにした個人向けのワークショップや、コーポラティブ型タイニーハウスヴィレッジを造ること。





職業や世代も違えば、タイニーハウスを求める目的も様々だというワークショップ参加者たち。

コーポラティブハウスはイギリスや北欧で広まった集合住宅のスタイルで、住み手が組合を結成してコンセプトや居住空間を自由に設計するというものです。それをタイニーハウスで実現しようというのがヴィレッジ構想で、シェアリングエコノミーの考えをベースに共有空間とプライベートな空間を備えた新しい集住のカタチを作りたいと思っています。コーポラティブ型の面白いところは、住人たちが自らルールを作り、運営を行うところ。つまりヴィレッジそれぞれで異なるキャラクターが顕在化するんです。

生きたいように生きるための仕組み

例えば海辺のヴィレッジならサーファーだらけかもしれないし、いい岩場の近くにはクライマーが集まるかもしれない。自分のやりたいことがあって、それを追求するために生活コストを下げたいと考える住人が集まって、それぞれが暮らしをチューニングしながらコミュニティを作っていく。もしかしたらエネルギーや食を融通し合う関係性が生まれることで、住人間の絆はより深くなるかもしれません。これが、僕が考えるヴィレッジの姿です。おまけにタイニーハウスならライフステージに合わせて気軽に住み替えができます。機動力はないものの可動性はありますから、住む場所に縛られることもありません。

ヴィレッジ実現の手始めに進めているのが、タイニーハウスの住宅展示場を北杜市に設けること。僕が現在、断熱にハマっていることもあって、展示場では断熱・気密性能の異なるタイニーハウスを実際に滞在できるように展示し、断熱とエネルギーの関係を体感できるようにしたいと考えています。タイニーハウスの断熱性能を上げるとエネルギーを節約でき、ますます生活コストを削減できます。断熱がもたらす、小さいけれど心地の良い住環境を体験してもらって、その先に自分がどんな暮らしを追求するのか、それを見つめられる場所になればいいですね。

高齢者のためのタイニーハウス考

コロナ禍において高齢者を守ろうという気運が盛り上がりましたが、じゃあ現代の社会を俯瞰で見てみて、果たして高齢化社会のありかたってこれでいいんだろうかと疑問に思いました。

ステイホーム期間中、「自分は親世代のために一体、何ができるのだろう」、そう考えたことをきっかけに高齢者のためのタイニーハウスヴィレッジ、つまり高齢者が集まるタイニーハウスコミュニティに想いを馳せるようになりました。日本では平均寿命は飛躍的に延びていますが、その晩年をみんなはどう過ごしているのか。例えば老後が30年あるとして、老人ホームに閉じこもって過ごすなんてそんな未来は寂しすぎる。僕が考えているのは、自然環境のいいロケーションにあってハーブや花を育てられるようなプライベートなスペースを備えた、コンパクトで快適な平屋のタイニーハウスです。テクノロジーがさらに進化して医療のオンライン化が進めば、高齢者も気軽に都会を離れて自由に住処を決められるようになるかもしれない。体力は落ちてきたとしても、70代、80代なりの知恵とスキルと経験値があります。親世代の価値観や生き方も考慮に入れながら彼らのスキルをタイニーハウスに活用できれば、社会にも貢献できるようになるんじゃないかって考えています。





「KURKKU FIELDS」のためにTREE HEADS & Co.が作製したタイニーハウス。古材や廃材を生かし、まるで秘密基地を思わせる趣きに仕立てた。「KURKKU FIELDS」内にあるTINY HOUSE VILLAGEでは、これらタイニーハウスの宿泊体験が可能に。予約はこちらから。

どう生きるか、どう死ぬか

僕が思うに、タイニーハウスの根っこにあるのはどう生きるか、どう死ぬかという人間の根源なんですね。どう生きるかを考えた時、僕は水がおいしくて空気が綺麗なところで、楽しい仕事をしながら生きていきたい。20歳の時にヨーロッパに渡り8年ほど向こうで暮らしたのですが、帰国して東京に戻ってきたら自分のホームタウンはすっかり肌に合わなくなっていたんです。

そこで僕が目指したのは水源のある場所、つまり水の生まれるところでした。水は全てを育む場所、万物が生まれるところです。そうして北杜市に落ち着いて、自分が心地よく暮らせる仕組みを整理して、自分なりのエコシステムを築いてきました。エコシステムといってもそれは大それたものではなく、例えば廃棄されてしまうゴミを作品に取り入れるとか、地域の素材や人材を活かした仕事を生み出すとか、ちょっとしたことです。そうした小さなエコシステムに人の営みや文化、デザインを盛り込んで人間の生態系を整える。そこにタイニーハウスを取り入れられれば、仕事にがんじがらめになることなく、好きな仕事をしながら楽しく自分らしい暮らしを実現できるんじゃないかな。

コロナをきっかけに改めて自分たちの過去と未来に思いを馳せてみて一つ確かなことは、僕たちみんなが本質に向き合うようになったということです。これからの社会がどういう方向に向かうのかはわからないけれど、そうして描いた未来の姿の一つに、タイニーハウスという選択肢が加わるようになれば嬉しいですね。

竹内友一
山梨県北杜市を拠点に、タイニーハウスの施工や体験プログラムの制作・運営を行う。2016年にはアメリカのタイニーハウスムーブメントを取材した映画「simpllife」を自主制作。手掛けた物件に千葉県「KURKKU FIELDS」内のタイニーハウスヴィレッジ、千葉県勝浦の「RECAMP勝浦」など。www.treeheads.com

Portrait Photo by Shuhei Tonami / Workshop&Image Photo by Ben Matsunaga / Text by Ryoko Kuraishi