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2020.10.30

NEW NORMALのバンライフ#03
「動く家」で目指す、定住からの解放
by 青木大和(EXx CEO)

青木大和さんが手がける「BUSHOUSE」は、マイクロバスを改造した「動く家」を移動型シェアリングスペースとして機能させるというプロジェクトだ。これからのバンライフのあり方を考える連載第3回では、移動型のライフスタイルと次世代のコミュニティ、定住から開放される未来の暮らし、そしてMaaSをキーワードに、来る超移動型社会を考える。

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コロナをきっかけにバンライフに注目が集まる

BUSHOUSEは3年前にスタートしたプロジェクトで、今年から事業者向けに販売をスタートしました。OEMとしてぼくたちが製作を請け負うのとは別に、自社でも3台のBUSHOUSEを所有しています。インスタでブレイクした、改造したフォルクスワーゲンのバスで暮らしているようなバンライファーたちの世界観は日本でも早々にメインストリームに乗ってくるだろう、そう期待していたのですが、日本ではまだまだニッチな扱われ方をされていて、この波がなかなか来ない(笑)。それでBUSHOUSEも思ったような進め方をすることができませんでした。

ところがコロナ禍によりリモートワークが当たり前になりました。郊外での暮らしを志向する人が増え、政府の方針も都市一極集中ではなく地方に分散化させようということになり、一部の層ではなく一般の人たちがこれまでとは違うライフスタイルに目を向けるようになりました。その流れの中でバンライフやBUSHOUSEが少しずつ広まっているような気がしています。

移動型滞在施設「BUSHOUSE」は移動できるシェアリングスペースとしてマイクロバスを改造したもの。

バンライフの第一歩は、週末のレクリエーションから

とはいえ、欧米諸国のようなキャンプやキャンピングカーの文化が育まれているわけではないので、日本には日本なりのバンライフが根付くと思っています。いきなりバスで暮らそうというのはハードルが高いので、ファーストステップとしてキャンプやグランピングのような施設でバンライフを体験する。週末のレクリエーションとしてニーズが広がった先に、例えば2025年以降くらいから「自分たちのセカンドハウスとしてのバンを持ってみたい」という若い世代が増えていくのかな。日本は海外に比べるとどこでもお風呂やトイレが整備されていて使いやすいですから、インフラ面はポジティブに捉えています。


BUSHOUSEを手がける株式会社EXxのメンバー、左から取締役の杉原さん、代表取締役の青木さん、取締役の中根さん。

BUSHOUSEの先にあるMaaSを考える

ぼくたちの会社のモビリティ事業には、バスハウス(移動式宿泊施設)と電動キックボードのシェアリングがありますが、それ以外にも大手企業のMaaS(※)周りの新規事業の開発やコンサルティング業務を行っています。企画から、アプリなどの技術的な開発までを一気通貫で行っているのですが、ここ数年、MaaSに関する案件がうまく稼働しています。中小から大手までさまざまな企業が興味を持っていて、これに本腰を入れて取り組もうとしているのを感じています。

※Mobility as a Service=ICTを活用して交通をクラウド化し、マイカー以外の全ての交通手段によるモビリティを一つのサービスとして捉えてシームレスに繋ぐという、移動にまつわる新たな概念。

MaaSと一言で表してもその内容は実に幅広い。例えば、ぼくたちのBUSHOUSEも電動キックボードもMaaSの一環であると言われているんですが、バスとキックボードでは大きさも用途も規格もサービスの裏側も、全く違うものです。そういう意味で、ぼくは、MaaS は小売業に近しい領域だと考えています。小売業って、コンビニから商社まで、縦と横にレイヤーが何層にも広がっているでしょう? MaaSも同様に物流的なサービスから消費者向けまでさまざまなレイヤーが広がって、各レイヤーに異なる領域が派生し、それをいろいろな事業者が分けあっていく、そんな風に捉えています。


電動キックボードを用いた短距離移動ソリューションを提供するサービス「ema」。地域特性やニーズに応じて販売、 レンタル、シェアリングサービスなどを展開している。

MaaSがもたらすもの

実は、グローバルトレンドを見ても、未だ爆発的な収益化に成功している事業者や事例が見当たらない。そこに関してはぼくたちもまだ未知数の段階で、ぼくも事業をやりながら何が正解なのか、日々模索しています。とはいえ、自動運転がくると人件費分のコストをカットできるので抜本的な利益率の構造が変わるはずです。その仕組みが変わったらモビリティを取り巻く状況は劇的に変わりますよね。

そしてもちろん、移動のスタイルが一気に変わります。クルマで言えば、今まで座席に座って前を向いていたものが、例えばトヨタのe-Paletteのように乗り物が長方形の箱形になり、移動そのものに体験的な付加価値がついたり、あるいはオフィス代わりの空間となったり。移動がこのように変容すると、東京ではなく地方に暮らすというようなライフスタイルの変化も生まれます。マーケットそのものが大きく変わる可能性だってあるでしょう。その先にあるのが「定住からの解放」だと考えています。

定住から解放された、その先にあるもの

日本では長く、一つの場所に定住してそこから勤め先に通い、マイホーム・マイカーを持つ生活がよしとされてきました。けれど、それによって分断が起きていたのも事実です。定住、つまり限られたコミュニティに属することが当たり前になり、コミュニティに馴染めなかったりドロップアウトしたりという人にとって非常に生きづらい世の中になってしまった。ぼくは、コミュニティというのは人を縛るものではない、居心地が良ければ属していればいいし、居心地が悪ければ移動すればいい、そんな風に思っているんです。だから定住と言う概念から自由になる層が増えて欲しいと思っています。そういう人たちがBUSHOUSEのような「移動する家」や多拠点サービスを活用しながら、自由に移動して生きていく。もちろん、気に入った場所を見つけたらそこに定住するという選択肢もありでしょう。

働き方・暮らし方が変われば社会の構造が変わる

シェアリングエコノミーが謳われ始めた頃と比べると、現在はいろいろなサービスが出てきていますが、今後は多拠点居住に関するサービスが主流になっていくと考えています。戦後の日本では、職住一致の暮らし方が主流になっていたという背景があり、そうした社会の価値観が移動のしづらさに繋がっていました。こうした日本人の働き方・暮らし方に関する価値観や仕組みを変えていけば、社会や産業の構造がドラスティックに変わる可能性があります。コロナ以降、諸外国に比べても日本では特にそういう動きが顕著ですね。変化に対して非常に腰が重かった日本の社会において、従来の働き方、暮らし方を変えていかなくてはいけないと言う意識が強まっているのは、コロナ禍においてポジティブな面であると言えるのではないでしょうか。

いずれにしろ、移動しやすさという前提のある社会が、これからの時代には大切になるんじゃないかな。BUSHOUSEしかり、多拠点の月額制サービスやキャンピングカーのシェアリングプラットフォームなど、移動にまつわる事業者が増えることがライフスタイルの選択肢の広がりにつながります。定住以外の暮らし方があるという考えは心理的な安心感を生みますし、新しいことにチャレンジしたいという気運も生まれるでしょう。それによって失敗に対する寛容さが社会に広がっていって欲しい。それが、「移動」の先にある、少し高次元の価値観だと思っています。

常に変容する都市のあり方を大切にしたい

そもそも、マイホームを買う際に組むローンって35年で回収するようになっていますが、35年後の社会の変化は凄まじいと予想されているにもかかわらず、そこに建っている建築物はローンでがんじがらめになって35年間変えられないって、おかしなことだと思いませんか?高度経済成長期以降、日本のGDPを押し上げるためにローンを組ませて一つの会社組織に所属させ続けるというストーリーはすごくよくできていたと思います。でも、現在の建築物が2055年の社会に受け入れられているかと言うと、そんなことはないと思っています。現代の不動産の価値って、建築物ではなく土地に紐付く価値で、と考えると、街の景色や都市のあり方って常に変容できるモデルにしておくべきではないでしょうか。

ぼくたちはBUSHOUSEや移動できるコンテナの事業もやっていますが、都市や人のあり方によって変容可能な建築物の価値や可能性を探っていきたいと考えています。現在はいくつかの事業者や自治体と一緒に体験型宿泊施設の開発なども手掛けていて、その内容も春夏秋冬に合わせて宿泊や体験の価値を変えるというものになっています。5年、10年経てば社会やその時々のニーズによって人々の興味・関心領域は変わっているはずですから、それに合わせて体験価値や仕組みも変えていくつもりです。これは自分たちにとっても新しいチャレンジですが、うまく成功事例作れれば未来の街の景色や都市づくりを提案できるのではないかと思っています。

移動と環境問題のこと

先日、カリフォルニア州で2035年までにガソリン車の新車販売を禁止するという知事令が発令されました。ご存知のようにカリフォルニアはアメリカで最も車が売れている州の一つであり、グローバルのルールづくりでは常に先手を打ってきました。今後、各クルマメーカーはテスラに追随して電気化を進めなくてはならなくなりますが、そういう意味でもこの法令がグローバルトレンドを作ることになるでしょう。

コロナ禍によるロックダウンを受けて世界の大気汚染が改善されたというレポートもあるように、グローバルの流れとしてもぼくたちの世代は環境に向き合って発信していかなくてはならない。BUHOUSEはガソリン車でもあるので、移動が環境にもたらすインパクトを考えると、まずは電動キックボードのような小型のモビリティで電気化を推し進め、ゆくゆくは僕らのバスもガソリンから電気にシフトしていきたいと考えています。カリフォルニアのニュースを聞くと、グローバルマーク企業を目指す会社は社会的責任を考えるフェーズに入っていると思う。ぼくたちも一モビリティ企業として、常にそれを念頭に置いて行動したいと考えています。

青木大和
15歳でアメリカ・ウィスコンシン州に留学。ホストファミリーとの生活でリアルなバンライフに触れる。2017年より株式会社アオイエを創業。2018年より、これから訪れる「超移動社会」に向けて“ 不動産ではなく可動産 ”を掲げてBUSHOUSE事業をスタート。内閣官房が主導する新技術等実証制度「レギュラトリー・サンドボックス」にインバウンド関連にて国内初の認定を受けた。2020年に株式会社アオイエよりモビリティ事業を事業分割し、株式会社EXxを創業。-Mobility for Possibility- を掲げ、社会の公器となる事業をつくるモビリティスタートアップを経営すると同時に、2022年北京冬季パラリンピックへの出場を目指すアルペンスキーヤーとしても活躍中。
www.exx.co.jp

Text by Ryoko Kuraishi