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「着崩す」ようにクルマに乗る。クルマのスタイリングという新領域
2020.11.20

「着崩す」ようにクルマに乗る。クルマのスタイリングという新領域
by 田島直哉

「クルマもライフスタイルの一部」をコンセプトに、まるで洋服を着崩すように、クルマをスタイリングして販売する〈cardrobe(以下、カードローブ)〉というクルマ屋さんがある。

ファッションの世界には「着崩す」というテクニックがあるが、「着飾る」とは対照的なこのフレーズは、装いの一部をわざと乱したり、フォーマルな装いをあえてカジュアルに着こなしたりすることだ。そんなセンスが問われるテクニックをクルマの世界に取り入れ、ビジネスとして成立させている〈カードローブ〉は稀有な存在だ。

新旧、メーカーなどの制限もなく、クライアントのライフスタイルに合わせて、車種を選び、どうカジュアルにスタイリングするか。そこにこだわる『カードローブ』のオーナー田島さんにお店ができるまでの経緯やその独特の思想について話を聞いてきました。

» 田島直哉

大手セレクトショップからクルマ業界へ転身

ーーもともとはアパレル業界にいらっしゃったんですよね。どういった経緯でクルマ業界に転身されたのでしょうか。

アパレルにいたとき、当然みんな洋服には気をつかっているし、家の雑貨や家具にもそうだし、ライフスタイルにこだわりがある人は多かったんですけれど、クルマとなると途端に無頓着になる人が多くて。ぼくは昔からクルマ好きだったんで、どうしてみんなクルマには気をつかわないんだろうって不思議だったんです。当時おしゃれなクルマというと、ビンテージカーやラグジュアリーカーみたいなイメージが強かったですし、車屋さんにしても、スポーツカーやヤン車系だったりとか、結構振り幅が極端なお店ばかりだったんですね。それか街の小さな車屋さん、みたいな。等身大でいて、カジュアルに乗れるクルマを提案してくれる車屋がない。じゃあ自分でやろうと。

ーークルマ好きだったとはいえ、他にモデルケースとなるようなお店もない中で、突然異業種に飛び込んで不安な面はなかったんですか?

ぼくの中では今もアパレルの延長のつもりでやっているんですよ。たとえば、服屋さんでは服は売るけれど、服のお直しは外注で業者さんにお願いするんです。それと一緒で、車屋も自分で修理したり整備ができなくても、提携する工場を見つけてお願いできれば服屋と同じようにできる。なので、販売するものが服からクルマに変わっただけっていう意識ですね。

カスタムではなく、スタイリングやコーディネート

ーー〈カードローブ〉の立ち上げである2012年頃は、クルマをいじるという文化は一般的に浸透していたんですか?

日本のクルマのカスタム文化自体はずっとあるのですが、当時オートバックスやイエローハットなど大手カー用品店に行ってもどこかギラギラしたものしか売っていなかったんです。きっとみなさんの中でもクルマをいじるってそっちの方向性しかないってイメージだったと思うんですよ。でもそれだけじゃなくって、カジュアルにみせるっていう選択肢を示したかった。例えば、今はチープアップって呼んでいるんですけれど、シルバーに輝くグリルやドアモールなどをあえてマットブラックにする。それだけでカジュアルダウンさせることができるんです。ちょっといいクルマをラグジュアリーにみせるんじゃなくて、逆にカジュアルにみせるっていうスタイルもあるんだよっていう提案をずっとしてきています。

これまでのスタイリングやコーディネートの事例は〈カードローブ〉のインスタグラムをチェック

ーー最近のメーカー側の傾向を見ても、まだまだセンス的にはラグジュアリー志向は強いと思うのですが、当時でいうと7、8年前で、チープアップするって発想は新しかったんじゃないですか?

そうですね。クルマにわざわざ鉄チン(鉄チンホイール)をはかせて安っぽくするなんてありえないっていう空気感はありました。鉄チンなんか捨てるっていうのが当たり前でしたけれど、今街を見ていると鉄チン履いているクルマかなり増えましたよね。ぼくは単純に昔から好きでやっていたんですけれど、世の中的にはアウトドアブームがきたことも追い風になったと思います。

ーーここ最近は、外装をオールペンして色を塗り直すとか、ライトを変えてクルマの顔を変えるとか、様々なカスタムが身近になってきましたよね

そうですよね。そんな中でも、〈カードローブ〉の流儀はカスタムはしないこと。なのでスタイリングとかコーディネートっていう言葉で表現していて、クルマは基本純正のままで在ろうとしています。色を変えるにしても一部分だけ少し変えたり、タイヤを替えるであったりとか、ファッションでいうところの靴を履き替えるのと一緒の感覚なんです。なので車高をいじったりもしないですし、改造にあたることは基本やりたくない。やりすぎるとやんちゃになっちゃうと思うんです。やんちゃまでいくとファッションじゃなくなっちゃう。だからそのさじ加減が大事なんですよね。

ーーファッションで学んだことがそのままいかされているんですね。

ファッションでも、全身ハイブランドだとなんか気持ち悪いという感覚ってどこかあるじゃないですか。おしゃれを通り越しちゃうというか。ハイブランドを着て、あえて足元はオールスターみたいな、ファッションでいう「着崩し」だったり、「外し」みたいなことをクルマでも同じようにやっています。ご依頼によってはもっとあれやりたい、これやりたいっていうこともあるんですが、それはやめましょう、それはやりすぎです、ってお断りすることもありますね。

車中泊、ロングドライブ、少年期の原体験

ーーどういうお客さんが多いですか?

アパレル関係だったり、美容師さんだったり、広告関係の方だったりとか、やっぱりファッションが好きな層が多いですね。世代にしたら30代40代の方がほとんどです。

ーースタイリングされて完成したクルマを販売するんですか? それとも話し合いながら一緒に作っていく感じなんですか?

最初にノーマルをお見せして、さてどうしましょうかね、とお客さんと一緒に決めてやっていくこともありますし、これと同じのにしてくださいって、決め打ちのパターンもありますね。以前はお客さん自身が所有しているクルマをスタイリングすることもあったんですが、今は手がまわらなくなっちゃってお持ち込みは中断させていただいている状況なんです。

ーー〈カードローブ〉の立ち上げから8年間の中で、スタイリングのディテールや方法に変化はありますか? ファッションでいうトレンドみたいな変遷はあるのでしょうか?

基本的に世の中のトレンドとか、これが流行っているからこういうのやろうっていう考えはぼくの中では一切なくて、そのときに自分がいいなと思っていることをやっているだけなんです。ぼく自身、サーフィンやったり、最近だとカヤックを始めたり、アウトドアが好きなので、それに似合うクルマをつくることが多い。基本的にはそのときの気分であって、仕入れるクルマも気分です。このクルマを販売すれば今売れるっていうことでは一切選んでいなくて、自分がそのときに提案したいと思うクルマだけをスタイリングしていますね。

オフロード仕様にスタイリングされた田島さんの愛車Porscheカイエン。週末は車中泊とカヤックなどのアクティビティを楽しんでいる。

ーーそもそも田島さんがクルマ好きになったきっかけって何だったんですか?

子どもの頃からクルマがすごく好きで、新聞の折り込みで入ってくるクルマのチラシをずっと見てたんですよ。買えもしないのに(笑)。おやじがドライブ好きで、小学生のときに住んでいたつくばからおやじの実家がある長崎までクルマで行ったりしていました。なので、ぼくは小学生で車中泊でデビューしているんですよ! セダンだったんですが、ぼくは子どもなんで後ろで横になって寝れるんですけれど、おやじは運転席で座って仮眠するぐらいしかできないんですけれど、それでもクルマで行くっていう(笑)。そのときから車中泊は楽しいものだっていうイメージがあるんで、自分でクルマを持つようになってからも、基本は車中泊できるクルマを選んでいますね。

電気自動車をセンスよく乗りこなすスタイリング

ーー今世の中的にクルマ選びで求められることって使いやすさだったり実利的な側面が大きいですか?

世間一般的には実用性が大事で、かっこよさは二の次っていう選ばれ方が多いんじゃないでしょうか。それを悪いとも思わないですし、それぞれ選ぶ理由があるのでもちろんいいんですけれど。ただ子どもたちから見て、それがかっこいいクルマなのかな?と考えるとどうなんだろうと思ったりもします。ぼくたちが子どものときって、友達のお父さんもとんがっているクルマに乗ってたり、かっこいいなっていうクルマに乗っているお父さんたちがいっぱいいた記憶なんですよ。今みんなミニバンに乗ってて、子どもたちからしたら、クルマに対して「かっこいいな」っていう憧れが少ないんじゃないかなって。お父さんがかっこいいクルマにのっていれば、子どももクルマ好きになるんじゃないかなと思っていて。そう見られるようにぼくもできるだけかっこよくスタイリングしたいですし、世の中にそういうお父さんが増えれば、クルマに夢を持つ若い子も増えるんじゃないかなと思うんですけれどね。

ーークルマ業界に近い将来、大きな変化がありますよね。自動運転、電気自動車の参入、シェアカー、よく言われるモビリティ革命みたいなものに対して何かお考えはありますか?

うちで扱うクルマとしては10年落ちぐらいのカジュアルな輸入車が多いんですが、それは古いものが好きというよりは扱いやすいからなんです。それぐらいのクルマって、今のクルマのようなオラオラ顏じゃなくて、ゆるい雰囲気があるんで。ぼくは全然懐古主義ではなくて、新しいものはウェルカム。電気自動車なんかも興味ありますし、BMWi3なんか自分でも乗りたいと思ってます。今後、電気自動車の流れはあると思いますし、ぼくはただそれをかっこよくスタイリングしてあげればいい。正直いって、今はまだ電気自動車をかっこよく乗れるイメージって出来上がっていないと思うんです。そこに可能性がありますね。クルマの新旧は問わず、みんなが「あ、やられた」ってハッとするような、クルマをかっこよく乗れるスタイルをこれからも提案していけたらいいなと思ってます。

田島直哉
car + wardrobe = cardrobe! を合言葉に、洋服のようにライフスタイルに寄りそうクルマを提案するショップ〈カードローブ〉代表。

cardrobe
東京都葛飾区細田4-2-12
定休日/毎月1,2,11,12,21,22,31日
12:00~18:00(予約制)

Instagram:@cardrobe_tokyo

Photo by Kenichi Muramatsu Text by Ryo Muramatsu