鹿児島のクルマ旅では、薩摩半島の南端に位置する開聞岳、通称「薩摩富士」をバックにキャンプ。
リモートワークの導入でバンライフが加速する
2020年は色々な意味で忘れがたい一年になりました。いまでこそようやくクルマ旅に出られるようになりましたが、夏を過ぎるまでは満足に外にも出かけられない、それどころか「旅」という言葉すら口にするのを憚られる、そんな雰囲気がありました。一方で多くの人がワーケーションを実施するようになり、働き方や生き方の見直しが進んで自分らしい暮らし方を模索できるようになったことは、今後の日本の社会にも大きく影響するのではないでしょうか。満員電車、移動のストレス……そういうものからたくさんの人が解放されて生き生きと働ける未来を描けるようになるって、すばらしいことですよね。
三重県御浜にある日本一の棚田景観とも言われる「丸山千枚田」の駐車場からの風景。
私自身は出先で仕事をするのが当たり前、ワーケーションも積極的に取り入れていたのでそこまで大きな変化を感じることはありませんでした。ただ、社会全体でリモートワークが推進されるようになって、たとえば国立公園内にWi-Fiが飛ぶようになったり、地方のインフラが整備されたり、そういう取り組みがなされるようになったことは本当にありがたい。そういう背景もあり、今後ますます車中泊やキャンプブームに拍車がかかるのではないでしょうか。
ワーケーションをうまくやるコツ?そうですね、とくに辺鄙な場所では電波の届くエリアをあらかじめチェックしておくこと、でしょうか。一度訪れた場所については電波状況をきちんと整理しておく、人から聞いた電波事情もまとめておく、そういう風に情報を整理整頓しておくと役に立ちます。それから、仕事が立て込んでいる時は確実に電波の届くエリアを狙っていくこと。締め切りが迫っているのに電波を求めて知らない地域をうろうろさまようなんてごめんですよね。
野生の馬たちが草をはむ姿を観察できる宮崎県の「都井岬」にて御崎馬と。
仕事も遊びも自分でコントロールするために
バンライフを始めたのは2017年です。当時はアパレル会社のデザイナーをしていて、職場のキャンプ好きの先輩に触発されて毎週のようにキャンプをしていました。それまでは実家の小型車を利用していたのですが、どうにもキャンプギアが収まらない。それに、インスタでキャンプ関連の投稿をしているうちにアウトドアのお仕事の依頼を受けるようになったのですが、会社員をしながら空き時間でアウトドアのフィールドへ出かけることが難しくなって。自分のクルマを手に入れてバンライフを始めれば、仕事も遊びも自分でコントロールできるのでは、そう思い立って中古車ショップでこのバン(日産バネット)を手に入れたんです。バンならキャンプ道具を積み込んで車中泊もできて、なんなら日中、仕事もできますから。
初めはとにかく車内で寝られる仕様にと、必要最低限の手を加えました。リンゴを入れる木箱にキャンプ道具を収納し、その上に天板を置いて。そこからプロの手を借りて少しずつアップグレードしてきました。昨年開催された車中泊イベントで、大工でバンライファーの鈴木大地さんと一緒に「サンシー」号をリノベする企画を行ったのですが、自分の理想をスケッチしてそれを鈴木さんが仕上げてくださった。スライド式の収納やカウンターテーブル、ベッド下に格納するダイニングテーブルなどはそれで完成したものです。これで格段に車内空間が快適になりましたね。これになにか機能を追加するとすれば、電源周りとソーラーパネルかな。
現場から見えてきたさまざまな課題
バンライフはいつでも楽しくて新鮮で刺激的。いまでも始めた時と同じくらい、私をわくわくさせてくれます。北海道から九州まで、日本全国を「サンシー」号で旅しましたが、とくに印象的だったのは北海道!青森からフェリーに乗って函館へ、そして道内を一周しました。道も車窓の風景も全てが横長で、ときどきクマを見かけたりタンチョウヅルやオオワシを目にしたり、野生動物に遭遇できるのも北海道ならでは。自然豊かなキャンプ場が点在していて、どこも敷地が広大でキャンパーの姿もまばらです。地名もなんだかエキゾチックで、ゲームの世界を旅しているような非日常感も味わえる。バンライフを実践するのにぴったりのロケーションだと思います。
とはいえ、バンライフを続ける中で見えてきた課題もあります。いちばんはゴミ問題。基本的にゴミを捨てる場所がないので、車内にゴミが溜まる一方なんです。なるべくゴミが出ないよう、料理や買い物の仕方を工夫していますが、とくに商品パッケージのプラスチックゴミの量が凄まじい。これはバンライファー間だけの話ではなく、社会全体で取り組むべき問題だと思っています。
それから車中泊におけるマナーのこと、つまり排気ガスや騒音の問題もあります。マナー違反はバンライファーのほかトラックドライバーなどにも共通することですが、エンジンをかけっぱなしで寝たり、ゴミを車窓から捨てたり。トイレ代わりにしたペットボトルを窓から投げ捨てた、なんて悪質な例を目にしたこともあります。こうしたマナー違反のせいで道の駅やRVパークのルールが厳しくなると、つまりは自分たちの首を締めることになります。ゴミ問題、車中泊のマナーのこと。施設やユーザー、このシーンに携わるみんなで考えていきたいですね。
個人的にはCO2排出の問題もなんとかしたいところ。というのも、「サンシー」号はガソリン車で燃費も悪く、ちっともエコじゃないんです。引っ越しをきっかけに自宅にコンポストを導入したり、少しでもゴミを少なくする工夫をしたりしていますが、「サンシー」号についてもEVコンバートを含めて自分にできることを常に模索しています。
木立に積もった雪が美しい、箱根・芦ノ湖キャンプ村 レイクサイドヴィラ。
日本流のバンライフのあり方って?
今後、車中泊ではなくバンライフを志向する人が増え、日本でも一つのシーンとして根づいていくと思います。実際、バンライフ仕様の内装を施したクルマがリリースされたり、バンライファー向けのRVパーク施設が誕生したりしていますよね。ただし海外のバンライフ文化とは違い、もっと短期間でもっと気軽な、クルマ旅の延長のようなものになっていくんじゃないかな。
バンライフにおすすめのスポットやルートは積極的に発信するようにしていますが、気をつけているのはバンライフのハードルを低めに設定することです。「この人がやっているなら自分でもできそうだ」、そう思ってもらうことに意味があると思うので。私の投稿を見てキャンプやバンライフを始めて、それが趣味になって、世界が広がった、ありがとうって言われることがいまは本当に嬉しい。誰かの人生を豊かにするお手伝いができたんだって、感無量です。だから自分がいいと思ったことは惜しみなく、誰とでもシェアしていきたい。私も実際、バンライファーになって日本の地方の大ファンになったんです。それまでは旅といえば海外派でしたが、クルマに乗って全国を旅すると出かける度に新しい発見や気づきがあって。日本にはこんなに素晴らしい文化やシーンがあるんだって思い知らされました。
バンライフは人生を豊かにしてくれる。自信を持ってそう断言できます。私にもできるんだから、誰でもできる。ぜひバンに乗って旅してみてくださいね。
YURIE
インスタグラマー。アパレル企業の広報や服飾雑貨のデザイナーを務めていたが、キャンプ好きが高じて2018年に独立。テレビやウェブ媒体を中心にキャンプやバンライフの魅力を発信するとともに、アウトドア空間のプロデュース、企業とのタイアップ商品の開発、キャンプイベントでのディスプレイ監修など幅広く活躍中。著書に『THE GLAMPING STYLE〜YURIEの週末ソトアソビ〜』(KADOKAWA)がある。
instagram: @yuriexx67
HP:www.yuriexx67.com
Text by Ryoko Kuraishi