column

#01 旧車をコンバージョンしたら“セミオフグリッド”の暮らしが見えてきた 
2021.03.09 [PROMOTION]

#01 旧車をコンバージョンしたら“セミオフグリッド”の暮らしが見えてきた 
by 陰山惣一(『IN THE LIFE』編集長)

太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギー、通称「再エネ」に注目が集まっている。環境に配慮した社会が求められる今、いずれクルマもガソリンからEVへ。いつか電気も買う時代から作る時代へと移行すると言われている。つまり、発電システムを持ち、自家消費する「オフグリッドな暮らし」の実現だ。

このシリーズでは、僕らの日常風景の一部となりつつあるオフグリッドライフを取り上げ、自家消費型の暮らしのヒントとなる事例を紹介していく。

» 移動とオフグリッドライフ

趣味嗜好は、EVとは真逆の世界にあった

フィッシングにアウトドア、カーライフからヴィンテージアイテム、そしてDIYまで……多彩な遊びや趣味を通じて豊かな日常を発信している陰山惣一さんは、ライフスタイルメディア『IN THE LIFE』の編集長。その陰山さんの愛車が、ヤフオクで格安で購入したという1966年式日産セドリックだ。クラシカルな佇まい、作り込んだディテールが美しいこちらは、実はコンバージョンしたEVである。

雑誌『Daytona』『IN THE LIFE』など、男性カルチャー誌やライフスタイル誌を数多く手掛けてきた陰山さん。小中学生のころはフィッシング、高校でオフロードバイク、数年前は「鉄砲の免許を取得しよう」とアウトドア雑誌『HUNT』を創刊するなど趣味は雑食性。古き良きものづくりを体現する『VINTAGE LIFE』誌も手がけておりヴィンテージものも大好物だ。クルマも然りで、かつては排気量が6ℓ近くある古いアメ車に乗っていた。つまり、そもそもの趣味嗜好がEVとは真逆の世界にあったのである。

「EVというかEVを取り巻くカーライフに興味を持つようになったのは、3年前に『E MAGAZINE』というEV雑誌を作ったことがきっかけでした。グループ会社の〈カルチュア・コンビニエンス・クラブ〉の代表取締役社長の増田宗昭さんが、かなり早い時期からテスラの魅力にハマっており『EVの雑誌がないとあかんやろ』と話していまして。EVは門外漢でしたが、テスラだってアメ車ですから。僕が好きなアメ車の世界観に通じるものがあるかもしれない、そう思ったんです」

『E MAGAZINE』を編集する過程で何台ものEVに試乗。〈ジャガー〉の『I-PACE』では鹿児島から東京までのロードトリップを敢行し、その模様をYouTubeにアップしたことも。EVのドライブで感じたことは「とにかく速くて静か」。特に陰山さんが気に入ったのは夜間のドライブだ。夜、窓を開けて走行すると、まるでグライダーで滑空しているような、あるいは自転車で坂道を疾走するような、心地よい浮遊感を味わえた。

「数々の取材をきっかけにEVへの見識を改めたものの、自分が新車のEVをすぐ購入することについては、ためらいがありました。EVの技術は日進月歩、バッテリーや走行性能が日々進化しているという事情もあるし、何よりまだ値段が高い。当時は販売しているEVの選択肢も少ないということもありました。次に買うならEVとは思っていましたが、いまのクルマはまだ十分に機能を果たしているので、買い換える必要もなかったのです」

「改造好き+もったいない精神」にフィットした

そんなとき、筑波サーキットで行われたEVレースで〈オズモーターズ〉に出合った。ヴィンテージカーをEVにコンバージョンする事業を国内でいち早く始めた、EVコンバージョンのリーディングカンパニーである。

「〈オズモーターズ〉によれば僕のセドリックもEVにコンバージョンできるという。古いクルマをEVに改造して長く乗れるなら、新車に乗り換えるよりもむしろ環境負荷が低いはずだし、思い入れのあるセドリックを無駄にすることもありません。『改造』が好きな自分のライフスタイルにもフィットする。そういうわけでコンバージョンすることにしたんです」

こうして完成したのが、クラシックなデザインのボディに日産リーフのリサイクルバッテリーを搭載した1966年式セドリックEV。外観は古き良き佇まいをそのまま残しつつ、その内側に最新型のモーターを搭載する。陰山さんによれば、このような旧車のEV化は実は世界的な潮流でもあるそう。たとえば〈ジャガー〉は名車であるEタイプをEV化した『Eタイプ・ゼロ』を生産すると発表したし、今年からは〈GM〉が旧車のエンジンを電気のモーターに換えるサービスを全米のディーラーでスタートするとも発表した。「そもそもアメリカはエンジンをスワップする文化が根付いている。モーターへのスワップも今後、ムーブメントの一つになっていくのでは」、陰山さんは考えている。

「とはいえ、僕のクルマの場合、航続距離はおよそ100km。自宅のある横浜を中心とした近距離の移動が中心で、セカンドカーである軽自動車と使い分けています。以前、白馬で開催されたEVイベントにセドリックで出かけた際は、道中7回も充電するはめに(笑)。チャデモに対応しているので急速充電はできるのですが、いかんせんバッテリー容量が少ないので、道の駅やサービスエリアで常に充電をしていました。僕は充電時間もそれなりに楽しんでいますが、時間に余裕がない人がEVで遠出をするとなると、ちょっとハラハラすることがあるかもしれませんね」

夢は、現代の“サスティナブル・ヘドニスト(持続的快楽主義者)”

趣味であった釣りを楽しむなか、中学生でエコロジストにして作家の田渕義雄さんの本に出合った陰山さん。その後『HUNT』の連載を通じ、いつしか彼のような自給自足的田園生活を自分らしく楽しみたいと思うようになった。旧車をコンバージョンした陰山さんの次なるステップは、築50年の自宅にソーラーパネルを載せること。つまり、太陽光で電源を賄う電力の自給である。

「『EVは環境に優しい』と言いますが、日本の発電量の8割以上は火力発電に頼っているわけで、EVの電気が化石燃料でつくられているならガソリン車に乗るのと大差ないですよね。加えて、東日本大震災をきっかけにさらに自然エネルギーへの転換の必要性を痛感するようになりました。だって太陽光はただですから。これを活用しない手はない」

そもそも陰山さんが実践したいのはEV的カーライフを楽しむことではなく、EVを活用しながら新しい暮らしの可能性を模索すること。そんな暮らしの手がかりは、『E MAGAZINE』で紹介したコンテンツのなかにあった。

「太陽光発電とEVで電力をやりとりしてサスティナブルな暮らしを楽しんでいる、そういう人たちの実例を紹介するページを作りました。太陽光発電とEVがつながりV2H(Vehicle to Home)を実現することは、これまでの暮らしを根本から変えるようなインパクトをもたらす。そう考えたからです」

それを目の当たりにしたのが、ソーラーパネルメーカーである〈インリー・グリーンエナジージャパン〉が提案する「セミオフグリッドハウス」のモデルハウスだった。「セミオフグリッド」というのは、電力会社につながって自立電源を確立しつつ、EVを蓄電池として活用するというものだ。節電・売電という経済面でのメリット以外にも、災害時の電気供給という点で住まい手に大きな安心感をもたらしてくれる。

  • インリー・グリーンエナジージャパン〉による「セミオフグリッドハウス」の過去事例の一部。同社では、EVではなくテスラのパワーウォールで、さらに進化したオフグリッドハウスを建設中。2021年に展開を予定している。

「そもそも〈日産〉や〈三菱〉は10年以上も前から蓄電池として活用できるEVを開発してきました。これはヨーロッパのメーカーや〈テスラ〉にはなかった発想です。災害の多い日本でV2Hの可能性は無視できません。それになにより、太陽光で電気を作り電気でEVを走らせるゼロエミッションな暮らしって気持ちがいいですよね」

EVをきっかけに、「どう暮らすのか」を自問する

世界の自動車産業は現在、100年に一度の変革期を迎えているといわれる。ガソリンエンジン車からEVへ、大転換が起きているのはご存知の通りだ。EV先進国である中国は、2025年の国内の新車販売台数に占める新エネルギー車(EVカ、PHV、燃料電池車)の比率を20%前後に高める目標を打ち出した。主だった国が2025年から2040年の間にエンジン車の新車販売禁止に向けて動いているEUでも、EVの販売シェアが飛躍的に伸びてきている。かたや、日本のEVシェアはいまだ1%以下。陰山さんが『E MAGAZINE』を出した当時(2018〜2019年)、「巷の反応は『なんでEV?』が圧倒的だった」という。

世界の自動車シーンがEVにシフトする中、燃料電池車の普及を後押しした日本は各国に遅れをとってしまったけれど、国内でEVの選択肢が一気に増える2021年は日本車のEV元年になるかもしれない。充電環境はいまだ十分とは言えないが、EVを取り巻くインフラは整備されると期待されている。時代は確実に変わってきている。

「EVの面白さって、乗り手にさまざまな問いを投げかけるところだと思います。自分が使っている電気はどこから来ているのか、これを使ってどういうライフスタイルを描くのか、より快適で省エネで環境負荷の低い暮らしはどうすれば実現できるのか。自分たちが何を選び、それをどう活用するのか、メーカーでも政府でもなく僕たち消費者がそれぞれ思いを馳せること。そのプロセスが魅力なのではないでしょうか」

陰山惣一
〈カルチュア・エンタテインメント株式会社 ネコ・パブリッシング カンパニー〉副社長、『IN THE LIFE』編集長。『Daytona』、『世田谷ベース』、『HUNT』、『VINTAGE LIFE』、『E MAGAZINE』などの編集長を経て現職。
https://inthelife.club

photo by Masaru Furuya illustration by Erin from d.inkism text by Ryoko Kuraishi supported by Yingli Solar