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2022.05.17 [PROMOTION]

#011 オレゴンのオーバーランダーが考えるEVピックアップの可能性
by ダン&アレクサンドラ・ホクシー

オレゴンでいま、ランドクルーザー・ブームが起きている。仕掛け人はポートランドで中古のランドクルーザーをオフロード仕様に変える〈キャスケディア ランドクルーザー〉を、仲間とともに立ち上げたオーバーランダーのダン・ホクシー。手付かずの野生がどこまでも広がるオレゴンならではのオーバーランディングの楽しみかたと、オーバーランディング業界に訪れているEV化の波について紹介する。

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「オフロードを旅するロードトリップはみんなが想像するよりずっと手軽」と話すのは、オレゴンのオーバーランダーに話題の〈キャスケディア ランドクルーザー〉を立ち上げたダン・ホクシー。子どものころから両親に連れられてロードトリップを楽しんできたダンが現在夢中になっているのはオーバーランディングである。

「グーグルアースなどの衛星写真を眺めてクルマが走行できそうな道路やアクセス至便のキャンプ場をリサーチして、テントと寝袋をクルマに積んで出発するだけ。最近ではキャンピングカーやオーバーランディグ仕様のクルマのレンタルもあって、Airbnbのように個人間で貸し借りもできるんだよ。アウトドアやオーバーランディングの経験のない人たちにも大自然を満喫するクルマ旅を楽しんでもらいたいんだよね」

ホクシー家の愛車、オフロード仕様に改変したランドクルーザー。

ダンの両親はどちらもクルマ好きで、とりわけ父親はいつも面白いクルマに乗っていたという。

「僕が小さな頃はコルベットやモンテカルロのようなスポーツカーを乗り回していたね。子どもの頃からクルマで旅することが多くて、夏になるとテントを積んだバンにトレーラーをつないで、数週間かけてキャンプをしながらあちこちをロードトリップしたんだ。10歳になるころには全米の7割強の州は制覇していたと思う。13歳のときに父が亡くなったけれど、母は毎夏、僕たち3人兄弟をキャンピングカーの旅に連れ出した。これは僕たち家族にとって大切な伝統だから、父のためにもこの伝統を守り続けたんだね。母の両親もロードトリップ好きで、カナダのトロントから国境を越えてアメリカに入り国内をクルマで巡っていたというからこれは血筋なのかもね」

オレゴンには手付かずの自然がいっぱい。整備されていない、広大なバックカントリーエリアが広がる。そんな場所へアクセスする道を衛星写真で見つけ出し、愛車を駆って探検する。

ランドローバー ディスカバリーが教えてくれたバックカントリー

独り立ちして初めて手に入れたクルマはランドローバーのディスカバリー シリーズ1。ダンにとってこのクルマは、自身のロードトリップの概念を変えてくれた記念すべき一台なのだとか。

「これまでは舗装されたハイウェイや国立・州立公園での旅が中心だったけれど、人が訪れないようなバックカントリーへ出かけるようになった。いまでいうオーバーランディングだね。当時はそういう概念を知らなかったけれど、ディスカバリーを相棒に、文明からなるべく遠く離れた場所で自給自足を楽しむというスタイルを徐々に確立していったんだ。ランドローバーは走りがエキサイティングでデザインもいいのだけれど、人里離れた場所で何度も立ち往生する羽目になってランドクルーザーに変えた。よく言われるように『ランドローバーは目的地に到達できるクルマ、ランドクルーザーは家に帰ってこられるクルマ』だと実感したね」

誰もいないエリアを旅するスリル

オーバーランディングができるクルマはバックカントリーエリアを旅するスリルや自給自足という充足感、冒険の喜びをもたらしてくれる。半径100マイル以内に人っ子一人いないような場所でなにかトラブルが生じたら、頼れるのは自分だけ。リスクは高いけれど、その分、乗り切ったときの達成感の高さがハンパない。ダンにいわせれば、そういうスリルが自分をオーバーランディングに駆り立てるのだという。

現在は2019年に結婚した、ショウビズの世界で衣装デザイナーとして活躍するアレクサンドラと、2人の子ども、12歳のエディソンと9歳のコレットという家族4人でオレゴン州内のオーバーランディングを楽しんでいる。ランドクルーザーには冷蔵庫や照明の電力をまかなうためにソーラーパネルを搭載しているが、大容量のV8エンジンに罪悪感を抱いているといい、“アドベンチャーEV”として話題の〈リヴィアン〉を予約済みだという。

  • (左)ランドクルーザーのなかは荷物でびっしり。写真ではわからないが、夜間も荷物が取り出しやすいよう、リアゲート付近には追加で照明を取り付けた。(右)焚き火に欠かせないものといえば、子どもが大好きなスモア。チョコレートと焼いたマシュマロをグラハムクラッカーで挟んだもの。

オレゴンの楽しみ方

アメリカ北西部に位置するオレゴンは、山、深い森林、草原、海岸線に広がる豊かな自然で知られる。州内には国有の自然保護区も設けられ、アウトドアアクティビティの愛好家も多い。そんなオレゴンのバックカントリー・エリアを旅するホクシー家の愛車は、特別なスプリング(OME1200)のサスペンションを備え、最大積載量を大幅にアップした特別仕様のランドクルーザー。子どもたちが幼かったころはテントトレーラーを牽引していたというが、それではアウトバックを走れない。というわけで二人は少しずつオーバーランディング装備を充実させてきた。


家族で出かけたオーバーランディングの一コマ。寝る場所はテント、キッチンやリビングは外にしつらえる。今後はトレーラーを牽引して出かける予定だ。

ルーフにはラックとキングサイズのテントを備え、ARBのオンボードエアシステムを搭載。車内温度を調整できるよう窓にはセラミックコーティングを施してある。遠隔地でも5Gを利用できるようアンテナも設置してある。牽引するのは、今年1月に納車されたばかりだというカナダの〈オフグリッドトレーラー〉社のアルミ製トレーラー。これには12Vの冷蔵庫とソーラーシャワーが備わっている。ソーラーパネルはグループG130を2台搭載しており、これで200Aの電力をまかなう。車内で冷蔵庫を使う場合はソーラー発電システムが欠かせないのだが、たとえ悪天でも2、3日は充電した電力で問題なく動くそうだ。

トラブル続きのオーバーランディングは学びの宝庫

そんな一家の思い出深い旅といえば、州内の山、砂漠、川辺を転々としながら過ごした7日間のオーバーランディングだ。オチョコ国有森林にあるミルクリークにクルマを停めてキャンプの準備を始めたら、調理の際にこぼしてしまった魚のゆで汁の匂いにつられてピューマがやってきたとか、ジョンデイ化石層国定公園にほどちかいジョンデイ川でキャンプをしていたら、そこが嵐の進路の真っ只中にあったとか、キャンプ予定地が落雷による火事で移動を余儀なくされ、6時間運転して別のキャンプ地に到着したら大学生の一大パーティ会場になっていたとか……とにかくトラブルの連続だったとか。

「あの旅は大いなる学びだったね!本当に勉強になったよ。天気図を事前に読み、悪天候の可能性を頭に入れて代案を用意すること、キャンプ地に不都合があったときのための代案は、近くの州立公園や整備されたキャンプ場ではなく、より遠く、人が来ないような場所を考えておくこと、とかね」(ダン)

「携帯電話のアンテナを設置したにも関わらず携帯を使えないことがあるのよ。そんなときのためにダンはあらかじめルート周辺の全てのUSGS(米国地質調査サービス)地図をダウンロードしておくの。これには林道はもちろん、ATVやサイクリング道、ハイキング道まで記されているけれど、『クルマが走れる幅の道』と書かれてあってもランドクルーザーが通れるとは限らないことも学んだわね」(アレクサンドラ)

「つまり、オーバーランディング旅の自由には事前のリサーチや周到な準備が欠かせないってことだね」(ダン)

旅を通じて子どもたちに自然や周囲の環境を敬うことを教えている。

旅をスマートにするリスティング

旅をスマートにするために2人が編み出した方法がリスティングである。聞けば、家族それぞれのパッキングリストを、5日間バージョン、1週間バージョン、海の旅、砂漠の旅というように、日数と目的地ごとに用意しているらしい。おまけにこのリスティング、旅を重ねるごとにアップグレードされ続けているという。

「スプレッドシートで全てを管理するようになってから、各自の装備だけでなくキッチンの準備も万全よ。冷凍ボックス、クーラーボックス、常温ボックスそれぞれに何をどれだけ入れておくべきか管理しているのよ。携帯の仕方も改良を重ねていて、たとえば家族みんなが好物のパンケーキなら、1回に使う分の粉をあらかじめ計量してジップロックに入れておくの。旅先ではジップロックにミルクと卵を入れてもむだけで生地ができるから、スケールもいらないし手間もかからないでしょ」(アレクサンドラ)

オーバーランダーに訪れるEV化の波

子どもたちにアウトドア・アクティビティやキャンプの魅力、野生動物や自然を敬うことを教えているダンとアレクサンドラは、オーバーランディングに到来しつつあるEV化の流れに大賛成だという。一方で、中古車利用に比べると新車は、製造時にかかる環境負荷の観点からエコではないという意見もある。子どもたちの世代に美しい自然を残せるよう、よりエシカルなオーバーランダーであるために自分たちにできることは何か、自分たちの旅のありかたはどうあるべきか。頭を悩ます日々だ。

「まず、オーバーランダーにとってEVの課題は、連続走行距離だ。現在のトレーラーを牽引しているランドクルーザーの連続走行距離は200マイルほど。オレゴン州内で僕たちが行きたいと思っている場所は最寄りのガソリンスタンドから150マイル以上離れている場合が多く、ガソリン車であれば予備燃料を携行が必要になる。EVになったらさらに問題だ。現在のオレゴン州内の田舎には充電できる施設はほとんどないし、ソーラーでEVの駆動をまかなうほどの電気を生み出すことはできないから。充電設備を備えたRVキャンプ場もあるけれど、整備されすぎていてオーバーランダー向きじゃない。〈リヴィアン〉の可能性に大いに期待しているけれど、インフラがそれに追いついていないというのが現状だ。EVトラックの可能性は高いと思っているけれどまだまだ現実的ではないと思うんだ」(ダン)

ジョンデイ化石層国定公園に広がるペインテッド・ヒルズは、オレゴン州を代表するランドスケープのひとつ。

「ランドクルーザーが化石燃料を燃やして走るクルマであることは事実。〈リヴィアン〉がランドクルーザーと同等程度の走行性能、信頼性をもちながら、より環境への負荷が低く静かに走るEVだということは大きなプラスだと思う。自然になるべく悪影響を与えないという私たちの信念と一致しているから」(アレクサンドラ)

話題の〈リヴィアン〉は、どちらのタイプが自分たちに適しているのかわからないので、ピックアップタイプの「R1T」、SUVタイプの「R1S」の2タイプを先行予約している。どちらも車長は5m超え、車幅は2mを上回る。連続走行距離は643km、搭載されるバッテリー仕様はeバイクや電動工具、ゴルフカートなどにも使われている汎用型であるという。積載重量に加えて牽引能力を明らかにしていることもアメリカのメーカーらしいといえるだろう。

「これからも環境への影響を考慮しながら、責任あるオーバーランディングを続けていきたい。今後、〈リヴィアン〉での旅がどうなるかは未知数だけれど、子どもたちにはオーバーランディングをエコロジカルなものにしていくという姿勢を見せていきたいな」

ダン&アレクサンドラ・ホクシー
映画やTV撮影に使用する車両整備やドライバー業を営むダンは2020年、中古のランドクルーザーに手を加えてオフロード仕様とする〈キャスケディア ランドクルーザー〉をスタート。アレクサンドラは映画やTVドラマの衣装デザイナー、アレクサンドラ・ウェルカーとして活躍中。コロナの間も家族でオレゴン近辺の自然でのオーバーランディングを楽しんできた一家はこの夏、オレゴンでも最も人口密度が低いというスティーンズ山脈への旅を計画中だ。

LINK
Instagram :@crashingonthecruiser

Landcruiser business HP: https://cascadialc.com/
Alexandra HP: alexandrawelker.com

Photo by Alexandra and Dan Hoxey Coordination & Text by Chinami Inaishi Edit by Ryoko Kuraishi supported by Yingli Solar