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#09 再エネ先進国のドイツで始めたEVライフ
2022.02.09 [PROMOTION]

#09 再エネ先進国のドイツで始めたEVライフ
by 池田憲昭

2011年に起きた福島第一原発事故を受け、ドイツ、オーストリア、スイスといったヨーロッパ中部では再生可能エネルギーへの転換が一気に進むとともに、地域でエネルギーを自給していこうという機運も生まれた。今回は再エネ先進国であるドイツから、南西部のフライブルクを森林環境コンサルタントおよび文筆家として活躍する池田憲昭さんのEVおよび再エネ事情をご紹介する。

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屋上や屋根にソーラーパネルを設置した住宅が連なる風景 Photo by ideeone/Getty Images

ドイツといえば、いちはやくFIT(注1)導入を決めるなど、脱炭素に取り組んできた再生可能エネルギー先進国のひとつとして知られている。「現在のドイツでは、太陽光発電がもっともコストパフォーマンスのいいエネルギーになりつつあります」というのは、ドイツ在住歴25年、森林環境の分野を専門に活動する池田憲昭さんだ。

(注1)FIT:制裁可能エネルギーの固定価格買取制度。太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間、電気事業者が買い取ることを義務付けるもの。電気事業者が買い取りに要した費用は、使用電力に比例した再エネ賦課金によってまかなうことになっており、電気料金の一部として国民が負担している。

「ドイツは市民の環境意識を地域の政策に反映しやすい政治システムを備えています。こちらの地方自治体レベルの政治は市民とのつながりが深く、携わる政治家もみなボランティア。有償のプロではなくて無報酬で活動する趣味の政治家だからこそ、市民のリアルな思いをそのまま政治に反映できるともいえます。日本人もドイツ人も環境意識を持っていることに変わりはありませんが、それを行動に移せる環境のありなしが大きく違うように思います。」

日本とドイツを行き来しながら、環境視察セミナーのオーガナイズ、異文化マネジメントのトレーニング、研究・調査活動、執筆活動と幅広く活動している池田さん。自宅およびオフィスを構えるのは、ドイツ南西部に位置するフライブルク郊外のバルトキルヒ市。シュヴァルツヴァルトの麓でスイスやフランスの国境にも近い、緑豊かなエリアだ。そんな池田さんがディーゼル車からEVに乗り換えたのは、2020年10月のことだった。



(写真上)シュヴァルツヴァルトの里山風景 (下)ヴァルトキルヒ市の街並み

自家消費目的で導入したソーラーパネル

そもそもEV乗り換えの前提として、2019年に自宅に9.7kwのソーラーパネルを導入したことがあった。

「これは売電ではなく自家消費を主要な目的としたものでした。電力会社から電気を購入すると1kwおよそ35円のコストがかかりますが、このソーラーパネルは1kwあたりおよそ11円/時で発電します。つまり、これをそのまま使えば、その分はエネルギーコストが約1/3に抑えられるのです。こうした事情もあり、以前はFITでの売電が主流でしたが、現在は自家消費前提で蓄電池とセットでソーラーパネルを導入する家庭がほとんど(蓄電池と セットでの購入者は、屋根ソーラー購入者の7割程度)だといいます」

たとえば3月上旬のある日の池田家の電力事情は、家庭の消費電力が31.3kwh。対してソーラーの発電量が46.3kmw(自家消費28.9kwh、売電16.4kwh)。池田家ではまだ設置していない蓄電池を導入した場合、電力自給度は93%、CO2削減量は32.4kgになる計算である。

「現在は発電量の1/3ほどをFITで売電していますが、これをもっと効率よく使えないかと考えるなかでEVという選択肢が見えてきました」




(写真上)自宅の外観 (中)のんびり日光浴ができる自宅のテラス (下)2階のベランダからの眺め

EVなら車税がタダで保険も安い

それまで池田さんが使っていたのが、日常使いしていた10年落ちのディーゼルのパサートと、仕事用の4WDバン。乗り潰そうと思っていたパサートはディーゼル車税や保険が割高なうえ、修理代もかさむようになっていた。乗り換えを検討していたところ、eGolfの最終モデルが割引セールになったという。そこで思い切ってリース購入を決めた。

「購入にあたっては国から補助金も出ますし、ソーラーパネルで割安で充電できるうえ車税は無料、おまけに保険料も安いのです。コスト面ではパサートと比べて月に100〜150ユーロほど安く抑えられるようになりました」


ガレージでフォルクスワーゲンのe-Golfを充電

納車の際は自宅から600km離れたフォルクスワーゲン本社まで、わざわざ取りに行ったそうだ。EVでの長距離ドライブを試してみるためである。

「eGolfはバッテリー容量が35kwと小さめで、連続走行距離が170〜230km。ハイウェイに設けられた公共の充電ステーションを3、4回利用し、7、8時間かけて帰宅しました。長距離移動は確かに大変ですが、日常的には短距離利用が主なのでこのバッテリーサイズで十分です。現在はどこにでも携帯できるモバイル充電ステーションを利用しており、これのおかげで利便性がアップしました」

1年3ヶ月ほどEVに乗ってみてのインプレッションは「静かで快適、技術がシンプル、経済的、ディーゼル車のような煤塵も排出しないし交通分野における気候変動対策に貢献する」。スピード狂が多いドイツ人も納得の加速性能を備えるが、「加速すると充電量ががくんと減るので、むしろスピードを出さなくなった」という、思わぬメリットもあった。



(写真上)スーパーにて、無料で充電 (下)長距離移動、休暇用の4WDバン

合理的なドイツ人には、ハイブリッドよりEV

森に入るという仕事柄、長距離移動も多いため、一時はハイブリッド車も候補に考えたそうだ。断念した理由は機構の複雑さ。電気とエンジン、2つのシステムが一緒になっているということは造りが複雑であり、つまりメンテナンスに余計な手間やコストがかかることが想定される。

「それに比べてEVはシンプルです。ギアもないし、定期的なメンテナンスにかかる費用も1/4程度で済んでいます。ドイツで圧倒的にEVが売れているのは、コスト面や手間を省けるというメリットが合理的なドイツ人に支持されているためでしょう」

エネルギー自給率を上げるために、自宅に蓄電池の導入を検討している池田さんだが、ドイツでV2H(注2)の法整備が進んで環境が整えば、むしろEVを蓄電池がわりに利用したいとも考えている。

「eGolfのバッテリーは小ぶりですが、それでもかなりの電力になります。もしEVのバッテリーが70kwもあれば蓄電池は不要になるでしょう。日中、ソーラーパネルで発電した電力をEVに蓄えておき、夜間にこれを利用するのはとてもスマートですよね」

(注2)V2H:Viechle to Homeの略。EVの大容量電池に備えた電気を家庭などで利用すること、またはEVと家庭で電力をやりとりするシステムのこと。

  • EV充電アダプター(左)と、ポータブル充電器(右)

EVに乗り換えて感じる課題

ガソリン車、ディーゼル車からEVへという転換が世界的に進んでいるが、もちろんEVにも課題はある。移動の仕方(走行距離)と充電インフラの整備事情、バッテリー性能やバッテリーに欠かせない希少金属採掘の際に生じる環境問題だ。

「16〜18万km程度でEVのバッテリー性能は著しく低下すると言われていますが、いま注目されているのはバッテリーのリユースです。リサイクルする前に風力発電の蓄電池としてリユースする可能性を探る研究が進められています。リサイクル技術もここ数年で進化しており、大手自動車メーカーもバッテリーのリサイクルを始めていますね。

バッテリーに欠かせないリチウムやコバルト、ニッケルといった希少金属を巡る問題もあります。たとえば年間に1億4000トンが採掘されているリチウムは、採掘時の環境問題が深刻化しています。近年ではリチウムをナトリウムに代替できないかという研究が進められていますが、そうした研究とともにリユース&リサイクル率を高めることは急務であるといえるでしょう」

電力+アルファの可能性

一方で、電力だけではこうした問題のすべてを解決することはできないとも感じている。他の技術、たとえば水素燃料電池などとの併用がスマートであり、今後はこれが主流になるかもしれないというのが池田さんの考えだ。

「どこかの業界の意向が働いたのか、産業界では一気に電気にシフトしましたが、私は並行して進めていくのがいいと思っています。ドイツの自動車メーカーも、ほんの数年前はEVなんて鼻にも引っ掛けていなかったのに、2015年に発覚したディーゼル車のスキャンダルやテスラの台頭をきっかけに一気にEV化が進みました。つまり、なにか引き金になるできごとがあれば潮目はガラリと変わるのです。とすれば、電気と新技術との併用だって現実のものになるかもしれません」

レンガ造りの平屋の勾配屋根に設置されたソーラーパネル。古い街並みを残すヨーロッパの街で、こうした取り組みが増えている。 Photo by Westend61/Getty Images

わくわくする気持ちを忘れない

日々、お天気を気にし、「太陽が出そうだから充電しておこう」とか、運転しながらも「何キロ走ったからあと何キロ走れる」とか、EVに乗り換えたことをきっかけにエネルギーを絶えず意識するようになった、と池田さん。このようにエネルギーマネジメントを自分で行うことが、エネルギーの本質に向き合うことなのかもしれない。

「もちろん、そのエネルギーがどうやって生まれたものなのかについても思いを馳せます。汚い電気で走りたくない、使いたくない。ひとりひとりがエネルギーを意識しながら生活することがこれからのスタンダードになるのかもしれません」

エネルギー転換期だからこそ、さまざまな意見、アイデアが生まれている。正解が見えないなか、私たちはこれからのエネルギー問題をどう考えていけばいいのか。

「これは正しい、これはだめという一元論的なものでなく、さまざまな立場から生まれる考えや見方を複合的に捉えていくことが大切でしょう。ただひとついえるのは、どういうときも楽しくなくてはいけない、ということです。苦しかったり我慢したり、背伸びしたり無理したりを続けることはできませんから。ただし、『楽しさ』には快適で楽な面も、未知の世界を探索して新しいものを見つける、どきどきする要素も備わっていると思っています。どちらの『楽しさ』も満たせるライフスタイルをひとりひとりが構築することが、これからの社会に必要なのではないでしょうか」

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池田憲昭
長崎県生まれ。Arch joint vision代表。岩手大学在学中にドイツへ留学。卒業後に渡独し、フライブルク大学で森林環境学を学ぶ。現在は森林、農業、再生可能エネルギー、地方創生などをテーマに、コンサルティングや事業サポート、視察セミナー/オンラインセミナー、執筆と幅広く活動している。著書に『多様性〜人と森とのサスティナブルな関係』(NextPublishing Authors Press)、共著『進化するエネルギービジネス(ポストFIT時代のドイツ)』(新農林社)など。
arch-joint-vision.com
note.com/noriaki_ikeda

Text by Ryoko Kuraishi Supported by Yingli Solar