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2022.08.08 [PROMOTION]

#012 アフターコロナ時代の旅行業界を牽引する!? ロンドン発カーボンニュートラルに挑む“ホームテル”
by ルーム2チジック

気候変動の影響を受けやすく、CO2排出量が高いといわれる旅行・観光業界で、安全かつ持続可能で快適な旅を模索する取り組みが進められている。ロンドン市内に誕生した、まったく新しいブティックホテル『ルーム2チジック』がコンセプトに掲げるのは「カーボンニュートラル」だ。大都市ではじまった気候変動対策から、これからの旅のあり方を考える。

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ホテルとホームを合わせた”ホームテル”とは?

この夏のヨーロッパは異常気象となっている。イギリスでは7月中旬に40度を超える観測史上最高気温を記録。北海道のさらに北方に位置する樺太と同じ緯度に位置する国で、これは驚くべき数字といえるだろう。実はこのような事態は2020年にすでに予想されており、その時同時に発表されたデータでは、2050年には南イングランドで43度、スコットランドでさえ38度を記録する可能性があるとされていた。地球温暖化の危機感をますます強く感じられるようになっていて、その解決策はカーボンニュートラル以外に道はないと警鐘を鳴らす専門家もいるほどだ。

エレベーター脇の公共スペースには、このホテルのサステナブルな取り組みを説明するモニターが設置されている

3人まで宿泊可能なスイートルーム。キッチンもあり、もちろん調理器具や食器も揃っている

昨年ロンドン西部の瀟洒な住宅街にオープンした『ルーム2チジック』は、自宅のようにくつろげるホテルとして、ホテルとホームを合わせた”ホームテル”を自称する宿泊施設だ。86の客室全てにキッチンが備わり、ベッドのマットレスは好みの硬さのものをリクエストできるなど、快適な滞在を追求する。とはいえここに注目が集まるのは、世界で初めてカーボンネットゼロ(=カーボンニュートラル)を謳ったホームテルである点だ。

エントランスを入ってすぐのカフェエリア。朝食はここでいただく

「このホテルを立ち上げたロバート&スチュワート・ゴッドウィン兄弟は、世界中を旅しながらも心のこもったサービスを感じられない宿泊施設が多いことを残念に感じていました。それならば、ラグジュアリーホテルに負けないおもてなしを受けられ、かつ、自分の家にいるかのようにくつろげるホテルを自分たちで作ってしまおうと思い立ったのです」と『ルーム2チジック』のゼネラルマネージャー、ルアナ・ジアベリ氏は語る。

館内で取り組む環境対策について

ゴッドウィン兄弟は1967年にスタートした家族経営の不動産投資会社ラミントン・グループのマネージング・ディレクターとファイナンス・ディレクターでもある。そんな2人は新しくビジネスを立ち上げるのであれば、気候変動へのインパクトを配慮して環境への負荷を最低限に抑える必要があると強く感じていたという。特に旅行業界は環境対策の面ではワーストと言われ続けて久しい。

「それでもあまりにも多くの観光ビジネスが環境への配慮やその改善に無関心であることにも、2人は大きなショックを受けたのです。それならば自分たちが率先して自然と共存するホテルを目指さなくてはと考えました」

結果から言うとその実現のためには、エネルギー面で最新かつ効果の高いテクノロジーを採用することが最も重要な鍵になったという。実際に館内で行われている取り組みを見てみよう。

屋根の上に並ぶソーラーパネル。近隣は住宅街なので、太陽光を遮る高い建物は無いのも好都合だ

1.オール電化

館内はオール電化となっており、電力の一部をまかなうためにソーラーパネルが屋上に配置されている。これにより、全体の消費電力の5%をカバーしている。

2.冷暖房と温水システム用の電力をコンバートするポンプ

もうひとつの頼もしい存在は、ホテルの地下200メートルにあるポンプだ。冷暖房と温水システム用の電力をコンバートする役目を担っていて、これまでのポンプに比べて36%の電力節約に貢献している。一般的なホテルに比べると、トータルで89%も少ないエネルギーでホテルを運営している。

都会の宿泊施設として、ゲストに節電を強いることは難しい。ビジネスマンであれば、ニュースをキャッチアップするために朝からテレビのスイッチを入れるだろうし、スマートフォンやラップトップの使用もなくてはならないだろう。シャワー後に電力消費の大きいヘアドライヤーを使うのも当然だ。そうした当たり前のニーズに応えるためにも、節電しながら運営できるシステムはマストだったという。

地下にあるポンプルームには、全館への電力をコンバートする最新型ポンプを備える。また、ここにある給湯システムは低温沸騰のため、使用電力はこれまでの約10%減となっているとか。全てを合わせると一般的なホテルに比べ、89%も少ないエネルギーでホテルを運営していることになっている

3.電力使用の平均値をモニタリングするラボルーム

また客室の2部屋をラボルームとしている。その部屋に泊まったゲストがどれだけの電気や水を使用しているかのデータをモニタリングするためだ。

「これはゲストに快適に過ごしてもらうために欠かせないシステムです。滞在中にどれだけの照明や冷暖房、水量を使用したかを観測し、ホテル全体の使用エネルギーを見直して改善に役立てています」

この数値によっては、客室よりも別の箇所により多くの電力をあてがうよう、検討することもあるという。

窓から中庭が望めるラウンジ・ルーム

  • (左)室内の備品にプラスチック製は見当たらず、再生可能な素材が使われている。ボードにレシピカードがあるのは、キッチンを備える客室ならではのサービスだ(右)そのほか、客室各所に細かな配慮が施されている。シャワーはノズルをパワーシャワーのインパクトはそのままに空気の力を利用して40%節水できるものを使用

4.客室でのごみの分別

室内のごみ箱は、一般的なごみと食材からのごみ、資源ごみの3種に分けられているものをホテルとして初めて採用。そのためどうしても大型になってしまうが、シンプルでスタイリッシュな蓋つきのタイプを特別にあつらえ、各部屋に設置している。リサイクルしたりエネルギーとして変換したり、リユースできるものを効率よく活用し、最終処分されるごみを減らす取り組みを行なっている。

特別注文したというごみ箱。蓋をあけると内部が3つに分かれており、分別できるようになっている

5.リサイクル素材、環境に配慮した素材を使ったオリジナル什器

館内の床に敷き詰められたカーペットの80%は漁業用ネットのリサイクル。またベッドのヘッドボードをはじめ、客室内の家具はすべて特別にあつらえたものを採用している。材料となる木材は環境に配慮しながら調達・加工されたものを使用し、ホテルから10マイル以内にアトリエを構える職人たちの手によって生産されている。同時に約4500本の植林を行なってカーボンニュートラルを叶えている。

6.都市養蜂

屋上には75,000匹のミツバチが暮らす巣箱を設置。この夏は初めてローカルハニーを収穫した。さらにルーフガーデンのプランも進めており、蒔いた種の一部が早くも花をつけている。来年には緑の絨毯がさらに広がっていきそうだ。それら植物に昆虫などが集まることで、さまざまな生物が共存する生物多様性のある環境を目指す。また、50,000リットルの雨水を貯めるウォータータンクも設置。貯水した後に緩やかに放水することで、地域を脅かす洪水や浸水の被害を緩和する。

屋上に置かれたミツバチの巣箱

新しい旅のスタイルをリードしていく

さまざまな工夫が凝らされた『ルーム2チジック』だが、ここ数年でゲストたちの意識にも変化を感じられるという。

「これまで以上に人々は、自分たちが利用する施設がいかにエコロジーに貢献しているかについて敏感になっていると感じます。ひとりひとりにとって環境保全が自分ごとになってきているのでしょう。そのなかでカーボンニュートラルのためにできる限りのことをしながらも、同時に自分の家に暮らすように快適な滞在を提供する私たちの取り組みを、評価してくださる方々が徐々に増えているのです」

春に蒔いたポピーの種が開花した屋上。今後はさらに、さまざまな植物を育てていく予定だ

「またこのパンデミックの2年間で、人々の旅への意識が大きく変わりました。ロックダウン中の旅への制限期間に広まったワーケーションが一般化し、仕事と娯楽、自宅とホテル滞在など、相反する物事を分けていた境界線があやふやになってきたと感じています。それによって、ホーム×ホテルの存在がさらに広く受け入れられるようになったと思っています」

ワーケーション、リモートワーク……コロナは世界中の人々の働き方、余暇の過ごし方、そして生き方までも大きく変えたが、そうした価値観の変遷は旅や移動そのもののあり方を変えつつある。こうしたことをきっかけに、他の業界に比べて気候変動対策が遅れているといわれる旅行・観光業にもポジティブな変化が生まれているようだ。旅に欠かせない自然遺産を守るためには、具体的な戦略と行動が必要なのだから。

来年以降は北アイルランドのベルファスト、北イングランドのヨーク、リバプール、さらには西ロンドンのフラムに新しくルーム2をオープンする予定だ。すべてが『ルーム2チジック』にならって、カーボンニュートラルのホームテルとなるという。新しい旅のスタイルをリードする存在として、彼らの取り組みにご注目を。

さまざまな生物が共存する生物多様性の実現のために、屋上には昆虫たちのバグホテルも置かれている

元々は壁紙工場だった建物を再利用。E-バイクのレンタルサービスもある

Room2 Chiswick
10 Windmill Road, Chiswick, London W4 1SD
+44(0)203 988 0220
room2.com/chiswick

Photo by Miki Yamanouchi Text by Miyuki Sakamoto Edit by Ryoko Kuraihsi Supported by Yingli Solar