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#02 自然とテクノロジーのシナジーが、未来のバンライフを実現する
2021.03.10 [PROMOTION]

#02 自然とテクノロジーのシナジーが、未来のバンライフを実現する
by 渡鳥ジョニー(ハイパー車上クリエイター)

深刻な気候変動に際し、脱炭素の動きが世界中で加速している。近い将来、社会は大きく変わるはずだ。太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギー、通称「再エネ」が社会を循環し、クルマはガソリンエンジン車からEVに変わり、電気は買うものではなく作るものに。そんな社会が理想とするのは、各家庭が発電システムを備えて自家消費する、「オフグリッドな暮らし」である。

このシリーズで取り上げるのはオフグリッドライフのケーススタディだ。それぞれが始めている身近な取り組みから、自家消費型の暮らしの可能性を模索してみよう。

電気は「買う」から「作る」時代へ | 連載「移動とオフグリッドライフ」記事一覧

» 移動とオフグリッドライフ

10年ぶりの東京で、「豊かな暮らし」を自問した

山梨県北杜市にある多拠点コリビング(co-living)サービス、〈LivingAnywhere Commons(以下、LAC)八ヶ岳〉のプロデューサー兼管理人を務めるのは、バンライファーとして知られる渡鳥ジョニーさんだ。ジョニーさんがバンライフを始めたのは2018年のこと。北海道から故郷の東京に戻ってきたことがきっかけだった。10年ぶりの東京だったが、「相変わらず家賃が高く、満員電車に揺られる時間は苦痛だった」と当時を振り返る

「家族とともに暮らしていた札幌では“暮らしかた冒険家”を名乗ってオルタナティブなライフスタイルを追求していて、薪ストーブを入れてオフグリッド化を目指した一軒家も、クルマも、野菜を育てる畑もありました。そんな暮らしを東京で再現しようと思ったらとんでもなくコストがかかり、それを捻出するためだけに仕事をしなくてはならなくなる。そうしたことから、自分にとって『家』とはなんだろう、自分らしい豊かな暮らしとは、そんな本質的な自問を繰り返すようになったんです」

永田町で始めた“家なし・バン暮らし”

そこで思いついたのが、10年前にはなかったシェアサービスを駆使した「VLDK(Van + LDK)」という新しいライフスタイルだった。DIYで作り込んだバンの中に寝室と必要最低限の持ち物を所有し、LDKの機能や水回り、インターネットなどは外部に求めてシェアで賄う。運良く改装済みの’87年型メルセデスベンツ・トランスポーターT1を手に入れたジョニーさんはシェアリングエコノミーの実験場、〈永田町GRiD〉の駐車場を利用して「都市型バンライフ」の実験をスタートした。オフィスやキッチンはシェアオフィスを、洗濯はランドリーサービスを、お風呂はジムを利用する生活は想像以上に快適で、都心のマンション暮らしよりよっぽど優雅な毎日を送れた。

〈永田町GRiD〉の駐車場を利用した「都市型バンライフ」(写真提供:渡鳥ジョニー)

「バンライフは、住居にかかるコストを減らすための節約法でもなければ、ただの車中泊でもありません。従来の消費社会や資本主義からの脱却を目指す新しい生き方であり、暮らしの価値観だと思っています。自分たちの手足を使い、工夫を凝らし、家やオフィスに縛られず自分らしい豊かな暮らしを模索する。結局、そのプロセスこそがバンライフの醍醐味なんですよね」

バンライフの先にあるオフグリッドな暮らし

あらゆるインフラから解放されるバンライフ。その延長線にあるものとしてジョニーさんが目指すのは、エネルギーや水の自給自足はもちろん、生活上の廃棄物さえもなるべく減らすか循環させる、オフグリッドテクノロジーを利用した自立分散型の暮らしである。現在は屋根に搭載したソーラーパネルと、次世代のリチウムバッテリーを開発する〈Moving Base〉の定格容量200Ahのバッテリー2台で、車内に置いたFFヒーター、ビールを冷やす冷蔵庫、間接照明、お気に入りの音楽をかけるスピーカー、コーヒーメーカーの電気を賄っている。バンはディーゼルエンジン車だが、もちろんEVのコンバージョンも念頭にある。エネルギーの自給の要はEVになるからだ。


「さらにテクノロジーが進化して自動運転の時代が到来したなら、これまでの移動の歴史はひっくり返るはずだ」とジョニーさんは信じている。寝ている間に家(バン)ごと移動し、まるでSpotifyのプレイリストから選曲するように、気分で景色を選んでいく。そうした時代にはインフラの発達した都会や街ではなく、むしろ原野が尊ばれるようになっているかもしれない。こうした僻地に技術や志向を異にするバンライファーがてんでに集まって、小さくとも機能的なコミュニティを作る。そんな世界が実現するのも遠い未来のことではない。

八ヶ岳を拠点に新たなステージへ

ジョニーさんの最終的なゴールは、水もエネルギーも廃棄物も循環させる、まるで宇宙船の中にいるかのような営みだ。そんな目標が現実的になったのも、〈LAC〉との縁があったから。全国13ヶ所(2021年3月現在)に拠点を構える〈LAC〉の、あらゆるインフラから解放された暮らしというコンセプトに共感したジョニーさんは昨年、新たにオープンする〈LAC八ヶ岳〉のプロデューサーに就任してオフグリッドキャンプ場の実装にチャレンジすることになった。ノマドなバンライファーが八ヶ岳に根を下ろすことになったのである。

「バンライファーがエネルギーや水の自立を目指すのと同じように、〈LAC八ヶ岳〉も社会的インフラから解放された環境を目指したい。同時に、移動型ライフスタイルを志す人たちが“Living Anywhere”を体感・実験するラボ兼ベースキャンプとして機能させていきます」

〈LAC八ヶ岳〉にはバンをDIYできる大きなガレージや各種工具、CNCルーターやレーザーカッターといったメイカーズに欠かせない設備が備わっている。さらにどこでも仕事ができる環境、自分で育てた農作物を加工できる機能的なキッチン、安心してバンを停められるスペース……。個人で所有するのは大変だけれど、人とシェアすることで空間や装備を拡張することができる、とジョニーさん。シェアするものや場所があれば、人が集まる。人が集まればアイデアやプロダクトが生まれる。こうした関わり合いのなかから新しい暮らしは生まれるのかもしれない。

オフグリッドなバンは、まるで宇宙船

限られた空間や物資のなかでやりくりをするという点で、バンは宇宙船に似ているかもしれない。こうした発想から今年、〈LAC八ヶ岳〉では〈JAXA〉と協働して宇宙とオフグリッドをリンクさせたイベント、その名も「2021年宇宙の旅」を開催予定だ。施設内に、宇宙空間に見立てたスペースを設えて擬似宇宙空間=オフグリッド暮らしを多くの人に体験してもらおうというものである。

「水のない宇宙空間では自分の尿をろ過して飲用として再利用することが知られていますが、この循環システムをバンライフに応用すれば……。限られたスペースのなかで快適に生活する創意工夫を宇宙生活とバンライフで共有することで、どちらの生活をも向上させることができるかもしれません。こんな風に異分野の技術や知識と手を組んで、バンライフの課題を一つずつ解決していけたらいいですよね」

こういう挑戦のベースにあるのは、バンライフを実践することで生活をより豊かにしたい、という思いだ。限られた資源、空間のなかでいかに文化的で豊かな暮らしを実現するのか。そのプロセスを楽しみながらたくさんの人と共有したい。そう語るジョニーさんのオフグリッドバンライフへの挑戦は、まだまだ始まったばかりである。

渡鳥ジョニー
〈VLDK / LivingAnywhere Commons 八ヶ岳北杜〉プロデューサー
1980年千葉県生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ウェブデザイナー・エンジニアとして広告業界で活躍する。2011年、震災をきっかけに移住した熊本で、”暮らしかた冒険家”として活動を始める。2014年、ベースを札幌に移し「札幌国際芸術祭」に出展。2018年に都市型バンライフを開始し、2020年より〈LivingAnywhere Commons八ヶ岳〉の立ち上げに携わる。Withコロナ時代の働き方や暮らし方を実験中。
https://vldk.life



Twitter:@jon_megane/Instagram:@jon_megane

photo by Yasuyuki Takagi text by Ryoko Kuraishi supported by Yingli Solar