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2021.05.10 [PROMOTION]

#03 自然のパワーを感じられる“ピュア”な居場所を作りたい
by クリス・ソイ(空間デザイナー / 建築コンサルタント / バンライファー)

深刻な気候変動に際し、脱炭素の動きが世界中で加速している。近い将来、社会は大きく変わるはずだ。太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギー、通称「再エネ」が社会を循環し、クルマはガソリンエンジン車からEVに変わり、電気は買うものではなく作るものに。そんな社会が理想とするのは、各家庭が発電システムを備えて自家消費する、「オフグリッドな暮らし」である。

このシリーズで取り上げるのはオフグリッドライフのケーススタディだ。今回はアラスカでオフグリッドのリトリート施設をたちあげようと奮闘するクリス・ソイをご紹介する。世界各地で始まっている自家消費型の暮らしの取り組み、その可能性を考えてみよう。

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プリウスで暮らした500日

テキサス州オースティン出身のクリス・ソイは2013年から半ノマド暮らしを実践している。普段の生活の場は、仕事も遊びも快適にできるように手を入れたキャンパーだが、ノマド暮らしを始めた当初はなんと、プリウスで寝起きしていたとか。

「そもそものきっかけは、車上荒らしだった。エマーソン大学を卒業してボストンからオースティンに戻る途中、車上荒らしにあったんだ。クルマには家財道具や衣類、本やそのほかの細々としたもの、これからの僕のキャリアを作ってくれるはずのポートフォリオや書類を収めたラップトップとバックアップのハードドライブを載せていた。ところがそれが一瞬にして消えてしまったんだ。なんとかオースティンまでたどり着いたものの、これから一体、どうやって暮らしていこうかと途方に暮れた」

レストランで働き始めたものの、アパート代を捻出するのも一苦労。そこで出費を節約するためにアパートを引き払ってプリウスで寝起きすることにした。

「僕が想像していた以上にプリウスでの暮らしが面白かったんだ。生活面ではさまざまな制限があるけれど、生活に必要な電気を賄うためにソーラーパネルを積むとか、そういう工夫を凝らすことをクリエイティブに感じられたし、なによりも自分の生活の基盤が“リソースフル(Resourceful)”であること、置かれた状況のなかで自分の知識やスキル、ネットワークを総動員して豊かに暮らすことは自分のアイデンティティなんだ、そう気づくことができた」

そんな毎日を「#HOTELPRIUS」というブログに綴ることにしたクリス。当初は1ヶ月の期間限定のつもりだった車上暮らしは、最終的には500日を超えた。一方、これを経験しているさなかにレストランでのキャリアアップにも成功。レストランのデザインや動線、演出をより機能的に、よりスマートに見せ、顧客が求める特別な体験を提供する“クオリティ&エフィシェンシー・スペシャリスト”として、ミシェランの星付きやセレブシェフの店などでキャリアを積んだ。プリウス暮らしというフットワークの軽さを生かし、シアトルやナッシュビルほか全米の飲食店を手掛けるまでになったのである。

キャンパーをサスティナブルに蘇らせる

クリスが1963年製のBeeline Camperを手に入れたのは、まったくの偶然だった。

「13軒目のレストランでの仕事が終わった2014年末、そろそろ次のチャレンジを始めようと、僕は低所得者用の住宅建設などを行うNPO『Habitat for Humanity』でボランティア活動を始めたんだ。ここでは誰かの役に立ちながら、DIYや建築のスキルを習得できるから。工具の使い方を覚え、自分専用の工具を手に入れてDIY熱が最高に高まっていた頃、ナッシュビルの友人から“古いキャンパーをフードトラックに改造したいから手伝ってほしい”という打診があって、プリウスに工具を積み込んで駆けつけたんだ」

ところがナッシュビルに着く前に友だちは心変わりしてしまい、キャンパーは不要になってしまった。クリスは当時、住所不定の無職だったが、思い切ってそのキャンパーを買い取り、自身のための改造を施すことに決めた。

「新しい工具と覚えたてのスキル、15週間という時間とYouTubeのおかげで、見事、キャンパーを自分好みの居住空間に仕上げることができた。当時はちょうどAirbnbへの注目が集まり始めた頃で、オースティンのAirbnbにこのキャンパーを登録してみたところ、あっといういまに人気の宿泊先になったんだ」

タイニーハウス・ムーブメントが続くアメリカでは、クリスが作るような、小さな空間のなかに必要な機能が効率よく、サスティナブルに収まった美しいデザインは人気が高い。テキサス州はカリフォルニア州などと比較するとタイニーハウスの建設に必要な許可や認証を得やすいという事情もあった。これをきっかけに、オースティンで本格的なグランピング・ビジネス〈Austin Glamping〉をスタート。オースティンではSXSWのような大型イベントも開催されており、クリスのキャンパーはオンライン上でも注目を集めた。そしてついには4軒の施設を運営するまでになったのである。


アラスカで、リトリート施設をセルフビルドする!

グランピング・ビジネスを手放したクリスは現在、アラスカでオフグリッドのリトリート施設を、義兄弟でミュージシャンのチャドとともに始めようと奮闘しているところだ。

「僕は親がいないので『ボーイズホーム』と呼ばれる里親家庭を転々として育ったのだけれど、チャドはそうして一緒に暮らした何人かの『兄弟』のひとりなんだ。昨年、チャドがコロナ禍を受けてアラスカに移住した。チャタニカ川沿いの、森に佇むその小屋、そのロケーションこそ僕の次なるプロジェクトだって、初めてここを訪れたときに天啓を受けたんだよ」

クリスとチャドには100人以上の「兄弟」がいるけれど、中には銃で殺されたり服役していたり、真っ当に暮らしている人間ばかりではない。この施設では、クリスたちのような境遇の青年に社会で生きる術やライフスキルを学ぶ機会を提供するという。工具の使い方を学んでセリフビルドでキャビンを建て、自分たちで釣った魚をグリルしてみんなで夕食をともにする。そんなひとときを過ごせるリトリートにするという。

このリトリートは可能な限りオフグリッドでサスティナブルな施設にしようと考えている。というのも、自分たちの手で造った「居場所」で自然の恵みを享受することには、人間が求める本質的な美が宿っていると感じるからだ。

「ここに来て思ったんだ、アラスカのワイルドな自然には生き物を癒す力があるんだ、って。自然に抱かれ、そのパワーを感じることで、僕たちは人間の本質に近づける気がする。だからできるだけピュアな家や居場所を作りたい。僕がここ、アラスカに呼ばれたのは、それが理由だと思うから」

施設では、太陽光、チャタニカ川の水流など、自然のあらゆるパワーを取り入れたいと、エネルギーの勉強をしているところだ。さらには砂を利用した浄水システムを造って上下水道に利用できないかと、あれこれリサーチを続けている。「建設やアウトドアにまつわる知識・スキルのあるなしに関わらず、このプロジェクトに参加してくれる協力者を募集中」とクリス。ゆくゆくは、少年や若者だけでなくあらゆる人たちを癒すリトリートとして機能させる、そんな夢を抱いている。

Chris Sawey
空間デザイナー。大学卒業後、盗難に遭ったことから生活苦に陥り、プリウスでノマド生活(#HOTELPRIUS)を経験。ホームレスながらレストランデザイン&マネジメントコンサルタントとしてオースティン、シアトル、ナッシュビルなどの一流レストランでキャリアを積む。住宅建設NPOで建築のノウハウを学び、キャンピングカーをグランピングAirbnbに仕立てた『Austin Glamping』を運営。空間デザイナーとして活動する現在は、改造したキャンピングカーでアメリカを縦断・横断している。今春、アラスカでオフグリッドのリトリート施設を設立するためのプロジェクトをスタートした。
https://chrissawey.com/story

Instagram:@chris_sawey

Photo by Chris Sawey Coordination & Text by Chinami Inaishi Edit by Ryoko Kuraishi supported by Yingli Solar