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2021.06.30 [PROMOTION]

#05 オフグリッドと相性がいい「オーバーランディング」という超長距離旅
by デヴォン・ターンブル (音響システムデザイナー)

深刻な気候変動に際し、脱炭素の動きが世界中で加速している。近い将来、社会は大きく変わるはずだ。太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギー、通称「再エネ」が社会を循環し、クルマはガソリンエンジン車からEVに変わり、電気は買うものではなく作るものに。そんな社会が理想とするのは、各家庭が発電システムを備えて自家消費する、「オフグリッドな暮らし」である。

このシリーズで取り上げるのはオフグリッドライフのケーススタディだ。「オーバーランディング」という新しいスタイルで超長距離を旅する、ブルックリンのバントラベラー、デヴォン・ターンブルがオフグリッド旅の醍醐味を語る。

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NYのブルックリンを拠点に、音響システムデザイナーとして活動するデヴォン・ターンブルは、プライベートでは筋金入りのオフグリッド・バントラベラーである。

パートナーでテキスタイルデザイナーのカサンドラ・マリア・ラオとともに、アラスカからアルゼンチンまで、道が続く限りどこまでも旅をする。数年前から夢中になっているのは「オーバーランディング」という超長距離の大陸移動。車両の燃料と飲料水、食料以外はオフグリッドでまかなうという旅のスタイルである。

オーバーランディングという旅の醍醐味

「通常ならアクセスしにくい地域を、バンを相棒に自由に旅をするというスタイルがアメリカでも注目され始めているんだ。アメリカでオーバーランディングが広まったのは、ここ10年ほど。だけれど、ヨーロッパや南アフリカ、オーストラリアなど、広大な大地に手つかずの野生が残るエリアでは数ヶ月から数年をかけて、ヨーロッパを出発してアフリカ大陸を旅したり、東欧からアジアへとユーラシア大陸を横断したりということが盛んに行われてきたんだよ。そういう旅ではまったくインフラが整備されていない場所を行くことも珍しくなく、オフグリッドが求められるのは必然だったと思う」

そもそもバンライフを始めたきっかけは、2人の共通の趣味であるサーフィンだった。サーフィンを楽しむために、週末はハンプトンズやモントーク、ロングアイランドのイーストエンド界隈で過ごすことが多かったというが、一方でホテルやバケーションレンタル、コンドミニアムの賃料の高さに辟易していた。

「賃料の高さはもちろん、僕たちは一箇所にとどまるよりも場所に縛られず気ままにいろいろなスポットを巡るのが好きなんだ。そこで、旅の拠点としてもっと自由に動き回れるキャンピングカーを試してみることにした。海へのアクセスを考えると、そのほうが断然、便利だからね」


はじめてのバントラベル

キャンピングカーで初めて長距離の旅を経験したのが2015年冬のこと。ニューヨークからサンディエゴまで移動して、サーフィンをしながら海岸線沿いに南下して、最終的にバハ・カリフォルニアまで足を延ばした。ビーチの目の前で目を覚まし、サーフボードを担いで10メートルでも歩けば海に入れる。彼が見せてくれた、美しいビーチの真横に駐車したキャンピングカーの写真は、映画のワンシーンさながらである。

「4年間そのキャンピングカーで旅をして、その後、フルリノベーションを前提としてメルセデスGクラスの古い救急車を手に入れた。もとは軍用に製造されたオフロード仕様車で、ドイツ陸軍が前線での利用に採用したという代物だ。救急車の設備をすべて取り払い、快適なベッドやダイニング、ルーフにソーラーパネルを載せて太陽光発電システムを設え、長期間のオフグリッド・バンライフが可能なキャンピングカーにDIYしたんだ。屋外シャワー、 温冷水の水圧調整システム、簡易トイレなど、キャンピングカーで快適に生活するためのさまざまな機能を元救急車に搭載して、ドイツとモロッコ最南端を往復したんだよ」

DIYにこだわるのは「自分がキャンピングカーに求めるビジョン、つまり機能やスペック、デザインがはっきりしているから、自分以外の誰も自分の理想を叶えることはできない」、そう考えているから。ありがたいことに、知識もスキルも経験もある。だから自分で手を入れ、メンテナンスをするのが当たり前。そもそもデヴォンには、必要なものがあれば買うのではなく自分で手を動かして作るというマインドがある。

ベースとなるトラックに求めること

思い入れのあるメルセデス・キャンパーは現在、ドイツに置いてある。コロナ禍によりいまだピックアップできずにいるのだ。というわけで、現在はアメリカ国内で三菱ふそう製の大型四輪駆動トラックの改装に着手している。そんな事情もあって、次に大型の三菱ふそう製の四輪駆動トラックを購入した。こちらはルーフの面積が大きいので、より大きなソーラーパネルを載せることが可能だ。

「このトラックがクールなのは、クルマそのもののプラットフォームが優れているところ。積載量が大きいからキャンピングカーの重量に負けずに安定した走行が可能で、おまけに燃料タンクも大きいから航続可能距離が長い。あとは燃費。初代のトヨタのガソリン車のトラック(8-9マイル/1ガロン)に比べても断然、桁違いに燃費がいい」

一般的にガソリン車のほうが温室効果ガスの排出量は少ないといわれているけれど、彼らが乗っていたトヨタのトラックの燃費はディーゼル車の半分程度。同じ距離を走るのに倍の燃料が必要になるとすると、果たしてどちらの環境負荷が大きいのか。ユーザーが直面する課題である。

「オーバーランディングのような旅では車両の駆動はディーゼルかガソリンに限定される。EVの可能性を探り始めているけれど、オーバーランディングに利用するのはまだ現実的じゃないよね。電気モーターを搭載したクルマで、キャンパーを乗せられるようなものは存在しないし、充電のためのインフラだって不足している。車のモーターを十分に駆動させられるほど発電できるソーラーパネルと十分に蓄電できる電池の開発は、僕たちバンライファー、バントラベラーの見果てぬ夢と言ってもいい。

もちろん、将来的には間違いなくEVが都市のモビリティを担うようになるだろう。オフグリッドを志すバンライファーの誰もがよりクリーンな旅をしたいと願っているけれど、実現にはもう少し時間がかかりそうだよね」

ソーラー発電への思い

もともと、太陽光発電システムの設置とリースビジネスに関わっていたことがあり、モバイル太陽光発電システムについてはそれなりの知識も経験もあったというデヴォン。加えて、3台のキャンパーをコンバートした経験もある。車両に搭載できる太陽光発電システムについてもリサーチを重ね、モビリティやオフグリッドにおける太陽光発電の可能性やその最新情報をフォローしている。

「初代キャンパーにソーラーパネルを載せたことで、バンライフに太陽光発電は欠かせないものだということを実感できたんだ。ソーラーシステムが一般的になる前は、バンライファーはガソリンやディーゼルの発電機を使っていた。でも僕たちはどうしても発電機を使いたくなかった。大自然のなかにいるのに、発電機の音や匂いにじゃまされるのはまっぴらだから。

最近では、オフグリッドタイプのキャンパーに乗っていて発電機を使っている人はほぼいない。自分の発電機でさえうるさいと思うのだから、他人が発する騒音は余計に煩わしく感じるよね。発電機を使わないことは周りへの配慮なんだ」

デヴォン流バントラベルを楽しむTIPS

ロックダウン中は、他人からオフグリッド・キャンパーを羨ましがられることも多かったというが、自分たちだけがあちこちを移動しながら楽しい時間を過ごすことに抵抗を感じ、一切の移動を自粛していた。「パンデミックが落ち着いたらしたいこと」として真っ先にあげたのは、カリフォルニアに置いてある三菱ふそうのトラックの大規模改造である。

「これまでのキャンパーにはなかった、ちゃんとしたシャワーを備えつけようと思っている。いままではキャンプ場やビーチのシャワーを利用していたけれど、僕はいわゆる“ダートバッグ”(なにかに耽溺するあまりに自身を顧みなくなる人々のこと)タイプではないし、とくにカサンドラは、バントラベルにおいて文化的なライフスタイルを維持することにチャレンジを感じているようだから。

自分たちにとってバントラベルを長く続ける秘訣は、スペックよりも文化的なことがらへのこだわりだと思っている。食事の場所をきちんと設ける、おしいものを食べ、身なりを清潔にし、車内の整理整頓を徹底させる。カサンドラはキルトをやるので、美しいキルトのクッションを作ってくれたんだ。当初はまったくバントラベルに興味を示さなかった彼女がここまでハマるとは思わなくて、正直、それが意外だったな」

オーバーランディングを嗜好する多くのバンライファーが都会を嫌い、自然のなかをノマドのように旅するのと対象的に、ブルックリンに暮らすデヴォンとカサンドラは自然と都会の行き来を好む。大自然のなかにいたかと思えば、その翌週には素敵なレストランへドレスアップして出かける、といった具合に。

「ローカルなカルチャーを体験することが好きな僕たちにとって、オーバーランディングの魅力のひとつに各地の食文化の体験があると思う。特にヨーロッパでは、地域によって食文化が移り変わるさまがよくわかる。キャンピングカーにはソーラーパネルで発電した電気でまかなう冷蔵庫があるから、旅先でいろいろな食料を買って保存しておく。1日かけて運転すると、冷蔵庫にはドイツのパンとフランスのチーズ、スペインのワインがストックされて、海岸沿いで調達したご当地名産のシーフードと一緒に多国籍な食卓を楽しめる。

日本はそれほど広くないから、東西南北を旅しても、それほど時間をかけずに各地の郷土料理を楽しめるよね。僕たちも例の救急車キャンパーを日本に移送して2、3ヶ月の旅をしてみたいと話しているところなんだ。救急車はそんなに大きくないから、日本の道路事情にもフィットするかなと思って」


家(ホーム)とともに旅をして

デヴォンのインスタグラムのアカウント名はON THE ROAD HOME。かのジャック・ケルアックの『ON THE ROAD』にちなんだものだ。

「ON THE ROADに、“自分の家を連れて行く旅”、もしくは“旅する家”という意味を込めてON THE ROAD HOMEにしたんだ。バンライフって、自宅から遠く離れた旅先でも家(ホーム)にいられるってことだから。“No matter where you are, you are always home”っていうようにね」

そういう意味で、デヴォンのバンライフに家(ホーム)をもたらしてくれたのは、自宅のリビングと同様の居心地のよさを叶えてくれる太陽光発電システムなのかもしれない。

「環境保護の観点で考えると、車両そのものはサスティナブルではないけれど、だからこそ太陽光発電システムを備えたオフグリッドのキャビンはサステイナブルかつ環境配慮型であり続けたいと願っている。だってキャンピングカーはただのモビリティではなく、のんびり寛ぎながら旅するための家(ホーム)なのだから」

Devon Turnbull
ニューヨーク生まれ。音響システムデザイナー、カスタムオーディオメーカー「Devon Ojas」主宰。中西部やシアトルに暮らした後、1999年にニューヨークに戻ってオーディオエンジニアリングに携わる。趣味であるサーフィンをきっかけにバンライフに目覚め、ソーラーパワーで駆動する温水加熱システムと自家製音響システムを搭載したキャンピングカーでヨーロッパやアフリカ大陸を旅する。本業の傍ら、グラフィックデザインやアパレルデザイン、DJなど幅広いジャンルで活躍するクリエイター。
Instagram:@ontheroadhome @devonojas @_kas_maria_

Photo by Johnny Le / Devon Turnbull & Kassandra Lao Coordination & Text by Chinami Inaishi Edit by Ryoko Kuraishi supported by Yingli Solar