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NEW NORMALのバンライフ #06旅をしながら紡ぐ家族の暮らし
2021.07.09

NEW NORMALのバンライフ #06
旅をしながら紡ぐ家族の暮らし
by 西川貴大 (aka Komiage)

娘さんが生まれたことをきっかけに、旅をしながら暮らすことを決めたkomiageさん一家は、訪問美容室〈BROTE〉を看板に掲げ、全国各地のお客さんをキャンピングカーで渡り歩く。想定外だったコロナ禍の旅では、移動しながら暮らすこと、旅先での人との繋がりをより一層意識したという。

国内のバンライフの可能性を探る連載第6回目は、模索しながらも、今なお続くkomiageさん一家のノマディックライフを通して、その暮らしの新しいカタチに迫る。

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旅をしながら子どもを育てるという選択

いつか子どもができたら、一緒にいい景気を見ながら暮らしたいなって思っていたんです。2016年に奥さんと南米を訪れたとき、キャンピングカーで旅している人たちをたくさん見たんですよ。自分たちでリメイクしたボロボロのキャンピングカーで好きなときに好きな場所へ行って、朝はビーチでヨガして、その土地の食材でごはん作ってみたいな、旅がライフスタイルそのものになっていて。すごくフランクに生きていているように見えて、憧れました。美容師として東京で長いこと暮らしていましたが、「いつかキャンピングカーで暮らそう」っていう漠然としたイメージはずっと頭の中にありました。

その後、奥さんが妊娠したあたりから、いよいよと準備をはじめました。もともとクルマに興味ないから、キャンピングカーもどう選べばいいのか分からなくてヤフオクで直感で買いました。北海道にクルマを引き取りに行ったのですが、コロナ禍だったので買ったばかりのキャンピングカーの中で2週間自主隔離したんです。これはきつかった。改造前だから、カビだらけだし、水道も使えない。でもそのおかげで、どこをいじるべきか明確にわかったんですよ。リフォームは、3ヶ月ぐらいかかったかな。工具も持ったことのないような素人だったんで、全部YouTubeとかで調べながらやりました。

ボクひとりだったらまだ東京にいたかもしれない

実はそれですぐに出発できたわけじゃなくて、旅しながらどうやってお金を稼ごう、経済的な問題をどうクリアしようっていう部分でなかなか振り切れなくて、時間がかかりました。正直、ビビっていましたね(笑)。実際にスタートしたときも、これでイケるって確信していたわけではなくて、ふんぎりがつかないボクの代わりに奥さんが背中を押してくれた感じでした。そもそも奥さんはこの計画に超反対だったんですけれど(笑)、近くでボクがあれこれあがいているのを見ていて、本気でやろうとしているっていうのが伝わっていたんだと思います。ボクひとりだったらまだ東京にいたかもしれない(笑)。

そもそも、クルマを買う前から自分のYouTubeチャンネルを開設していました。最初は、なぜボクがこういう生活を選ぶのか、とかこういう改造をします、とか話しているだけの、ピーチクパーチク系YouTuberでした(笑)。実際にクルマを買ってからはリフォーム動画、出発してからは、キャンピングカーライフ動画を投稿しています。ある程度の登録者がいてくれれば、YouTubeの収入で生活もなんとかなるかなっていう思惑もありましたね。

一方で、訪問美容室をやろうっていうのも決めていました。厚労省の定めがあるので、誰でも切れるわけではないんですが、妊婦と育児ママは対象範囲。なので、その層にフォーカスして、感染症対策も踏まえ、1日1組限定の訪問美容室〈BROTE〉を始めました。

図らずも、コロナ禍ではじまったキャンピングカー暮らし

2020年3月に東京の家を引き払って、娘が2歳になる前に、いよいよ出発。インスタでなんとなくの行き先をアップすると、その近くの方から美容室の予約の問い合わせをいただくので、お客さんの所在地を点と点で結んで行くと自然とルートができていく感じです。人との出会いが生まれた瞬間が本当に最高ですね。お客さんのところに泊めていただくことも多いんですが、濃密感が半端ない。娘にしても、最近は自分から率先して交わるようにもなってきて、だいぶたくましくなってきたなと感じます。

それに、ボク自身も子どもに対して真剣になったと思います。東京にいたときは日々ドタバタだったっていうのもあったけれど、子どもに対してやっているようでやっていなかったんですよね。オムツ替えたり、ご飯出したりとかやってはいるんだけれど、頭の中で考えていることは違うことだったりして。でも子どもってすぐ心読むじゃないですか。キャンピングカー生活で一緒にいる時間が増えたらそれが通用しなくなって、しっかり時間をかけて向き合ってあげられるようになりました。

基本的には無料キャンプ場や野営場に泊まって、ときどき道の駅です。道の駅があると、「ホテルに来た」っていう感覚に近いんですよ。食べ物もなんでも手に入るし、トイレはきれいだし。整備されたキャンプ場とかではなくて、何にもない場所で自分たちだけの絶景を味わうには、やっぱりトイレ、ブラックタンク問題がついてまわるんです。汚水を捨てれる場所が増えたら、日本でのキャンピングカーライフの自由度はもっと高まると思いますね。

家族は苦楽を分かち合うワンチーム。見たい景色をみるために、今日も旅は続く。

出発前に不安だった経済面も、もちろん不安定な時期がありました。収入が月6,000円、みたいな時もありましたし…。お金がないと、気持ちも不安定になっていくじゃないですか。その時期は一番しんどかった。どんな美しい景色を見ても、仕事がうまくいってないとキレイに映らないんですよ。でも大変なときって、やっぱり奥さんがお尻をたたいてくれるんです。娘も3歳になって、だいぶ分かるようになってきたし、家族全体でワンチームですね。家族の距離感がとてつもなく近いから、YouTubeでもなんでもそうですけれど、自然とみんなの共同作業になるんですよ。それが最高に楽しいですね。

ちょっと前からYouTubeでの収入が安定してきて、ありがたいことに色々な企業さんから映像制作の案件などをいただけるようになってきました。出発から1年以上が経って、やっとあまり考えずに生活できるようになってきたかな。今、ようやく頭の中で思い描いていたキャンピングカーライフが実行できているっていう感じです。屋根の上で朝日みながらコーヒー飲むとか、子どもと一緒にこのロケーションで肩組みたいとか、これだ、これをやりたかったっていうことの連続なんです。

西川貴大 aka Komiage
南青山ヘアーディメンションで修行後、独立。その後、美容師のかたわら、音楽活動を開始。ビクターオリジナルコペティション最優秀作詞賞を受賞し、Victorからコンピレーションアルバムを発売。2016年に新婚旅行で約3ヶ月間の中南米旅へ。それらをまとめた旅行記『ビビリの君が行く 南米旅行』はAmazon旅行部門 新着ランキングで1位を記録。2018年に娘が誕生。そして2020年3月より、20年住んだ東京と仕事から一旦離れ、キャンピングカー生活『CAMPER LIFE』をスタートし、現在も旅の途中。

Instagram:@komiage
YouTube:ビビりの家族が行くキャンピングカー生活

訪問美容室BROTE:kaminokami.com

Photo by Komiage / Text by Ryo Muramatsu