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NEW NORMALのバンライフ #07キャンピングカーで日本を旅してもらうために。
2021.07.30

NEW NORMALのバンライフ #07
キャンピングカーで日本を旅してもらうために。
by ジャレッド・カンピオン

ポストコロナ社会における移動とは。移動を伴うライフスタイルはこれからの社会でどう変化していくのか。日本にキャンピングカー文化を定着させることを目指して、プレミアムキャンパーバンのレンタル事業を営む〈Dream Drive〉。自身も筋金入りのバントラベラーである創業者のジャレッド・カンピオンさんが、日本におけるバンライフの魅力と課題を語る。

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» ジャレッド・カンピオン

イギリスの田舎で生まれ、16歳のときに家族でオーストラリアに移住しました。イギリスにいたときも両親はフォルクスワーゲンの古いキャンピングカーをもっていて、休みとなればそれに乗ってどこかへ出かけたものでしたが、僕の原点はオーストラリアのロードトリップなんです。クイーンズランド、フレーザー島……あらゆるところを旅しました。キャンプ道具を満載したクルマに乗って大自然を走り、小さな街に立ち寄って、思いもかけない人やモノ、風景に出合う。ロードトリップの魅力やバンライフに必要な知識やスキルを授けてくれたのは、オーストラリアの広大な大地とワイルドな自然だったと思います。

自身もロードトリップが大好きだという創業者のジャレッド・カンピオンさん。

日本ではキャンピングカーの旅はできない?!

〈Dream Drive〉では、自社でカスタムしたキャンピングカーを貸し出し、キャピングカーで旅をするためのさまざまなコンテンツをつくっています。すべては日本にキャンピングカー文化を根づかせるため。それ以前は広告業界に特化した人材派遣業を営んでいました。ビジネスのアイデアを思いついたのは5年ほど前のことで、日本を訪れる海外の旅行者はロードトリップをしないんだと気づいたことがきっかけでした。キャンピングカーでロードトリップをしたい人は、アメリカやオーストラリア、ヨーロッパに行ってしまう。つまり、日本にはキャピングカー文化が根づいていなくて、それに対応したサービスがなかったんですね。

2018年に自分のクルマを使い、キャンパーバンのプロトタイプ製作をスタート。車内にウッドのパネルをあしらい、クルマにジャストフィットする調理器具や上質な寝具を揃え、快適な居住空間づくりを試行錯誤しました。同年末にはレンタカービジネスのライセンスを取得。広告業界やクリエイティブなシーンで培った人脈を活かしてこのアトリエを構え、ビジネスをスタートしたんです。

〈Dream Drive〉が貸し出すキャンパーバン。こちらは乗車定員5名の大型車、『Kuma』。インテリアにウッドを使うのは、資材を再利用できるから。
自社アトリエの様子。

〈Dream Drive〉のこだわりは、デザインにこだわったキャンパーバンを自社でつくること。日本の道路は狭いから、バンのサイズが取り回しやすいですね。あえてハイエースをベースにつくっているのは、僕たちのこれまでの顧客のほとんどが海外からの旅行者で、彼らはやっぱり日本のクルマに乗りたいと思っているから。日本では、キャンピングカーというとリタイア世代を中心に広まっているイメージがあるけれど、ご存知の通り、海外ではもっと若い層に人気があります。そういう層のニーズに応え、かつ自分たちでも納得のいくデザインに仕上げるとなると、カスタムのすべてを自社で賄うしかない。現在は15〜16台のキャンパーバンを所有し、一部は販売しています。いずれは海外でも販売したいと考えています。

こちらは内装に廃材を利用したプロトタイプ。小型は1ヶ月半程度でカスタムしてしまう。

キャンピングカーの旅を、日本に根づかせたい

海外からの旅行者は相変わらず壊滅的ですが、その代わり日本人がキャンピングカーに興味を示すようになってきました。ただ、彼らの旅のスタイルは海外の旅行者のそれとは全く異なります。海外からの旅行者はロードトリップという旅のスタイルに慣れているから、自分たちなりの楽しみ方が身についている。一方、多くの日本人は自分たちがどういう旅をしたいのかというビジョンがありません。当然ですよね、キャンピングカーの旅自体、初めてなのですから。旅にかける時間も1泊2日か2泊3日がせいぜい。そもそも日本ではキャンピングカーにまつわる情報が圧倒的に不足しています。

〈Dream Drive〉ではバーベキューグリルやクーラーボックスといったキャンピングギアのレンタルも行う。

そういうカスタマーのために、ビジネスパートナーのタイソンとともに〈Dream Drive〉ならではの旅コンテンツの制作に力を入れています。自分たちで実際に旅をして、絶景や夕日の美しい海岸線、最高の焚き火スポット、のどかな田園風景など、クルマでアクセスできるおすすめのポイントをマッピングしてルートをつくるのです。僕のおすすめは、水がきれいで人が少ない西伊豆の松崎町や土肥、戸田。長野の安曇野では湖にキャンピングカーを横付けして水遊びが楽しめる。それからうちの子どもたちに人気があるのは、キャンプ場が点在する栃木県の那須ですね。

ルートの他に、キャンピングカーで旅するためのハウツーを整理しています。つまりは、日本のカスタマーに成熟したキャンパーになってもらうためのプラットフォームをつくっているのです。

ジャレッド流ロードトリップのTIPS

一口にキャンピングカーの旅と言っても、そのスタイルにはヨーロピアンとオーストラリアンの2つがあります。ヨーロピアンは寒さに対応したスタイルで、調理や食事を車内で行うことを想定しています。一方、オーストラリアンは基本的に食事も調理も、寝るのも外。屋外にバーベキューグリルやフォールディングテーブルを出して外で寛ぐ。眠りにつくのはハンモックで。キャンプ場の利用を想定した日本のスタイルは、この中間というところでしょうか。料理や食事は屋外ですが、寝るときは車内で。

キャンピングカーの旅を楽しむための鉄則は、睡眠にこだわること。家族5人の旅だからといって車内で窮屈なベッドに寝ていてはだめ!うちのキャンピングカーにはフルサイズのベッドと、快適な眠りをもたらすホテル仕様の寝具を揃えています。足を伸ばして快適な睡眠を取ることが、旅を楽しむ秘訣かな。

それから設備を整えすぎないこと。不便や不足を楽しむのも旅の面白さです。リビングルームをそのまま家の外に持ち出したような、快適すぎるキャンピングカーは面白くない。あとは、ハプニングやアクシデントを歓迎してほしい。すべてをGoogleでリサーチしてスケジュールを綿密に決め込むのではなく、インプロビゼーションを楽しんでください。ヨーロッパやオーストラリアのエキスパート・キャンパーは、びっくりするくらいノープランでうちに来ます(笑)。大したプランもないまま、九州まで旅をして最高に楽しんで帰ってくる。そのくらい自由でいいのだと思います。

そして、実際に出かけた先で、見る・聞く・触れるといった自分のリアルなフィーリングを大切にしてほしい。そのフィーリングから生まれるものが旅の醍醐味なのですから。

これからのキャンピングカー旅はどうなる?

コロナは旅行業界に壊滅的な影響を与え、そのビジネスモデルを根底から変えつつあります。

もちろん、僕たちのビジネスも大きな打撃を受けています。とはいえ、コロナをきっかけにキャンプやアウトドアライフに目を向ける日本人が増えたし、知らない場所を旅することがどんなにありがたいことなのか、多くの人がその価値を再認識することができました。そのうえでお伝えしたいのは、キャンピグカーは人生をより豊かにしてくれるツールだということ。

うちのキャンピングカーにはソーラーパネルを積んでおり、居住シーンにまつわる電気をまかなえるになっていますが、今後、バッテリーがさらに進化したら、キャンピングカーの旅の可能性はもっと多彩になるはずです。僕にとっては今後、キャンピングカーはタイニーハウスになるでしょう。だって、自分が必要とするものはすべてこのクルマの中にありますから。

加えて、EVや自動運転の技術がさらに向上すれば、移動の手段としてのクルマのあり方も大きく変化するはず。僕たちもそうした時代の変化に対応するスタイルを構築しなくてはいけない。この先、どういう社会になるかはわからないけれど、さまざまな可能性が現実になりつつあることにワクワクしています。

Jared Campion(ジャレッド・カンピオン)
〈Dream Drive〉ファウンダー、ディレクター。イギリス生まれ。日本在住14年。広告業専門の人材派遣会社を経て2019年より現職。プレミアムキャンピングカーの製作、レンタル、販売を行う傍ら、旅行コンテンツを制作する。
Dream Drive:dreamdrive.life

photo by Yasuyuki Takagi & Dream Drive text by Ryoko Kuraishi