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#06 無理なく、背伸びせず。お天気次第のオフグリッドな暮らし
2021.10.05 [PROMOTION]

#06 無理なく、背伸びせず。お天気次第のオフグリッドな暮らし
by 倉科智子(Earthship MIMAオーナー)

国連のアントニオ・グテレス事務総長は、2021年は「気候変動との闘いにおける運命を左右する一年になる」と警告した。気温上昇を1.5℃に抑えるために、各国では二酸化炭素排出量を削減する目標を掲げ、脱炭素に向けた取り組みを模索している。

脱炭素の社会に必要なのは、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギー、通称「再エネ」と、それが循環するシステムだ。そう遠くない未来、各家庭に備わった再エネ発電システムでエネルギーを発電し、自家消費するオフグリッドが当たり前になるかもしれない。

このシリーズでは、これからの時代を見据えたオフグリッドライフの事例を取り上げて、未来の暮らしとクルマや移動のあり方について考える。

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» 移動とオフグリッドライフ

アースシップとは、アメリカ人の建築家、マイケル・レイノルズが1970年代に提唱した、自然エネルギーを利用した循環型オフグリッドハウスのこと。この建築の特徴は、太陽光や風力などの自然エネルギーで電気を自給自足し、生活用水を天水でまかなうだけでなく、建築資材に古タイヤや空き瓶などのアップサイクル素材を利用する、デザイン性に富んだ快適な生活空間をかなえる、などがある。現在までに世界各地で1,500棟以上が建てられているが、それぞれの地域の風土に根ざした構造や設えが採用されているのもこの建築スタイルのおもしろさだ。

徳島県西部の美馬市でゲストハウスの<Earthship MIMA(アースシップ・ミマ)>を運営しながらここに暮らしているのが、2015年にこの地に移住してきた倉科智子さん。もともと山間部の暮らしや耕作に興味があり、地域おこし協力隊員として美馬市へやってきた。転機となったのは、行政関係者からの声がけで協力隊としての活動期間中に応募した、徳島県の地域創生ビジネスコンペだった。オフグリッドハウスのアースシップを建設してゲストハウスとして運営し、サスティナブルな暮らしを模索するというビジネスプランは新聞でも紹介されて多くの人の共感を呼び、<アースシップ・ミマ>建設プロジェクトがスタートした。

住居内で勝手に植物が育つエコハウス


水の流れを利用して勝手に作物が育つ仕組みの室内菜園

移住前から持続可能なライフスタイルや自然エネルギーの家に興味があり、リサーチを続けていたという倉科さん。調べて行き着いたのが、アメリカ発のアースシップだった。これに惹かれたポイントは、住居内にあるサンルームだったという。

「子どものときからサンルームのある家に憧れていたんです。アースシップの建物内にはサンルームがあって、そこで勝手に植物が育つんです。さらに調べてみると、オフグリッドなのにトイレが水洗だということもわかりました。それまでエコハウスで水洗トイレという事例を耳にしたことがなかったので、そうした先進性にも興味を引かれました」

倉科さんお気に入りのサンルーム

ビジネスコンペで高く評価されたことから地域の信用も得られ、さらにクラウドファンディングを活用して資金を募った。アースシップ建設はアメリカのアースシップ建築家に依頼するか、セルフビルドで建てるかの2通りがあり、セルフビルドの場合はアースシップ建築家が認定したビルダーが建てること、アースシップとしての機能を備えていることなど、細かな取り決めがある。倉科さんは海外からアースシップ建築のチームを招聘すると同時にオフグリッドハウスやセルフビルドに興味を持つ参加者を募った。アースシップを建設する際は「アカデミー」と呼ばれるワークショップを開き、建設方法を学びたい人々が受講料を支払って参加することになっている。<アースシップ・ミマ>においても、およそ50人がこれに参加してくれた。

年間を通して室温は21℃前後に保たれている。だから快適

天蓋の開け閉めで室内の気温を調節する。温度が高いと感じたら天蓋を開け、室温を下げる

断熱や保温性を重視した造りゆえ、室内の温度は年間を通して21℃前後に保たれており、冷暖房器具が不要。倉科さんは「とても快適」というが、その快適さは全館空調を導入した現代的な住宅のそれとは全く異なるものだ。

<アースシップ・ミマ>での暮らしは天気や気候に左右されるので、さまざまな工夫が必要です」

電力は屋根にしつらえたソーラーパネルで。クルマに使うリチウムバッテリー10台に蓄電し、電化製品用の電圧に変えて使用している。飲料水を含む生活用水は、すべて屋根で集めた天水を貯水・濾過して用いている。家の裏側の斜面に6トン分の天水を貯水できるようになっていて、家の中に設けたろ過システムを通して飲料レベルまで浄水する。洗面や入浴で使った排水はサンルームの土の層、“ボタニカルセル”の下にある配管を通る仕組みで、ここを水が流れることで“ボタニカルセル”の植物が勝手に育つとか。トイレの水は庭にある浄化槽でバクテリアが分解。山間部のこのあたりには下水道が通っていないので、法律に基づいて浄化した水を側溝に流している。

ソーラーパネルで発電したエネルギーを蓄電するEV用のバッテリー

「つまり、雨も日光もどちらも必要なので雨天と晴天のバランスがとても重要です。雨が少ない季節は水の使い方を注意しないといけないし、逆に曇天や雨天が続くと水洗トイレの水を汲み上げるモーターも止まってしまいます。夜はLEDランタンやキャンドルを活用したり、トイレの貯水タンクには自分で水を足したり。そもそも大容量の電気を要する洗濯機は、晴れた日の最も日差しが強い時間帯しか使用できないので、晴れそうな日は洗濯中心のスケジューリング(笑)」

それを不便と感じるか、自然のサイクルに寄り添って試行錯誤することを楽しいと思うか。オフグリッドでは後者の視点が必要なのだ。

天水をキャッチする屋根。円錐形の屋根に降った雨は周囲の砂利に流れ、最終的には地中に埋まっている貯水タンクに流れ込む

オフグリッドがもたらした気づき

倉科さんが<アースシップ・ミマ>に暮らすようになって、もうすぐ2年。「無理せず、がんばりすぎない」というここでの暮らしで得られた気づきは、「否定しないこと」、そして「いろいろな選択肢を楽しむこと」。

「いいと思うものはたくさんあっていいけれど、自分にとっては『何かを否定しない』ことも同じくらい大切。否定することはその対象に光を当てること、力を与えることだから。なにか一つの事柄を『すごくいい』と思うときって、逆に何かを否定していることが多いように感じます。だから、『すごくいい』と感じることがあったら一度立ち止まってみて、いまの自分は何を否定しているのか、そこに思いを巡らすようにしています。

壁面に埋めてあるのは空き瓶。アップサイクル素材を使うのもアースシップ建築の特徴だ

たとえば、移動の足について。私は一般的なガソリン車に乗っています。そもそも公共のインフラが整備されておらず、山間部の暮らしにクルマは欠かせません。荷台に草刈り機などの重機を載せ、凸凹の細い山道を行き来することもあり、必然的に車種も限られてきます。なるべく化石燃料に頼らない暮らしをと、いつも心がけていますが、私が暮らす山間部では、自然エネルギーのみでクルマを駆動させることはまだ現実的に難しいと感じています」

そう遠くない未来、この山間の集落でも水素カーやEVがスタンダードになっていくだろうと倉科さんは考えているが、高齢化する集落で今すぐにEVへのシフトを促すのは現実的ではない。ならば、無理にEVへのシフトを考えるより、共同体の中でクルマをシェアする制度を整備するなど、別の手を考えるほうが現実的なのではないか。

「クルマはCO2を排出しますが、だからといってそれをアタマから否定する必要はないと考えています。だっていままでそれがある暮らしを享受してきたのだから。いろいろな製品、生き方、選択肢があって、それぞれの向き合い方がある。この家も、これが正解だとは思っていません。いろいろな形の家があるなかのアイデアの一つであればいい。いろいろなアイデアに対して議論を深めることが、豊かな社会に必要だと感じています」

もちろん、課題はある。たとえば<アースシップ・ミマ>の電力問題だ。太陽光を主電源としつつ、2つ以上の系統を備えておくことがより骨太な暮らしを叶えることになりそうだ。

「この一帯は山間部なので、地域の一部の家ではいまだに薪のボイラーでお風呂を沸かしています。時代に逆行するイメージがあるかも知れませんが、私は薪ボイラーもあり得ると思っています。間伐材を使うことは地域の森を守ることにつながりますから。これが、私が考える『調和』です」

住居内に設けられたサンルーム

共同体で所有する自然エネルギー

<Earthship MIMA>が位置するのは99世帯が暮らす集落だ。徳島県西部の“にし阿波”と呼ばれる地域の、とくに小規模の農家が集まる山間部には、昔ながらの物々交換や、かつての『結』を思わせる相互互助のシステムがいまだに息づいており、<アースシップ・ミマ>ではそうした文化も体験してほしいと考えている。

「イスラエルの伝統的な農業共同体、キブツをご存知でしょうか。さまざまなタイプの人が暮らしながら一つの共同体としてまとまるそこでは、農業はもちろん、教育や文化も営まれています。キブツと、この集落の昔ながらの暮らし方にはどこか共通する部分があるように感じています。

1日1組限定のゲストハウスとして運営している<アースシップ・ミマ>。こちらがゲストルーム

これからの日本の社会では、自分の家や“個”という単位でなく、共同体という単位の新しい暮らし方がフィットするように感じています。農作業だったり日々の炊事だったり、子育てだったり、それぞれが労働力を提供しあってその時々に必要な協同労働を担う。いろいろな意見の人が意見の違いを認め合って暮らしていて、地域のまとめ役がうまくリードして共同体としてゆるくまとまっている。そんな暮らし方です」

そうしたとき、“所有”の概念も少しずつ変化してくるはずだ。“個”よりももう少し大きな単位、共同体としてなにかを所有する。それはたとえば、地域のエネルギーかもしれない。

「共同体の中で個々が協力しあい、それぞれエネルギーをやり取りすることは、エネルギーのインフラとしてとても理にかなっています。だって、大きなインフラに頼りきる危うさを、私たちは東日本大震災で経験したのですから」

電力が不安定ゆえ、キャンドルやLEDランタンを併用する

そう遠くない未来の、フリーエネルギーを目指して

「そんな社会ではオフグリッドもグリーンエネルギーも普及するはず。その先に私が思い描くのは“フリーエネルギー”です。それを叶える技術はすでに完成している、とも耳にします。必要なのは、所有や欲にまつわるマインドセット。私たちが利益や損得勘定よりも、愛、楽しさ、自然やそこに棲む生物との調和からものごとを考えられるようになったとき、“フリーエネルギー”は現実のものになっていくのではないでしょうか」

便利で安く、たくさん作れるエネルギーではなく、さりとて、電気をつかわない不便な生活でもなく。これからの持続可能な暮らしを思い描く時、必要なのは電力のありかたの発想そのものを変えてしまうことなのだ。これから100年、200年と、自然や生物多様性を尊重しながら共生していくためには、どういうエネルギーが必要なのか。東日本大震災から10年が経ったいま、あらためて立ち止まり、議論を深めるタイミングなのかもしれない。

倉科智子
神奈川県出身。2015年、徳島県美馬市に移住。地域おこし協力隊として活動する傍ら、アースシップの建設をスタート。現在は1日1組限定のプライベートゲストハウスとして稼働しており、オフグリッドの暮らしを体験できる。また、アメリカのEarthship Biotecture社より日本における正式なアースシップ・エージェントとして認定されており、日本での建設・相談の窓口としても機能している。
HP:Earthship MIMA

Photo by Natsuki Kirimoto Text by Ryoko Kuraishi Supported by Yingli Solar