北海道を拠点とする〈TOAL CAMPER SERVICE〉は、トヨタ・ハイラックスをベースにしたオリジナルキャンパーのレンタルサービスを今年4月にスタートした。北海道の手つかずの自然とローカルな旅にフォーカスしたこちらには、従来のキャンパーレンタルサービスとは一味ちがったコンテンツが満載だ。
クルマ、旅、アウトドアを融合したらキャンピングカーになった
〈TOAL CAMPER SERVICE〉を手掛けるのは、イベント制作などを担う阿部竜太さん、プロデューサーの小口大介さん、デザイナーの中條秀昭さんの3人。いずれも北海道にゆかりがあり、小口さんと阿部さんは釣り仲間、阿部さんと中條さんは仕事仲間と、それぞれ旧知の仲である。
左から、中條秀昭さん、小口大介さん、阿部竜太さん
「僕自身、もともとキャンプが好きで、愛車のトヨタ・ランドクルーザープラド78の車上にテントを載せるスタイルでフィールドに出かけていました。北海道で生まれ育ったこともあり、キャンプやアウトドアをベースにしたコンテンツをビジネスに繋げられたらと思っていたんです。2020年、自分のキャンプスタイルからキャンピングカーをレンタルとして運用するアイデアを思いつきました」(中條)
中條さんのアイデアから始まった〈TOAL CAMPER SERVICE〉。土地柄か、北海道にはキャンピングカーのレンタルサービスはたくさんある。「けれど、白いキャブコン(トラックをベースにキャンパーシェルを架装したもの)ばかりで、僕たちがかっこいいと思える車両はどこにもなかった」と小口さん。実際、キャンピングカーをレンタルして北海道を旅したことのある友人には、「北海道のロケーションは素晴らしいが、普通のレンタカーではちょっとテンションはあがらない、旅の楽しさが半減するよね」と言われたことがあった。ただの移動手段ではなく、旅の相棒として高揚感をもたらしてくれる、かっこいいクルマが必要だ。そう痛感させられたひと言だった。
そのタイミングでたまたま、東京にいる小口さんの友人がハイラックスのトラックキャンパー(ピックアップトラックの荷台にキャンパーシェルを積載したもの)を売りたいといっていることを耳にした。ベース車両と居住空間が独立しているトラックキャンパーはキャンパーシェルを脱着できることが最大の特徴で、アメリカやオーストラリア、ニュージーランドなどトラックキャンパーの旅が定着している国では、普段はピックアップトラックのみを足代わりとして使用し、休日にはキャンパーシェルを載せてフィールドに出かける、そんな1台2役の使われ方が一般的である。
2台ある内の「COZY CAMPER #01」号。車両乗車定員5名。就寝定員は3名。1泊料金はローシーズンは20,000円~、ハイシーズンは30,000円~となっている。
「さっそく現車を見せてもらったら、それがかっこよかった。日本ではトラキャン(トラックキャンパー)はメジャーな存在ではありませんが、だからこそチャンスがあるのでは?と考え、即、購入を決めました」(小口)
3人が即決した理由は、「クルマ、旅、アウトドアという、自分たちの好きなものをまとめると、オフロードを走れるキャンピングカーに行き着くから」(阿部)。ならばかっこよくて乗り心地も快適なオリジナルトラックキャンパーを自分たちで制作し、それをサービスとして提供しよう。得意分野が異なる3人だからこそのプロジェクトの可能性は想像するだけでワクワクさせられた。
旅の奥深さを再認識した、道東での冒険
昨夏にはキャンパーの実証実験とコンテンツ用の映像製作を目的に、3人で道東へのオーバーランディングに出かけた。
「実際の車両で旅をしたらどんなフィーリングを味わえるのか。一般向けに提供する前に、まずは自分たちで体験してみないといけませんから」(阿部)
4日間の旅は「控えめに言っても最高だった」と3人。ハイラックスがベースになっているので運転しやすいし、オフロードでも安心感がある。大き過ぎず小さ過ぎない絶妙なサイズも快適だった。目立つ外装ゆえ、至るところで声をかけられ、自分たちがプロダクトとして作ったものに対する世間からの反応にも手応えを感じた。
「道中はトラブルもたくさんあって、たとえばビーチでの走行シーンでスタックしたり、林道の奥深くを攻め過ぎて、崩れ落ちそうな断崖の一本道をUターンする羽目になったり(笑)。アメリカやオーストラリアでは道なき荒野を旅するオーバーランディングが人気だけれど、これぞまさしくオーバーランディング!という体験ができました」(小口)
そうやって力を合わせてトラブルを乗り越えることで仲間との絆が深まることを実感したし、予測不可能な旅こそ楽しいということを再認識することもできた。北海道のオーバーランディングがコンテンツになるという発見もあった。
「やっぱり自分たちは旅が好きなんだ、旅って素晴らしい体験をもたらしてくれるんだ。そんな自分たちのリアルなフィーリングを、コンテンツを通して多くの人に伝えたいと思ったんです」(阿部)
ひとりひとりに合った、とっておきの旅の提案を
そこで〈TOAL CAMPER SERVICE〉では、ただレンタルするだけでなく、旅のコンシェルジュ機能を充実させることにした。具体的には、宿泊できる、自然体験ができる、野生動物に遭遇する、ローカルの食を楽しめる、アウトドアアクティビティスポットといった軸を中心とするおすすめのポイントを、3人の経験則からコンテンツ化。それを、本州ではできない体験を求めるユーザーに提供するのである。
運用が始まって3ヶ月、キャンプをしたこともキャンピングカーに乗ったこともないという人からひと通りのキャンプ経験があるという人まで顧客はさまざまだが、それぞれが旅に求めるものをヒアリングして提案している。
「旅は自由なものなので、この通りがいいということではありません。これをベースにそれぞれアレンジしていただき、自分たちだけの唯一無二を体験してもらえたら。だからトゥーマッチにならないサービスを心がけています」(小口)
「なるべくNOと言いたくない」という気持ちから、道内の空港への配車サービスも行っている。
「北海道は広いですから、飛行機で最寄りの目的地まで行かれる方も少なくありません。女満別空港まで片道6時間をかけて配車して、帰りはバスで帰ってくる、なんてこともあります(笑)」(阿部)
こうした旅の提案の先には、キャンパーよりももっと幅広くて奥深い、アウトドア志向のライフスタイル全般を謳うプラットフォームを考えている。
「キャンパーのレンタルサービスという位置付けでスタートしましたが、いずれはTOALというブランドで場所を作ったり、オリジナルプロダクトを作ったり、イベントをプロデュースしたり、3人がもつ強みを生かし、多彩なプラットフォームとして機能できたら面白いと思っています」(中條)
北海道にはまだまだたくさん、知られざる魅力が眠っている。だから一人でも多くの人に圧倒的な自然を体感してもらいたい、と3人。キャンパーを使った北海道のクルマ旅は、まだ見ぬ風景の宝庫なのだ。
〈TOAL CAMPER SERVICE〉
北海道のローカルな旅、自然やアクティビティを公共交通機関を使わずに移動しながら宿泊して旅をするキャンパーのレンタルを軸としたサービス。車両はトヨタハイラックスをベースに、トラックキャンパースタイルにカスタム。乗用車ベースのピックアップトラックをベースにすることにより、キャンピングカーの運転に不安のある方も取り回しに苦労することがなく安心して扱う事ができる。車両は2台から選択でき、それぞれ個性のあるインテリアとなっている。
HP:toal-camperservice.com
Instagram:@toal_camper_service
Interview by Ryo Muramatsu Text by Ryoko Kuraishi