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2022.09.02

NEW NORMALのバンライフ #10 人と人とのリアルな縁を、ヨガでつなぐバンライファー
by NAOKI

多くの人にとって、コロナ禍以前の働き方や価値観、人生を見直すきっかけにもなった2020年のパンデミック。ヨガスタジオ経営者からバンライファーに転身したNAOKI(西川順喜)さんもその一人だ。自身が運転するヴァナゴンで日本全国を巡り、ヨガや瞑想の魅力を伝えるプロジェクト「GOEN 」をスタートしたNAOKIさんが、バンライフに見つけた“豊かさ”と、ウィズコロナ時代の生き方について考えたこととは。

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元消防士。交通事故のリハビリをきっかけに、ヨガに目覚める

ヨガ・瞑想指導者として、コロナ禍以前は大阪で3軒のヨガスタジオを経営していました。それ以前は子どものころから憧れていた消防士をしていたのですが、交通事故に遭い、リハビリとして取り組み始めたヨガに人生観を変えられました。ヨガの何がすごいって、もちろんフィジカル面の救いもありましたが、これまでの自分の思想を根本から変えてくれたこと。それまでは20代ということもあり、最短最速で正解を求める生き方をしていました。ところが、ヨガには正解はない。自分なりの解がいくつもあり、どうしてその解に至ったのかというプロセスが重視される。そういうヨガの哲学に興味をもちました。

そこで消防士を辞め、まずは1年間、ヨガ漬けの生活を送ってみることにしました。そうしてインプットした学びをさらに深めるべく、指導者として活動することになり2015年に最初のスタジオをオープンしました。指導者になって早々に自分のスタジオを構えたのですが、要は、指導歴の浅い自分が思い通りのクラスを持てるスタジオがなかったんです。それで、じゃあ自分のスタジオを作っちゃえ、と。その後はとんとん拍子でした。自分のヨガや瞑想を深めつつも、ビジネスも楽しくて、365日仕事のことばかり考えていたように思います。そうやってスタジオ経営が軌道に乗った頃、パンデミックが起こりました。

新型のウィルスが広まっているという噂を耳にしたと思ったら世界各地でニュースになり、あっという間に日本でも緊急事態宣言が発令されました。事実上のロックダウンですよね。それまで全速力で走っていた自分の人生が強制終了させられたように感じて、途方に暮れていました。仕事に捧げていた時間がぽっかり空いて、これまでやってこなかったこと――人生の意義や目的、これからどう生きていくかを自問自答せざるを得なかった。そうした中で見つけた答えが、これまでに出会ったことのない人と出会い、ヨガの裾野をさらに広めていくことでした。

パンデミックが人生を変えた

振り返ってみると、パンデミックはヨガと同じくらい、僕の人生に大きな変化や気づきをもたらしました。まず、オンラインの恩恵に気づけたこと。それまではリアルに教えることにこだわるあまり、「オンラインでヨガは伝わらない」と決めつけていて、オンラインを否定的に考えていたんです。緊急事態宣言下ではスタジオを開けられないのでオンラインレッスンに切り替えたのですが、いざ始めてみると、オンラインヨガと対面のヨガは対立するものではなく、別軸の存在だと気づけました。オンラインでできること、対面でできること。その反対に、オンラインでできないこと、対面でできないこと。世界中のさまざまな地域にいる人とつながることができるというのはオンラインの最大のメリットですし、オンラインヨガレッスンの場合、初心者が参加する心理的ハードルがグッと下がります。オンラインレッスンで初めてヨガを体験したという人も多かった。外に出られない期間、オンラインヨガに救われた人って少なくないと思うんです。

と同時に、当たり前のように思っていた対面で行うリアルなコミュニケーションの価値を、あらためて認識することもできました。対面の価値、それは「空気感」という曖昧な言葉でしか表現できないのですが、久しぶりに実家に帰って家族に会った時のフィーリング。あれはオンラインでは共有できないものだなと実感しました。

それから移動の手段が変わりました。緊急事態宣言が明けても電車移動がしづらくて、必然的にクルマ移動が多くなりました。同じ頃、東京のヨガスタジオからお声がけもいただき、東京での対面クラスや、オンラインクラスを持つことになり、長距離の移動も苦では無くなったこともあります。クルマで動くのも悪くないな……そう思い始めた時、フォスター・ハンティントンの『VANLIFE』に出合ったんです。“バンライフ”とは旅や移動に関するスタイルの一つ、なんて単純なものではありません。すべてのしがらみから自由になり、出かけたいときに出かけたいところに行くという、柔軟な生き方を説く思想です。自分も、バンライフをしながら日本全国を巡り、出会った人にヨガを教えるという生き方をしてみたい。『VANLIFE』が教えてくれた思想がきっかけで、そんな思いを抱くようになりました。そして僕と同じ年の1988年式のフォルクスワーゲンタイプT3ヴァナゴンを手に入れることになったんです。

バンライフ+ヨガで全国を巡る

こうしたさまざまな思いや気づきがGOENというプロジェクトの礎になっています。コロナ禍で、オンラインでコミュニケーションしていた人たちとリアルに対面し、この空気感を一緒に味わいたいと思いました。それも、「××でヨガのレッスンをするから来てよ!」ではなく、「僕がそっちに行くから、一緒にヨガをしようよ!」、そんな気分でした。わざわざどこかまで出向くとなるとハードルを高く感じるものですが、近くまでヨガ指導者が来るなら「ちょっと参加してみようかな」、そんな風に気軽にリアルなヨガを体験してもらえるのではと思ったんです。

コロナで止むを得ずスタジオも閉じることになり、本格的にバンライフを始めました。そしてちょうど1年が経過した2022年3月、GOEN を立ち上げました。プロジェクト名のGOENはGO=(僕が)行く、EN=人と人との縁という意味が込められています。ヨガを橋渡しとして、バンでの新しい出会いを大切に、人と人との縁を僕がつなぎに行く。思いがけないご縁の先には、思いもよらないような物語や冒険が広がっているのではないか。そんなワクワクする気持ちを抱えて日々、プロジェクトに臨んでいます。

目標は1万人に出会うこと。このプロジェクトでは“フリークラス”と“あえてプランニングをしないランダム性”を裏テーマに掲げています。あらかじめスケジュールを立てて各地方を巡れば効率的なツアーができますが、効率やメリット、生産性といった、現代社会が求める要素を排除することにしました。僕たちは未来を予測してそれに応じて動くことが多すぎるように感じていて、実際、そうやって生きてきた自分を省みて、今回はあえて偶然性に頼ることで思いがけない展開を楽しもうと決めたんです。すべてのクラスをフリーにしたのは、ヨガへのハードルを下げるため。GOENはあくまでもヨガの入り口なので、一人でも多くの人に興味をもってもらい、気軽にヨガを体験してもらうためにはフリーであることが重要だと思いました。フリーレッスンを受けてもう少しヨガを続けてみたいと思えたら、近所のヨガ教室に足を運んでもらえるんじゃないか。そうすることで少なからずヨガ業界に貢献できたらと思っています。

また、呼ばれたらどこにでもバンで出かけて行くというフットワークの軽さも大切にしています。先日は、たった2人のために那須まで出かけてフリークラスを実施しました。GOENという名前の通り、一期一会を大切にしながら全国どこへでも出かけています。でも、そういう非効率の極地の旅のほうが、多くの人の共感を呼べると思いませんか?

バンライファーという人生の先に見つめるもの

プロジェクトを初めて4ヶ月半が経ち、12の都府県・25の場所で437人にヨガを教えることができました。目標達成までまだまだ道のりは長いですが、出会いのスピードは加速していると感じています。バンライフやクルマという文脈から自分に興味を持ってくれる人もいて、これまでのネットワークにはない人たちと出会えている手応えがあります。

パンデミックを経験した僕たちは、答えのない時代を切り拓いていくのだと思います。ウィズコロナの社会でどうやって生きていけばいいかわからない、自分にとって何が豊かなのか見失ってしまった、そういう人は少なくないでしょう。スタジオを閉じてバンライファーになった自分が言えるのは、自分が考え抜いて出した答えは自分を裏切らないし、その決断を後悔することもない、ということです。これまでとは異なり、豊かさとは他者がもたらすものではなく、自分でクリエイトする時代です。僕は、僕なりの豊かさを体現するためにバンライフを実践しています。

Noki(西川順喜)
ヨガ・瞑想指導者、バンライファー、起業家、〈Lululemon〉アンバサダー。愛車・1988年式フォルクスワーゲンタイプT3ヴァナゴンでのバンライフを実践しながら、ヨガの本質をさまざまな角度から発信する「GOEN Project」を2022年3月にスタート。ハタヨガ、アシュタンガヨガなどさまざま資格をもちながら、禅の教えや瞑想も実践中。また、浜松のコーヒーショップをプロデュースするなど、ノマド起業家としても活躍中。

HP: naokinishikawa.com
instagram:@nomad_yogi_naoki

Photo by Akira Yamada Text by Ryoko Kuraishi