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2023.03.14

クルマ旅と防災 積んでおきたい災害グッズのススメ
by 黒祐美

少し気が早いかもしれないが、春の訪れとともにレジャーのハイシーズンがやってくる。お花見を皮切りに、キャンプや海水浴など、普段の生活圏内から外れた場所に足を運ぶことも増えてくるだろう。そんな行楽シーズンを前に、“クルマ旅と防災”というテーマの記事をお届けしたい。防災アドバイザーの資格を持つ編集・ライターの黒澤祐美さんが、山道具と防災グッズの親和性を説明しながら、車内に積んでおきたい災害グッズについて語る。

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親子で八ヶ岳山麓へ移住

10年以上もの間、東京でフリーランスの編集・ライターとして活動をしていた黒澤祐美さん。年々ウェルネスやアウトドアに係る仕事が増えるにつれて、自身ももう少し自然の中に身を置きたいと思うようになった。当初は“東京を拠点にしながら”と考えていたが、見つけたのは長野県のキャンプ場運営の仕事。コロナ禍でリモートワークが増えていたこともあり、悩んだ末、2021年に親子で八ヶ岳山麓への移住を決めた。

「引っ越した後も、環境が合わなかったらいつでも戻れるようにと、神奈川に家を残していました。だけど、一歩外へ出たら八ヶ岳が見えるとか、夏場はクーラーなくても過ごせるとか、私も子どもも長野の気候や暮らしに最初からすごく満足感があって。一年が過ぎた頃、これは戻らないなと家を手放しました」

そして子どもの小学校入学を機に、休日に一緒に過ごす時間を増やしたいとキャンプ場の仕事を辞め、現在は編集・ライターの仕事に加え、長野県茅野市で森の価値を高めるプロダクトやサービスをデザインする〈yaso〉のディレクション、PRを勤めている。

子どもとの車中泊の経験が防災につながっていた

スポーツやアウトドア雑誌の仕事に関わったことをきっかけに山遊びを始め、以来、登山、キャンプ、トレラン、スノーボードと気づけば通年山で過ごしていたという黒澤さん。子どもが生まれてからも変わらず山に足を運んでいたが、自然との向き合い方には少し変化があったという。

「子どもと一緒に山を歩くということを始めてからは、高い山のピークを目指さず、ただ自然の中に身を置くということが増えて、独りの時とは違う遊び方を発見できました。最近娘は山のピンバッチを集め始めて、それを目指して山の計画を立てたりもします」

軽自動車から三菱のSUV「アウトランダー」に乗り換えてからは、車中泊をすることも増えた。出かけた先で、急遽「泊まろうか」となることも少なくない。

「昨年、娘が学校から持ち帰ったチラシに“公民館にテントをたてて寝てみよう”というイベントがあったんです。喜びそうだなと思ったら、娘の反応はまさかの『ふーん』(笑)。理由を聞いたら、テントで寝たり、クルマで寝たりというのが彼女にとってあまりに日常だったようで。でもそのとき、テントで寝ることが日常に近いという感覚を養っておくことは大事だなと思ったんです。たとえば、突然『今日はクルマで寝るよ』と言ったときに『ふーん』ぐらいの感覚を持っておけば、災害にあってクルマで寝泊りしなくてはならない状況下であってもほぼ日常と変わらずに過ごすことができる。これって非常時の精神安定にもつながるなと」

防災アドバイザーの資格を取得

図らずも車中泊が防災訓練になっていたことに気がついた黒澤さんだが、実はコロナ禍のステイホーム中にも防災に関する発見を得ていた。きっかけは、山道具を見直そうと思い立ったこと。

「時間を持て余して山道具を見直していたら、もう長いこと使っていないけれど捨てたくはないアイテムが沢山でてきました。これって、もしかしたら防災用として使えるのでは?と、ふと思い、それをインスタグラムにアップしたら、普段あまり山あそびをしないお母さんたちから『そんなアイテムがあるなんて知らなかった』『もっと教えて』と嬉しい反応があったんです」

周囲の思わぬ反応を得たことで防災についてもう少し学んでみようと、防災アドバイザーの資格を取ることにした黒澤さん。防災には、自分で自分の命を守る“自助”、隣人や地域と助け合って守る“共助”、そして自衛隊や警察など国によって守られる“公助”があり、黒澤さんが学んだのは自助。主に都市型災害において、自分自身で命をつなげるためのテクニックだ。

「学んでいく中で、やっぱり防災グッズと山ギアの親和性は高いなと確信しました。頻繁に山に入る人ならまだしも、山の道具は日常で使われないことがほとんど。そこに付加価値をつけるためにも、防災という視点でもう一度山ギアを見直してみることにしました」

防災グッズと山ギアとの親和性
自分の命を自分でつなぐために備えるべきものとは?

空気、体温、水、火、食料。これらは人が生きていくために必要な5要素と言われている。

「サバイバルには3の法則と呼ばれる、人が生き延びることのできる時間の目安があります。生存限界のリミットは、空気は3分、体温は3時間、水は3日、食料は3週間。これはあくまで条件が整っている時の大まかな目安で、実際はもっと短いと考えていいでしょう。
3週間どこかに閉じ込められる可能性は薄いと仮定して、優先的に備えるべき防災グッズは、体温と水を確保できるもの。私はこの5要素を意識してギアをクルマに積んでいます」

防災の原則である“守る”を重点としたギアたち

体温を保持するためのグッズ


(左上から)寝袋/雑誌/寝袋型のエマージェンシーヴィヴィ/ポンチョ型レインコート/お湯をいれると湯たんぽになるボトル/エマージェンシーブランケット

—TIPS
レインコートを着て、腰の部分で紐を結び、コートと身体の間にクシャクシャにした雑誌や新聞紙を入れて“空気の層”を作ることで、暖が取れます。黒くて透けないものであれば、用を足すときなどに覆って隠したりも。このポンチョ型レインコートはファミリーマートのものですが、コンビニの製品でも十分防災用として活用できます。

清潔で心地よい衣類を保つためのモバイル型の洗濯グッズ


(左から)折りたたみ式ウォーターバック/ウォッシュバッグ/小型ピンチハンガー

—TIPS
浄水前の水を貯める用と、浄水後の水を貯める用の2つをクルマに積んでいます。使用しないときは折りたたんでおけるものなら、収納も嵩張らない。“洗濯板”内臓のウォッシュバックで下着などの小物を洗うだけで、衛生面も保てます。

車中泊にも山にも有効なアイテム各種


アルコールジェル/充電器/クッカーセット/折り畳みマット


(左上から) テーブル/携帯トイレ/ソーラーパネル充電器/浄水器付きフラスコ/固形燃料&ストーブ/カトラリー・ファイヤースターター・ナイフなどが入っているポーチ/コップ/ヘッドライト/ウエットティッシュ/手ぬぐい/EDCポーチ

—TIPS
防災の原則は、“得る”よりも“守る”。自分で食料などを確保しに行って二次災害にあうことがないように、まずは命を守る行動に必要なものを揃えました。火を起こせて、水があれば大体のところで過ごすことができます。急な車中泊も、山に入る時も、これのセットがあれば不自由なし。

EDC(everyday carry)ポーチの中身は?


(左上から) 水に溶けるティッシュ/シグナリングミラー/手鏡/バードコール&ホイッスル/ポインズンリムーバー/マスク/ライター/マッチ/ソーイングセット/薬セット/ビニール袋/生理用ナプキン

—TIPS
EDCとはeveryday carryの略で、毎日持ち歩くべきと考えられているもの。ポーチにまとめて常備しています。救助を求める際に、太陽光を反射させて遠距離にいる人に合図を送れるミラーをはじめ、ライトやホイッスルも自分の存在を示すために必要なシグナリングの道具。ナプキンは生理のときのみならず、止血用としてなど様々用途があります。

シグナリングの道具は、種類の違うものを複数用意しよう


(左上から) ポータブル電源/シグナリングセット/バードホイッスル/ヘッドライト/ビーコンライトLED/シグナリングミラー/手鏡

—TIPS
普段必ず持ち歩く財布にもライトとホイッスルをつけています。山に入る際に娘に持たせるのは、ホイッスルとバードコールのセット。以前キャンプ場に遊びに行ったときに、子どもを一瞬見失ったことがあり、それから持たせるようになりました。照明類は夜間の明かりの確保のほかに、大きく振り回すことでシグナリングにもなります。こうしたシグナリングアイテムは種類の違うものをいくつも用意しておくことで、万が一ひとつが使用できなかったとしても代用できます。クルマから離れた場所にいても、手の届くところにあればさらに安心。重要なライフラインであるスマホの充電を切らさぬよう、ポータブル電源も忘れずに。

黒澤祐美 (くろさわゆみ)
編集・ライター/〈yaso〉ディレクター・PR/ JUSS認定災害対策アドバイザー。
1986年、新潟生まれ神奈川育ち。ウェルネス・アウトドア雑誌の中心とする編集ライターとして東京で活動したのち、2021 年長野の八ヶ岳山麓に移住。現在は森の価値を高めるプロダクトやサービスをデザインする〈yaso-ヤソ-〉のディレクションも務める。夏は登り、冬は滑る。

Photo by Takashi Gomi Text by Nao Katagiri