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2023.03.30 [PROMOTION]

PACK FOR CARLIFE #03 クリエイティブな視点を持つために移動は欠かせない
by 熊野亘

部屋からクルマ。クルマからそれぞれの場所へ。そんなカーライフをシームレスにつなぐバッグのプロモーションを考えたとき、そのバッグを使ってもらう人たちは「移動することそのもの」に意味を見出している人たちがいいなと思った。

起業家、インストラクター、デザイナー、3者3様の移動ライフを通して「暮らしにおける大切なこと」を浮き彫りにしていくシリーズ『PACK FOR CARLIFE』。彼らにとって移動することは、A地点からB地点へ身を運ぶ手段だけではなく、何か別の意味や目的がある。

移動と暮らしをつなぐ大切なもの | 「PACK FOR CARLIFE」記事一覧

» 熊野亘

暮らしにデザインが溶け込むために何が必要か

フィンランドの大学で家具デザインを学んだ、デザイナーの熊野亘さん。両親がインテリア関係の仕事をしており、育ったのも町工場が多い東京大田区。自身も自然とモノ作りを志すようになった。

「いろいろ制限がある中で、立体を組み立てることが好きで、高校生の頃から照明やジュエリーを作ってみたり。グラフィックではなく、プロダクトだというのは、自分の中で最初からありましたね」

「大学の授業で出た廃材は、薪ストーブの焚き付け用としていつも自宅に持ち帰っているんです」という熊野さん。7サイズある中で最も大きなサイズのROLL BOSTON COLOSSAL(OUTDOOR PRODUCTS The Recreation Store)にたっぷりと廃材を詰める

高校を卒業すると、まず英語でデザインが学べる金沢デザイン研究所へ。卒業後は、提携先のニューヨークにあるパーソンズ・スクール・オブ・デザインに進む道もあったが、生活に密着したプロダクトを作るスカンジナビアデザインを北欧で学ぶ選択を取った。

フィンランドでは大学院にも進学。その後、師匠となるジャスパー・モリソン氏と出会う。ジャスパー・モリソンは“スーパーノーマル”と呼ばれる、シンプルかつ実用的なデザインで知られるデザイナーで、彼のプロダクトは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションにもなっており、無印良品でも仕事をしていた。

「フィンランドでは、おばあちゃんが使っていたスツールを孫が受け継いでいるとか、当たり前のように、モノが生活の中で丁寧に使われているんです。デザインがきちんと溶け込んでいる日常生活を送れることはすごく幸せですし、僕もそういうモノを作っていきたいと思っています。師であるジャスパーは、なるべく手の届く価格でいいデザインを、より多くの人に使ってほしいという想いを根底に持っている人でした。フィンランドでの暮らしや、彼の影響をすごく受けましたね。今って、資源が枯渇しつつある時代だと思うんです。そんな時だからこそ、独り善がりではなく、いろんな人の職能を活かして、長く使えるいいモノを作っていかないといけないと思うんです」

普遍の定義をデザインから捉え直すと

そうしたデザインに対する考えを持つ熊野さんは、SUVの原点ともいえる〈JEEP〉やデイパックやボストンバックなど定番アイテムを持つ〈OUTDOOR PRODUCTS〉のものづくりに共感を寄せる。

「普遍的なモノというのは、デザイナーの自我が出ているものではなく、使う人のことをきちんと考えられて作られているものです。道具として、確実に機能することが大事で、そう考えると〈OUTDOOR PRODUCTS〉のこのボストンバックは、1970年代から同じ形なんですよね。流行を超えた形だからデザインとして飽きがこず、使う人を選びません。おそらく長い年月をかけて、蓄積されてきたディテールがあって、多少強く、チャックを開け閉めしても丈夫であったり、日常的に長く使えるものなんです。これはとてもサステナブルなプロダクトだとも思いますね。それは〈JEEP〉にしても同じで、ジープっていうこのクルマの形を指す固有名詞になるほど普遍的なもの。それは本当にすごいことですよね」

日本の林業の課題をものづくりで解決できたら

師であるジャスパーとの仕事は10年続き、独立。2019年に行った個展『into the beige』がデザイナーとしての転機となった。

「ジャスパーと仕事をしていく中で、いろんな素材に出合ったんですが、僕が作っているモノは無垢だったり皮だったり、ベージュ系が多かったんです。そして、これからひとりでやっていくとなった時、自分の強みは何かと考えてみたら、木工だなと。さかのぼると、フィンランドで家具デザインよりも前に勉強したのも木工だったんですよ。それで、個展に木工の作品をたくさん並べたら、そういう仕事が増えていきました」

現在、手掛けているプロジェクトのひとつが、カリモク家具のコレクション『MAS』。針葉樹の間伐材をいかに活用するのか、日本の林業の課題に取り組んでいる。

「針葉樹は構造的に弱いんですが、軽くて扱いやすいですし、日本の木造の家に合うんです。必要なところには広葉樹を使い、強度を担保しつつ、繊細なラインのデザインに仕上げています」

デザインと移動の相互関係

2015年からは暮らしの拠点を長野県御代田町という人口1万6千人ほどの小さな町に移すと、2019年には一つの敷地内に5世帯で共同に暮らすシェアライフを送るようになった。

「5世帯といっても、棟は独立していて、ほどよく干渉しない距離感でそれぞれが暮らせています。毎月、第一日曜日には落ち葉を掃除したり、薪を割ったり、一つの世帯だけではできないことを協力して行うと決めているんです。その後、みんなで食卓を囲み、近況を共有する時間もいいですね。共に暮らしながら、他者を否定せず、受け入れることの大切さがより身にみます」

月曜日から木曜日までは都内で働き、大学の教壇にも立つ。木曜の夜になると長野に戻り、家族と、都会では味わえない時間を過ごす。

「御代田町の生活はフィンランドとの暮らしとも似た素朴なもので、去年から仲間達で田んぼを借りて、米作りをはじめました。自分たちで育て、収穫したもち米でついた餅を食べたんですよ。都会ではなかなか味わえない特別な経験ができました。子ども達にとっても、食べ物を育て、口に入るまでの過程を体験できたことで、食に対する考え方が深まったんじゃないかな。昔の長屋のように、親ではない大人に叱られたりもして、子どもにとっていい環境だと感じます。5世帯の子どもみんな兄弟のように仲がよくて、自分の家にほとんどいませんよ(笑)」

適度な距離感にある都市と自然を行き来する暮らしは、プロダクトデザイナーにとって大きなメリットをもたらしてくれるそうだ。

「少し前まではデザインされたモノはすごく高く、限られた人しか買えないものでした。でも本来は、デザインはみんなのためにあるべきで、だんだんと日本の暮らしにもデザインが入り始め、定着しつつある。そんな中で、プロダクトデザイナーとしては、広い目で、いろんな地域の生活を見たいですし、そこで暮らす人の生活に合ったものをきちんとアウトプットしないと思ったんですよ。なので、一つの場所に留まり、打ち込むことはすごく大事なんですけど、それは僕にとってはアーティスト的なんですよね。僕は、日本だけじゃなく、もっと世界中の人のところに行って、暮らしを見ていきたい。そういう意味で、デザイナーにとっての移動は、欠かせない大事なエレメントなんです」


この日の撮影で運転してもらったのは、JEEP WRANGLER UNLIMITED RUBICON 2.0ℓターボ。高速道路での直進安定性も高く、都内からの長野までのロングドライブも快適に走り抜けた

熊野亘 (くまのわたる)
プロダクトデザイナー。2001-08年にフィンランドへ留学、帰国後Jasper Morrison氏に師事。2011年にデザインオフィス “kumano“を設立し、環境、機能性、地域性など、背景のあるデザインをテーマにカリモクや、天童木工などの国内外の家具メーカーとプロジェクトを手掛ける。2021年にスイスのローザンヌ州立美術学校(ECAL)にて教鞭をとり、同年秋より武蔵野美術大学准教授に就任。
Instagram:@watarukumano

Photo by Kenichi Muramatsu Text by Sakiko Koizumi Movie by Right up Production manage by Yuna Wakisaka Creative produce by Ryo Muramatsu