コーヒー屋が巡る、コーヒー店主に会いに行く旅
矢崎智也/OVERVIEW COFFEE JAPAN コミュニケーションマネージャー
area:日本各地
photo:Akira Yamada
〈OVERVIEW COFFEE JAPAN〉コミュニケーションマネージャーを担う矢崎智也さんは、ライフワークとして10年以上トレイルランニングを続けている。住まいは、東京都高尾。秩父山地の南東端に位置する高尾山があり、古くから国の所有物として管理されてきたこともあって、1600種以上の植物が今なお生育する、東京では珍しく自然豊かな場所だ。また、中央道と圏央道へのアクセスがあるため、東西南北への移動がスムーズという利点もある。
ここ数年、国内屈指のトレイルランニングのレースで、表彰台にのぼることもあるほど、トレイルランにのめり込む矢崎さんは、高尾の山々に限らず、自然を求めて様々な街へクルマ旅に出掛けるという。その際の愉しみの一つが各地のコーヒー店を巡ることだ。
自身がコーヒーロースターに所属していることから、美味しいコーヒーを求めていることはもちろん、訪れた先の店主に会うことが一番の目的となっている。コーヒーを片手に店主と会話する時間は、まるで近所のお店に訪れたような居心地の良さを感じさせてくれるところばかりなのだそうだ。
この『トレイルランニング×コーヒー×クルマ』という独自の掛け算は、矢崎さんに新しい感性や価値観との出会いを与えてくれる。
photo:Max Houtzager
「“思い立ったが吉日“という言葉があります。衝動に身を任せて動いた時にこそ、偶然の出会いや発見があるものです。クルマは時間も行動範囲も制約がありませんし、時と運と熱量に身を委ねて、漂うことができる。これがクルマの大きな魅力だと思います。」
そう語る矢崎さんが数々訪れた街の中でも、特におススメのコーヒー店を、彼らしい視点で選んでくれた。
「コーヒーは日常に根付くものであり、コミュニティの起点となるもの。だからこそ、「街の文化」を創り出す要素があるのだと思っています。街と交流するきっかけとして、コーヒーが好きな人や旅の目的地を探している人の参考にしてもらえば。私としては、カフェに立ち寄るハイカーやトレイルランナーが増えると更に嬉しいですね。」
栃木県那須塩原市
01.1988 CAFE SHOZO
街の魅力であり、旅の目的地となる、“あの人が淹れる一杯のコーヒー”
栃木県の黒磯にある名店と言えば〈SHOZO COFFEE〉。カフェカルチャーと、黒磯エリアを同時に育んできた店主の菊池省三さんとは、ひょんなことから出会い、栃木の山に登りに行った後はお店を訪ねることをルーティンとしています。省三さんに会いに行くために栃木の山を選ぶと表現した方が正確かもしれません。カフェはいつも忙しいにもかかわらず、みなさんのさりげない優しさが居心地の良さを生んでいます。ひとりの人、一杯のコーヒーが街の魅力を物語っているようで、何度行っても特別な気持ちになります。
- 住所
- 〒325-0045 栃木県那須塩原市高砂町6-6
- URL
- shozo.co.jp
- @shozo_information
山梨県北杜市
02.terasaki coffee kobuchizawa
山とコーヒーの相性の良さを伝える、標高1000mに構えるお店
山梨県の甲府に本店を構える〈寺崎COFFEE〉の3店舗目で、店主の寺崎さんが甲府で焙煎したコーヒーを、山の中で飲むことができるお店。コーヒーは抽出理論を理解すればある程度は誰が淹れても美味しくなる飲み物ですが、理論では敵わないこととして、「誰が淹れたか」と「どこで飲むか」の2つがあります。とくに標高1,000m近い土地らしい澄んだ空気と、静かな環境。驚くことに、建物2階には客席があるものの、1階のコーヒーカウンターは外にむき出しとなっています。淹れてもらったコーヒーはテラス席に座って、寒いときには焚き火を囲んで飲むこともできます。山とコーヒーの相性の良さは誰もが認めるものですが、美味しいエスプレッソを自然の中で飲むことができる本当の価値は、それを経験したことがある人にだけ伝わるものだと思います。
- 住所
- 〒408-0044 山梨県北杜市小淵沢町10184-2
- URL
- terasakicoffee.com
石川県金沢市
03.townsfolk coffee
北欧のスペシャルティコーヒー文化を伝えるお店
石川県の金沢にあるコーヒーロースター〈townsfolk coffee〉に訪れたのは2022年夏。クルマを買って初めての家族旅行で、北陸から信州を巡った時のことでした。夜明け前に高尾を出発して一気に走ること5時間、旅の最初の目的地が金沢でした。デンマークで経験を積まれた店主の鈴木さんがはじめたこの店に、いつか足を運んでみたい場所として楽しみにしていました。デンマークをはじめとするスカンジナビアの国々は、スペシャルティコーヒーの文化を牽引するパイオニアとして知られています。新鮮な果物を頬張ったときに感じる果実感やみずみずしさ、液体の透明感や、甘くのびる余韻は、これまでコーヒーが持っていた印象を新しいものに変え、その波は日本にも届き、現在に至ります。実は店舗を訪ねる前に、オンラインで買ったコーヒーを家で淹れたことがあるんですが、その味わいすべてにスカンジナビアらしさが凝縮されていて、驚くほど美味しかったんです。お店では店主の鈴木さんが直接コーヒーを淹れてくれ、北欧らしさ再確認をすることができました。
- 住所
- 〒920-0864 石川県金沢市高岡町22-18
- URL
- townsfolkcoffee.shop
- @townsfolkcoffee
photo:Nik van fee Giesen
山梨県甲府市
04.AKITO COFFEE
多種多様な人が交わり、全ての人にとって“ヨリドコロ”になる空間
家から一番近いコーヒー屋と言うとちょっと大げさですが、高尾から甲府は本当にアクセスが良いです。その甲府と言えば〈AKITO COFFEE〉は付き合いが長く、いつ行っても気持ちのいい空間です。店主の丹沢亜希斗さんの名前から取られた店舗名そのままに、店主が顔となるお店。小旅行でも、トレイルランニングでも、仕事でも、甲府を通る用事があれば、彼がいるか気になって、つい立ち寄ってしまいます。甲府なのに近所のコーヒー屋に来たような気分になるのがこのお店のいいところ。もちろんコーヒーは美味しいし、ショーケースに並ぶお菓子はどれも最高なのだけど、『街のコーヒー屋さんの魅力』がつまっているところが本当の良さだと思います。家族連れから、年配のおばあちゃんから、大学生まで、僕と同じような気持ちのお客さんが溢れていて、カウンターを介して甲府バイブスが漂っています。
- 住所
- 〒400-0016 山梨県甲府市武田1丁目1-13
- URL
- akitocoffee.com
- @akitocoffee_tane
全国
05.OVERVIEW COFFEE TRUCK
迎えるのでなく、届けにいく。ゲストと自然を繋ぐコーヒートラック
最後に紹介するのは自分が所属する〈OVERVIEW COFFEE〉が運営している移動型店舗〈OVERVIEW COFFEE TRUCK〉。〈OVERVIEW COFFEE〉はコーヒーを通じて環境負荷低減をミッションとするコーヒーブランドで、自ら自然を訪れ、コーヒースタンドを営業することができるのが、このトラック。2022年には長野県茅野市の白樺湖畔や、静岡県沼津市の公園、愛知県伊良湖から神奈川県鎌倉までのサーフスポットを巡るツアーなど、コーヒートラックで各地を巡りました。特に思い出深いのは八ヶ岳の麓で開催したコーヒーワークショップ。3種類のコーヒーを飲み比べるというシンプルな内容ですが、自然の中で開催したことにより、リラックスしたムードで、参加者同士の交流が弾みました。澄んだ空気と朝露、鳥の声をBGMに開催されるワークショップは主催者としても貴重な体験でした。
あらためて、『環境』には敵わないと実感します。
- URL
- overviewcoffee.jp
- @overviewcoffeejapan
photo:Max Houtzager
矢崎 智也 (やざきともや)
北海道出身。2022年2月より、コミュニケーションマネージャーとして〈OVERVIEW COFFEE 〉に参画。東京を拠点に、パートナーのサポートや、企業間コミュニケーション、情報発信を担当。トレイルランニングでは、走行距離100kmを超えるウルトラディスタンスの大会に定期的に出場しているほか、ポッドキャストの出演やランニングにまつわるライティングを行う。
IG:@tomoyayazaki
Text by Kouta Hara